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#206 救難信号

急に寒く……気圧のせいか頭痛と眠気が……_(:3」∠)_

「お見苦しいところをお見せしました」

「今更取り繕ってもな」

「……」

「痛い痛い、ごめんて」


 クリスが顔を赤くしてぽこぽこと俺を叩いてくる。わかったわかった、無粋なことを言った俺が悪かった。だから鎮まりたまえ。


「まぁなんや、アレやね。折角やしそのまま兄さんに甘えとったらええんちゃう?」

「お持ち帰りはダメよ」


 酔っ払いどもがニヤニヤしながらクリスをからかう。やめたまえ君達。クリスはまだ成人前の女の子なんだぞ。絡むんじゃない。


「おいひぃです」

「むむ、火加減も絶妙ですね……」


 クリスが正常な状態に戻ったので、ミミとウィスカも本格的に食事を始めていた。二人が食べているのは何かの肉のステーキだ。肉質が牛に似た生物で、これは他所の星からコーマットⅢに持ち込まれて飼育される予定のものであるらしい。なるほど、別にその星で取れる特産品に拘らないで、こういった高級品を飼育して売り捌くってのも一つのやり方だよな。結局のところ、金を稼げれば良いんだから。


「大分追い込まれていたみたいだけど、本当に大丈夫なのか?」

「はい。開拓初期の今をなんとか切り抜ければ仕事は楽になるみたいですから。私を含めて職員達のスキルも上がりますし」

「それは慣れただけで相対的に楽になっているように感じるだけなのでは……?」

「ははは……」


 クリスの瞳からまたもや光が消えかける。OKOK、無粋なことを言った俺が悪かった。ほら、何の卵かわからないけど美味しそうな卵焼きだぞー。


「実際のところ、俺達じゃクリスの仕事方面の手助けはできそうにないしなぁ……まぁ、こうして愚痴を聞いたり、甘やかしたりするくらいならいくらでもやるけども」


 というか、俺達以外に甘えられる相手は居ないのだろうか。いないんだろうな。両親には先立たれているし、祖父さんのダレインワルド伯爵は領地の統治のために隣の星系にいる。昔から世話をしてくれている使用人の一人や二人はいそうだが、甘えられるような関係ではないんだろう。一緒に働いている職員は部下だろうしな。


「それだけでいいんです」


 そう言ってクリスは俺に寄りかかって体重を預けてきた。殆ど身内のようなものとは言え、ミミ達の視線も気にせずこのような行動に出る辺り、相当お疲れのようだな。


「ところで、ヒロ様達はこの数日、どのように過ごしていたんですか?」

「なに、いつも通りだよ。宙賊を待ち伏せする、追い詰める、ぶっ潰すの繰り返しだ。撃破した宙賊の数は三日で五十かそこらだったかな」

「凄い戦果ですね! 実は全体的に宙賊の討伐数が上昇傾向なんですよ」

「へぇ? ずっと右肩上がりなのか?」

「今のところはそうですね」

「なるほど。となると、やっぱり周辺から流入してきてるのかね」


 宙賊はどこにでも湧く一般人――というか民間船にとっては迷惑な奴らだが、この世界はゲームでもなんでもないので、スクリプトで無限に湧くというわけではない。狩れば狩るだけその数を減らす筈なのだ。討伐数が右肩上がりということは、少なくとも討伐速度よりも周辺からの流入速度が今のところは上回っているということなのだろう。


「もしかしたら名のある宙賊団が乗り込んできてるのかもな。注意したほうが良いと思うぞ」

「注意、ですか。具体的にはどうすれば良いんでしょうか?」


 クリスがそう言って俺を見上げてくる。ふむ。どうすれば、か。


「まず、いつでも大規模な戦力を動かせるように用意はしておいたほうが良いと思う。大規模な宙賊団は収奪した物資や奴隷を集積所――つまり基地に溜め込む傾向があるから、その集積所が見つかり次第、急襲する手筈を整えたほうが良いな」

「なるほど。それはつまり、傭兵や帝国航宙軍をいつでも討伐に差し向けられるよう余力を残すようにしたほうが良いということですね」

「そうなるんだろうな。その際に惑星の守りが疎かになったら本末転倒だから、討伐に出る場合は戦力配分にも気を配るべきだろうな」

「なるほど……」

「一番良いのは伯爵にしっかりと相談することだろうな。俺は傭兵の視点からアドバイスしたけど、為政者としての立場から見ればまた違った意見があるかも知れない」

「お祖父様に、ですか……そうですね。明日にでも相談してみます」


 クリスは少しの間考え込んだようだが、すぐにそう言って頷いた。今回の惑星開発はクリスが立派な為政者――つまりダレインワルド伯爵家を継ぐに相応しい者になるための一種の試練なのだろうが、全部が全部一人でしなきゃならないって性質のものではないだろう。何せ人の――ダレインワルド伯爵とクリスにとっては自分達が庇護するべき領民の命が懸かっているのだ。


「こういう席でまで仕事の話をするのは無粋だと思うわよ?」

「こういう席でもないとクリスとこんな話できないだろ」


 クリスは次期女伯爵様だ。いくら俺がゴールドスター受勲者だのプラチナランカーだのといった肩書を持っているとしても、公の場でこんな風に話すのはよろしくあるまい。


「んー? そう言われるとそうかしら。でも、もう少し華のある話もしてあげなさいよ」

「華のある話っつってもなぁ。華のある生活なんてしてなかっただろ」


 基本的に星系内の探索と宙賊の討伐を繰り返していただけだしな。


「そう言えば、ヒロ様達の船に乗っているメディアの人達はどう過ごしているんですか?」

「ああ、あいつらね。あいつらは――」


 その後、食事を取りながらメディアスタッフ達の様子をクリスに話して聞かせ、クリスからは逆にこんな珍陳情があった、なんて話を聞いたりして大いに笑った。一番面白かったのは、何かの手違いでカップルや夫婦向けの居住区に配備されてしまった独身男性から来た『周りがカップルだらけで辛いです……助けてください』って陳情の話だったな。


 ☆★☆


 翌日である。食事会が終わった後、クリスは迎えに来たダレインワルド伯爵家の護衛達に連れられて帰っていった。俺達がブラックロータスに着いた頃に宿舎に無事ついたことと、今日はありがとうございましたというメッセージが俺の端末宛に送られてきたので一安心である。

 そして、俺達は今日も今日とて傭兵稼業だ。

 コーマット星系ではクリシュナ単艦で先行し、ブラックロータスには後から駆けつけてもらって戦利品の回収をしてもらうようにしている。

 何故そんなことをしているかって? そりゃお前、メディアスタッフの乗っているブラックロータスを疑似餌にして宙賊を誘き寄せるわけにはいかないだろう……軍用戦闘ボットの導入によってブラックロータスの防衛能力は飛躍的に向上したが、万が一ということもあるからな。


「ヒロ様! 救難信号です!」

「いきなりか」


 コーマットプライムコロニーを出発して程なくして救難信号を拾った。どうやら比較的大型の旅客船が宙賊に襲われているらしい。


「すぐに向かうぞ。向こうにも救援に向かうと伝えておいてくれ。あと、ブラックロータスにもすぐに駆け付けるよう指示を」

「わかりました!」


 ミミがコンソールを操作してメッセージを送り始めるのを横目に見ながら、俺はクリシュナの航路を救難信号の発信源へと向ける。ちょっと遠いな、到着まで五分くらいかかるか。


「他の船は間に合いそうな範囲内に居ないわね。一応、コーマットプライムコロニーに救難信号受信の報告と、発信源の座標を送信しておくわ」

「そうしてくれ」


 俺達以外の救援が来る前に俺達が事態を収束させる可能性が高いが、場合によっては怪我人の治療や破損した船の曳航のために助けが必要になるかも知れない。応援を送ってもらうに越したことはないだろう。


「民間船の救出ですか。これは撮れ高になりそうね」

「お前なぁ……」


 本日クリシュナに同乗しているのはニャットフリックスのニーアである。ウキウキした様子で撮影機材の用意を始めているな。まぁ彼女にとっては撮れ高以外の何物でもないんだろうけども。


「間もなく現場に到着だ。乱戦になるかもしれんから、しっかりとベルトは締めておけ」

「あいあいさー!」


 ニーアの返事を聞きながら超光速ドライブを解除すると、いつも通りの轟音が鳴り響いて線となって流れていた星の光が点に戻った。そして目に入ってくるのはスラスターを破壊されて強制停止させられている大型客船と、その大型客船に接舷している二隻の中型宙賊艦、そして一斉にこちらへと向かってくる十隻以上の小型宙賊艦。


「大歓迎だな!」


 すぐさまウェポンシステムを立ち上げ、戦闘機動を開始する。


「中型二隻、小型十四隻です! 大型客船は移乗攻撃をかけられている模様!」

「まずは小蝿を叩き落とす! 中型艦の動きに注意しろ!」

「はいっ!」


 向かってくる小型宙賊艦の群れに真正面ヘッドオンから突っ込み、擦れ違い様に散弾砲を叩き込んで一隻を爆発四散させる。その際に宙賊艦からレーザー砲やマルチキャノンで撃たれたが、クリシュナのシールドはびくともしない。小型宙賊艦の火力でクリシュナのシールドを破るのは至難の業だ。

 擦れ違うと同時にフライトアシストを切り、姿勢制御スラスターを噴かして反転。再びフライトアシストをオンにしてから一気に加速して宙賊艦達の背後を取る。


『こいつ……ッ!? 散開しろ!』


 後ろに付かれたことに気付いた宙賊が驚きの声を上げながらも的確な指示を出して散開を始める。

 なるほど? そこそこ優れた指揮官がいるらしい。


『うわっ!? シールドが!? 嫌だあぁぁぁっ!?』


 しかし圧倒的な性能差はそう簡単に覆せるものではない。四門の重レーザー砲の火力の前には宙賊艦の貧弱なシールドと装甲など障子紙のようなものだ。一斉射でいとも簡単にシールドが飽和し、第二射で装甲ごと船体フレームを貫く。当たりどころが良かったのか、爆発四散はしていないな。航行能力は失ったようだが。


『距離を取って囲んで叩け! 格闘戦は避けろ!』

「正確な分析ね」

「分析が正確でも、それで勝てるかは別の話だけどな」


 包囲を選択するなら食い破って各個撃破するだけだ。なにより、指揮は悪くないが動きが指揮についていけてない。そんなにトロ臭くちゃあ意味がないな。


『だ、だめだ! 強すぎる!』

『歯が立たねぇぞ!』

『ばっかやろう! 逃げるわけにもいかんだろうが!』


 そりゃお仲間が移乗攻撃を仕掛けている真っ最中なのに見捨てて逃げるわけにはいかんよなぁ? 後で移乗攻撃に成功したお仲間と顔を合わせることになったら間違いなく殺し合いになるだろうし。

 だが、それがお前達の命取りだ。

 一隻一隻各個撃破し、小型宙賊艦を掃討する。


『や、やめろ! 客船の乗客を皆殺しにするぞ!?』

「はっ! 今すぐやめて降伏すりゃ命だけは取らないでやるぞ?」


 残った二隻の中型宙賊船からの要求を鼻で笑ってやる。宙賊との交渉には基本応じない。どうせこいつらは乗客を皆殺しになんかできないんだからな。こいつらの目的は乗客の拉致だ。拉致して売り飛ばすのが目的なんだから、商品をわざわざ減らすようなことはしないし、できない。

 まぁ、人間ヤケになったら何をするかわからんけども。


「どうするの?」

「折角停まってくれてるんだ。手足をもいでやるさ」


 そう言って俺は武器の照準を中型宙賊船のメインスラスターへと向けた。メインスラスターを破壊したら次は武装だ。武装も壊したら? ブラックロータスもすぐに駆けつけてくるからな。移乗攻撃は宙賊だけの専売特許ってわけじゃないさ。

原稿作業をしなければならないので暫くお休みします。

ごめんね! ゆるしてね!_(:3」∠)_(来月頭くらいには再開できると良いなぁ

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[良い点] 話の緩急が当初から変わらないところです。すごい・・・ [気になる点] 現場に到着 → 現着 みたいな業界用語は傭兵業界にはないのかな? こういう用語が飛び出るとメディア受けしそうだな、くら…
[良い点] なんかタイトルにデジャブを感じるぜ 勝手に期待するぜ
[一言] お疲れ様でした。 さくっと読んでしまいました。 次回を楽しみにしています。
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