#200 コーマット星系へ
ファッキンホットで遅れました!(´゜ω゜`)(ゆるして
「こうして直接お会いできて光栄です。スペース・ドウェルグ社メディア部三課のワムドです」
「どうも。キャプテン・ヒロだ」
妙に腰の低いワムド氏と挨拶を交わし、握手をする。彼の後ろには同じくドワーフであると思われるスタッフの他に、人間やエルフ、獣人っぽい種族や爬虫類っぽい種族やよくわからない種族――全員一応人型をしている――がいて、なかなかにエキゾチックな連中である。
「彼らが合同取材の?」
「はい。メビウスリング、フォーマルハウトエンターテイメント、ニャットフリックスのスタッフですね。ご紹介させていただきます」
彼らの三社の代表ともそれぞれ挨拶を交わす。
「メビウスリングメディア部二課のアレンです」
「フォーマルハウトエンターテイメントドキュメンタリ部のズィーアです」
「ニャットフリックスのニーアです」
アレンはエルフの男性、ズィーアはまるで炎と見紛うような派手な体毛の獣人っぽいエイリアンで、ニーアと名乗った女性は濃い褐色の肌を持つびっくりするほどの美人であった。某宇宙的恐怖を取り扱うテーブルトークRPG的に表現するとAPP18かそれ以上。エルマも美人だが、ニーアの美人度はエルマよりも上だろう。絶対に近寄らないでおこうと心に固く誓っておく。申し訳ないが、彼女の相手はメイに任せよう。
スタッフの数は各社五人ずつで、総勢二十名にも及んだ。まぁ、ブラックロータスの収容人数的には余裕である。
「えー、乗船にあたって諸君に伝えておきたいことがある。まず、船の中では俺が法だ。俺が黒と言えば白も黒になるし、その逆もまた然りだ。それが受け容れられないのであれば、船に乗るのは諦めてもらいたい」
メディアスタッフ達は俺の言葉に特に動揺することもなく頷いている。一番最初に突撃してきたスペース・ドウェルグ社の連中と違って彼等は妙におとなしい上にお行儀が良いな。
「次に、船内における君達の行動範囲については制限を設けさせてもらう。具体的に言うと、船員のプライベートスペース及びブリッジ、ハンガー、カーゴスペース、その他ジェネレータールーム等の重要区画への立ち入りはできない。ただ、俺の許可と船のクルーの同伴があればそれらの区画への立ち入りを認める」
行動制限の話を切り出した時には弱冠不満げな雰囲気が感じられたが、許可と案内があれば立ち入り可能という言葉を聞いて不満は収まったようだ。
「あと、ウィスカとティーナは正式には俺の船のクルーではないが、扱いとしては俺の船のクルーと同じ扱いだ。つまり、彼女達はブリッジやハンガー、カーゴスペースへの立ち入り制限はない。ただ、彼女達に君達メディアスタッフの手伝いは一切させない。また、直接的、間接的に彼女達に協力を強いることを禁ずる。そのような行為が発覚した場合、最悪連帯責任で全員脱出ポッドに詰め込んで宇宙空間に放り出してやるから覚悟するように。俺はやると言ったらやるし、それだけの実力があるつもりだ。全員、御前試合は見てたよな?」
「「「わかりました!」」」
全員が背筋を伸ばして返事をする。うん、良い返事だ。しかし随分と聞き分けが良いな。
「とりあえずの注意事項としてはこのくらいか。出港は明日の昼過ぎの予定だ。船室は各社に三つつずつ、合計十二部屋用意してある。部屋の振り分けは話し合いで決めてくれ。他に何か聞きたいことや要望などがあれば聞こう……とりあえずは無いようだな? 今思いつかないなら後でも良い。今日は船で過ごしてもらっても良いし、外で過ごしてもらっても構わない。ただ、出港時間に間に合わなかった場合には容赦なく出港するから、そのつもりでな」
ちなみに、ブラックロータス滞在中の費用は後でメイに計算してもらって各社に請求することになる。まぁ俺からしたら端金みたいなものだ。結晶生命体の売却益と比べたら誤差みたいなもんだな。
ちなみに、先日の結晶戦役の後で帝国航宙軍の前線基地から仕入れた結晶生命体の素材は仕入れ費用や手数料などを差し引くと凡そ200万エネルほどの利益が出た。そのうちの3%である凡そ6万エネルががミミのボーナスということになる。暴利じゃないかって? 俺もそう思うが、これがこの世界の標準的な分け前らしいからな。それほどまでに自己資本で船を持つというのは大きなことなのだ。
国や貴族、大企業はこういった貿易船を何十、何百、何千と持って運用しているわけだ。だからそういった連中は俺のような傭兵に払う金を持っているというわけだな。うん。
俺の説明を聞き終えた各社のスタッフは荷物を持ち、メイから各々の小型情報端末にセキュリティパスを発行して貰ってブラックロータスへと乗り込んで――いや、ワムド氏だけが大きな手荷物を背負ったままこっちに来るな。
「どうした?」
「いえ、一応伝えておこうかと思いまして。今回の取材に派遣されてきているスタッフは基本的に貴族様の取材に対応できるスタッフなのだということを」
「ほう? 妙にお行儀が良いと思ったらそういうことか」
「ええ、まぁ。前にうちの一課がやらかした件については改めてお詫びさせて頂きます」
「別にワムド氏がやらかしたわけじゃないから、謝らくてもいいけどな。だが、謝罪は受け取っておく」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げてからワムド氏は踵を返し、自分の体と同じくらいの大きさの荷物を背負ってのしのしと歩いていった。その背中を見送りながら俺は彼等への考えを巡らせる。
最初に突撃してきた連中よりも大分お行儀は良いだが、その分油断ならない連中かも知れない。ワムド氏は貴族への対応に慣れている連中だと言っていた。恐らくそれはスペース・ドウェルグ社だけの話ではなく、メビウスリングの連中も、フォーマルハウトエンターテイメントの連中も、ニャットフリックスの連中も同じだろう。
つまりそれは、下手をすればその場で無礼討ちをかましてくるような連中を相手に渡り合って成功を納めてきたスタッフ達だということだ。別に俺達に害意を向けてきたりすることは無いだろうが、気をつけないと何から何まで赤裸々に暴露されかねん。そんな連中と少なくとも一ヶ月は寝食を共にすることになるわけだ。気をつけなければならない。
「気楽な仕事になると思ったんだがなぁ……やれやれ」
人生とはまったくもってままならぬものである。
☆★☆
さて、目的地であるコーマット星系について軽くおさらいしておこう。
コーマット星系は太陽と同じG型主系列星を中心とした恒星系である。複数の惑星とガス惑星で構成されており、小惑星帯には鉱物資源も確認されている。小惑星帯の鉱物資源はありふれた物が殆どで、レアメタルの類などは確認されていないが、埋蔵量が豊富で使い途が多い。そのため、ダレインワルド伯爵家は早々にコーマット星系に採掘精錬コロニーや貿易コロニーを設置し、資源採掘を行っていた。
それに加えてコーマット星系の第三、第四惑星は居住可能惑星としても有望であったため、帝国からの補助も受けながらコツコツとテラフォーミングを進めていたということらしい。そしてこの度、晴れて第三惑星――コーマットⅢののテラフォーミングが完了したと。
「第四惑星の方はどうなっているんだ?」
「環境が寒冷らしくて。居住に適切な環境にテラフォーミングするのにあと十年くらいはかかるそうです。テラフォーミングって大変なんですね」
「星一つの環境を意のままにするわけだからな。大事業だろうさ」
どうやってテラフォーミングしてるのかという技術的な知識は俺には全くわからんけどな。俺の知識だとナノマシンを使って良い感じにしますとかそういう大雑把な想像しかできん。実際には惑星の環境によってテラフォーミングの手法も色々変わるんだろうな。
それでも数年、数十年、いや数百年だとしても、人が住めない惑星を人が住める環境に造り変えるなんてスケールが大きすぎて想像がつかんね。
「宙賊の動きですが、今までも精錬した金属を狙った宙賊が出没していたそうです、ただ、今後はコーマットⅢへの移民船や居住地などを狙った襲撃、居住地に物資を供給する貿易コロニーへの襲撃、それらの施設に向かう貿易船への襲撃が増加することが見込まれています。それで今回は私達が雇われたということですね」
「当然の話だけど、私達だけでそれら全てに対応することは不可能よ。だからダレインワルド伯爵家は傭兵ギルドを通して私達以外にも大量の傭兵を呼び寄せているし、コーマット星系を守る伯爵家の戦力も増強されているわ。帝国航宙軍からも戦力が派遣されてくるそうよ」
「帝国航宙軍からですかー……」
チラっとミミが俺に視線を向けてくる。うん、何が言いたいのかはわかるよ。今までの経験からすると、十中八九またあの人と顔を合わせることになると思う。何せ宙賊対策だしね。対宙賊独立部隊の活動目的にも合致する。
「シマが被ってるからな……そうと決まったわけじゃないが、まぁそうなるだろうと俺も思っている。もう諦めよう」
「そうですね」
「そうね」
俺達の謎のやり取りにワムド氏達が首を傾げているが、積極的に説明をする気はあまりない。下手に喋ってあることないことを面白おかしく喧伝されても困るしな。
「ダレインワルド伯爵家に直接雇用されている傭兵は俺達だけだ。十中八九馬車馬のように扱き使われると思うが、働けば働いただけ金になる。気合を入れていくとしよう」
「はいっ!」
「ええ、精々稼がせてもらいましょう」
「では、これより出港する。目標はコーマット星系の貿易コロニーだ。出港後、ダレインワルド伯爵家の護衛船団と合流し、ゲートウェイを使用してニーパック星系へと移動。そこからメルキット星系、ジーグル星系、ウェリック星系を経由してコーマット星系に入る」
『アイアイサー』
俺の号令にミミとエルマ、それに後ろで控えていたメイが応え、クリシュナを積んだブラックロータスはグラキウスサカンダスコロニーを出港することになった。
その様子を四つの記録装置が黙々と記録し続けるのであった。




