#252 食料調達
今日も間に合った( ˘ω˘ )
遠くからの戦闘音が鳴り響く中、小型情報端末から発せられるか細い灯りだけを頼りに身を寄せ合って息を潜める。
「いや、息を潜める必要はないな」
「そうね。とはいえ、やることもないけどね。寝るくらい?」
「明日以降どうするかの相談とかどうでしょうか?」
「それは建設的な意見やね」
ミミの提案で暗闇の中、明日以降の行動方針について話し合う。
「基本的には救助を待つという方針で良いだろうと思うんだが、異論は?」
「無いわね」
「無いです」
「無いな」
「無いですね」
「全員の賛同が得られたようで何よりだ」
小型情報端末がオフラインである今は地図すらまともに使えない状況だ。どちらに進めば良いのかもわからないまま、あてもなくこの森林を彷徨うというのはあまりに危険過ぎる。この星の原生生物の中には危険なのもいるみたいだし、切り拓かれていない森の中を移動するとなると事故なども怖い。毒虫や、それに相当する危険な生物も怖い。やはりこの場に留まって助けを待つのが利口だろう。
「問題は、食料だな。数日なら持ってきた保存食で十分足りると思うが、救出がそれ以上に長引くとまずい」
「それはそうね。一度食料を取りまとめて消費ペースを考えたほうが良いわね」
「それじゃあ明日の朝一番に取りまとめましょう。他には何かありますか?」
「食料、調達したほうがええんとちゃうかな? こういう森とかって色々食い物が生えてたりするんやろ?」
「あと、動物を狩って肉を取ってるって話でしたよね。博物館で展示されてました」
ティーナとウィスカが食料調達について意見を言う。うん、やっぱり同じことを考えるか。
「問題は何が食えるもので何が食えないものなのか、俺達にはわからないし判別のしようがないってことだな」
美味しそうに見える果実が実は人間にとっては猛毒だとか、どう見ても雑草にしか見えない草が実は地下に芋を作ってるとか、触れただけで肌がかぶれるような毒草だとか、本当に色々あるものだからな。素人目では判別できん。
「あ、それに関しては大丈夫です。実は昨日のうちにオフラインでも使えるスキャンアプリを私の小型情報端末とタブレット端末に入れておいたので」
「なんでそんなものを」
「森林ツアーに行くことも、ネットワーク接続が無いこともわかっていたので」
そう言ってミミがドヤ顔をする。いや、うん、凄いけど……君は道端の動植物を片っ端からスキャンして食えるかどうか判別して回るつもりだったのか?
「まぁ、ミミがそんなものを用意してくれているのは予想外だったが、物凄く助かったな。それじゃあ、明日は俺とミミで採集のために周囲を探索してエルマにはこの拠点を守っていて貰うか」
「了解」
「うちらは?」
「分子分解構成器を使って拠点の整備を進めるのと、何か便利なものを作れないか試してみてくれ。今不安があるのは水関連だな。あとは、あの役立たずビーコンと小型情報端末を利用して救難信号を発信できないか考えてみてくれ」
「うーん、できるかどうかわかりませんけど、頑張ってみますね」
明日の予定はこれで良いだろう。
「しっかし、戦闘なかなか終わらんなぁ」
「心配だが、打てる手はない。寝よう」
赤い旗がどれだけの規模で襲ってきているのかはわからんが、星系軍を全滅させてリーフィル星系全域を蹂躙する、という事態にまでは発展しないだろう。
とりあえず今日のところは昼間のうちにミミ達が簡易寝台を作ってくれていたので、その上で寝た。交差した骨組みに弾力性の強いシートを張ったような見た目で、意外と寝心地は悪くない。掛け布団代わりにカメレオンサーマルマントを被れば保温効果もばっちりだった。
☆★☆
人の気配で目が覚めた。薄っすらと目を開けると、どうやらカメレオンサーマルマントを何枚か使って目隠しを作り、お着替えか何かをしているようである。
「おはよう」
「ぴっ!? お、おに、お兄さんっ!?」
目隠しになっているカメレオンサーマルマントの向こうから帰ってきたのはウィスカの声だった。なるほど。
「暫く寝台の上でマント被って目を瞑っておくから。終わったら教えてくれ」
「は、はひっ!」
マントを被ってしまえば衣擦れの音も殆ど聞こえない。危うく二度寝しかけたところで体を揺すられ、今度こそ目を覚ました。
「ふあぁっぁっあァー……おはよう」
「お、おはようございます」
そう朝の挨拶を返してくるウィスカの顔は若干赤い。別に裸を見たわけでもなし、そこまで恥ずかしがらなくても良いと思うんだけど。
「起きようか」
「はい。皆さん外に出てますよ」
「んじゃ荷物持っていこう」
それぞれ自分の荷物が入っているバックパックを担ぎ、シェルターの外に出る。外に出ると、他の三人が黒っぽい箱に自分のバックパックから荷物を移しているところだった。
「おはようございます、ヒロ様」
「おはよう、ヒロ」
「おはようさん」
「おはよう。俺の分の箱もある?」
「それつこうてもろて。ウィーのはそっちな」
「うん」
用意された一抱えほどの大きさの箱に着替えやら何やら、すぐに使わないものを収めていく。食料は食料で別の箱に収める。
「うーん、普通に食べると食料は保って明日の夜までですね」
「ヒロはともかく、私達は一日か二日分くらいしか持ってこなかったからね」
「どうして」
「いや、本当にこんな墜落して遭難するなんて思わんやん……」
「ごめんなさい」
俺みたいに一週間分以上の保存食をバックパックに詰め込んであるほうが異常だな。うん。でもそのお陰で明日の夜まで余裕があるわけだから、まぁよし。
「いや、俺のほうが普通じゃなかったわ。とりあえず、昨日決めた通りに動こうか」
「そうね。気をつけるのよ?」
「はい! 頑張って食料を見つけてきますね!」
ミミは大層やる気を見せている。やる気が空回りしないと良いんだけど。
ちなみに、情報端末の充電に関してはレーザーガンやカメレオンサーマルマントに使用するエネルギーパックから充電するコネクタがあるので、当面は心配要らない。
「気をつけてなー」
「本当に怪我に気をつけてくださいね」
「あいよー」
「行ってきまーす」
昨日のうちに切っておいた生木を使って今日も引き続き狼煙を上げて貰う予定だし、歩きながら木に目印も付けていくつもりなので、少なくとも帰り道に迷うことはないだろう。これで俺達が更に遭難するとか笑い話にもならん。
「森の様子もわからないし、ゆっくり行こう。何も焦る必要はない」
「はい、ヒロ様」
俺達の荷物は中身がほぼ空っぽ――二食分の保存食と無限水筒が入っている――バックパックと、それぞれの装備だけだ。俺の場合はレーザーガンと一対の剣、小型情報端末。後は予備のエネルギーパックに、救急ナノマシンユニット。ミミの場合は小型情報端末とタブレット端末、レーザーガンと予備のエネルギーパックだな。後は細々とした小物が入ったバッグをバックパックの中に入れているようだ。
「俺が周囲の警戒をしながら進むから、ミミは食べられそうなもののスキャンをしてくれ。ペースはミミに合わせるから、ゆっくり確実にな」
「はいっ!」
そうして歩くこと数分、早速ミミが何か見つけた。
「あ、ヒロ様。何かスキャンに引っかかりました」
「ほう? どれどれ?」
ミミのタブレット端末を横から覗いてみると、どうやら木に巻き付いた蔦に反応しているようだ。
「あ、上に何か生ってますね」
「ふむ、瓜っぽいな?」
ミミがタブレット端末のカメラを生っている実に向けると、スキャンが完了した。どうやらあの実はコキリという名のウリ科の植物の実で、食用であるらしい。網の目のような模様が全体に出ていたら食べごろであるようだ。大きさは俺の握り拳より少し大きいくらいの大きさだな。俺の目にはちっちゃいメロンに見える。
「熟しているのをもいでいこう」
「全部取っていかないんですか?」
「全部取ると次が生えてこなくなっちゃうかもしれないからな。こういうのは根こそぎは良くない」
そう言って手が届く範囲のコキリの実を収穫していく。そこそこ太くて足がかりのある木だったので、結構な数を収穫できた。
「よし、幸先良いな」
果実なら水分も多めに摂取できるだろう。水が不足気味の俺達には嬉しい収穫だ。
「そうですね! 次を探しましょう」
そうしてまた探し始めるが、なかなか次の獲物が見つからない。まぁ、最初にコキリの実をすぐに見つけられたのが出来すぎだったんだろうな。普通はこんなもんだろう。
「見つかりませんね」
「ドンマイ。ちょっと休憩しよう。コキリの実を一つ食ってみるか」
「はい!」
ミミがとても嬉しそうで実によし。ナイフなんかは持っていないので。短い方の剣を使って慎重にコキリの実を四分割する。一つ間違えば指どころか手足が落ちかねないので、とても気を遣う。
「戻ったら調理用のナイフとか作れないか聞こう。剣で切るのは怖い」
「そうですね」
俺も大小一対のこの剣だけでなく、ナイフを一本持ち歩くべきかもしれない。こんな状況に陥ることはそうそう無いだろうが、ナイフそのものは武器としてだけでなく、ツールとしても色々と使いでのあるものだからな。
短い方の剣でも包丁やナイフとして使うには長すぎる。こうやって雑に四つに割るのが限界だ。
「ふーむ、ますますメロンにそっくりだな」
見た目の印象通り、割ってみても非常にメロンに似ている。果肉の色はオレンジがかっていない、若干黄色みを帯びた白だな。白肉メロンというやつか。
「めろん?」
「俺のいたとこにも似たような果物があったんだよ。あれは確か地面に生ってたと思うけど。あともっとでかかった、これくらい」
そう言って俺は手で俺の知るメロンの大きさを示してみせた。
「どんな味だったんですか?」
「みずみずしくて甘い果物だったな。メロンはこの種の部分を取って果肉だけを食ってたけど、コキリはどうなんだ?」
「コキリも種の部分は除けて食べるみたいですね」
「じゃあそうしようか」
指で種の部分をこそぎ落とし、コキリにかぶり付く。うん、美味しい。ちょっと青臭いし甘みも足りない感じがするけど、十分美味しいな。品種改良もされてない野生の果物の割には美味しいと思う。
「悪くないな」
「ちょっと青臭いですけど、美味しいです」
大きさそのものがちょっと大ぶりの桃みたいな大きさだから、二人で食べるとすぐに食べ終わる。
「よし、気合を入れて探すか」
「はいっ! 沢山持って帰ってびっくりさせましょう!」
休憩しておやつを食べたミミの気合は十分だ。あまり気合を入れすぎて疲れ過ぎないように気をつけて探索を進めるとしよう。




