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#243 歓迎の宴と予想外の方向からの厄介事

なんか気付いたら長くなっていた……!

「どうですか?」

「どや?」

「可愛い可愛い」


 エルフの民族衣装を身に纏ったミミ達を前に素直な気持ちでパチパチと手を叩く。

 ミミは胸当てと膝上くらいまでの短いスカートの上に長い布を纏って身体を覆うような……あー、なんかこれも見たことあるな。インドとかあの辺の民族衣装じゃなかったかな?

 体を覆う布の色彩は鮮やかで、肌触りも良さそうだ。アレはあの中型犬くらいの大きさの芋虫から採った糸で作られたものなんだろうな。

 ティーナとウィスカは革製と思しきワンピースのような衣装で、どことなくネイティブアメリカンのような雰囲気を感じさせる装いだ。基本的に茶色と焦げ茶で構成されている素朴な衣装なのだが、所々が青や白の石で作られたビーズなどで飾られていて地味すぎることもなくかっこいい。


「……何よ?」

「いや、バッチリ決まってるなと」


 エルマが着ているのは純白のチャイナドレスのような衣装である。リリウムが着ていたのと同じタイプの衣装だな。スラッとしているエルマにこれ以上無く似合っている。深いスリットから覗く太ももが眩しい。


「いや、本当に似合ってる。うん。素晴らしいな」

「ありがとう。ちなみにこの色は既婚者用だから」

「マジで? 既婚者用なのにそんなにスリット深いの?」

「エルフの男って淡白なのが多いらしいわよ。知らないけど」

「なるほど?」


 だから少しでも劣情を煽りやすいようにスリットが深いと? まことに? やっぱこの世界のエルフってなんかおかしくない?


「しっかしミミのはおっきいよなぁ」

「あんっ、ちょ、ティーナさん!」

「そう言うあんた達二人も背の割にはあるわよね」

「私達も一応大人ですから」


 普段は作業用のジャンプスーツを着ているから目立たないが、実は整備士姉妹もそこそこ胸はある。たまにティーナなんかは風呂上がりに薄着で休憩スペースを闊歩していたりするんだけど、意外におっぱいがちゃんとおっぱいで二度見した覚えがあるぞ。

 そんな感じで女性陣がじゃれ合っているのを楽しく眺めていると、旅館の従業員エルフさんが俺達のことを呼びに来た。どうやら準備が整い、俺達を歓迎してくれるというエルフの各氏族の人々も集まったらしい。俺達は最後に会場に登場するという段取りであるようだ。

 え? 俺の服? 俺の服はいつもの傭兵服だよ。俺の衣装なんてどうでも良いし、一人くらいは傭兵らしい格好をしているべきだろう? それにこの服なら何かあっても即応できるしな。

 ちなみにメイの衣装もそのままだ。メイはメイドロイドなので、メイド服以外の服は基本的に着たがらない。あのメイド服の中にはえげつない暗器が山程隠されているしな。戦艦の装甲材に使われているような金属で出来た礫とかダーツとか。


「傭兵のキャプテン・ヒロ殿、ご入場です」


 宴会場に着くと、司会の人にそんな紹介をされて入場することになった。なんだか物凄く注目されていて落ち着かんな。全体的に好意的というか一部驚愕に目を見開いている人が……? なんだあれは。何人かが俺の方を目をまん丸にしてガン見してるんだが。

 とりあえず俺をガン見している人はあちこちに散らばっているので、こちらからアクションを起こしようもない。案内役のエルフさんに従って一番良い席――所謂お誕生日席のようなポジションに全員で揃って座る。メイだけはいつも通り俺の後ろで控えてるけど。

 そうしているうちに俺達の紹介が始まる。

 まずは俺。今回星系軍が惜しくも取り逃した宙賊の大型船を捕捉し、撃破せずに単身大型船の中へと切り込んでグラード氏族の族長の娘であるティニアやミンファ氏族の族長の息子であるネクトを救出。宙賊どもを剣でもって膾切りにして襲撃の際に犠牲になったエルフと、焼かれた御神木の仇を討ったのだと大絶賛だ。

 その他にクルー達についても紹介される。


「キャプテン・ヒロ殿の右腕を務める彼女はローゼ氏族の眷族、ウィルローズ氏族の血族でもあります」


 エルマに関してはしっかりとローゼ氏族の血族であるという事実も紹介された。エルマ曰く、実家から出て傭兵として独り立ちしている自分がローゼ氏族の関係者と紹介されるのはギリギリアウトな気もするが、自分からわざわざ訂正することも無いかという考えのようだ。実際、血が繋がっていることは間違いないわけだし。


「母なる森と空からの客人に感謝を」

「「「母なる森と空からの客人に感謝を!」」」


 一通り紹介が終わると、エルフのお偉いさん――確かグラード氏族の族長だった筈だ――によって聞き慣れない乾杯の音頭が取られ、宴会が開始された。並んでいる料理は……うん、あまり奇をてらったものは無いな。虫料理が無いだけで俺的には及第点である。


「美味しいですね!」

「ふむ、エルフ料理も大したもんやな」

「そうだね、でももう少しスパイスが効いてたほうが好みかな」

「俺は十分美味しいと思うけどな」


 ウィスカの言う通りスパイスは少なめだが、出汁の味がしっかりしているな。どことなく和食に似ているか? そうでもないか。あと、結構煮込み系の料理が多いように感じるな。


「主食はこれか。ふむ?」


 柏の葉のようなもので包まれた餅のような何かが主食であるらしい。見た目は柏餅みたいだが、これは葉っぱの部分も食べるのか? 辺りを見回してみると、葉っぱの部分は食べないようだ。


「ほう、これはなかなか」


 柏餅の正体は味のついた挽き肉が入っている肉ちまきめいたものであった。もちもちの記事の中に甘辛く味付けされた挽き肉が入っている。これは美味しい。

 他にはなにかの根菜や芋っぽいもの煮付け、肉やモツっぽいものがたっぷり入った汁物、肉の串焼き、肉のローストに果実系のソースが掛けられたもの、野菜や肉の串揚げ、なんかやたら美味いサラダのようなものなどメニューも豊富だ。


「上品な酒やなぁ」

「美味しいね」


 いつの間にか整備士姉妹は土瓶に入ったワインのようなものを満喫しているようだ。葡萄のような匂いがするし、多分ワインだろう。見た目が少女なのに、ティーナが酒を飲む姿はまるでおっさんのようである。ウィスカはその点酒を飲むときも淑女前としているな。双子なのに一体どこでこのような差がついたのか……育った環境の違いか。

 どうも家庭の事情でティーナとウィスカは別の環境で育ったらしいんだよな。ティーナは一時期治安の悪いコロニーでギャングとつるんでたような時期もあったらしい。それもウィスカと再会して一念発起してスッパリ足を洗ったらしいけど。

 で、その後はウィスカと一緒にスペース・ドウェルグ社に入って働いて、そのうちにブラド星系で俺達と関わって今に至ると。あんまり突っ込んで聞いてはいないんだよな。今度暇がある時にでも聞いてみるか。

 エルマはなんだか静かに目立たないようにしているようだ。今のシータにおける各氏族間の関係や状況については先程待機している時に軽く共有してある。恐らくエルマは自分の存在によって俺達全体がシータでの勢力争いに巻き込まれないように気を遣っているんだろう。今の状況を考えると今更どうあがいてもって感じがしないでもないが、その心遣いには感謝の念しか無いな。

 で、そうして食事をある程度終わらせたところで席を立ったエルフの一段が近づいてきた。エルフは誰も彼も若く見える上にイケメンと美人揃いだから本当に違和感が凄いな。族長とかは髭を生やした偉丈夫とかだとわかりやすいんだけど、普通に線が細く見える超絶イケメンなんだよな。


「改めて我が娘を救ってくれたことに礼を言わせて欲しい。私はグラード氏族の長、ゼッシュだ」


 グラード氏族長ゼッシュはティニアと同じ茶色い髪の毛のイケメンだ。頬に表傷があり、目付きが非常に鋭い。体格はエルフとしてはかなりがっしりしているように見える。細マッチョだな。衣装はティーナとウィスカが着ている革の服と同じようなデザインに見える。


「私はミンファ氏族の長、ミリアム。私もネクトの命を救ってくれた貴方に感謝の意を表明させてもらうわ。本当にありがとう。あなたの処置がなかったらあの子は命を落としていたかもしれないという話だったのよ」


 ミンファ氏族の長は女性で、輝くような金髪の美人さんだ。こっちはミミが着ている衣装に近いな。ミミよりも身につけている装飾品の数が多くて非常にゴージャスに見える。

 どうやらローゼ氏族の長は同行していないらしい。まぁ、かなり関係が悪くなっているという話だしな。一緒に行動して俺の目の前で喧嘩でも始められたら困る。その辺はあっちで調整してくれたのだろう。


「偶然にせよ、このシータに住む人々の役に立てたのは幸いです。今日はこのような場を設けて頂き感謝しています」

「うむ……ところで、少し聞きたいことがあるのだが」

「はい?」


 何事かはわからないが深刻な様子で言い淀むゼッシュ氏に俺は首を傾げる。何やら大分深刻そうな様子だが、一体何事だろうか?


「貴殿は何者だ? その身から溢れ出る力はまるで上位の精霊……いや、それ以上だ。見た目は人間であるようだが」

「はい?」


 俺は再度首を傾げて同じ言葉を繰り返した。溢れ出る力? 上位の精霊かそれ以上? 一体お前は何を言っているんだ。


「我々精霊に親しんだ者から見ると、貴殿からはとてつもない力が感じられるのだ。まるで空に輝くリーフィルが地上に降りてきたような心地だ」


 わけが分からず俺はエルマに視線を向けた。すると、エルマは目を瞑って首を横に振る。


「私にはそんなものを視るだけの力は無いから知らないわよ。魔法については本当に初歩的な部分しか修めていないしね」

「そちらの娘はローゼ氏族の眷族の血筋だったか。ならば仕方あるまいな。ローゼ氏族の者どもは精霊との交信に熱心ではない。精霊視に至っている者などいないだろうし、その娘が貴殿の力に気づかぬのも無理はない」

「でも、ここで指摘されるまでそんなこと指摘されたこともないんだが。俺、一応最新の設備を持っている医療施設で検査とかしてるぞ」

「グラッカン帝国は基本的に物質主義的な側面が強い。精霊との交信や魔法――外ではサイオニック・テクノロジーと呼ばれている分野には弱い部分がある」


 ミンファ氏族長のミリアムさんがそう言いながら眩しそうな目で俺を見ている。なるほど? 確かに機械知性の開発とかサイバネティクス、生命工学分野にはかなり強い印象があるけど、魔法に関しては帝都でも殆ど触れる機会が無かったな。貴族の剣士もジェ○イっぽさはあるけど基本的にサイバネティクスと生命工学による身体強化でその域に到達してる感じだったし。


「つまり、どういうことなんだろうか?」

「それは我らにも判別がつかん。貴殿はそもそもどういった出自なのだ? そこから推察していくしかないと思うが」

「俺の出自。あー、出自ねぇ」


 ここで異世界から来ましたとか言ったら絶対に面倒なことになるやつだよな。絶対に言うつもりはないぞ。絶対にだ。


「実は記憶喪失気味でな。気がついたら愛機と一緒に宇宙空間で漂流してたんだ。多分ハイパードライブの事故か何かだと思うんだが、漂流中に気がつく前の記憶は曖昧で――あっと、こんな言葉遣いで失礼」

「気にしないで欲しい。貴方は私達の恩人だし、そもそも外の人。お互いに最低限の礼儀を守れば問題ない。しかし、なるほど……ハイパードライブ事故」

「さっぱりわからんな。しかし恒星間航行の際にはこの世とは違う別の世界を経由するのだろう? その際に精霊界に接したか?」

「それだけでこんなことになるならこの宇宙はこんなことになっている人だらけ。それはない。でも、それが関係している可能性はなくもない。鍵は記憶喪失。ハイパードライブの事故で本当に精霊界に行って、何か向こうで成したのかも知れない。そして再び物質界に現界する際に精霊界からこちらに戻ってくる以前の記憶を置いてくることになったのかも」

「となると、一度精霊界に行った時点で物質の肉体は消滅して精霊と同じ存在になり、またこちらに現界する際に精霊としての性質を持ったまま肉体が再構成されたか?」

「そうかもしれない。全然違うかも知れない。どちらにせよ異常なことには変わりがない」


 わぁ、なんだかこのふたりめちゃくちゃにふぁんたじーでわけがわからないぎろんをしている。

 とりあえず特大級に厄介な事が起こりつつあるということが理解できてきたぞ。この宴会が終わったら速攻でケツまくって逃げようかな。うん、そうしよう。絶対にヤバい予感しかしない。


「お腹もいっぱいになったし、エルフの皆様の歓迎も十分に楽しませてもらったから俺達はこの辺りで御暇させてもらおうかと」

「それはいかん。貴殿には返すべき恩がまだたんとある」

「とんでもない。その力、無駄に垂れ流すのはあまりに惜しい。少し修練するだけでもきっと役に立つようになる」


 ゼッシュ氏とミリアムさんが声を揃えてそう言い張る。うん、そう言うと思った。だからとっととお暇しようと思ったんだよ!

 というか、俺の設定が盛られすぎだろう。帝都での御前試合以来、ただでさえ俺の生身での戦闘能力が人外じみてきているというのに、更に本物のジ○ダイみたいな力まで操れるようになったらどうするんだよ。

 俺はクリシュナを駆ってドンパチできれば良いんだよ。生身の俺が強くなるのはちょっと方向性が違うから! どうせならクリシュナに使える新装備とか、性能アップとかそういう方面で強化してくれ。


「すごいですねヒロ様! 本物のスーパーヒーローみたいになれるんじゃないですか?」

「そういうアメコミ的な存在になるのはなぁ。いや、意外とアリか……?」


 考えてみれば心で撃つ例の銃を左手に装備しているアイツとか割とそのノリでは? あとあれだ、紙装甲の二足歩行ロボに乗る異能生存体とか。割とそういうノリだよな。そもそもジェ○イの騎士とかモロにそっち寄りだよな。


「ご主人様のポテンシャルの高さを考えれば挑戦してみるのも良いのではないでしょうか」


 ここで珍しくメイからの後押しが来た。普段あまり自己主張をしないメイとしては非常に珍しい。


「そもそも、剣を使い始めてほんの数ヶ月で白刃主義者とまともに斬り合えるあんたはどう考えてもおかしいのよね。特に強化もしてないのに」

「せやな。もう行くところまでいってしまえばええんちゃう?」


 赤ら顔でそう言うティーナの横でウィスカもうんうんと頷いている。そしてなぜか目がキラキラしている。そういえば君、結構そういう系のコミックとか好きだったよね。たまにミミとそんな感じの話をしているのを見ることがある。


「あー、まぁその、時間があれば?」

「是非そうすると良い。連絡してくれれば最高の環境を整える」


 俺の返事にミンファ氏族長のミリアムさんが重々しく頷いた。

 事前に聞いた話だとミンファ氏族よりもグラード氏族の方が魔法関連には力を入れてるって話だったけど、ミンファ氏族の長であるミリアムさんの方が熱心なのは何なんだろうな? いや、氏族長がこうだからグラード氏族との婚姻なんて話が出たのかね。

 まぁ何にせよ今度ね、今度。どっちにしろ俺達は明日から観光とかコーラ探しに忙しいから!

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― 新着の感想 ―
オーラロードにでも寄ってきたのかな
もちもちの記事  生地 淑女全  かな??
[一言] ずっと自刃主義と思ってたけど今違うのわかった 自刃はヤバいと思いつつ作者ならあり得ると思ってた
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