#235 俺は悪くねぇ!!!
一時間遅れてないからセーフ!!_(:3」∠)_(アウト
リーフィルⅣの郷土料理というのは洋食のコース料理のように前菜、スープ、のように順に料理を出していく形式ではなく、最初から全ての料理が食卓の上にドンと並べられ、個々人が好きなように食事をするというスタイルであるようだった。
「豪華ですね。なんだか見ているだけで楽しくなってきます」
「うん、これは大したもんだ」
俺の目の前には野菜か山菜の天ぷらのようなものだとか、何かの獣肉のステーキのようなものだとか、くつくつと煮え立つ小鍋のようなものだとかがならんでいる。食材の色彩も豊かで、ミミの言う通りこうして料理が並んでいる様を見るだけで楽しい気分になってくるな。俺の印象としてはちょっと高級な旅館とかで出てくる料理って感じだ。
「これはシータでも客人をもてなす宴料理というものになりますね。通常の食事よりも贅を凝らした料理です」
「なるほどね。確かにこんな料理を毎食用意するとなると、専用の料理人を最低でも三人くらいは雇わないと手が回らないだろうな」
天ぷらに焼き物と煮物が二種、汁物に小鍋料理、それに香の物のようなものに菓子らしきものまで用意されている。しかも煮物に使われている野菜には飾り切りが施されているし、この料理の彩りもきっと考え抜かれた末のものなのだろう。これはまさしく職人の仕事だな。
「ヒロ様は料理についての造詣が深いのですね……?」
ティニアはとても不思議そうに小首を傾げた。惑星上の居住地に住んでいる彼女は恐らく普段から『本物』の肉や野菜から作られた食事を取っているのだろうが、宇宙に住む人々の殆どは生まれた時からフードカートリッジから作られた合成食品を主な食事としている。その結果、宇宙に住む人々の大半は料理や調理に関する知識が全く無いのだ。にも関わらず、俺が料理に関して比較的まともな意見を述べたのが意外であったのだろう。
「ヒロは生の食材からちゃんとした料理を作れるスキルを持っているのよ」
「そうなんですよ。あの時のヒロ様の料理はとても美味しかったです」
「そうなのですね……私も嗜み程度ですが、調理を学んでおります。機会があれば互いの料理を口にしたいものですね」
ティニアが再び微笑みを浮かべながら俺に視線を向けてくる。
「いや、俺のは雑な男料理だから……こんな職人芸を期待されても困るぞ」
「この料理が職人による手の込んだ料理であるとわかるだけでも稀有なことだと思います」
「せやね。さすが兄さんや」
「お兄さんは博識ですよね」
ティニアだけでなくティーナとウィスカまで俺を褒め称え始めた。なんだなんだ? 褒め殺しか? そんなに褒めても何も出ないぞ。
「それはそうと、ヒロ様の船のクルーは女性ばかりなのですね」
「成り行きでな……最初は俺一人だったんだけど、最初にミミをクリシュナに乗せることになって、その後すぐにエルマもクルーとして迎え入れることになった。その後暫くしてからメイが加わって、母艦を購入する際に母艦を作ったシップメーカーからティーナとウィスカが出向してくることになったんだ」
「なるほど……差し支えなければ、どのような経緯でヒロ様の船に乗ることになったのかお聞かせいただいてもよろしいですか? とても興味があります」
ティニアの視線がミミに向く。ティニアに視線を向けられたミミが「どうしたものでしょうか?」といった感じの視線を向けてきたので、俺は頷いてみせた。
「俺は構わない。ミミに任せるよ」
「ええっと……それじゃあ」
という感じでミミが自分の身の上話を始め、ミミに続いてエルマも船に乗った経緯を話し……と食事を進めながら俺達の来し方をティニアに語ることになった。惑星外の話を聞くのは珍しいのか、三人とも大層興味深げな様子である。
「私達ばかり貴方様達のことを聞きほじってばかりで申し訳ありません」
「いやいや、そうやって興味深けに瞳を輝かせて聞いてもらえる分にはこちらとしても話し甲斐があるってものだよ。な?」
「そうね、ヒロは所々で茶々を入れてるだけだけど」
「茶々だなんて人聞きの悪い。ちょっとした補足説明ってやつだろう?」
そうやってエルマとじゃれ合っていると、ティニアは俺とエルマのそんな様子をジッと見つめているようだった。
「……お二人は夫婦の契りを交わされた仲なのでしょうか?」
「ええっと、それはどういう」
夫婦の契りというのが肉体関係という意味ならイエスだ。ただ、それをこうした場で口にするのは流石に憚られる。
「書類上の夫婦関係という意味ではノーよ。ただ、私の家族には認められた仲ね。いわば婚約関係と言っても過言ではないと思うわ」
「……なるほど、それではミミ様は?」
「え、えっと、私は……」
ミミが視線を左右に彷徨わせる。
確かにエルマの家族とはある程度話がついた感じになったわけだが、ミミとはどうなのかと言われるとこれが難しいところだ。ただ、ミミは帝室に入ることを選ばず、俺と一緒に生きることを選んでくれた。俺もそんなミミと一緒に生きていきたいと思っている。
「ミミ様とご主人様は既に帝国臣民法上の夫婦となっています」
「「……えっ!?」」
俺とミミの驚愕の言葉はほぼ同時だったと思う。
え? 何それは。当人達が把握していないんだが? ミミに視線を向けるとミミも俺に視線を向けてきていた。ミミ知ってた? 知らない? そう。そうだよな。それじゃなかったら俺と同じタイミングで声を上げてなかったよな。エルマは? あれ? エルマさん何か知ってそうな顔してるね?
「何か当のお二人が混乱していらっしゃるように見えるのですが」
「二人には伝えてなかったからね」
「いや、ちょっと待って。それはおかしい、色々とおかしい。というか一体いつの間にそんなことに? 俺、知らないんだけど」
「……」
ミミは驚きのあまり固まってしまっているようだ。おい、大丈夫か? つんと指先で突いたらそのまま横に倒れそうだぞ。
「……うちも初耳なんやけど」
「……私も」
ティーナとウィスカが刺すような視線を向けてくる。いや、うん、そうだね。初耳だよね。俺も初耳なんだ。だから俺にそんな視線を向けられても困る。
「一体全体これはどういうことなんだ?」
「つまり、貴族対策だったのです」
「ええと?」
「帝都に滞在していた折にミミ様は少々特異な事情から貴族の子弟から注目を浴びることになりました。ミミ様の身分は平民。しかも身寄りが無い状態です。場合によっては貴族特権により無理矢理その身柄を引き受けられる可能性がありました」
「なるほど?」
「そこで予めヒロ様と法的な夫婦関係を結んでおくことにより、そのような事態が起こることを排除したわけです」
「よくわかった。しかしそれを当の俺とミミが承知していなかったというのはどういうことだろうか?」
「私が口止めしてたから。あと、知ってても知らなくても別に何も変わらないでしょ?」
「なんで……いやまぁそうだけどさぁ」
法的にミミと夫婦関係になっていたとしても、今までの生活を変える必要はないと思うし、変えるべきではないとも思う。エルマにしてもメイにしても末永く一緒にありたいと思っているし、ミミだってそれは同じだろう。ティーナとウィスカに関しては……。
「……」
「……」
二人の視線の圧が凄い。しかし俺は屈しない。この俺がそう簡単に圧力に屈するとは思わないで欲しい。その程度の圧力に屈する俺ならセレナ中佐やクリスに手を出していただろう。俺はNOと言える日本人なのだ。
「二人とは何でもな……くはないけど、今のところそういう関係ではないぞ」
「今の所、ですか」
「この先どうなるかまではわからない。軽々しく口にすることは避けたいと思う。ただ、俺にだって節操というものがある」
「そうですか」
ティニアさんがそう言ってにっこりと笑う。その顔にははっきりと「二人の女性に手を出しておいてですか?」と書かれているように思えるが、俺は声を大にして言いたい。俺はこれで結構我慢強い男であると。手を出す相手はちゃんと選んでいるんですよ、これでも。俺が自重なしの下半身に素直な性格であったなら、今頃セレナ中佐の部下として帝国航宙軍の軍人か騎士になっているか、或いはダレインワルド伯爵家の家臣か、もしかしたらクリスの夫となっていたことであろう。
その前にホールズ侯爵かダレインワルド伯爵にバッサリとやられてるかもしれないけどな!
「うちらもそこに入る予定なんよ」
「大家族って良いですよね」
「君たち俺の話聞いてたよね?」
俺とミミが法的にそういう関係になっていたということに触発されたのか、ティーナとウィスカが勝手なことを言い始める。まずは少し落ち着こう。ほら、酒を頼んでやるから落ち受け。クールになるんだ。そしてこころなしかティニアと側仕えの二人の視線が痛い。
とりあえずね、俺は声を大にして言いたい。
俺は悪くねぇ!!!
 




