EX-003 恐怖! 宇宙マグロ!
今年の更新は終わりと言ったな? あれは嘘だ。
本編と全く関係ない番外編SSみたいなものです。良いお年を!_(:3」∠)_
「なんだかこのコロニーは活気がありますね」
コロニーに降り立つなりミミが声を上げた。
ここは……えーと? なんて名前のコロニーだったかな。目的地へと向かう途中で適当に立ち寄ったコロニーだ。特に補給が必要ってわけじゃなかったんだが、何か珍しい食べ物や交易品がないかと立ち寄ったんだよな。
「そうだな。なにか催し物でもあるのかね?」
なんだか目立つ色の装飾が施された店が多いように思う。どの店も同じような色使いで装飾されているから、恐らく何かしらのイベントなのだろう。どの店も金色や銀色の魚のようなマークがついた旗や垂れ幕を垂らしている。
「アレやね、新年祭ってやつ」
「うん、多分そうだね」
「へぇ? 新年祭ねぇ……」
エルマに視線を向けてみるが、エルマは俺の視線に首を横に振ることで応えた。これはエルマの知らないイベント、あるいは風習であるらしい。
「ドワーフ由来の文化なのかね」
「んー? どうやろ? うちらはドワーフ系のコロニーでしか過ごしたこと無いからな」
「金色と銀色の装飾と言えば新年祭かな? って感じですね」
「なるほど。あの魚っぽいマークは何を意味するんだ?」
俺の質問にティーナとウィスカは揃って首を傾げた。
「いや、わからんわ。うちらの知ってる新年祭は金銀の装飾を掲げて新年を祝いながらお酒と食事を楽しむイベントやし」
「確かに魚っぽいマークですよね。全部に同じマークがありますし、もしかしたら私達の知る新年祭とは何か違うのかもしれません」
「さようか……まぁ、聞けばわか……る?」
ニューイヤーイベント、さかな、その二つの言葉が今、俺の頭の中でカチリとハマった。俺は……俺はこのイベントを知っている!
「ちょっ! どこ行くのよ!?」
「船に戻るぞ! ダッシュだ!」
慌てるエルマ達をその場に置いて俺は船へと走りながら、ブラックロータスで留守番をしているメイに通信を入れる。
『はい、いかがなされましたか?』
「出港準備だ! 急げ!」
『落ち着いて下さい、ご主人様。何かトラブルですか?』
「そういうわけじゃないけど急いでくれ! 最悪、クリシュナだけでも出せるようにしてくれ!」
『よくわかりませんが、わかりました。準備を進めておきます』
さすがはメイだ。説明不足でも俺の意を汲んでくれるぜ。
港湾区画をダッシュする俺と、それを追いかけてくるミミ達に好奇の視線が集まっている気がするが、気にしてはいけない。それよりも大事なことがあるのだ。
「ちょっと! 説明をしなさいよっ!」
「マグロだよ!」
「まぐろ?」
ブラックロータスに辿り着き、ハッチを開く操作をしているところでエルマが追いついてきた。ミミはもうすぐそこだが、ティーナとウィスカの姿はまだ遠い。やはり足の長さが違うからな、仕方あるまい。
「ニューイヤーイベントだ。宇宙マグロが襲ってくるぞ……!」
「うちゅうまぐろ」
エルマが何言ってんだこいつ? という表情を向けてくる。わかる、わかるよ。宇宙でマグロって意味がわからないよな。でも、SOLで実装されたんだ。されてしまったんだ。
あれは悪夢だった。シーカーミサイルよりも速い速度で真正面から突っ込んでくるマグロの群れはトラウマものだった。真っ黒い口を開けて虚ろな表情で突撃してくるマグロの群れの恐怖は今も俺の脳裏に薄っすらと焼き付いている。
「お、おいついた……はぁ、はぁ」
「とりあえず俺達だけで入るぞ。ハンガーに急げ」
整備士姉妹はまだ追いついてきそうにないので、先にブラックロータスの中に入ることにする。ミミの息がまだ切れているようだが、残念ながら今すぐにでもクリシュナでコロニーの外に出たいので、労っている暇がない。
「で、そのうちゅうまぐろとやらがなんだってのよ。そんなに急いで船を出す理由は?」
「放っておくと、奴らはコロニーを襲うんだ。悪夢だぞ。コロニーに無数のマグロが突き刺さって尾っぽだけピチピチしてる光景は」
「まぐろって結構大きい魚ですよね。それの宇宙サイズって……もしかして航宙艦くらい大きかったりするんですか?」
「クリシュナの四分の一くらいだな。そんなのが数千、下手すると数万単位で襲いかかってくるんだ」
「ちょっとした宇宙怪獣じゃない……というか、私はそんなものを見たことも聞いたこともないんだけど、本当なの? ガセじゃないでしょうね?」
「……そう言われると自信が無くなってきたな」
「えぇ……」
弱気になった俺にミミが可哀想なものを見るような視線を向けてくる。やめろ、その視線は俺に効く。エルマも残念なものを見る視線を向けてくるのをやめろ。居たたまれなくなる。
「金銀、新年、魚と来るともうそれしかないだろうという考えに取り憑かれてしまってな……いや、ほら、アレだ。元の世界関連のソレで」
「……あぁ、なるほど」
「そうなると、案外ありえない話でもないってことですね」
俺の言い分に二人が一定の理解を示してくれた。俺が元の世界でSOLをやり込んでいたことも、この世界がSOLの舞台によく似ていることも、俺がSOLで得た知識がおよそ半分くらいは当たっていることもミミとエルマの二人はよく知っているのだ。
「とりあえず船を飛ばして警戒するのは構わないけど、そんな数千数万の宇宙怪獣なんてクリシュナ一隻だけじゃどうしようもないでしょ」
「それがな、殆どの宇宙マグロは銀色なんだが、その中に金色のリーダー格がいて、そいつを撃破すれば配下の銀色宇宙マグロは無力化できるんだ。無力化した宇宙マグロは戦利品として回収可能で、かなりの稼ぎになる。あと、美味いらしい」
「よし、狩りましょう」
「私もサポートしますね!」
君達切り替え早くない?
「さぁ漕ぎ出しましょう! 星の海に!」
「目指せ、大漁ですね!」
俄然やる気を出し始めた二人に着いていきながら首を傾げる。ミミはともかく、エルマがこんなに『乗る』のはなんかおかしくないか? と。
しかし二人がやる気になっている以上は仕方あるまい。焚き付けたのは俺なのだし、ここは責任を取ってクリシュナを出すべきだろう。そう考えながら俺は張り切る二人を追ってハンガーへと急ぐのであった。
☆★☆
「という夢を見たんだ」
「アホくさいわね」
「ユニークな夢ですね。食べてみたいです、宇宙マグロ」
「それうちらただの解説役やん。配役の変更を求めるで」
「私、そんなに足遅くないですよ……たぶん」
朝食の席で俺が見た夢の内容を発表すると、ミミ以外の評価はネガティブなものであった。初夢の内容を皆で語り合おうとか言うから語っただけなのに、酷い。
「というかなんでマグロ?」
「それは俺にもわからん」
実際にSOLで宇宙マグロ襲来イベントはあったのだが、流石にあんなぶっ飛んだイベントはこの世界では起こらないだろう。そうそうそんな未知の宇宙怪獣なんて現れるわけもないし。
「あと三十分ほどでハイパーレーンを抜けますが、コロニーに立ち寄られますか?」
皆に食後のコーヒーやお茶を配り終えたメイがそう聞いてきたので、俺はその言葉に頷いた。
「そうだな、特に目的があるわけじゃないけど特産品とか交易品があるかもしれないし、寄ってみるか。ところで、なんて名前の星系だっけ?」
「――です」
「えっ?」
「――です」
メイが口にした星系の名は、俺が夢で見た星系の名前と全く同じものであった。




