#247 準備フェイズ
ちょっとリアルで色々あって遅れました(゜ω゜)(バッドイベントではないです
シータ観光二日目。
昨日はリリウムに案内されてローゼ氏族領の清涼飲料水メーカーや酒造メーカーを回ったのだが、二日目の今日はグラード氏族領の観光をすることになっていた。
グラード氏族領は多くの自然が残る――と言えば聞こえは良いが、俺から見れば未開の原野というか、原生林である。グラード氏族そんな場所に小さな集落をいくつも作って暮らしているらしい。
「そういうわけで、各自しっかりと装備を整えるように」
朝一番で全員を連れてブラックロータスへと戻り、俺はそう言った。旅館からブラックロータスが停泊している総合港湾施設まではさして遠くもない。昨日のうちにリリウムに言って朝一番で船に戻れるように手配してもらったのだ。
「観光……ですよね?」
「観光だな。でも俺達からすれば未知の惑星の原生林だな」
「私は未知でも……いや、グラード氏族領には行ったことないわね」
「仰々し過ぎひん?」
「私はお兄さんの言う通りにした方が良いと思うな」
本当は毒虫や寄生虫、急激な温度変化などからも身を守れる環境適応スーツでも引っ張り出そうと思ったのだが、見た目がSFチックなライダースーツって感じでいかにも見た目が仰々しい。流石にこれを着て観光というのは無理があるだろう。
「山と森は舐めたらアカン。管理されたリゾート地じゃなくてガチの原生林はヤバいから」
「そうなんですか?」
「そうなん?」
「そうなんです。というか舐めてかかるとすぐに遭難します」
エルマはともかく、ミミとティーナ、それにウィスカはコロニー生まれのコロニー育ち、つまり生粋のコロニストである。今まで人工的に管理された空間でしか生活をしたことがない彼女達には自然の脅威というものはあまり理解できないだろうな。
「できるだけ肌の露出のない服装にするように。君達の場合はアレだ、作業用のジャンプスーツとかでもいいぞ」
「オフの日にまでアレ着んのは嫌やなぁ」
「とにかくひらひらした服はやめとけ。枝とかに引っ掛けてすぐボロボロになる。丈夫でひらひらが少ないのにしておくように。多少暑そうな格好でも良いから」
そう言って全員にカメレオンサーマルマントを押し付けておく。これを装備すれば厚着をしても快適にすごすことができるからな。カメレオンサーマルマントは丈夫だし、テラフォーミング中の惑星という過酷な環境でもびくともしなかった実績がある。
「流石にガイド付きだし、警戒し過ぎだと思うけど」
「そうだな。普通に考えればな。ところでこの星に来てから平和すぎると思わないか?」
「……」
俺の言葉にエルマが渋面を作ってみせた。そうだよな、俺にこう言われるとそういう反応になるよな。俺も本当はこんな心配なんてせずにのびのびと観光を楽しみたいんだが、どう考えても何か起こるならここだろうとしか思えないので、警戒せざるを得ないんだ。
「そのバックパックには何が入っているんですか?」
「サバイバルキット、携帯食料、救難信号発信ビーコン、あとは予備のエネルギーパックだな」
「サバイバルキット?」
「救急ナノマシンユニットとか、シェルターを作るための小型分子分解構成器とかが入ってるな」
「小型分子分解構成器?」
「ほら、帝都で御前試合をした時に、帝国軍が射撃戦用のフィールドをその場で分解・構成してただろ? あれの小型のやつだよ」
「ああ、あれですか」
ミミがポンと手を打つ。つまりこの長ったらしい名前の装置は携帯型の3Dプリンターのようなものだ。木やら鉱石やらを分解して都合の良い物質に変換し、登録されているプリセット通りの建造物を構築することができる。こいつがあれば誰でも簡単に簡易的なシェルターを作れるってわけだな。
仕組み? 知らん。こんなものは使えれば良いんだよ、使えれば。俺の知識で考えるとこんなサイズ――テレビのリモコンくらいの大きさだ――の機械で物質を分子レベルに分解、再構成なんてできるとは思えないんだが、実際にできてしまうのだから仕方がない。ちらっと仕組みを調べてもみたが、何が書いてあるのか全く理解できなかった。専門用語のオンパレードだ。
物質を分解するなんてことができるのなら兵器転用とかされそうなものなのだが、残念ながら対策が容易なようで、そう簡単な話ではないらしい。結局、自然物――植物や鉱石の類に使うのが限界なのだとか。
「救難信号発信ビーコンって、そこまで……?」
「森の奥深くでガイドが負傷、あるいはガイドとはぐれてそのまま夜に。周りは明かり一つない原生林で、危険な動物が跋扈している。そんな状況になってもこれがあれば安全なシェルターを作って助けを呼んで一晩凌げるだろ」
「小型情報端末で通信すればええやろ」
「通信波が届けばそれで良いな。届けば」
「……届かないんですか?」
「残念ながら」
昨日のうちにメイに調べてもらったのだが、グラード氏族領の大半は小型情報端末が使っている通信波が届かない。つまり通信エリア外なのである。そんなことある? と思ったのだが、残念ながら事実であるらしい。なんだかよくわからんが、通信機の存在というのが魔法の習得、修練に多大なる悪影響を及ぼすとかなんとか。嘘だろう? と叫びたくなったよ、俺は。
「お兄さん、物凄く慎重ですね」
「俺一人ならなんとでもなる。俺とエルマの二人でも多分問題ないだろう。でも、今回はミミとティーナとウィスカも一緒に行くことになるだろう? そうなると、やっぱり色々と慎重にならざるを得ないな」
「むむ、私だってもう一人前……とはちょっと言えませんけどっ」
「うちらかてナリはこんなんでもドワーフやで?」
「ミミだって場馴れしてきてるのは間違いないし、ティーナとウィスカのフィジカルの強さは認めるけど、惑星上での行動経験は殆どないだろう? やっぱり心配なんだよな」
と、話しているとミミが首を傾げた。
「あれ? メイさんは行かないんですか?」
「メイにはブラックロータスで待機してもらう。いざという時に迎えに来て貰う必要があるからな」
「大変口惜しいですが、ご主人様の命とあらば」
俺の後ろで控えていたメイが平坦な声でそう言う。
今はグラード氏族領にある森での遭難についてのみ話をしているが、もしかしたら宙賊による惑星上居住地の襲撃なんて事態が発生する可能性だってあるのだ。実際、俺達が捕捉して仕留めた連中だってそれを成し遂げたのだから、二度目が発生しないとも限らない。
そんな自体が発生した時に備えて、やはり俺かエルマかメイのうちの誰かが船に残る必要があるわけだ。この集団のリーダーである俺が残るのは論外だし、エルフであるエルマにはやはり同行してもらいたい。そうなると、船に残るのはやはりメイが適任なのである。
「私は警戒し過ぎだと思うけど……」
「警戒しすぎだったね、アハハで終わればそれが一番だな。とりあえず全員携帯食料と水筒だけは持っていこうな」
水と食料があって体温を維持できるなら、とりあえずジッとしてさえいればそう簡単に死ぬことも無いだろう。




