#239 熱帯型惑星リーフィルⅣ
ぎりぎり間に合わなかった……!_(:3」∠)_
リーフィルⅣは陸地の大半が森林や密林に覆われており、全体的に高温多湿の惑星である。この世界における居住可能惑星の分類で言えば、湿潤気候に分類される熱帯型惑星といった感じである。
「なかなかに蒸し暑いな」
リーフィルⅣ――シータに降り立って開口一番に俺はそう言いながら天を仰いだ。天候は概ね快晴と言って良いだろう。しかし湿気が酷いな。日本の夏を思い出させる暑さだ。
「そう? こんなものだと思うけど」
「エルマさんはなんともなさそうですね」
むしろいきいきしているように見えるくらいだな。いつもよりも耳の先端の位置が高いような気がするし。
「これくらいならなんともないな」
「コロニーのボイラー区画に比べればなんでもないよね」
ティーナとウィスカにとってもこの高温多湿な環境はそこまで辛いものでもないらしい。俺とミミだけか、この蒸し暑さを不快に感じるのは。
「しかし、こうしてみるとやっぱブラックロータスってデカいよな」
「そうですね。スキーズブラズニル級母艦は母艦の中でも大型の部類になりますから」
俺の直ぐ側で控えていたメイが相槌を打ってくれる。当然ながらメイドロイドである彼女はこの蒸し暑さに不快感を感じるわけもなく、この暑さの中でもしっかりとメイド服を着込んでいるのに涼しい顔をしている。
ちなみに、ブラックロータスが停泊しているのはシータ上に存在する航宙艦停泊施設である。空港と港を足したような巨大施設で、ブラックロータスはその中でも一番大きなドッグを占拠する形になっていた。
「これで停泊料は無料っていうんだから太っ腹だよな」
「ご主人様の為されたことが早速功を奏しましたね」
「別に頑張ったのは俺だけじゃ……でもないのか?」
「船に突入したのはヒロ様と戦闘ボットだけですからね」
「ミミもサポートを頑張ったけど、結局やったのは殆どヒロよね。船を拿捕しようって判断したのも、スラスターや武装をピンポイントで破壊したのも」
「それでも俺一人の功績ではないと声を大にして言いたい。俺達はチームだからな」
あと、戦闘以外の業務は基本的に皆に投げてるしな。今、全部の作業を一人でやれと言われたらブラックロータスを売却して身軽なクリシュナだけでやっていくことになると思う。ブラックロータスを導入して儲けは大きくなったが、戦利品の管理や売却、それに停泊手続き関連に必要なマンパワーは増加しているのだ。広いから掃除も大変だしな。
「あ、兄さん。迎えっぽいのが来たで」
ティーナが指差す方向を見ると、バスのような形状の車両がこちらに走ってくるのが見えた。
「結構な年代物の車両みたいですね。でも走行は安定してがたつきも殆どないみたいです。多分丁寧に整備されているんですね」
両手でひさしを作りながらウィスカがこちらへと向かってくる車両をそう評価する。今日はいつもの整備用ジャンプスーツではなくいかにも少女らしいフリル付きの白いワンピースを着ている彼女だが、服装には関係なく何かしらのメカを見ると分析せずにはいられないらしい。
エンジン音らしきものも無く、非常に静かに現れたバスは俺達の前に停まり、ドアが開いて一人のエルフの女性が降りてきた。光沢のある緑色の生地でできたチャイナドレスのような衣装を身に着けたエルフの美女である。胸部装甲は控えめだが、深めのスリットの奥に垣間見える白い太ももが目に眩しい。髪の毛の色はエルマと似た白銀色だ。
「ほう……いてっ」
感心の声を上げたら尻と脇腹に痛みが走った。エルマの肘鉄とティーナの張り手である。手加減してるんだろうけど普通に痛い。というか、ああいうチラリズムに目を引き寄せられるのは男の性って奴だからお目溢し願いたい。あれは高度な視線誘導技術だと思うんだ。
「お待たせ致しました、ヒロ様御一行ですね?」
「そうだ。お出迎えどうも」
「いえ、ヒロ様は我々の恩人ですから。同族の方もいらっしゃったのですね」
そう言って案内役のエルフ女性はエルマに視線を向ける。
「私はローゼ氏族、ウィルローズ家の分家の血筋よ。曽祖父の代に空に上ったの」
「ああ、やはりローゼ氏族ですか。その髪の色でそうではないかと思っていたんです。では、私と同郷ということになりますね」
案内役のエルフの女性が屈託のない笑みを浮かべる。なるほど、氏族によって髪の毛の色が違うのか? でも遺伝的なものだろうし、異なる氏族間で血縁を結べば一概に髪の毛の色だけで判断できるとは思えないんだけどな。ただ、エルフは生態がかなり謎だからな……特に繁殖関係はかなり複雑怪奇な感じだし。
「話はそれくらいにして早く車に乗ってもらえ。客人に立ち話をさせるものじゃない」
「そうですね。皆様、どうぞお乗りください」
バスの中から聞こえてきた男性の声に従って案内役の女性エルフが俺達に乗車を促す。俺達は全員手荷物持ちだが、車内には十分な余裕があって問題なく乗り込むことが出来た。手荷物の中身は着替えやちょっとした身の回りの品など、概ね宿泊に必要なものだ。あとはレーザーガンとか俺の場合は大小一対の剣とか。流石にレーザーライフルやグレネードの類、それにパワーアーマーやコンバットスーツなどの本格的な戦闘用装備は持ち込んでいない。
高温多湿だって話は聞いてたから、全員分のカメレオンサーマルマントは持ち込んでおいたけど。あれはテラフォーミング中の惑星でも快適に行動できるくらいの環境適応能力があるからな。熱帯型惑星のシータでも屋外活動をする際には役に立つことだろう。
「ヒロ様は貴族なのですか?」
俺の剣を目にした案内役の女性エルフが首を傾げる。
「いや、そういうわけじゃない。その剣は貴族から下賜された剣ではあるけど。公的な身分として貴族位を持っているわけじゃないよ」
「ゴールドスターを授与されているから、公的な地位としては子爵相当だけどね」
「貴族相手でもなければ効果を見込めるものじゃないだろ……そうでないとしてもそんなもん普段から振り回す気にならんぞ」
棚ぼたで手に入れた地位を振りかざすのって小物ムーブっぽいしな。敢えて隠すようなものでもないし、使える時は使うけど必要でない時にまで使うのはどうも気が咎める。
「そう言えばこの後のスケジュールってどうなっているのだろうか?」
「はい。まずはこのシータ総合港湾施設の近くにある宿泊施設に皆様をご案内させていただきます。その後は皆様のご希望に沿って近隣の施設などを案内させて頂き、夜には宿泊施設で皆様を歓迎する宴が開かれる予定ですね」
「なるほど。近隣の施設ってのがどんなものなのか楽しみだな」
ショッピングを楽しめる施設なのか、それとも博物館とか美術館的な施設なのか。動物園とか遊園地みたいな施設とかでもいいな。ああ、何かしらの体験系施設とかもいいな。エルフは独自の文化が色々ありそうだし。できれば薬湯関連についても情報を得たいところだな。
「うたげ……」
「宴、ええね」
「えへへ、楽しみだなぁ」
ミミとティーナとウィスカがもう既に夜の宴会という言葉に心を奪われている。君達、ちょっと欲望に忠実過ぎないか? いや、コーラを探すためだけに恒星間航行をしてまでエルフの星に来ている俺が言うのも変な話だけどさ。
「うーん……」
エルマが難しい顔をしている。どうした? と目で聞いてみると、エルマが難しい顔をしたまま口を開いた。
「一応シータまで来たなら本家に顔を出しておいたほうが良いかなと思って。曽祖父の代に本家から別れて星からは出たけど、一応親戚だからね。小さい頃に顔見せに来たこともあるし」
「なるほど、それは暇を見つけて行くべきじゃないか? 下手すると実家に迷惑をかけかねないだろ?」
「うーん……まぁ、そこまで気にする必要はないとも思うんだけどね。私は家から出る予定なわけだし」
「行こうぜ。クリシュナで飛んでいけばすぐだろ。俺もエルマのルーツってのを見てみたいし」
「そう? それじゃあ時間が出来たら行きましょうか」
難しい顔をしていたエルマが笑顔を見せてくれる。うんうん、折角のリゾートみたいなもんなんだし、難しい顔をしているよりは笑っていた方が良いってもんだ。流石にこの下にも置かない歓迎っぷりでいきなりピンチになることもなかろうしな。まずは目一杯楽しむとしよう。ついでに色々と用事を片付ければいいさ。
原稿作業のために20日の更新を終え次第更新をお休みする予定です。
ゆるしてね!!_(:3」∠)_




