#233 行動方針会議
朝から頭痛がペインでした……寒くなってきたから体調管理に気をつけようね!_(:3」∠)_
結局、グラード氏族のティニアさんは俺が外出しているのと、宜しければ今夜気楽な食事会でもどうだろうという提案がこちらから為されたということで、それに乗る形で一度引き下がってくれたらしい。食事会を行う場所の手配などはメイに任せたのだが、どうやらリーフィルⅣ――地元の人はシータと呼ぶ――の郷土料理を味わうことのできる高級郷土料理店のような場所であるようだ。
「リーフィルⅣの郷土料理ですかー……楽しみですね!」
「そうね。私の記憶では芋虫の丸焼きみたいな奇抜な料理は少なかったはずだから、安心して食べられると思うわよ」
「それは安心だな」
コーマットⅢの特産品だった一抱えほどの大きさの芋虫を丸焼きにした料理はインパクトが凄かったからな……あれはあれで美味しかったんだけどさ。見た目はともかく。
と、そんな呑気な会話をしている俺達は既にブラックロータスへと戻ってきていた。そこでメイからグラード氏族のティニアさんに関する報告を受け、今夜の食事会の会場となる高級郷土料理店の情報を調べていたというわけである。
「メイには苦労をかけたな」
「いいえ、何の苦労もありませんでした。ティニア様はすぐに引き下がってくださいましたので」
「どんな方だったんですか?」
「理知的で、心の強い方なのだろうと思いました」
そう言いながらメイはティニアさんのものと思しきエルフ女性の姿をホロディスプレイに映し出した。濃い茶色の髪の毛を腰くらいまで伸ばしている美人さんである。この意志の強そうな目には覚えがあるな。あの船の中で俺と言葉を交わした美人さんだ。
「やっぱこの人か」
「覚えがあるの?」
「捕らえられてたエルフ達をまとめていた人だな。あの場で唯一言葉を交わした相手だ。名も名乗ったな」
「なるほど。美人さんですね」
「せやね、美人さんやね」
「綺麗な方ですね。さすがはお兄さんですね」
ウィスカの発言に微妙に棘を感じる。一応俺としては狙って美人さんと縁を紡いだわけではないと言いたいのだが、言っても仕方がないことなので黙っておく。
「うちとしては新しい美人さんに目を向けるよりもそろそろうちらに目を向けて欲しいなぁって」
「……」
整備士姉妹がジーッと俺を見つめてくる。俺はそんな二人から目を逸らしてスルーし、小型情報端末を取り出した。
「傭兵ギルドからもらってきた今回の事件のあらましというやつを予習しておきたいと思います」
「おい、兄さん。こっち見ぃや」
「お兄さん……」
「覚悟を決めるまでもう少し待ってくれ」
俺だって二人のことは憎からず思っているし、二人のことを可愛いとも思っている。それに、二人とも優しい良い子だしな。いや、子だなんて言うのは失礼か。彼女達は年齢的に俺とほぼ同じ成熟した女性なのだから。
しかしどうにも手を出す気にならないんだよな! 見た目があまりにその……アレでさぁ! これ手を出したら犯罪じゃない? という気持ちが先に立つんだ。あと俺は割とおっぱい星人なんだ。
「まぁええわ。そのうち兄さんをめろめろにしたるからな」
「めろめろ(笑)」
「なに笑っとんねんはっ倒すぞ」
「ゆるして」
その拳を下ろし給え。ティーナに本気で殴られると、何の強化もされていない俺の骨など簡単にへし折れてしまう。俺としてはこんな感じで気楽に付き合える状態を壊したくないという気持ちも結構強いんだよなぁ。でも据え膳食わぬは男の恥とも言うし。ううむ。
「はいはい、今日のところはそれくらいにしときなさい」
「むぅ……エルマ姐さんが言うならしゃあない。姐さんに免じて今日のところは見逃したるわ」
「申し訳ねぇ」
正直に言うとミミとエルマ、それにメイで俺のキャパシティはいっぱいだと思うんだよなぁ。彼女達を受け入れるために俺はもっと大きな男にならないといかんね。色んな意味で。
「おほん。では気を取り直して事件の概要を見てみるとしよう」
小型情報端末を操作し、あの大型宙賊艦に関する事件の概要をホロディスプレイに表示する。
「んー……特に何か面白みのある事件ではないわね」
「まぁ、よくある降下襲撃からの拉致だよな」
起こった事件そのものは、まぁエルマと俺の感想通りであろう。複数の宙賊艦がリーフィルⅣに降下襲撃をかけ、航宙艦の火力と機動性を利用してリーフィルⅣを蹂躙。襲撃があった丁度その時にとある式典を開いていた場所が襲撃され、まんまと若いエルフの女性達を中心に数十人が拉致されたと。
そしてあの大型宙賊艦に収容されていたのはその中でも特に身分の高かった人達で、あの十人以外の捕虜はその前に起こっていた星系軍や帝国航宙軍の追撃によって宙賊艦ごと攻撃され、殆ど死亡した。これは降下襲撃を防ぐことができなかった軍にかなり批判が集まりそうな内容だなぁ。
降下襲撃を許してしまったのも不味いし、大型宙賊艦を逃してしまった上に通りすがりの俺達に大型宙賊艦を横取りされたのも、横取りした俺達が大型宙賊艦を安易に撃破せず、白兵戦で艦を鹵獲して無事に捕虜を助け出したのも不味い。相当苦しい立場だろうな。
とはいえあの将軍の様子からすると、俺達に筋違いの怨みを抱いているような感じじゃなかったから、さほど心配はいらないと思うけど。
「で、その式典ってのがグラード氏族長の次女とミンファ氏族長の第二子との婚約式典だった、ねぇ……つまり例のティニアさんと、他所の氏族長の息子ってことか」
「氏族間の交流を図るためのお見合い会みたいなものだったのかもね」
「痛ましい事件ですけど……これ、政治が絡んできませんか?」
「そうね。襲撃そのものに面白みはないけど、そういう話が大いに絡んできそうな内容ね」
「グラード氏族とミンファ氏族が強く結びつくことを快く思わない別の氏族が宙賊に情報を流して式典をぶち壊しにした、なんて構図が簡単に浮かび上がってくるよな」
無論、外野の俺達がすぐに思いつくような話は襲撃された当人達だってすぐに思いついているだろう。両氏族は他の氏族に対して敵意に近い警戒心を抱いているに違いないし、他の氏族は他の氏族でトラブルに巻き込まれないように気を張っているところであるに違いない。
「なんというか、物凄いタイミングで来ちゃったな。リーフィル星系での行動を一旦キャンセルして、他の場所に行ったほうが良いんじゃないだろうか」
「それも視野に入れたほうがええやろなぁ。ドワーフの母星系に行くのもええんちゃう?」
「マクシル星系ですね。ここからだとハイパーレーンで七つ先ですよ」
「そうね。そういうのはコーマット星系の件でお腹いっぱいだし」
「う、うーん……いいのかなぁ」
ミミ以外は早々にこのリーフィル星系を後にするという選択肢を支持するようだ。ミミは恐らく少しでも関わった案件を放り投げて立ち去る事に若干の忌避感を覚えているんだろう。
メイ? メイはよほどの事がなければ基本的に俺が採る方針を支持するから。あまりこういう意思決定に意見を出さないんだよね、メイは。
「とにかく様子を見つつ、場合よっては即離脱する方向で。もう降下申請は出してるし、ちょろっと覗いていくくらいの気持ちで事に当たろう」
俺の提案にこの場に居るクルー全員が頷いた。
これで今後の方針に関する意思統一はできたな。後はこの後の会食でどんな話が飛び出してくるか、といったところか。リーフィルⅣの権力闘争になし崩し的に巻き込まれないよう、せいぜい気をつけることにしよう。




