#255 救助
いつの間にかX4のDLCきとるやん!( ˘ω˘ )
拠点――いや、キャンプ? に戻ると、何やらシェルターの前に新しい建造物のようなものが設置されていた。見た感じ、水を入れるタンクか何かのように見える。
「ただいま。それは?」
「あ、ヒロ様。エルマさんもおかえりなさい」
「おー、お疲れさん。これな、浄水器やねん」
「浄水器? これが?」
エルマが首を傾げる。ティーナがドラム缶と称した物体は斜めのドラム缶に縦のドラム缶をくっつけたような形のもので、梯子がついている。どうやらあの梯子の上に水の注ぎ口があるらしい。
「ああ、アレか。中に色々入ってて、それがフィルターになって有害な物質を濾過するタイプのやつ」
確かそんな感じの浄水器を元の世界で見た覚えがある。多分、これはそれと同じようなものだろう。この世界だともっとハイテクな浄水器がいくらでもあるんだろうから、なかなか見る機会は……うん? 待てよ?
「なぁ、そんなものを使わなくてもこの持ち帰ったボトルごと分子分解構成器で再構成すれば安全な水が確保できるんじゃないのか?」
「ほら、やっぱり無駄だったじゃない」
「いやぁ、気づくの早かったなぁ」
俺のツッコミを受け、ウィスカがティーナにジト目を向ける。ですよね。考えてみれば蒸留とか煮沸とかしなくても分子分解構成器で分解、再構成してやれば、それだけで有毒な物質も有害な病原菌や寄生虫の類も一発で綺麗になるわけだ。
「何のために作ったの? それ」
「暇やったから」
「お前な……」
「作れるなら作りたくなるのがエンジニアの性ってやつやで、兄さん」
そんな習性はどこかに捨ててこい。
なお、俺とエルマが担いできた生水入りポリタンクは分子分解構成器で清水入りポリタンクへと再構成された。煮沸とか蒸留とかで頭を悩ませたのがアホらしくなる結果だったな。ハイテク機器万歳。
「で、とりあえずメシと水の心配は無くなったわけだが」
「んー、すっぱ!」
「酸っぱいけど、これ好きかも」
「あー、ちょっと青臭いけど素朴な甘さで良いわね」
「きのこ、焼きますよー!」
「君達聞いて? 食べるのに集中し過ぎないで?」
水も確保できたので、今後の方針をどうするかメシでも食いながら話し合おうとしたのだが、全員食うのに集中しすぎている。ティーナとウィスカはミルベリーを、エルマはコキリの実を食べ、ミミは俺が作った木の串にスライスしたモコリダケを刺した串焼きを焚き火で炙り始めた。
「言うて、特にやること無いやん。狼煙を上げながら待つだけやろ?」
「そっすね。確かにそれしか無いっすね」
分子分解構成器で作った黒いカーボン素材のナイフでモコリダケをスライスしながら肩を竦める。このナイフは素材が素材だけにさして切れないものかと思いきや、意外と切れ味がいい。もしかして刃先が単分子とかになっているんだろうか? だとしたら分子分解構成器すげぇな。
縦にスライスして木の串に刺したら焚き火で炙って、食べる時に塩をちょんとつけて食う。美味い。味と食感は……うん、エリンギっぽいな。バターと醤油で焼いたら絶対美味い。塩だけでも悪くないけど。
「あー、お酒が欲しくなる味ねー」
「それなー」
「本当にそうですよね」
また酒飲み達が酒を求めて鳴いている。そんなもん無いから諦めてくれ。長い目で見ればミルベリーと水で酒を醸造できるかもしれんが、そんな技術も設備も無いからな。まぁ、ミルベリーの酒はありそうだけどな。この星には。
「どれくらいで救助が来るかですよねー」
「そろそろしびれを切らしたメイがクリシュナでかっ飛んで来そうな気がするけど――」
と俺がそう言った瞬間、上空に黒い影が過ぎった。何かと思って見上げてみれば、見慣れた黒い機体が上空を飛んでいくではないか。
「「「あっ」」」
全員が同時に声を上げた。今のシルエットはどう見てもクリシュナである。セキュリティの関係上、メイ以外にクリシュナを動かすのはほぼ不可能なので、今上空を過ぎ去ったクリシュナは間違いなくメイが操縦しているものだろう。
一度上空を過ぎ去ったクリシュナだったが、少しするとまた上空に現れた。こうして改めて見ると大きいな。全長だけでも列車の車両を二台並べたのと同じか、それ以上に長いんじゃないだろうか。
「手を振ってみよう」
「はい! メイさーん!」
俺が上空のクリシュナに向かって手を振ると、ミミも上空に向かってブンブンと両手を振り始めた。ついでにぴょんぴょん跳んでいるので胸元が凄い。ばるんばるんしよる。
「着陸するにはちょっと狭いけど……まぁクリシュナなら問題無いわよね」
「せやな」
上空に留まっていたクリシュナはすいーっと平行移動し、俺達が切り拓いて壁を建てたキャンプ地のすぐ横に着陸した。生えている木なんてお構いなしに着陸したので、メキメキビキバキと木が圧し折られている音がするが、シールドと分厚い装甲で守られたクリシュナにとっては何の障害にもならない。
そしてクリシュナが完全に着陸し、待つこと数秒。そう、数秒である。クリシュナのハッチが開くと同時に黒い影が飛び出してきた。文字通り、弾丸のように飛び出してきたのである。そして飛び出してきた影はそのまま真っすぐに俺の前に着弾した。ズドン! という音を立てるのはもう着陸ではなく着弾だと思うんだ、俺は。
「ぐえぇ」
「メイ、ヒロが苦しがってるわよ」
「恐ろしく速い抱擁やな。うちじゃなかったら見逃してたで」
「あはは……心配だったんですね」
目の前に着弾した黒い影――当然ながらメイである――は即座に俺を力強く抱きしめてきた。いくらメイのおっぱいが結構立派で柔らかくても、こんなに力を入れられて抱きしめられたら流石に苦しい。
「申し訳ございません。取り乱しました」
「メイさんも取り乱したりするんですね」
「私とて感情を持つ機械知性です。取り乱すこともあります」
そう言いながらメイは無表情で俺の身体をまさぐり、異常な箇所がないかチェックしているようだ。うん、触診でわかるような怪我は負っていないから――。
「頭部に切創の痕跡あり。怪我をされたのですか?」
「よくわかったな。航空客車が墜ちた時にどうも頭を打って――」
と言っている間に一瞬でメイに抱き上げられ、物凄い速度でクリシュナの医務室にある簡易医療ポッドにぶち込まれた。有無を言わせない実力行使である。
「別に何の後遺症もないんだが」
『頭の傷はその時はなんとも無くとも、後々に響く場合があります。精密な検査が必要です』
そう言いながらメイがポッドにジャックインしてじっと俺を見つめてくる。あの、なんか簡易医療ポッドが聞いたことのない音を出しているように思えるんだけど、なんか仕様外使用とかしてない? 大丈夫?
『ご主人様は暫くそこで安静にしていてください。後始末は私が致しますので』
「はい」
簡易医療ポッドの外からそう言われたので、大人しく従っておくことにする。今のメイに逆らうのは危険だと俺の本能が警鐘を鳴らしているのだ。
推定宙賊のものと思われる襲撃は一体どうなったのか、何故エルフではなくメイが助けに来たのか、色々と事情を聞きたいのだが、今は聞いてもきっと無駄だろうな。
そうしているうちに眠くなってきた。メイが簡易医療ポッドに鎮静剤か何かの投与を指示していたのだろう。昨晩は眠りも浅かったことだし、まぁ昼寝も悪くない。俺は睡魔に抗わず、そのまま目を閉じることにした。色々と考えるべきことがありそうだが、今はとにかく寝てしまうとしよう。
X4の主人公がマッドサイエンティストに振り回されるのは最早運命なのか( ˘ω˘ )




