#209 レーザー爆撃
天気が悪くて体調が優れなかった(´゜ω゜`)(ゆるして
ズドォン! という轟音と共に矢のように流れていた星々の光が急停止する。
「超光速航行停止、目標地点への降下軌道は計算中です!」
「OK、各自降下前にたっぷりと飲み物を飲んでおけよ。目標の情報は来てるか?」
「はい、えっと……あった、スクリーンに出しますね」
ミミがコンソールを操作し、コーマットⅢの開拓地を襲っているという原生生物の情報をコックピットのスクリーン上に表示する。
「凄い見た目だな。威圧的と言うか、邪悪っぽいというか。悪意の塊みたいな造形をしている」
「まぁ、まともな生き物にはあまり見えないわね」
コックピットのスクリーンに表示されたのは禍々しいとしか表現のしようがない代物だった。全体的に黄褐色っぽい色をしており、なんとなく人間の肌のような質感をしているのが更に禍々しさを助長している。
原生生物の見た目は大きく分けて三種類で、一つは体高5mほど。人間の素足に似たような足を二十本以上生やしており、その足を高速で動かして捕食対象に接近し、二本ある腕で殴り殺して頭部らしき場所にある口で噛み砕いて食うらしい。歯並びは人間っぽくてとても気持ちが悪い。両腕の先は尖った岩石質の表皮のようなもので覆われており、生身の人間を一撃で殴り殺す威力を持っているらしい。
もう一種類は同じく足が多いが、こちらは象かなにかの足のように思える。全体的に流線型というか、船を裏返しにしたような姿をしている。前面部は一匹目と同じように岩石質の装甲のようなもので覆われており、高速で突撃してくるらしい。大きさは体長15m、体高7mほどと一匹目よりも更に大型。前面装甲は堅固で、レーザーガンやレーザーライフルでは全く歯が立たないようだ。
そして最後の一種類が問題だ。体高2mほどで小型。一匹目と同じで人間のような足が六本生えており、六足でのたのたと歩くらしい。移動速度は大して早くないし、岩石質の装甲なども持っていないようだが、こいつはレーザーランチャー並みの威力がある生体レーザー砲を備えているらしい。威力も射程も入植者達が装備しているレーザーライフルより高く、シールドを持たない航空機やシーカーミサイル、攻撃ドローンなどはこいつらに撃墜されてしまうのだという。
「前衛から後衛まで充実の品揃えだなぁ。破壊光線を放つ原生生物とかそんなポンポンいるもんかね?」
「ビックリ生物代表として結晶生命体なんてのもいるじゃない」
「確かにあれもビックリ生物だけどさぁ……」
確かに結晶生命体は攻撃的な無機生命体で、恒星間航行が可能で、レーザーどころか謎のエネルギー光弾とかも放ってくるという超びっくり生物だけどね。俺が言いたいのはこんな誂えたような戦闘能力を持つビックリ生命体がそこらの居住可能惑星に存在しているものなのかということなんだよ。毒液を飛ばすとかならともかく、レーザーランチャー並みの高出力レーザーとか自然界で狩りとかに使うにはあまりにも高威力過ぎるだろ。
「まぁ……同じことを二回言うのもなんだけど、まともな生き物には見えないわね」
「だよなぁ。まぁ、ちゃっちゃと片付けるか」
「軽いと言うか、危機感が無いんだな」
サブシートに座っているズィーアからそんな言葉が飛んでくるが、俺は振り返りもせずに肩を竦めてみせた。
「一万匹居ても百万匹いてもクリシュナにとっては脅威でもなんでもないからなぁ」
「レーザーランチャー程度の出力なら大気圏内じゃ射程もたかが知れてるしね。クリシュナのレーザー砲の方が遥かに高出力かつ長射程だから、アウトレンジから一方的に叩けるわよ」
「ブラックロータスもいるしな。クリシュナの観測データを使って成層圏辺りからマルチキャノンと電磁投射砲(EML)で砲撃もできるし」
マルチキャノンと言えばなんとなく豆鉄砲というイメージがあるが、あれはシールドも持たない相手には滅法強い。サブマシンガンみたいにバンバン撃ってるけど、あれ普通に艦砲だからな。口径とか詳しく知らんが、弾一発が俺が抱えるのがやっとの大きさだから。あんなん生身の人間が食らったら一発でバラバラだよ。勿論地表で暴れている原生生物のような何かでも食らったらタダでは済まない。
艦首EMLに至っては下手に最高威力で撃つと地表の開拓地にも影響が出かねないだろうな。まぁEMLは威力というか初速に関しては無段階で調整できるはずだし、そのへんはメイにまかせておけば上手くやってくれるだろう。
「なるほど……つまり、彼我の戦力差は圧倒的というわけか」
「だな。一方的な蹂躙になると思うぞ」
「突入コースの設定完了しました! ナビを表示しますね」
「了解、ブラックロータスも続いてくれ」
『アイアイサー』
ミミの設定したナビに従い、コーマットⅢへの降下を開始する。
「うおおおぉぉ!? だ、大丈夫なのかこれ!?」
が、降下し始めるとズィーアが騒ぎ始めた。どうやら惑星に降下するのは初めての経験であるらしい。
「ああうん、大気圏突入って迫力あるよな」
激しい音と揺れ、それに真っ赤に燃えるシールドの向こう側の大気。断熱圧縮で超高温になるのはわかるんだが、ああやってシールドの向こう側が燃えているような状態になってるのはどうしてなんだろうな? 超高温になってプラズマでも発生してるんだろうか?
「目標上空です」
「おお、いるわいるわ」
目標の開拓地上空には既に俺達以外の戦闘艦が展開しており、雲霞のように押し寄せてくる原生生物どもを薙ぎ払っていた。戦闘艦のレーザー砲から放たれる高出力のレーザーが地表に着弾し、土壌ごと原生生物を吹き飛ばしている。
誤解されがちだが、レーザー砲というのは高出力のレーザーで対象を溶断する兵器ではない。照射部分を高温で蒸発させ、爆発を起こし、その熱と衝撃で対象を破壊するのだ。
つまり、今現在地上の原生生物を襲っている破壊の正体とは高出力レーザー照射による爆破と熱と破壊の嵐というわけである。
「ウェポンシステム起動。出力は最低限度に絞って速射を優先するぞ」
「了解、出力調整するわ」
「ブラックロータスも基本はレーザータレットで攻撃しろ。開拓地に危機が迫った時のみマルチキャノンを使え」
『アイアイサー』
マルチキャノンの弾も艦首EMLの弾体もタダじゃないからな。レーザーの方が弾薬費がかからない分お財布には優しい。
「しっかし多いな」
「ちょっと気持ち悪いですね……
」
既にレーザーを撃ってくるタイプの原生生物はあらかた仕留められているようで、残っているのは前衛型と突撃型の二種だけのようだ。こりゃただの蹂躙戦だな。地を這うあいつらには空を飛ぶ戦闘艦を攻撃する能力が無いし。精々開拓地のシールドが破壊されないように気をつけるくらいか。
四門の重レーザー砲のうち、下部の二門で開拓地に近い原生生物を攻撃し、上部の二門で比較的遠い個体を撃破していく。出力を必要最低限に絞っているので、普段よりもレーザー照射時間が長く、発射間隔も短くて済むから掃討が捗るな。
「これで暫く居住地は食料に困らないわね」
「えっ」
「えっ」
エルマの発言に俺とミミは揃って声を上げる。
え? 食料? こいつら食うの?
「多分だけど、どう見ても有機生命体だし。こいつら多分成分分解してタンパク源にされると思うわよ」
「やだこわい」
「どんな味なんでしょう?」
「えっ」
「えっ」
思わずオペレーター席のミミに目を向ける。ミミも驚いた顔で俺に視線を向けていた。あの、見た目に抵抗とか、無いんです? 未知の味への好奇心の方が勝ってしまったのか?
「ほ、ほら。食べてみたら意外と美味しいかもしれませんし?」
「お、おう。そうだな」
前衛型のやつとか足を見る限りどうも人間ベースっぽいし、全く食う気がしないんだけど。ま、まぁ銀河中のグルメを食い尽くすのがミミの旅の目的だし? そういうチャレンジ精神はアリなんじゃないかな。ウン。
俺? いいえ。俺は遠慮しておきます。




