#210 一休み
いろいろあってとてもおくれました_(:3」∠)_(何もかも荷物が届かないのが悪い
「で、コトが終わったらまた宇宙に戻るのな」
一仕事終えてコーマットⅢの大気圏から離脱すると、フォーマルハウトエンターテイメントのズィーアがぼやくように呟いた。
「そりゃあ俺達は傭兵だし?」
「それも戦闘艦でのドンパチがメインのね。陰謀の調査だとかそういうのは専門外よ」
「精密な手術に斧やチェーンソー持ち出すようなもんだ」
明らかに自然な生物とは思えない原生生物(?)どもを一方的に蹂躙し、とりあえずの発生地点と思われる気味の悪い地表構造物にブラックロータスのEMLを始めとした艦砲射撃をぶち込み、破壊した。今頃は帝国航宙軍の重武装海兵隊員達があの原生生物のような何かの巣を襲撃していることであろう。
「でも、気にならないのか? 明らかに普通の原生生物とは思えない連中だっただろう?」
「気にならないと言ったら嘘になるけど、管轄外だよ。調査後に敵戦力を叩くってんなら役に立てるだろうけど、専門外のことに首を突っ込んでも仕方がないさ。それよりも宙賊どもを追いかけ回して叩いてた方が世のため人のため、そして俺達のためになる」
「つまり、お金になるってことですね!」
「その通り!」
「お前らそれで良いのか……」
元気なミミの言葉にビシィッ! とサムズアップする俺を見てズィーアが困惑している。傭兵なんてこんなもんだ。俺は強いし、クリシュナも強い、ブラックロータスも強いし、ミミやエルマも優秀なクルーだ。でも、だからって何でもできるってわけじゃない。
「つまり適材適所ってことだよ。俺達は俺達にできることをするって話だ。何でもかんでも首を突っ込んで他人のシマを荒らしても碌なことにならん」
「なるほど」
どうやらズィーアも納得してくれたらしい。実際のところ、余計なことに首を突っ込んだりしたら絶対俺達について回っている不運が何か変なものを引っ張ってくるに違いないからな。これ以上のトラブルは要らん。間に合ってますってやつだ。
「それにな、こういう時は――」
『ご主人様、ご報告があります』
俺の言葉を遮るようにクリシュナのコックピットにメイの声が割り込んできた。
「――どうした? あ、データキャッシュの解読が終わったか?」
この前の移乗攻撃では宙賊の船が武装とスラスター以外ほぼ無傷で丸々二隻手に入ったからな。戦闘ボットの襲撃に慌てたのか、データキャッシュとブラックボックス内のデータの消去や破壊などもされずに完全な形で手に入ったからメイにデータの解析を任せてたんだ。
『はい。宙賊のアジトの位置、取引データなどですね』
「なるほど、じゃあ位置データを帝国航宙軍に売りつける……いや、クリスに報告するか」
『はい。それがよろしいかと。クリスティーナ様なら我々りも早く、強力に帝国航宙軍に働きかけることができるでしょうから。それと、宙賊の取引データを調べていてわかったのですが』
「ああ、なんだ?」
『どうやら宙賊に資金や装備を流して、ダレインワルド伯爵家の惑星植民事業を妨害しようとしている者がいるようです。宙賊の規模に見合わない資金や物資の流れがあります』
「なるほど……じゃあその情報も合わせてクリスに相談しよう。段取りは任せる」
『はい、ご主人様。お任せください』
メイや他のメディアスタッフが乗っているブラックロータスからの通信が切れる。クリシュナもコーマットⅢの大気圏離脱を完了した。とりあえず一息、というところで俺はコックピット後方のサブシートに座っているズィーアに振り返った。
「こういう時は、こっちから頭を突っ込まなくてもトラブルが向こうから転がり込んでくるんだ。たまらんだろ?」
「たまらんな。俺はそんな悪運は絶対に御免だが」
「そう言うなよ。ネタに困らなくなるぞ」
道を歩けば悪漢に追われる美少女と出会い、宇宙を行けば救難信号を拾って宙賊に襲われている客船を助けることになり、コロニーに降り立てば謎の変異生命体あいてにパワーアーマーで取っ組み合いをすることになり、宙賊を倒して戦利品を漁れば美少女を拾い、バカンスに行けば惑星が宙賊に襲撃され、帝国航宙軍と共に行けば反乱宇宙軍に襲われ、貴族の船を護衛すれば跡目争いに巻き込まれ、船を買いに行けば美少女(合法ロリ)が飛んでくる。
そして試運転とばかりに物資の輸送依頼をこなしたら帝国航宙軍と結晶生命体との戦闘に巻き込まれることになり、受勲のために帝都に行けば御前試合と称した武闘会に放り込まれる。
うん、クソクソのクソ不運だな!
「俺は一般人なんだよ。度々トラブルに巻き込まれたりしたら命がいくらあっても足りん」
「だよなぁ」
「ですよねぇ」
「そうよねぇ」
ズィーアの言葉に俺達三人は深く頷き、心からの同意を示してみせるのであった。俺も大概逸般人になってきている気がするが、まだマインドは一般人だから。
☆★☆
メイから連絡を受けたクリスの決断は早かった。迅速、かつ密かに帝国航宙軍へと渡りをつけてダレインワルド伯爵家の私兵と帝国航宙軍の精鋭を集め、宙賊のアジトを叩くという方向で動くことになったのだ。
ことを密かに進めるのはこういった宙賊のアジトを襲撃する際によく取られる方針である。何故かと言えば、大々的に宙賊のアジトを襲撃することを宣言してしまうと宙賊に逃げられてしまうからだ。奴らの耳と目は普通に交易コロニーなどにも及んでいるのである。要は、宙賊から金を貰って情報を流している連中が一定数いるというわけだ。
「だから、宙賊のアジトを襲撃する時には色々と気をつけなきゃいけないんだよ」
「それで私達も船から降りられないというわけですか」
「そういうこと。外でポロリと口から情報を零したなんてことになったら大変だからな」
「信用されてないんですかね?」
「本人にそのつもりがなくても情報を抜く方法なんていくらでもあるから。まぁほんの二日ほどの辛抱よ」
口々に質問してくるアレンとニーアに俺とエルマが説明する。
クリシュナとブラックロータスは出撃の号令が下るまでコーマットプライムコロニーで停泊待機である。まぁ、鹵獲した宙賊艦を改修して売り払うのにも時間がかかるから、渡りに船というやつかな。
『改修よりも船の内部の掃除が大変やで』
『きったないんです……ほんとうに』
昨日の夜、帰ってきた二人と少し話をしたら綺麗好きなウィスカの目が死んでいた。彼女の言う通り、宙賊の船は内装が汚くて本当に大変だったらしい。下手に清掃するよりも内装を取っ払って入れ替えるほうが早いとかそう言うレベルで。
『それに比べたら兄さんの船は本当に綺麗でええよなぁ』
『広いし、明るいし、綺麗だし、ご飯も美味しいよね……』
あまり無理はするなと言っておいたけど、二人とも二隻の中型船の改修作業で忙しいようで、早い時間に船を出て遅い時間に船に帰ってきてシャワーを浴びてすぐに寝るという生活をしている。
ブラックロータスに乗せている戦闘ボットも装備を積み替えれば作業の手伝いができるので、ブラックロータスのメンテナンスボットと一緒にティーナとウィスカに連れて行かせた。護衛にもなるからな。
ちなみに、二人とも外に出ているが、二人にはそもそも宙賊のアジト襲撃の件については話していないので、情報が漏れる心配がない。今回の待機停泊についても暫く留まって休憩と、二人の作業待ちであると二人には言ってある。そのせいで二人とも過剰に頑張っているような気がしないでもない。今度エルマに言って美味しいお酒でも用意してもらおう。
「傭兵というのも楽な仕事ではないんですねぇ。色々と考えることがあるというか」
「そうだな。もっとバンバン宙賊と戦ってバンバン金使ってバンバン遊びまくってるイメージだったが」
「そういうイメージですよね。わかります」
「わかるわ。普通はそうよね」
「これがうちのスタンダードです」
「私はご主人様のライフスタイルは素晴らしいものだと思いますが」
スペース・ドウェルグ社のワムドとズィーアが感心したような、或いはちょっと残念そうな様子で好き勝手言ってるが、知らん。ミミとエルマもなんか同意してるが、知らん知らん。割と好き勝手してる俺がストイック扱いされるとか、この世界の他の傭兵達は一体どんな生活を送ってるんだか。逆に気になってくるわ。
皆が俺を虐めてくる中、メイだけは俺の味方で居てくれる。流石はメイだ。今日は傷ついた心を存分にメイに癒やしてもらうとしよう。メイのお胸を借りて泣いてやるからな!
まんまとメイの思惑と言うか、機械知性特有の手練手管にやられているような気がしないでもないが、それはわかって甘えているうちは大丈夫だろう。多分。
こうして俺達はクリスと帝国航宙軍の準備が整うまでの数日をブラックロータスで過ごし、宙賊のアジト襲撃に向けて英気を養うのであった。




