#221 モンスターハンティング
遅れました( ‘ᾥ’ )(半ば開き直り
みんなも体調には気をつけてね!_(:3」∠)_
「中佐殿ぉっ!」
颶風を伴って振るわれる剣を左手の小剣で受け流し、右手の長剣で岩石質の腕を斬りつける――が、浅い。深追いすると岩石質の鎧のような表皮に食い込んだ剣をへし折られそうだったので、すぐに長剣を手元に引き戻す。
「なんっ! ですかっ!?」
セレナ中佐は敵の四本腕が放った後ろ回し蹴りを地面に伏せるように体勢を低くして避けたところであった。そこに振り返りざまの剣の一撃――いや、片側の二本腕から繰り出される二撃がセレナ中佐に襲いかかる。しかしセレナ中佐は横に転がりながら剣を振るい、一本を避け、一本を弾いた。あまり余裕は無さそうだ。
「この期に及んでっ! 五体満足で生け捕りにするとはっ! 言いますまいなっ!?」
セレナ中佐を攻撃していた左側の二本とは逆側の右側の二本腕が繰り出してくる怒涛の連続突きをいなしながら戦闘方針の再考を促す。
殆ど人間の面影が無いが、ゲリッツであると思われるこの四本腕のクリーチャーを傷つけずに捕縛するのは実質的に不可能であろう。四本腕の先にある剣は握っているのではなく腕先と同化しているようだし、そもそも奴に負けを認める理性が残っているようにも思えない。
『SHINEEEEEEEE!』
「――ッ!」
セレナ中佐を無視して先に俺を片付けることに決めたのか、四本腕が全ての腕を使った縦横無尽の斬撃を俺に向けてきた。しかし、息を止めた瞬間にまたもや世界の動きが緩慢になる。
ゆっくりと、しかし確かな破壊力を持って迫ってくる一本目の斬撃を避けながら前に踏み込み、胴を薙ぎ払う軌道で迫ってきた二本目の剣を屈んで躱す。斜め上から突きこまれてきた剣を斜めに構えた左手の小剣で受け流し、四本目の剣は俺に届く前に軌道を変えて攻撃を中止した。ちっ、そのまま攻撃してくれれば手首ごと斬り落としてやったものを。しかし、これで今の俺は四本腕の攻撃を掻い潜り、懐に入り込んだ状態だ。
咄嗟の攻撃だったのだろう。破城槌もかくやという膝蹴りが俺に向かって迫ってくる。
『GYAAAAAAAAAAA!?』
が、それはあまりにも迂闊というものだ。カウンターで合わせた右手の長剣が膝蹴りを放ってきた四本腕の膝の上に深々と食い込み、奴の足からドス黒い血が溢れ出す。返り血を浴びないように横っ飛びで転がって距離を離すと同時に、後ろでどうと巨体が倒れる音がした。
どんなに常識外れの化け物であろうとも、それが人の形をしていて、筋肉によって身体を動かしているのならば膝の上――太腿をざっくりと骨まで断たれては立ち上がったままではいられない。少なくとも、二足歩行である限りは逃れられない定めだ。
そして、その大きな隙を逃す戦士はここにはいない。
「らあぁぁぁっ!」
セレナ中佐が連続で剣を振るい、倒れ込んだ四本腕の剣腕を断ち切って行く。当然、俺も剣を奔らせて四本腕の四肢を切り離していく。
「これで一丁上がり、と。どうするんです? このままだと流石に出血多量で死ぬと思いますけど」
「そうでもなさそうですよ」
剣を手に持ったまま足元に転がっている『元』四本腕に鋭い視線を向けたままのセレナ中佐の視線の先を追ってみると、みるみるうちに剣で切り離された切断面が塞がっていくのが見えた。えぇ……マジかよ。もう血が止まってるんだけど。
「……これ、生きたまま運ぶんで? なんか輸送中にパニックホラーが始まる未来しか見えないんですが」
「……任務なので」
フェイス部分が透明なヘルメットの向こうでセレナ中佐がげんなりとした顔をしているのが見える。まぁ、帝国航宙軍にもこういった謎生命体を安全に輸送するための装備の一つや二つくらいはあるだろう。俺は知らん。そんなモノの輸送は絶対にしないし、手伝わないぞ。断固たる意思でお断りします。
「今思ったんですが、この剣も証拠になるんじゃ?」
「そうですね。剣の銘や製造元、製造番号などを調べれば誰の剣なのかを追うことができるかもしれません」
頷いたセレナ中佐が航宙軍海兵に指示を出し、ゲリッツと思しき生物の搬出準備を進めていく。
しかし、剣が四本ね。ゲリッツが元々二刀流だったとしても、残り二本の剣はどこから出てきたのかね? というか、あのサプレッションシップには一体何人が乗っていたんですかねぇ?
「これ、本当にゲリッツだと思います?」
「さて、原型を留めていませんからなんとも。ただ、これを隠れ蓑にして本物が隠れている可能性はありますね」
セレナ中佐もこれが本当にゲリッツなのかどうかは疑っているらしい。少なくとも、剣の本数から考えてもこの四本腕が複数の剣を持った人物――恐らくは貴族を元にしたツイステッドとの合成生物のようなものであろうということはほぼ間違いあるまい。
「ただ、時間的にどうでしょうね。彼らに対してはツイステッドどもの攻撃が無かったと想定したとしても、サプレッションシップには移動用の車両などを積み込むスペースは無いですし、そもそも彼らがコーマットⅣで満足に活動できるだけの装備を有していたかも疑わしいです。恐らく徒歩ではこの構造体に辿り着き、最奥のこの施設に辿り着くまで相当な時間がかかったはずです。完璧にツイステッドどもを制御する方法があったということであれば、グラップラーやブルに搭乗して高速移動をした可能性も捨てきれませんが」
「物理的、時間的制約か……確かに、そう考えるとゲリッツが逃げ延びている可能性はそんなに高くはないか」
「恐らくは。無論、我々としても探索は続けますけどね」
まぁそうなるわな、と考えたところで嫌な予感が脳裏に過る。いやまさかそんな。でも一応、一応確認しないとな。
「……俺は元の任務に復帰して良いんですよね?」
「まだゲリッツが『いる』可能性がありますから」
そう言ってセレナ中佐はにっこりと満面の笑みを浮かべて見せる。それはつまり、俺はまだ解放されないってことですね? わかりたくありません。
☆★☆
その後、施設の徹底的な調査により施設内にゲリッツが隠れ潜んでいるという可能性は否定された。まぁ、俺達が四本腕と戦った更に奥の部屋でツイステッドの生産プラントが発見され、制御に関するデータなどが押収されたのがせめてもの救いか。データは解析中だが、上手く行けば惑星上に存在する全ツイステッドに強制停止――つまり自死命令なども出すことができるようになる、ということらしい。
あの四本腕がゲリッツでなかった場合、今度はあの構造体の外に逃れている可能性も考慮しなくてはならないのだが、そちらの探索は惑星上に大量に投入された戦闘ボットが行うとのことだ。場合によってはゲリッツ対策にまた呼び出すかもしれないとセレナ中佐には言われた。正直言ってもうテラフォーミング中の惑星に降下などしたくないので、勘弁して欲しい。
最終的に施設の調査が完了するまでの三日間もの時間をテラフォーミング中の惑星であるコーマットⅣで過ごし、俺はようやくセレナ中佐の指揮下を外れて原隊に復帰――クリシュナに戻ることができたのであった。
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