#254 できる発光物
間に合わなかった_(:3」∠)_
「で、結局拾ってきたわけ?」
「なんか放って帰ろうとすると弱々しく明滅して同情を誘ってくるから……」
ジト目を向けてくるエルマから視線を逸らす。その視線を逸らした先には地面に刺した発光する謎の物体を観察している整備士姉妹とミミの姿があった。
「けったいな品やなぁ。なんで光っとるんこれ?」
「うーん、手持ちの機材じゃなんで光ってるのか全くわからないね。スキャンした感じでは木材のように思えるけど、こんな形の木なんてあるのかな?」
「少なくとも、周りの木とは全く違いますよね。スキャンしてもなんなのかわからないですし」
ウィスカとミミが自分のタブレット端末を向けて何やらスキャンしているようだが、正体は依然として不明のようである。ちなみに、ウィスカは船などの状態をスキャンするために使う構造材解析スキャンツール、ミミは例の可食植物スキャンツールであの謎の物体をスキャンしているようである。ミミ、食うつもりかそれ? やめておけ、お腹壊すぞ。
「これ、言葉理解するってほんま?」
「はい。ヒロ様の言葉に明らかに反応して光ってました」
「ということは、知的生命体なのかな? この星にエルフ以外の知的生命体が根付いてるってこと? エルマさん知ってます?」
「えぇ? そんなの居たかしら」
ウィスカに突然質問をされたエルマが首を傾げて考え込む。よし、ターゲットが俺から逸れたな。今がチャンスだ。
「その謎物体はとりあえず横に置いておいて、収穫があったぞ。ほら、こんなに沢山」
そう言って俺は背負ってきたバックパックを開いて中身を披露する。
「おー、大量やん」
「わぁ、これ全部食べられるものなんですか?」
「ミミの持ってるスキャンアプリによるとそのようだぞ」
あの後、引き抜いた謎の発光物を持って森を歩き回ると、何故だかわからないがやたらと収穫物を見つけられたのだ。
「まずこれ、コキリの実。ちょっと青臭いけどジューシーでまぁまぁ甘い。試食したけど悪くなかった」
「ほほう、これは?」
「モコリダケっていうキノコです。焼いて食べると美味しいらしいです」
「あ、これは見たことがある気がします」
「酸っぱかったけど、それもまぁ食えたな。ミルベリーって言うらしい」
追加で見つけたのはキノコとベリーである。モコリダケは見るからに『キノコ』といった感じの見た目のキノで、白っぽい太い軸と茶色の立派な傘が特徴的だ。スライスして焼くと良いらしい。
そしてもう一つのミルベリーという名のベリーは黒に近い紫色をしていて、俺が日本のスーパーでよく見かけたイチゴではなく、ラズベリー系の見た目をしている。大きさはピンポン玉よりも少し小さいくらいだろうか。これも沢山採れた。
「しかしキノコ焼くっつってもアレだな。調味料が何も無いんじゃどうしようもねぇな。まぁ焼いて食うだけでも……」
「あ、塩なら分子分解構成器で作れんで」
「マジカヨ」
「マジダヨ」
地面の土と石、木材を分子分解、再構成して例の黒いカーボン素材っぽいものでパッケージングされた塩を製造することが出来るらしい。まぁ、土壌にはナトリウムも多く含まれると言うし、別に驚くことでもないのか?
「とりあえず塩が手に入るならキノコも美味しく食べられるか。後は水だが……」
と俺が呟くと、謎の発光物がまたぞろピカピカとやり始めた。
「うわ、なんかめっちゃ光っとる」
「あー、大丈夫。多分危険はないから」
ドン引きしているティーナを宥めてから地面に突き刺しておいた謎の発光物を引き抜く。
引き抜いてみると、長さは凡そ1.2mほど。両端が鋭く尖っており、螺旋状の溝と言うか刃のようなものが三条走っている。ただ、この溝というか刃のような出っ張りが何故か妙に手にフィットして持ちやすい。重量バランスも良い感じで、投げたらそれはもうよく飛びそうな感じだ。
「で、どっちだ? こっちか? いや、こっちか」
謎の発光物の先端をあちこちに向けると、ある方向で光の明滅が早くなった。
「まさか、水のある方向を示してるんですか?」
「多分な。さっきはこれで食料集めが捗ったんだよ」
「えぇ……なにそれ。こわない?」
「ちょっと不気味ではあるよなぁ。まぁ、知らんけどこいつなりに捨てられないように必死なんじゃないか」
「やっぱり知的生命体なんでしょうか」
明滅する謎の物体を見ながらウィスカが難しい顔をする。そんな俺達を見ながらエルマは眉間に皺を寄せ、何かを必死に思い出そうとしているようだ。
「何か心当たりがあるか?」
「うーん……無いのよねぇ。私も小さい頃にほんの数週間過ごしただけだから、記憶も曖昧だし」
「それは仕方ないですよねー。私もお祖母様の事は朧気にしか覚えてませんし」
ミミがうんうんと何故か自信満々に頷いている。まぁ、俺よりもずっと年上のエルマが小さい頃にって言うからには恐らく軽く三十年以上は前の話だろうからな。色々と覚えていなくても仕方のないことかも知れない。
「とりあえずこいつの指し示す方向に水があるかもしれないから、サクッと見てくるわ」
「私も行くわ。ミミ、ここは任せたわよ」
「はい! 私がお二人を守りますね!」
ミミが腰のホルスターに収まっているレーザーガンに手を置いてふんすと鼻息を荒くする。ああ言っているが、実際に動物とかが襲ってきた時に対処できるかどうかはわからないので、あまり遠いようなら諦めて帰ってこよう。
☆★☆
左手に謎の発光物を持ち、右手に短い方の剣を持って藪を切り開きながら進む。通りがかった手近な木に拠点へと戻るための目印をつけていくことも忘れない。
そしてエルマと二人で周囲に警戒しながら進んだ先には――。
「泉?」
「泉というか池というか、まぁ水場だなぁ」
あまり大きくはないが、池のような物があった。見た感じ水は澄んでおり、水底の砂がところどころ踊っているように見える。どうやらここは水源地のような場所であるらしい。泉の底から湧いた水はいくつかに別れて小川を形成し、泉から流れ出ているようだ。
「このまま飲めそうにも見えるわね」
「やめとけ、どれだけ綺麗に見えても生水を飲むのは危険過ぎる」
そう言いつつ、俺はバックパックの中から黒いカーボン素材のようなものでできたポリタンクを取り出した。俺とミミが食料調達に出かけている間にティーナ達が作っておいてくれたものだ。
「これに汲んで帰ろう。沸かしてから飲めば危険性は大幅に減るはずだから」
「蒸留とかしなくていいの?」
「それができればベストだが、そこまでのものを作れるかね?」
「あの分子分解構成器ならできるんじゃない? 壊れた航空客車の金属部分を使えば行けるでしょ」
「なるほど? まぁとりあえず水を持ち帰るとするか。サバイバルキットの中に水質検査キットがあったはずだから、それを使えば水質のチェックもできるし」
そう言って手分けして黒いポリタンクに水を汲み、バックパックに詰め込む。
「これでよし、と。しかしこいつはなんなんだろうな?」
仄かに発光している謎の物体を拾い上げ、首を傾げ――うん?
「水でも吸ったか? 重くなってる気がする」
「そうなの? 木材だし水を吸ってもおかしくは……いや、この短時間でそれは無いか。ますます不可解な物体ね」
「不可解だけど、便利ではあるな」
重くなったと言ってもさしたる変化ではない。持ち歩く分には何の問題もないだろう。
「水重いなぁ。さっさと帰るか」
「そうね。ミミだけに任せておくのもまだ不安だし」
「違いない」
訓練を重ねてミミも普通にレーザーガンを撃てるようにはなったが、元々があまり争い向きの性格ではない。もし動物が襲ってきたりした場合にはちょっと不安だ。
そういうわけで、ちょっとしっとりして重くなった謎の発光物を手に、俺とエルマは水が入ってクソ重くなったポリタンクを背負って拠点へと戻るのだった。
今ふと思ったが、これ今日の夜にでも救助部隊が来たら無駄になるな? まぁそれはそれで良いか。これは救助が来なかった時の備え。うん、そういうことで納得しておこう。
あまりにも好評なのでウマ娘に手を出してみましたが、アレはアカン。お前の時間を無限に溶かしてやるという強い意志を感じる_(:3」∠)_




