#244 暴露
今日は頭痛がぺいんで遅れましてよ_(:3」∠)_(もうなおった
歓迎の宴が終わった後、俺達は部屋の床に敷いた布団の上で車座になって顔と顔を突き合わせていた。俺達の希望で寝室――というか部屋は一つの大部屋にしてもらったのだ。今日はここに皆で布団を敷いて雑魚寝である。まぁ、唯一男の俺は隅っこにする予定だけど。
「結局どういうことだってばよ」
「私に聞かれてもわからないわよ。知っての通り、私は最低限の魔法を使えるだけなんだから。話の流れから考えるに、相当高度なレベルで魔法を修めていないとヒロのことについてはわからないみたいだし」
「メイさんは何かわかりませんか?」
「申し訳ありません。サイオニック・テクノロジーに関しては我々機械知性には理解できない部分が多く、解析が全く進んでいないのです」
メイがいつもの無表情でそう言う。無表情に見えるが、なんとなく憮然とした表情に見えるのはきっと間違いではないだろう。
「うちらも結局は帝国生まれの帝国育ちやからなぁ」
「エルフは魔法が使えるってのは知ってるけど、それだけだよね。他の宇宙帝国の中にはそういうサイオニック・テクノロジーを重視している精神文明国家もあるみたいだけど、遠いんだよね」
「せやな。なんとか神聖帝国とかいうのがあるらしいな。詳しくは知らんけど」
「そっか。まぁどうでもいいな」
「どうでもいいんかい」
「どう考えても超級の厄介ごとの香りしかしねぇ。俺の出自なんてどうでもいいから無視だ無視。今の所困ってもいないしな」
これで体調が悪いとか変な力が暴走して周りに迷惑を掛けるとかなら話は別だが、今のところそんな兆候はない。実感できている不思議な効果ってのも言語チップインプラントもなしに全ての言葉を理解して扱えることと、息を止めれば回りの時間の流れがゆっくりに――或いは自分の時間の流れが加速するだけの話だ。
その解明や強化のために俺達が手に負えないような相手に興味を持たれるのはあまりにリスクが高い。そこまでして欲しい情報でもないし、これ以上生身の俺の能力を上げたいというわけでもない。エルマが前にちょっと見せてくれた魔法には少し興味があるが、下手に手を出して藪蛇になっても困る。
「なんだか妙ね。何か怖がってる?」
そう言ってエルマが視線を向けてくる。
「そりゃ怖い。自分でもこの世界に来た経緯は分かっていないんだ。それが思ったよりもスケールのでかい話みたいだぞ? ということなればビビりもする」
「ほーん……ところでこの世界に来たとかちょっと意味のわからない言葉があったんやけど、どういうことなん?」
「「「あっ」」」
俺とエルマとミミが同時に声を上げた。そう言えば、整備士姉妹に俺の出自について適当に誤魔化していたんだった。エルフのお偉方にオープンにされてしまった今、黙っていても仕方がないな。
「OK、今更隠し事をしても意味がない。話そう」
そう言って俺は俺がこの世界に来た経緯を話し始めた。とは言っても、俺の主観での経緯だ。実際に何があったのかはわからないし、俺がこの世界に来る直前の記憶というのも今になっては曖昧だ。SOLを起動したまま寝落ちしたような気もするし、ちゃんとベッドに入って寝たような気もする。だが、それは思い違いかもしれないし、そもそもその記憶すらなにかの拍子に思い込んでいるだけの可能性もある。
「というわけでな、今まで隠していたが俺はこの世界の人間ではない。少なくとも、俺の主観では」
「ははぁ……なるほどなぁ。兄さんの主観ではここはホロゲームの中の世界ってわけか」
「それに似た世界、だな。少なくとも俺がやっていたSOLには異星人としてのエルフやドワーフの存在は示唆されていなかったし、スペース・ドウェルグ社も存在しなかった。機械知性の存在すらな。いくつか共通点はあったんだが、この世界で過ごすうちに合致しない部分のほうが多い印象が強くなってきてるな」
「不思議な話ですね……まるでホロ小説の主人公みたいです」
「その部分を抜きにしてもヒロはホロ小説の主人公を張れると思うけどね」
「物凄い短期間でプラチナランカーまで駆け上がっていますもんね。ゴールドスターも受勲してますし」
何故か全員の視線が俺に集まる。そんなに見られても何も出んぞ。
「プラチナランカーだゴールドスターだって言っても俺は多少腕に自信があるだけの一介の傭兵だからな。少なくとも気持ちだけは」
「ゴールドスター受勲者のプラチナランカーが一介の傭兵は無いわよ。しかも御前試合で皇帝陛下に認められる成績を残した上に、貴族相手に剣で勝つような人が」
「ですよね」
「そうですね」
「せやな」
「ですね」
「アーアーキコエナーイ。そういうわけでな、異世界からきた勇者的な肩書きとかよくわからんフォース的な力とかはもう要らんというか、あまり関わり合いたくないわけだ。一体俺はどこに向かってるんだよ。このまま宇宙の危機でも救う英雄にでもなるってのかって話だ」
俺は断じてそんなものになる気はないぞ。俺はな、皆とイチャイチャしてコーラを飲みながらのんびりまったり左団扇な生活を送りたいだけなんだ。あとはたまにちょっとしたスリルを味わうことができればなお良い。コーラさえあれば今の生活が理想なんだよな。惑星上に庭付き一戸建てが欲しい理由ってのも結局は惑星上じゃないとコーラを気軽に飲めなさそうって理由なわけだし。今の環境でもコーラが思う存分飲めるなら、惑星上の庭付き一戸建てに拘る必要もない。
「そのゲームの知識で何か未来予知的なことはできないんですか? 何かこう、宇宙の危機的なやつとか」
ウィスカが目を爛々と輝かせながらそんなことを聞いてくる。目を爛々と輝かせて聞いてくるのが宇宙の危機についてかい。
「無いことはないけど、本当にそんなものが来るかどうかはわからんぞ」
「あるの!?」
「あるんですか!?」
「あるんかい!?」
エルマとミミとティーナから総ツッコミである。いやあるけどさぁ、イベントとしてそれっぽい雰囲気を出してただけだったし、結局はなんとか解決してたしそんなに危機って感じはしなかったんだよな。
「まずは結晶生命体だな。接触、防衛、調査、撃滅って感じでイベントが進んだ」
「そう言えばマザークリスタルとかこの前の戦役で私も初めて見たわね」
「アレは俺がセレナ中佐に居場所の情報をリークした。さっさと片付いてよかったよな」
「サラッととんでもないこと言ってんなぁ……他にもあるん?」
「貪食宇宙怪獣との接触イベントがあったな。とんでもない数の小型艦程度の宇宙怪獣の群れでな。一匹一匹は弱いんだが、とにかく数が多い。コロニーに直接取り付いてむしゃむしゃと食うわけだ、コロニーとその中身を」
「「「うわぁ……」」」
「ちなみに食われたコロニーはそのまま奴らの営巣地になって、そこから更に奴らが湧く」
あれは酷いイベントだった。結局いくつものコロニーがステーションが汚染されて焼き払われることになったからな。
「そ、それはどうやって打破したわけ?」
「結晶生命体で言うところの大型タイプが小型タイプを統率してる、というか小型タイプは大型タイプの端末みたいなもんでな。小型をガン無視して大型タイプをぶっ殺せば小型も自滅するんだ。それがわかるまで律儀に小型の群れを迎撃してる間はかなりの負け戦だったな。最終的には攻撃力の高い中、大型艦が超光速ドライブで大型タイプに肉薄して、集中砲火で潰していくって戦法でなんとかなった」
「それってこれから起こるんでしょうか……?」
「さぁなぁ。とっくにどこか別の場所で起こって解決済みかも知れないし、なんとも言えんね。もし俺の持つこの情報が必要になるなら、そのうち直面することになるんじゃないか? 俺達の運を考えるとそうなる気がしてならん」
「それはそうね。まだ起こってもいないことで頭を悩ませても仕方ないし、一旦この話は忘れましょう」
「そ、そうですね」
「他には何か無いんか? 技術関係とか色々気になるんやけど」
「あ、それは私も気になります」
「うーん、SOLの話が参考になるかなぁ」
整備士姉妹にねだられて俺が知っている船関係やパーツ関係の情報を話していく。そうしているうちに夜も更けてきたということで、今日のところはもう寝ることにした。明日からはシータ観光だからな。夜更しはは良くない。
「えー」
「これからもちょくちょく話してやるから……」
「絶対にですよ?」
どうやら俺の話は整備士姉妹の琴線に触れたらしく、なかなか寝付かなくて大変だった。君たち、いい大人だって普段自分で言っているんだから、おとなしく寝なさいよ……。
ちなみに、隅っこで寝る予定だった俺の布団は結局ど真ん中になった。左右は整備士姉妹である。
二人で挟まなくても逃げないっつうの。




