#223 今後の活動方針
くっそ寒いです。
こたつって良いですよね_(:3」∠)_(うたたねした
「今まで気づいてなかったの?」
「敢えてスルーしているんだと思っていました」
「やめてくれ、俺の心にグサグサ刺さる」
言い訳をさせてくれ。確かに御前試合の一件で上級市民権を付与された覚えはあったんだが、それよりもゲートの自由通行権の方に意識が行って殆ど頭からすっぽ抜けていたんだ。というか、メイによる地獄の特訓とかミミの衝撃的な出自の方に意識が行って最近全然最終目標である惑星上に庭付き一戸建てを建てるということに関して思いを馳せる暇もなかった。その後もすぐに今回の仕事に取り掛かることになったし。
「じゃあゴールドスターの英雄様はもう隠居するのか? 早くねぇか?」
「いや、それはどうだろう……」
ズィーアの言うことも尤もである。確かに今回の仕事を終わらせれば惑星上の居住地に土地を買って庭付きの一戸建てを建てる事もできるのだろう。その後、普通に暮らしていくのに十分なだけの資金も多分ある。後はミミとエルマとメイと一緒に悠々自適な隠居生活……というのも悪くない。確かに悪くないんだが。
「それはなんだかつまらないよな」
「つまらないと来たぞ」
「落ち着くにはちょっと早いんじゃないかと思うんだよ。もっと色々なところを見て回りたいし、のんびりゆっくり過ごすって言っても絶対に身体を持て余す気がする」
これは俺の偽らざる本心である。ずっとイチャイチャして過ごすのも悪くないし、その結果ミミとエルマとの間に子供ができたりするのも幸せなことなんだろうと思う。でも、この仕事が終わり次第そういう生活を始めるというのは時期尚早な気がしてならない。
「まぁ、その辺りはミミとエルマとメイと、あと一応ティーナとウィスカとも話し合いながらだな。仮に今すぐそういう生活を始めないとしても、どこに家を建てるかというのは考えておいても悪いことじゃないし」
場合によっては土地だけ先に確保しておく、というのもアリだろう。土地だけ確保しておけば、後は好きなように家を建てるだけなのだし。金はあるんだから、買うなら広く買っておけばいい。ああ、でも広い土地を持っていたら税金がかかりそうだな? その辺も要相談か。
「そして何より、だ」
「何より?」
「俺はコーラを見つけていない……今の状態で惑星上で悠々自適に暮らすと言っても、それじゃあ片手落ちというものだ」
「あぁ……」
「そう言えば、アンタはその『こーら』とかいうものに目がなかったわね……」
ミミとエルマが納得したような表情で頷く。納得したようなと言うか、半分以上呆れが混じってますね? 君達は俺がどれだけコーラを追い求めているかわからないからそんな反応をするんだ……! あれは俺にとって命の水に等しいものなのに。
「その『こーら』ってのはなんだ?」
「コーラのことに興味がある? それは――おふっ」
操縦席を回転させてズィーアに説明をしようとしたら隣に座っているエルマの蹴りで操縦席の向きを元に戻された。なんて酷いことを。
「延々と『こーら』に関して語り始めるからその話題はNGよ。簡単に言うと爽やかなフレーバーがつけられた甘い『炭酸飲料』らしいわ」
「炭酸飲料……?」
「飲むとシュワッとする不思議な飲み物です。ただ、その性質上宇宙船やコロニー内でボトルを開封すると爆発的に吹き出すという特性がありまして……」
「なんだそれ怖いな」
「怖くないから。全然怖くないから。危険物の類じゃないから」
くっ、やはりこの世界では基本的にマイナー飲料なんだよな、コーラというか炭酸飲料全般が。
それに肉とか野菜、魚介類みたいな普通の食材を調理する技能も専門的かつ特殊な技術って認識が強い。どうにもこの世界の食事に関する事情は複雑怪奇だ。恐らくは宇宙進出する過程で極端な効率化とかが図られてフードカートリッジを使わない普通の調理とか、炭酸飲料の存在とかが忘れられた結果なんじゃないかと思うんだけど。
と、そういうことを語って聞かせるとズィーアは「ふむ」と言って暫し黙考してから口を開いた。
「それなら、昔からの文化を保っている種族の母星系とか、最近帝国に組み込まれたばかりの辺境惑星に行けばキャプテンの求めるようなものが見つかるかもしれないな」
「その話、もっと詳しく」
再び座席を回転させ、ズィーアに向き直る。今度は俺の反応を予想していたのか、ズィーアは特に驚くこともなく鋭い牙を見せるように笑みを浮かべて見せた。
「話すのは構わないが、それには見返りが欲しいところだ」
「見返り」
「そうだな……帝国航宙軍の中佐殿とは随分親しそうだったじゃないか。彼女との因縁を教えてくれるなら俺も情報を話そう」
「OK」
セレナ中佐の情報でコーラ発見の端緒を掴めるのであれば安い買い物だ。俺としては全く心も傷まないし、何でもゲロってやるとしよう。
え? セレナ中佐との約束? そんなものよりコーラだ! まぁへべれけ状態のポンコツ姿を横流しとかしなければ大丈夫だろう。どうやって出会って、今までどんなことをしてきたかを詳細を暈して伝える分には機密漏洩にもなるまいて。
「まずはそっちから教えてもらおうか」
「OK、つまりだな、種族や民族の母星系では古い伝統の料理だとか、特産品なんかが結構残ってるんだよ。貴族様や上流階級の富豪達が召し抱える料理人ってのは、基本的にそういった惑星で料理の修練を積んだ人達なわけだ」
「なるほど。そういった珍しい料理や特産品の中に俺が求めるものがあるかもしれないと」
「そういうことだな。グラッカン帝国領にもそういった母星系はいくつかあるし、比較的最近帝国領に組み込まれた最辺境宙域――所謂エッジワールドにはまだ広く知られていない産品も多いはずだ」
「エッジワールドかー……」
最辺境宙域というのはターメーン星系のようなただの辺境宙域――言い換えればただの田舎、或いは他の宇宙帝国との国境宙域とは意味合いの違う宙域である。先に何が居るか、何があるかわからない。未探索宙域との境、拡大し続ける帝国領の最前線とでも言うべき場所だ。
「エッジワールドなら働き口にも困らないとは思うけどなぁ」
「エッジワールドは帝国航宙軍の力があまり強くないから、宙賊が多すぎるのがねぇ……」
「それって何がまずいんです?」
俺とエルマの反応にミミが首を傾げる。
「エッジワールドでは帝国航宙軍の数が少ない。だから、宙賊は手強い相手を見つけたら増援を呼ぶんだ」
「えっ、それって……ああ、なるほど。帝国航宙軍が来ないからですか」
「そういうこと」
帝国航宙軍や星系軍がちゃんとパトロールをしている星系で宙賊が増援要請なんてしようものなら軍がすっ飛んでくるわけだが、エッジワールドではコロニーやステーションの防衛に手一杯でそのような余裕がない。なので宙賊共は獲物を見つけたら仲間を呼んで数に任せて制圧にかかってくるのだ。
「選り取り見取りって言えば確かにそうなんだが、リスキーなんだよなぁ」
「いくらクリシュナとヒロが強いって言っても限界ってものがあるからね」
危険なだけに儲けも大きいから、商人達もそれなりに活動してるんだけどな。
基本的にそういった場所で活動している商人ってのは多数で大船団を組んで活動している。しかもエッジワールドで活動するような連中は普通の商船団ではなく、所謂武装商船団みたいな連中だ。宙賊の大規模襲撃に対抗するため、重武装を施した商船にたっぷりの護衛をつけて活動している。
「俺達だけで動き回るのはリスキーだけど、護衛の仕事は常にあるって話だから、武装商船団の護衛としてエッジワールドを回るってのはアリかもしれないな。ブラックロータスの武装と積載量も一緒に売り込めば補給艦として受け入れられるかもしれん」
「そうね……エッジワールドに近い星系で武装商船団を探して売り込むのもアリかもしれないわね」
「それも良さそうですけど、まずは安全な帝国領内にある種族の母星系を巡るのが良いんじゃないですか?」
「確かに」
武装商船団の一員としてエッジワールドを探索するのも面白そうだけど、まずは俺達だけで帝国領内を漫遊して回るのも良いだろう。家を建てる星を選定する必要もあるだろうし。
「まだまだキャプテン・ヒロの活躍は続きそうだな?」
「そういうことになるだろうな。まぁ、楽隠居するには流石に若すぎるだろ」
そう言って俺は肩を竦めてみせる。
まずはあと十日、コーマット星系での仕事を終えてからの話だな。情勢を考えるに契約の延長は恐らく無いだろうし、次の行動目標が定まったのは良いことだろう。
家を建てる惑星を探す、俺の命の水とも言えるコーラを探す、そしてついでにあちこち見て回る。今後の活動方針はそんな感じで良いだろう。
もう終わると思った? まだまだつづくよ!_(:3」∠)_




