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#214 ダメです。 

よぉし今日は久しぶりに間に合ったぞォ!_(:3」∠)_

「ま、まぁ別に降下してまで追いかける必要はないよな!」

「そうだと良いわね」

「あ、あはは……ちゃんと降下地点はマークしてますから」


 当然ながら、俺達の追撃は間に合わなかった。テラフォーミング中のコーマットⅣに辿り着いた時にはサプレッションシップは既に降下を開始しており、攻撃して推進機を破壊したところでコーマットⅣへの降下が墜落に変わるだけだったからだ。撃破するなと言われてしまっている以上、手出しはできなかった。

 しかし、クリシュナはこれでも単独で恒星間航行を行うことができる小型戦闘艦である。各種センサーの性能などもそれなり以上の性能を有しており、コーマットⅣの低軌道上からサプレッションシップの降下地点を正確に観測することなど容易い。

 なので、俺達はサプレッションシップの正確な降下地点をマークし、コーマットⅣの低軌道上に留まって降下したサプレッションシップの中の人の頭を押さえているわけである。


「テラフォーミング中の惑星の環境が大変に危険ということはわかりますが、何故ここに留まっているのですかな?」

「もし恒星間航行が可能な船をコーマットⅣに隠しているとしても、俺達がここを押さえていれば宇宙に上がってきた瞬間に叩けるからな」


 いかに航宙艦と言えども惑星の重力を振り切って大気圏を離脱するためには基本的にはほぼ真上に向かって真っ直ぐ飛ばなければならない。回避行動なども取れないので、攻撃に対して非常に無防備になるのだ。それこそ、相手が小型艦でも推進機だけ破壊するのも容易いレベルである。


「軌道を押さえられたら宇宙に上がってくるのは難しい。制宙権を制す者が戦いを制す。帝国に限らず、どの星間国家の軍隊も航宙軍の整備に力を入れている最大の理由だな」


 どんなに強固な要塞も、強力な兵隊も、戦車も、船も、航空兵器も、それが地上にある以上は宇宙からの軌道爆撃には無力だ。基本的に今のこの世界の戦闘というのは、航宙権を取った方が戦いを制するのである。


「ならば、何故あのサプレッションシップはコーマットⅣに逃げ込んだのでしょうな?」

「コーマットⅣに何か逆転の手――逃げるための手段があるか、或いは時間稼ぎだろうな」

「時間稼ぎですか?」

「なにか逆転の手があるってんじゃないなら、外部からの助けの見込みがあるか、或いは何らかの事情で相手――つまり俺達が撤退するのを祈って待つかの二択だろう。逃げ込む以上は何かしらの見込みがあってのことだと思うけど、それが何なのかは想像の域を出ないな」


 あと他にももう一つ可能性があるけど、流石にそれはないと思いたい。


「とりあえず、後続の軍の連中が来るまでは待機だな。引き継いだらとっととコロニーに帰って戦利品を捌きに行くとしよう」

「必死ね」

「あはは……ま、まぁクリシュナがわざわざ降下する理由もありませんし、大丈夫ですよ」


 やめなさい、君達。変なことを言ったら降下する羽目になるかもしれないだろ。俺は絶対に降りないぞ。降りないからな!


 ☆★☆


 およそ一時間後、俺は帝国航宙軍のドロップシップの中にいた。


「おうちにかえして」

「ダメです」


 俺の向かいにはいつのも小綺麗な軍服ではなく、軽量のコンバットアーマーに身を包んだセレナ少佐が座っている。周りにはより重装甲のコンバットアーマーを身に着けた帝国航宙軍の海兵や、パワーアーマーを装着するのに適した専用ジャンプスーツを装備した装甲海兵の人とかもいる。むくつけき男だけじゃなく、女性もそれなりにいるからむさ苦しい感じがかなり軽減されているのが救いといえば救いか。

 ちなみに、俺の格好もいつもの傭兵服ではなく白兵戦用の軽量コンバットアーマーと前にブラドプライムコロニーで購入したカメレオンサーマルマントという出で立ちだ。

 このマントはエネルギーパックを装着することによって摂氏マイナス50℃~プラス50℃までの過酷な気候でも快適ん見過ごせる上、フード付きで台風や砂嵐にも対応、カメレオン機能がついているので周りの環境に合わせて迷彩効果まで発揮するという優れものである。

 そして他には空気中の水分を収集して一日に最大2リットルまでの水を生成するハイテク水筒、有害なガスだけでなく未知の細菌やウィルス、生物兵器などにも対応している、と謳っている高機能ユニバーサルマスク、その他諸々のサバイバル装備に加えて大小二本一組の剣に、レーザーガン、レーザーライフルまで装備している。完全に戦闘装備である。


「逃走、潜伏しているゲリッツ=イクサーマルはサイバネティクスやバイオテクノロジーで身体能力を強化している上に、剣術の達人です。今、この星系には私か貴方くらいしか対抗できる人材が居ないのです」

「囲んでレーザーで丸焼きにすればいいだろ……」


 だからって剣で決着をつけようとか頭の中白刃主義者かよ。もっと文明の利器を使ってどうぞ。


「宙賊基地の制圧戦ではそうしようとして大きな被害を出したんです。そもそも、奴はなんとしても生きて捕獲しなければならないので」

「どうして」

「ゲリッツはイクサーマル伯爵の弟で、伯爵の右腕として後ろ暗いことを色々としている男、と言われています。今までは尻尾を見せなかったので捕縛や尋問ができなかったのですが、今回はもう言い逃れが出来ません。捕縛して奴から情報を引き出せばイクサーマル伯爵家を潰せます。絶対に奴を捕縛しなければならないのです」

「なんかよくわからんが、セレナ中佐がそのイクサーマル伯爵家ってのをぶっ潰したいというのだけはよくわかった」

「それだけ分かれば十分です。まぁ所謂悪徳貴族ってやつです、イクサーマル伯爵家というのは」


 悪徳貴族ねぇ? まぁ、その右腕とかいう男が宙賊とつるんでたってだけでまともなとこじゃないってのは察せられるけどさ。貴族の事情に首を突っ込むつもりはないから深くは聞くまい。

 しかし、貴族ってのは機械知性に監視されててあまりやんちゃ出来ないって話じゃなかったっけ? と、ここで公然とセレナ中佐に聞くのも良くは無さそうだな。なんかエルマにせよクリスにせよ貴族生まれの方々は機械知性関連にはいつも奥歯に物が挟まったような態度なんだよなぁ。暗黙の了解というか、公然の秘密というか、大っぴらには言えない何か特別な事情があるのかもしらん。


「というかだな、俺は船でのドンパチが専門で生身での切った張ったは専門外なんだが?」

「ははは、御前試合ではあれだけ大体的に素晴らしい剣の腕を見せてくれたではないですか。貴方なら大丈夫というか、私以外だと貴方しか対抗できる人が居ないので諦めてください。貴女の雇い主も許可を出しましたし。まぁ、帝国航宙軍からの正式な要請となると断ることなどできなかったと思いますが」

「汚い。さすが公権力汚い」

「汚いとは失礼な言い草ですね。手を尽くし、権利を正当に行使しただけですよ」


 セレナ中佐が肩を竦めて俺の細やかな罵倒を柳の如く受け流す。ぐぬぬ。


「降下開始まで三十秒!」

「総員、降下に備えろ! くっちゃべって舌を噛むなよ!」

「「「アイアイマム!」」」


 セレナ中佐が声を張り上げ、海兵達が大きな声で返事をする。いかにも軍隊って感じだが、なんで俺はこんなところに一人で放り込まれてるんだろう。


「さぁ、付き合ってもらいますよ。テラフォーミング中の惑星というこの世の地獄の底まで」


 セレナ中佐はニコリと微笑むと同時にドロップシップが大気圏への突入を開始したらしく、ドロップシップがガタガタと激しく揺れ始める。


「あぁぁぁぁぁいやだぁぁぁぁぁっ! おうちにかえしてぇぇぇぇぇぇっ!」


 俺の叫びも虚しく、帝国航宙軍のドロップシップはテラフォーミング中のコーマットⅣへと降下して行くのだった。


 ☆★☆


「着地地点確保! ゴーゴーゴー!」

「装甲海兵は装備の点検と装着を進めろ! 工兵はマテリアルプロジェクターの用意を急げ!」


 着陸と同時に帝国海兵達がドロップシップから飛び出して行き、セレナ少佐が大声で指揮を取り始める。海兵達はキビキビと動いて装備の点検や拠点の設営を始めているようだ。

 有り体に言って、着陸地点の環境は最悪である。気温は零下20℃、乾燥しているのか雪は降っていないが、嵐のような強風の中で砂塵が吹き付けてきていて、マスクを装備していなかったら顔中が細かい擦り傷だらけになりそうな状況だ。

 そんな中、俺はというと小型情報端末を使ってクリシュナと連絡を取っていた。小型情報端末と無線で接続されたユニバーサルマスク越しの視界に通信画面が投影される。


「こちらヒロ、とりあえず無事着陸した」

『こちらミミです。まずは無事に降下できたようで一安心ですね』

「うん。で、そっちから俺はトラッキングできてるか?」

『大丈夫よ。何かあればいつでも支援砲撃できるわ』

「いざという時は頼むぞ。でも俺には当てないようにな」

『私の腕を信用しなさい。私だってクリシュナのサブパイロットとしてちゃんと訓練してるわ。知ってるでしょ?』

「まぁな」


 エルマもクリシュナのサブパイロットとしてクリシュナの慣熟訓練はしてもらっている。勿論俺の腕には及ばないが、クリシュナをちゃんと乗りこなせるだけの技術は習得しているのだ。元々ピーキーで操縦の難しい動く棺桶――ギャラクティックスワンを乗りこなしていただけあって、エルマの操縦技術は決して低いものではない。バランサーを切った状態での戦闘機動を磨けばもう一皮剥けると思う。


「パワーアーマーなしでの生身とか嫌だなぁ……」

『パワーアーマー着たままじゃ剣は振るえないから仕方ないわね』

『今度剣士用のパワーアーマーとか買ったら良いんじゃないですか? 置いておくスペースはあるわけですし』

「それも検討しておくかなぁ」


 軽量型パワーアーマーの中には装着時の各部の可動域が生身と全く変わらないことを売りに出しているものもある。それでいて膂力や機動力が生身よりも強化されるし、オプションパーツでジャンプパックなどを装着すれば短距離飛行なども可能になる。その代わり、装甲などは貧弱で俺が今装備しているコンバットアーマーに毛が生えたようなものが多いんだが。

 しかし、それでもパワーアーマーはパワーアーマーなので耐候性や環境適応能力は非常に高い。こういった状況では大いに役立つだろうから、購入を検討しても良いかも知れない。


「しかし、こういった状況を乗り切るのにそれなりに値段の張る装備を買って対応したら良いんじゃないか? と提案するあたり、ミミもだいぶ傭兵流のやり方ってのが身についてきたな」

『そうね。その調子で染まっていって生粋の傭兵になりましょう』

『あ、あはは……良いことなのか悪いことなのか……』


 そんなに複雑そうな声を出すなよ。染まってしまえば楽だぞ?


『それで、話は変わるけど今後の計画は?』

「安全な拠点で対象が発見されるまでぬくぬくと待っている、というわけにはいかんだろうか?」


 今、俺の目の前では軍用のマテリアルプロジェクタによって物凄い勢いで頑丈そうな拠点が構築されつつある。どんなハイテク技術を使っているのかわからんが、まるで3Dプリンタで模型でも作るかのように拠点施設が光によってプリントアウトされていっているのだ。

 どういう仕組みなんだろうなぁ、アレ。まぁ、何か見るからに高度なハイテク機器を使っている辺り、素手で木を切り倒して虚空に壁や天井を作り出すクラフト系ゲームの主人公よりは常識的な範疇だろうか。


「勿論、そうはいきませんね」


 小型通信端末の向こうからミミやエルマの声が帰ってくるよりも早く背後から声をかけられた。振り向けば、そこにはコンバットアーマー姿のセレナ中佐。腰にはいつもの剣が差してあり、他にも色々と装備を身に着けているようだ。


「ヒロ、貴方と私は対ゲリッツの切り札です。通常戦力ではゲリッツに良いように各個撃破されかねないので、私と共にゲリッツ探索の先鋒に立ってもらいます」

「あの、中佐殿? 普通、指揮官は後ろでドンと構えてるもんじゃないですかね?」

「いつの時代の話をしているのですか? 指揮デバイスがあれば情報の一元管理は可能ですし、貴族出身の指揮官であれば思考の高速化とマルチタスクはできて当然です。前に立ちながら全体の指揮も取るのが帝国航宙軍の指揮官ですよ」

「さようで……」


 つまり、俺はこの最悪の天候下でゲリッツとやらを探すためにセレナ中佐と一緒に最前線に立たなきゃならんわけか。そうかそうか。


おうちに帰して」

「ダメです」


 顔全体を覆う透過ヘルメット越しにセレナ中佐がにっこりと良い笑顔を浮かべる。畜生めぇ!

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貴女の雇い主も許可を出しましたし。 貴方だろうねえ
ん〜。今回の1件は大きな貸しやろうな
[気になる点] 「貴女」の雇い主も許可を出しましたし。 →「貴方」の雇い主も許可を出しましたし。 では? [一言] 誤字報告機能を有効にして貰えると助かります。
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