#213 またお前か!
お犬様に昼寝を強要されて遅れました_(:3」∠)_(ゆるして
俺は使わないが売ればそこそこの値がつくイオンブラスターや、駆け出しから中堅くらいの傭兵が使ってもおかしくはないレベルのなかなかに強力なシールドジェネレーターなど、高く売れる船のパーツやらその他戦利品を回収していると、突然ミミが表情を変えてコンソールを操作し始めた。
「どうした?」
「いえ、まだちょっとわからないです……なんだかアジトを制圧している帝国航宙軍とか星系軍の方が騒がしいみたいです」
「何かしら? 宙賊が何か厄介なものでも使ったのかしら?」
「歌う水晶とか?」
「それは物騒すぎるでしょ……でも、宙賊が何か予想外の手段で反撃に出たのかもしれないわね」
「それにしたって制宙権はもう完全に体制側が取ってるだろ。いくら白兵戦で巻き返しを図ったとしても、最悪アジトごとスペースデブリにされて終わりだと思うが」
いくら帝国航宙軍や星系軍、ダレインワルド伯爵家の私設軍による白兵制圧戦に宙賊側が勝利したとしても、体制側が完全に制宙権を取っている今となっては現状を打開する方法がない。脱出する方法も、アジトを包囲している体制側の戦力を撃破する方法も無いからだ。
だから、こういった状態になってしまえば普通は宙賊側が早々に降伏して制圧が終わるはずなのだが。
「どうも頑強に抵抗を続けている集団がいるみたいですね体制側の白兵戦力にそれなりに被害が出ているみたいです」
「へぇ? 戦闘訓練を受けた上にパワーアーマーとかでガチガチに武装した帝国航宙軍の海兵に被害を出すなんてどんな……ああ」
「気づいた?」
「いや、あり得るか?」
「ない、とは言い切れないわね。視察とかで」
どうやらエルマも俺と同じ心当たりに行き着いたようである。そんな俺とエルマの会話にミミとワムドが首を傾げる。
「訓練を受けた帝国海兵に対抗できる存在なんてそうそういるもんじゃない。でも、パワーアーマーの装甲を紙のように引き裂き、自分に向かって放たれたレーザーを防ぎ、場合によっては弾き返す存在ってのを俺達は知ってるはずだ」
「えっ……そ、それって」
「貴族、ですか。それも、いわゆる白刃主義者の……」
「実際にどうかはわかんないけどね。もしかしたらコーマットⅢに出てきてたあの奇っ怪な生物が暴れだしたとかかもしれないわよ」
「訓練された海兵でもアレの相手は骨が折れるだろうなぁ」
勿論物理的な意味も含めて。パワーアーマーならワンチャン耐えられるかもしれないけど。いや無理かな? あいつらデカかったもんな。いやでもパワーアーマーなら……などと考えながら回収を進めていると、宙賊のアジトの一角がチカリと光ったように見えた。
「なんか今宙賊のアジトが光ったような――」
などと言っていると、宙賊のアジトの方から何かが超高速で近づいてきつつあるのをクリシュナのレーダーが拾った。当然ながらオペレーターのミミもその存在に素早く反応する。
「何か――いえ、これは……サプレッションシップが高速でこちらに接近してきます!」
「キレそう」
「どうどう」
思わず負のオーラを醸し出してしまった俺をエルマが横から宥めにかかってくる。
説明しよう! サプレッションシップとはクリシュナでも追いつけない超強力な推進機とクリシュナの火力でも削りきれない強固なシールドを兼ね備え、敵艦のシールドを無効化しつつ表面装甲を貫徹する事のできる衝角『だけ』を備えた帝国航宙軍の誇るトンデモ兵器である!
敵艦にラムアタックをかけた後は衝角部分から一騎当千の貴族剣士を敵艦の内部に送り込み、敵艦を無力化しちゃうぞ☆ という頭のおかしい発想のもとに開発されたらしい。計画の発案者と承認者と設計者は何かクスリでもおキメになられていたのではなかろうか。
『キャプテン・ヒロ! そいつを止めなさい!』
何にせよ俺の稼ぎには関係ないし関わらんとこ、と考えていたら広域通信でセレナ中佐からそう呼びかけ――というか命令が飛んできた。えぇ……?
「あー、こちらクリシュナ。撃破すれば良いのか?」
『撃破はダメよ! 拿捕して!』
「無茶振りやめてくれません?」
クリシュナより速い速度で飛ぶクッソ固いシールド持ちの小型艦を、撃破せずに移動能力だけ奪って拿捕するとか無理ゲーにも程がある。重レーザー砲を真正面から何度も撃ち込んで、すれ違いざまに散弾砲をぶち込むなり、或いは対艦反応魚雷をぶち込むなりすれば撃破はできるかもしれないけど。
『とにかく! 止めて! それが無理なら可能な限り追って!』
「そんな無茶苦茶な……」
「またいつものね」
「ですね」
「これが話に聞くトラブル体質というやつですか」
「やめろ! もう諦めかけてるけど俺はそんな事実は絶対に認めないからな!」
とにかくあのファッキンサプレッションシップを止めなければならないらしい。しかも撃破せずに。
『プラチナランカーの貴方にならできると信じていますよ。え? もしかしてできないんですか?』
「で、できらぁ!」
「たまにヒロって著しく頭が悪くなる時があるわよね」
「単に挑発されてヤケクソになっているだけだと思いますけど……」
さすがミミ、わかってるな。
サプレッションシップなんざ怖かねぇ! ぶっ潰してやる!
☆★☆
『で、結局逃げられたと』
「はい」
サプレッションシップのシールドの硬さと足の速さには勝てなかったよ……まぁ、今はサプレッションシップの超光速航行の航跡を辿って追跡中なんだけどね。サプレッションシップは超光速ドライブは搭載しているけどハイパードライブは搭載していないようだから、コーマット星系の外に逃げられることはない筈だ。
「今追跡してるから……」
『サプレッションシップ単独では恒星間航行はできませんし、航続距離も長くはありません。必ずどこかで補給なり、船を乗り換えなりするはずです。帝国航宙軍の斥候も応援に向かわせていますので、そのまま追跡を続けてください』
「アイアイマム」
俺が敬礼しながらそう返事をすると、セレナ中佐は一つ頷いて通信を切断した。
「まぁ、無理な話よね」
「ですよね」
撃破しても構わないというのならともかく、スピードの乗り切ったサプレッションシップを拿捕しろというのは本当に無理な話だ。重レーザー砲ではシールドを抜けないし、シールドをある程度無効化する散弾砲でサプレッションシップを撃破せずに推進機だけ破壊するというのも無理な話だし、対艦反応魚雷なんてそもそも当てられる気がしない。当てたとしても、そうなればサプレッションシップは残骸も残さず消滅するだろうから、そもそも拿捕という目的を果たせないわけだけど。
「ブラックロータスも置いてきてしまいましたな」
「流石に全速力のクリシュナの足にはついてこられないしな。まぁ、追跡だけなら危険があるわけじゃなし。戦利品の回収を終えたら追いついてくるだろう」
同一星系内であればクリシュナとブラックロータスはお互いの距離が離れていてもどこにいるのかはわかるようになっている。星系内の情報ネットワークを通してどうのこうの言っていたけど、詳しい仕組みは知らん。SOLの仕様的に言えば、いわゆる船団機能だな。
「で、この航路なんだが……コーマットⅣに向かってるよな?」
「そのように見えるわね」
「そうですね。コース的にはコーマットⅣの軌道にドンピシャリってところです。降下するつもりでしょうか?」
「嫌な予感しかしないなぁ……降下前に叩けると良いんだが」
これがコーマットプライムコロニーに向かってるってんなら船の乗り換えだろうと予想もつくのだが、向かっている先がテラフォーミング中のコーマットⅣとなると本当に嫌な予感しかしない。
テラフォーミング中の惑星というのは大変に環境がよろしくない。それはそうだろう。元々あった星の環境を、テラフォーミングを行なっている種族に都合が良いように改変している真っ最中なのだ。天変地異レベルの異常現象が惑星各地で頻発しているはずである。
「ヒロ……」
「ヒロ様……」
「ん……? あっ」
しまった! 気を抜いていた! 降下前に叩けると良いんだが、とか言っちゃったよ!
お願いしますやめてくださいテラフォーミング中の惑星に降下とか絶対にしたくないんですお願いします許してやめてやめてやめろォ!
>お願いしますやめてくださいテラフォーミング中の惑星に降下とか絶対にしたくないんですお願いします許してやめてやめてやめろォ!
(゜ω゜ )……
(^ω^ )ニコッ(やめない




