#231 二日目の朝
筆が乗ってキリの良いところまで書いたらこんな時間に……いつもより少しボリュームあるからゆるして!_(:3」∠)_
昨日はリーフィル星系に着くなり大変な目に遭った俺達であったが、滞在二日目の朝――リーフィルプライムコロニー基準時間で――は実に平穏な滑り出しであった。
「おふぁようございまふ……」
「うん、おはよう」
ミミと一緒に寝床を出て、一緒に顔を洗って軽く身支度を整えて、一緒にブラックロータスの食堂へと向かう。そこで食堂に居合わせたエルマと整備士姉妹、それにメイと朝の挨拶を交わし、食事を終えたらメイ以外の全員でブラックロータスのトレーニングルームに言って軽く身体を動かし、それが終わったら軽く汗を流して解散だ。
「で、今日は俺とミミとエルマがフリーと」
「はい。昨日のうちに積荷の売却処理は済ませておいたので」
「私も惑星降下申請は昨日出したからね。あとはお役所の処理待ちよ」
「ウチらは今日からが本番やから」
「今回は作業が楽ですけどね」
ティーナとウィスカは昨日のうちに発注しておいた部材や、レプリケーターで出力しておいた部材を使って鹵獲した大型宙賊艦の改修作業を行うようだ。メンテナンスボットだけでなく、武装を排除して汎用作業用途に換装した戦闘ボットまで投入して突貫で作業を行う予定らしい。
なんでも戦闘ボットの製造元であるイーグルダイナミクスで作られているメンテナンスボット用のソフトウェアを入手して、それに手を加えたものを戦闘ボットのサブルーチンとして組み込み、戦闘ボットにメンテナンスボットモードを追加したとかなんとか。
「いざという時に戦闘ボットに不具合が出たら命取りになるから、マジでその辺は頼むぞ」
「大丈夫大丈夫。同じメーカー製のボット同士やから互換性の範囲内や」
「完全に独立したサブルーチンとして走らせてるから大丈夫ですよ」
二人がそう言うならそうなんだろうと納得する他無い。まぁ、戦闘ボットの管理に関してはメイも一枚噛んでいるので、もし問題があるならメイがダメ出しをしているだろう。二人だけでなくメイも大丈夫と判断しているならそれで良いか。
「兄さん達は今日はどないするん?」
「そうだな……まずは傭兵ギルドに顔を出して、それから星系軍の詰め所に顔を出して昨日の件の報酬金を貰うか、そうでなければ街をぶらぶらしてくるかな。他所であんまり見ない酒とか見かけたらお土産に買ってきてやろう」
「わぁ、良いんですか? エルフの母星系だから、きっと美味しいお酒がいっぱいあるんだろうなと思っていたんですよ」
「うちらと方向性はちょっと違うけど、エルフも酒飲みやからなー」
「確かに」
「何よ?」
整備士姉妹の言葉に頷いてエルマに視線を向けると、至近距離から見上げるように睨めつけられた。ちょっと怒ったような声音だが、耳の角度が怒っていない角度だ。これはフリだな。
「メイはどうする?」
「私は船に残って雑務を片付けます」
「オーケー、じゃあブラックロータスは任せるぞ」
「はい、お任せ下さい」
そういうわけで、俺とミミ、それにエルマの三人で街に繰り出すことになるのだった。
☆★☆
各自用意をしたら集合して出発ということになっていたが、俺自身の用意などすぐに終わるものだ。部屋に戻ってレーザーガンと二本一対の剣を腰に差したらそれで終わりだからな。休憩室で少し待ち、一緒に現れたミミとエルマの二人と合流したら早速出発だ。
「エルフの母星系というだけあって、他のコロニーに比べるとやっぱりエルフが目立つな」
「そうですね。他の星系のコロニーに比べるとやっぱり多いみたいですね」
他の星系のコロニーだと、雑然とした人並みの中に一人か二人いるかいないかという感じなんだが、このコロニーだと明らかにエルフが多い。正確な比率はわからないが、恐らく道をゆく人々のうち一割以上はエルフであるように思える。
「しかしなんだ、妙に視線を感じるな」
「そりゃ目立つしね」
「ですよね」
そう言ってエルマとミミは俺に視線を向けてくる。
ふむ? まぁミミもエルマも美人だし、そんな二人を引き連れて歩いている俺は相当に目立つということだろうか。
「なにか見当違いのことを考えてそうな顔ね。目立ってるのはあんた自身よ。腰に剣を差した傭兵なんて目立つに決まってるでしょ?」
「あと、ヒロ様の顔は御前試合の件で売れに売れてますから。あの御前試合は帝国全土に配信されていたんですよ?」
「ああ、なるほど……じゃあ、俺はいつの間にか有名人になってるのか」
「有名人、ねぇ……そんな生易しい表現じゃ足りないと思うけどね」
「傭兵としては今一番ホットな存在ですよ、ヒロ様は」
「えぇ……?」
そう言われても全くピンと来ないんだが。俺はちょっとリッチでバイオレンスなだけの小市民……リッチでバイオレンスな小市民って意味わかんねぇな。
「いつの間にか俺がレジェンドめいた存在になっているということはわかったよ」
「そうでもなければいきなり星系軍の将軍に下にも置かない扱いをされたりしないわよ……本当にあんたは変なところで抜けてるわね」
「ヒロ様らしいです」
「それは褒められてるのかなぁ?」
などと話をしつつ、注目を浴びながら移動すること十数分。俺達は特にトラブルもなく傭兵ギルドに辿り着いた。リーフィル星系の傭兵ギルドは特に何か特徴があるわけでもなく、代わり映えのしない感じだ。若干観葉植物の数が多く感じるくらいだろうか? 雰囲気そのものは他星系のコロニーで訪れた傭兵ギルドと大差ない。
「変わったところは特に無いな」
「そうね」
「カウンターに行きましょう」
ミミに促されてカウンターに向かう。俺達が向かうカウンターに控えていたのは若い女性で、俺達が向かうにつれて気の毒になるほど表情を引き攣らせていた。
「あー……やぁ、そんなに怯えられると申し訳ない気持ちでいっぱいになるんだが」
「あ、う、え……ご、ごめんなさ――ひぅっ!?」
彼女の背後からにゅっと伸びてきた手が彼女の肩を掴み、その感触に驚いたのか彼女は身体を硬直させる。目の端に涙を浮かべていてもう見ているだけで気の毒だ。
「ちょっと休憩してきて良いよ。ここは僕が受け持つから」
「は、はひ……」
カクカクと壊れかけのロボットみたいに頷いた若い受付嬢がカウンターから去ってゆき、彼女と入れ替わりで肩に置かれていた手の主――エルフの男性が俺達の前に立つ。
「ようこそ、リーフィルプライムへ。歓迎しますよ、キャプテン・ヒロ」
「そりゃどうも。なんか怖がらせちゃったみたいで申し訳ないな」
「いやいや、お気になさらず。彼女はまだ務め始めて日が浅い新人でして、まだちょっと肝が据わりきっていないんですよ。むしろ謝罪するのはこちらです。申し訳ない」
そう言ってエルフの男性は苦笑いを浮かべながら首を横に振り、それから軽く頭を下げた。
「それで、本日は? 何か依頼でも受けてくださるので?」
「いや、暫くリーフィルプライムに滞在するから、その挨拶だな。予め面通ししておいたほうがお互いに面倒が少なく済むだろ?」
「それはそうですね。こちらとしても貴方の人となりを多少なりとも知ることができるのは非常に助かります」
「へぇ? どんな評価を頂いたのかね?」
「いま一番ホットなプラチナランカーは評判通り『善玉』っぽいなぁという感じですかね?」
「なるほどねぇ」
善玉、善玉ね。そんな評判を頂いているとはね。まぁ、俺の今までの実績を見るとそういう評価になるのかね? あまりリスキーな仕事には手を出してこなかったからな。
「善玉、ねぇ……?」
エルマがそう言いながらジト目を向けてくる。ははは、やだなぁそんな目で見られると照れるじゃないか。ほら、ミミも微妙な顔をするんじゃない。俺は清廉潔白な良い傭兵だよ?
「仕事は完璧、戦闘艦乗りとして卓越した力を持ち、本人の腕っ節も最高クラス。宙賊をバンバン狩りまくっている上に帝国航宙軍との関係も良好。後ろ暗い仕事には興味を示さず、宙賊連中とつるんでいる痕跡も皆無とくれば私達傭兵ギルドにとってはこれ以上無い善玉ですよ。カタギに絡んで問題行動を起こしたりもしていないですしね」
「まぁ……そうね。そういう意味ではヒロは本当に傭兵らしくないから。アウトロー感が無いのよね、ヒロは」
「俺は品行方正を信条としてるんだ」
良く言えば品行方正、悪く言えば長いものには巻かれろという方針である。
俺だってこの世界でそれなりに時を過ごしてきたのだから、一般的な傭兵というものがどういうもので、どのような考えで行動することが多いのかということは知っている。ただ、俺には他の傭兵がメインとしているスタイルが合わないのだ。
酒! 暴力! セッ○ス! ヒャッハー! みたいなのはちょっとなぁ。いや、三つ目は俺も嫌いじゃないけど幸いなことに間に合ってるしね? それに、ロックでアナーキーな生き方を目指しているわけでもなし。上昇志向ってものが全く無いわけでもないけど、色々と巻き込まれているうちに昇りつめてしまったからなぁ。
「俺のことは別に良いだろ。それよりリーフィル星系での活動方針だ」
「はい」
「リーフィル星系には物見遊山で来たんだ。クルーから興味深い話を聞いてな、降下申請を出してリーフィルⅣに降りる予定だ。リーフィルⅣで旅行とバカンスを楽しむってわけだな」
「なるほど、リーフィルⅣは自然が豊かですからね。骨休めというわけですか」
「そんな感じだ」
実際には観光がてらコーラに相当する飲料が無いか探したいだけなんだけどな。
「そうなると、あまり傭兵としては活動しないということになりますか」
「降下申請が通るまでこのコロニーを見て回って、それでも時間が余るようなら小遣い稼ぎ程度に宙賊を狙いはするかもしれない。後はこの星系を離れる時にタイミングがあれば輸送や護衛の依頼を受けるかもってくらいだ」
「そうですか、それは残念。まぁ、既に大きいヤマを一つ片付けてもらっているので十分なんですけどね」
「大きいヤマ……? ああ、あの船か。偶然だけどやんごとなきお方が乗ってたんだってな」
俺の言葉に彼は深く頷き、口を開く。
「はい。奴らはエルフを狙った奴隷売買を専門とした連中でしてね。前々から居場所を探ってて、ついにアジトを突き止めて襲撃をかけたんですが、戦闘のどさくさであの船には逃げられまして。それを上手くキャッチしてもらったわけです。貴方に助けられたやんごとなきお方が拐われた時の襲撃の被害も酷いものだったんですよ。族長達は血管が切れて死ぬんじゃないかってくらい激怒してましてね」
「なるほど……あー、生きたまま捕らえたやつが何人かいたっけなぁ」
「随分と大それたことをしたみたいね。今頃ガタガタ震えてるんじゃない?」
「因果応報ですね」
彼の話を聞いて珍しくミミもドライな反応をしている。ミミは捕虜が捕らえられていた部屋の画像も見てるしな。流石に同情する気も起きないんだろう。
「気になるようでしたらこちらのファイルをどうぞ。今回の事件のあらましが書かれている報告書の最新版です」
「良いのか? 内部情報の流出にあたるんじゃ?」
「メディアに流すのと殆ど同じ内容ですから問題ありませんよ。より詳細なだけでね」
「なるほど、後で目を通させてもらうよ。ところで、報酬とか褒賞金関係の連絡は来てるか?」
「調べてみます。うーん……まだですね。星系軍と帝国航宙軍、それに族長連合の擦り合せに時間がかかると思うから、恐らく早くても明日か……いや、明後日くらいになるかと」
エルフの男性職員がカウンターのホロディスプレイを操作して内容を確認し、首を横に振ってからそう言う。褒賞金を出すのにそんなに時間がかかるというのもなかなかにユニークな事態に思えるな。それに族長連合とかいう聞き慣れない言葉も気になる。
「どこの財布からどれだけ出すかって話し合いだから、多少時間がかかると思いますよ。星系軍の財布は薄いし、帝国航宙軍の財布の紐は堅い。おまけに族長連中はがめつい上に互いに仲が良いわけでもないですから」
「へぇ? なんだか面倒くさそうな話だな」
「他の星系に比べると母星の統治機構の力が強いですからね、リーフィル星系は。どうか気長に待ってくださると。族長達はがめついですが、狭量ではありません。あの船を取り逃した星系軍と帝国航宙軍から可能な限り搾り取って褒賞金を上乗せしようとして時間がかかるんだと思いますよ。実際、族長達はキャプテン・ヒロに感謝してるようですから。宙賊艦に乗せられて連れ去られた時点で生存は絶望的です。わざわざ危険を冒して船を制圧なんて普通はしないですしね」
「気まぐれだったんだけどなぁ」
「気まぐれで最適解を掴み取るのも一種の才能でしょう。やっぱりプラチナランカーってのは何か『持ってる』んでしょうね」
「その話題はやめてくれ、俺達に効く」
そう言いながらエルマとミミの顔色を窺うと、予想通り二人とも苦笑いを浮かべていた。当然俺も同じような表情を浮かべていたに違いない。俺達が『何か持ってる』ことを一番よく理解しているのは、他ならぬ俺達自身なのだから。
サイバーパンク2077ノーマッドでクリア。
次はコーポ女でいくぜぇ_(:3」∠)_




