表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/568

#218 帝国の陸戦力事情

間に合ったぜ!_(:3」∠)_

 戦いは数だよ兄貴! って偉い人が言ってたよな。まさにその通りなのだろうと目の前の光景を見て思う。


「圧倒的じゃないか、我が軍は」

「貴方の軍ではありませんが」

「はい、存じております」


 人間大の戦闘ボットが二本の武器腕からレーザー(殺人光線)を乱射し、ツイステッドに取りつかれてもそれを上回る膂力で引き剥がし、或いは叩き潰す。体高2~3mの中型戦闘ボットの攻撃は更に熾烈だ。レーザーだけでなくプラズマランチャーを装備している中型戦闘ボットの火力は敵側の大型個体であるグラップラーや、強固な前面装甲を持つ突撃個体『ブル』を真正面から叩き潰す。そして極めつけは体高5mの大型戦闘ボットだ。


「あのデカいのは凄いな」


 デカいのに機敏だ。部隊の先頭に立って敵の大型個体を火砲と格闘攻撃で薙ぎ払い、敵の攻撃をシールドで防いでいるようだ。デカい分ジェネレーター出力にも余裕があるんだろうな。


「タイタン級の戦闘ボットは陸戦の要ですからね。実際のところ、帝国軍の地上戦力の大半は戦闘ボットです」

「文字通りいくらでも替えが利くし、コストが安いもんな」


 俺の言葉にセレナ少佐は何も言わずに肩を竦めてみせた。

 一人の人間を戦うことができる兵士にするのには『まともに』考えれば最低でも十五年から十八年かかる。十五年でも早すぎるくらいだと思うが、まぁ最低限身体を作るのならそれくらいは要るだろう。尤も『まともに』やらなければもっと短期間で兵士を作ることは可能だろうけど。

 それはつまり、所謂少年兵とかそういうものだけではなく、バイオテクノロジーを利用したクローン兵士なども含めての話だ。まぁ、今の所そういう存在の話は聞かないし、少なくとも目の前に展開されている戦闘ボット達を見る限りはグラッカン帝国はそっち方面には舵を切っていない……わけでもないのかね? 考えてみれば、ツイステッドどももそういうテクノロジーの産物だろうし。

 ここにツイステッドどもが存在するということは、少なくともバイオテクノロジーを軍事用途に利用する一派が帝国内か、或いは帝国の周辺に存在するということの証左なんだろうな。

 話がずれた。替えが利くとかコストの話だったな。まぁつまり、だ。兵士としてまともに人間を使うというのは非常にコストが高いって話だ。

 だが、戦闘ボットなら? 製造にコストは掛かるが、人間を十五年から十八年兵士にするために育て上げるよりも遥かに安い。それはかかる費用という意味だけでなく、育成時間もコストに含めての話だ。

 戦闘ボットなら一度生産ラインを構築してしまえば、資源の許す限り即戦力を量産し続けることができる。しかも戦闘スキルの養成に関しても同型の実戦データを統合してインストールすればそれで終わりだ。さらに言えば、人間の兵士と違って消耗したとしても遺族年金などもかからないし、飯も水も着るものも医薬品も必要としないし、給料も払わなくていいから兵站にかかる費用も非常に少なくて済む。こうして考えると良いとこだらけだな。


「コストが安いもんな」

「なぜ同じことを二回言うのですか」

「帝国航宙軍も色々大変なんだろうなと」

「余計なお世話ですよ」


 航宙艦も戦闘ボット化――つまり航宙戦闘ボットにしてしまえば更にコストが下げられると思うんだが、そうしないのは何故なんだろうな? グラッカン帝国は過去に機械知性とドンパチしたらしいし、もしかしたら戦力のボット化にアレルギーがあるのかね。それにしては陸戦の主力は戦闘ボットみたいだしな。陸戦力だけなら万が一があっても軌道爆撃で制圧できるからか? この辺の事情には少し興味が湧くな。


「しかし、これだけの戦力がなんで都合よく用意できたんだ?」

「元々はコーマットⅢの攻撃的原生生物を掃討するために派遣された戦力です。その戦力をそのままコーマットⅣに動かしたというわけで」

「ああ、なるほど」


 コーマットⅢに攻撃的原生生物――グラップラーどもが現れてからそれなりの日数が経っている。コーマット星系はゲートウェイからそんなに遠くないし、帝都に連絡をするのも、他の場所から戦力を移動させるのもゲートウェイ経由ならさほど時間もかからない。

 ゲートウェイから遠い、所謂辺境と呼ばれるイズルークス星系(結晶生命体と戦った星系)やターメーン星系(ミミやエルマと出会った星系)と比べると交通の便なんかがとても良いということだな。


「しかしこれは退屈だな」

「あの中に飛び込みたいのなら止めはしませんけれど?」

「それはやめておく」


 戦闘ボットと攻撃的原生生物どもが入り乱れて乱戦をしている中に突っ込んだりしたら命がいくつあっても足りない。この世界は俺から見ればSOLの中のようでまるでゲームのように感じられる時もあるが、紛れもない現実なのだ。ゲームと違って死んだらリスポーンとはいかない――いかないよな?――のだから、そんなことをする気はサラサラ無い。


「まぁ、あちらのリソースがどれだけのものなのかはわかりませんからね。少し時間はかかるでしょうから、楽にしていてくださって結構です」

「そいつはどうも」


 暫くはウォーゲーム観戦ということになりそうだ。新たに宇宙そらから降り注いでくる戦闘ボット満載のドロップポッドを見上げながら、俺は腰にぶら下げてあった水筒に手を伸ばすのであった。


 ☆★☆


『私達も見せてもらいましたけど、凄かったです! かっこよかったです!』

『ワムドが良い画が取れたって大喜びしてるわよ』

「そりゃどうも」


 ユニバーサルマスク越しにミミ達と話をする。目の前では未だに戦闘ボット達とツイステッドどもが激しい戦闘を繰り広げているが、戦闘ボット達の一糸乱れぬ連携と強烈な火力の前にツイステッドどもは終始押され気味だ。じわじわと戦闘ボット達が湧き出してくるツイステッドどもを圧迫しており、戦闘ボット達がツイステッドどもの湧き出してくる構造体へと侵入するのも時間の問題だろう。


『剣であのデカブツに向かっていった時の迫力は凄かったわね』

『かっこよかったです! ワムドさんからデータを貰ったので送信しますね!』


 ミミがそう言うと、ユニバーサルマスクのHUD上に小さなウィンドウが開き、剣を持った俺とセレナ中佐がグラップラーへと向かっていく姿を絶妙なカメラアングルで撮影した映像が再生される。


「カメラアングルが良いな」


 そう言いなら俺は肩の辺りに浮かんでいる球体に目を向ける。この球体は俺達がコックピットで飲み物を飲むのに使っているグラビティスフィアと同じ要領で俺に追随するようになっている自律式の撮影機材で、何かホログラム技術とかよくわからないテクノロジーを組み合わせて惑星上の俺の行動や周りの様子を撮影しているらしい。グラビティスフィアといいコイツといい、この世界の人間はテクノロジーを使う方向を間違ってやせんかね?


「それで、そっちはお役御免か?」

『帝国軍の強襲降下艇が到着したから。対地攻撃に特化した艦が来たわけだし、私達の出る幕はもう殆どないわね。一応、ヒロ達のいる陣地の護衛のために待機してるけど』

「ああ、そうか。降下攻撃用の艦艇なんだから、支援能力も高いはずだよな」


 頷きながら戦場に降り注ぐ緑色のプラズマ砲弾の雨に目を向ける。

 あのプラズマ砲弾はシールド技術の応用で、ごく弱いシールドの中に超高温のプラズマを閉じ込めて発射しているらしい。弾速が遅く射程も短いため、航宙戦をメインとする傭兵の船に装備されることは殆どない。更に発展させたプラズマアクセラレーターという砲もあるが、あれも弾速が遅くて扱いが難しいからなぁ……弾数制限があっても対艦魚雷の方が使いやすいんだよな。艦のスピードが乗るし。

 プラズマ兵器に関しては今目の前で戦っている帝国軍の戦闘ボット達も装備しているが、とても威力の高い武器だ。ああやってシールドで密封したプラズマ砲弾を撃ち出すのが第二世代の新型プラズマ兵器で、第一世代のプラズマ兵器は物理的な砲弾として発射して、標的に着弾した瞬間にプラズマ爆発を起こすというものだ。

 威力はどちらもそんなに変わらないが、シールド技術を応用した第二世代型は弾数制限が無いというのが特徴だな。シールドに封入しているお陰で砲身の消耗も非常に少なく、ブン回すジェネレーター出力さえ確保できればほぼ無制限に発射できるというのが強みだ。


『これも迫力ある映像よね』

『そうですね。帝国軍の戦闘ボットが凶悪な原生生物を倒していく姿は頼もしいですね』

「アクションもののホロ映画みたいだよな……こんなに戦闘ボットが活躍してるのは少ないけど」


 この世界にも娯楽用の映像作品は沢山ある。無論、その中には敵対的で対話も不可能なエイリアンと帝国軍が戦うといったようなものも存在するのだが、そういう映像作品にもこんなシーンがよくあるんだよな。そういう作品では戦闘ボットはちょい役で、帝国人――無論、人型でない種も含む――が戦うシーンがメインだったりする。現実はこのように戦闘ボット達が大活躍しているというわけだな。


「まぁ、帝国人……俺は帝国人じゃないけど、帝国人が戦ってる画もたくさん撮れてるだろうから、その辺はワムド達が上手くやるんだろうな」

『そうでしょうね』


 グラッカン帝国の貴族はどうも機械知性や重要な仕事を機械任せにするのを忌避する傾向にあるみたいだからな。まぁ、貴族達が機械知性とかに頼りすぎず、身を粉にして働いているということにしておきたいのかね? よくわからんが。


「戦闘ボット達が露払いを済ませたら、最後は俺とセレナ中佐が剣で敵の親玉と決着をつけるって展開になるのかね……いや、ほんとに戦争もののホロ映画みたいだな?」

『最後は炎の中でステゴロかナイフ格闘、あるいは剣で勝負っていうのは定番よね』

『あ、あはは……意外と現実に忠実なのかもしれませんね、アレって』


 やっぱりこの世界でも映画の定番なんだな。最後の戦いは肉弾戦ってアレ。現実はもう少しスマートにいきたいもんだけど、どうかね? 毒ガス攻めにするとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >撮影機材 ガンカメラみたいなものだと考えるなら、そうおかしなものでもないんじゃない? 特に、この世界は貴族がいて、白刃戦闘派の貴族は自分達が最前線に立つ訳だから、きちんと功績として自分の活…
[一言] 毒ガス=致死性のガスしか無いと思ってる人いるのね 催涙ガスだって毒ガスだよ・・・
[気になる点] おうちかえして←地球のヒロの部屋へ帰るフラグ? [一言] 何でテラフォーミング中の惑星にコレだけの戦力を敵は置いて有るのだろ?敵の真意が解らない。本命は別の場所?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ