#199 出撃準備
長らくお待たせしました!
いや、なんというか夏の暑さとかさてぃすふぁくとりーとかえっくすふぉーふぁうんでーしょんずとかが同時に襲いかかってきたので……じわじわと更新再開していくから許してね!_(:3」∠)_(なお前と同じく月曜木曜はお休みです
ダレインワルド伯爵からの依頼を請けた俺達は早速依頼をこなすための準備に取り掛かることにした。準備と言っても、いざという時のために備蓄食料――つまりフードカートリッジを買い足しておくとか、簡易医療ポッド用の医薬品を買い足しておくとか、レーザーガンやレーザーライフル用の弾薬であるエネルギーパックの調達やその他武器の点検や整備、あとは購入した軍用戦闘ボットと換装システムの搬入と導入作業など……結構やることが多いな。
「で、そのクソ忙しい時にメディアが取材を申し込んでくると」
「ほんとごめんな、兄さん」
輸送システムや荷運びボットが慌ただしく荷物の搬出や搬入をしているカーゴ区画でティーナが申し訳無さそうに謝ってきたが、俺は首を横に振った。
「いや、別にティーナとウィスカが悪いわけじゃないし。やんごとなき面倒事も収束してきたことだし、そろそろ義理を果たす時なんだろうな」
やんごとなき面倒事は本当に厄介なアレだったよ。俺は船での戦闘はともかく、本来生身での戦闘は苦手だったというのに……今じゃジェ○イの騎士やシ○の騎士とも斬り結べそうな一端の剣士になってしまった。
いや、でもあいつらのはただの剣技だけじゃなくて謎の力を使った未来予測とか諸々込みの戦闘能力だからな……しかもわけのわからん力で吹っ飛ばしたり、首絞めたり、電撃を放ったりもするし。俺じゃ多分勝てないな。うん。
「それで打ち合わせとかも必要だと思うが、どういう流れで行くんだ?」
「ええと、連絡先のアドレスを預かってます」
「なるほど、こっちから連絡するわけだ」
こっちの連絡先を教えてないわけだから、まぁこんなものだろう。俺は俺でメディアに対する先入観があるからなぁ。まぁ、一発目の印象が最悪だったのが何もかも悪いんだが。
携帯情報端末を取り出し、ウィスカのタブレットから連絡先のアドレスを受け取って早速音声通信を開始する。
『はい、ワムドです』
携帯情報端末越しに聞こえてきたのは声に張りのある男の声だった。
「キャプテン・ヒロだ。スペース・ドウェルグ社からの出向員、ティーナとウィスカの仲介を受けて連絡した。俺の船を取材したいという話らしいが、詳細を聞きたい」
携帯情報端末越しにガタン、ガラガラ、バサバサというけたたましい音と、口汚い罵声のようなものが聞こえてきた。スピーカーモードにしていたので、音を聞いたティーナとウィスカがびっくりして目を丸くしている。
『し、失礼! 連絡を下さってありがとうございます! 連絡をお待ちしておりました!』
通信の向こうでペコペコとコメツキバッタのように頭を下げている男性の姿を幻視する。前にブラックロータスへと押しかけてきた連中とはかなり雰囲気の違う人物であるようだ。
彼は静かな――少なくともこちらからは雑音めいた他人の声などが聞こえない――場所に移動したようで、先程よりは多少落ち着いた様子で取材について話し始めた。
彼の話を要約すると、今回はスペース・ドウェルグ社だけでなく他のメディアも交えた合同取材のような形になるらしい。各社が自前で撮影機材を持ち寄り、情報交換をしながら取材を進めるという形式を取るそうだ。
「なるほど、まぁ取材の進め方に関してはプロに任せるとして、問題がある」
『問題ですか?』
「ああ、これから俺達はさる貴族家――いや、家名は明かしても良いか。ダレインワルド伯爵家の依頼を受けて動くことになる」
『あー……』
通信機の向こうからワムド氏のなんともいえない声が聞こえてくる。お貴族様関係の仕事をする傭兵の取材となると、メディア側としてもそのお貴族様に話を通さなければならない。当然ながら、その話を通すのは俺ではなくあちらの仕事である。
無論、俺としても完全に知らんぷりとは行かないので顔繋ぎくらいはするが、具体的な交渉はあちらの仕事だ。別に俺にはどうしても取材を受けなければならない差し迫った事情もないからな。ブラックロータス購入時のあれこれでスペース・ドウェルグ社に対する義理はあるが、義務を負っているわけではない。
契約書の内容的にも俺の仕事の邪魔になるような場合は取材を拒否できるという内容になっている。つまり、依頼人がメディアを拒否すれば取材を断る正当な理由になるわけだ。
「俺は取材を受けても構わない。しかし依頼人がそれを是とするかはまた別の話だ。その交渉は当然そちらでしてもらうことになる」
『そ、そこはなんとかお助け頂けると……』
「顔繋ぎくらいはするが、依頼の内容を軽々に漏らすことは当然できん。そちらは頭数がいるのだろうし、力を合わせて頑張ってくれ。今から依頼人に話をしてアポイントメントが取れるかどうか聞いてみる」
『うぅっ……お願い致します』
「ああ、できる限りのことはするよ」
急性胃痛でも起こしたのか、死にそうな声で懇願してくるワムド氏にそう言って通信を切り、すぐにクリスに通信する。
『はい、クリスティーナです。ヒロ様、どうされました?』
「ああ、ちょっと急な話で申し訳ないんだが――」
☆★☆
ワムド氏達とダレインワルド伯爵家との間でどのようなやり取りがあったのかはわからないが、ワムド氏達はなんとかダレインワルド伯爵家から取材の許可をもぎ取ったらしい。
「色々と条件はつけられたみたいやったけど」
「お兄さん達だけでなく、クリスティーナ様の取材も同時にするように言われたみたいです」
「クリスちゃんのですか?」
いつもの朝食――黄色っぽい甘いお粥みたいなやつだ――を口に運んでいたミミがスプーンを手に持ったまま首を傾げた。
「多分、次期当主となるクリスが立派に惑星開発の指揮を執る様子をメディアに取材させて、クリスの名声と権威を引き立てようとしているんじゃない? 幼いながらもバリバリと実務をこなす、れもゴールドスター受勲者にしてプラチナランカーでもあるヒロをしっかりと使いこなして――ということになればクリスも貴族社会では一目置かれるようになるだろうし」
「なるほどー」
エルマの解説を聞いてミミが納得したように頷く。俺も内心で頷く。あの単刀直入大好き爺さんがどのようにワムド氏を始めとしたメディア側の皆様方と交渉をしたのかは気になるところだが、しっかりと自分の――あるいはクリスの得になるような条件を引き出しているあたり、やはり彼は生粋の貴族なのだろう。
「物資の手配やら何やらの進捗はどうだ? とりあえず、軍用戦闘ボットの導入は今日で片が付きそうだが」
「こっちも今日中に片が付きそうです。仕入れてきた結晶生命体の素材も高値で売り捌けました」
「そいつは重畳。コーマット星系に持っていく商品も見繕っておいてくれ」
「わかりました」
ミミがそう言ってにっこりと微笑む。こうやってミミに交易の実務経験を積ませていって、いずれミミに輸送艦の運営を任せるのも良いかも知れないな。いや、でもそうなると一緒に居られなくなるな。それはダメだ。うん。何か他の方法を考えよう。
「なんか兄さんが百面相しとる」
「何か変なことでも考えているんでしょ」
「失礼な。将来の展望について思いを馳せていただけだ」
そう言って俺は高性能調理機『テツジン・フィフス』特製のモーニングステーキ(のような何か)にフォークを突き立て、口に運ぶのだった。うむ、今日もテツジンシェフの腕は最高だな。これが藻とオキアミめいた生物と香辛料から合成されたものとは到底思えない。
「将来の展望についてはとりあえず横に置いておいて、目の前のことを片付けないとな。今日も一日艦内での作業になると思うが、事故の無いように。今日も一日ご安全に、だな」
間違ってもろくに確認もせずにヨシ! とかしちゃダメだぞ。まぁ基本は機械に指示を出して機械任せなんだけどな、この世界の物流関係は。たまに設備の整っていないステーションや開発初期の惑星だと作業用のパワーアーマーや、昔ながらのフォークリフトのようなものを使って荷の積み下ろしをすることもあるようだけど。
「せやね。事故には気をつけんと」
「人間砲弾をぶっ放した経験のあるティーナが言うと説得力があるな」
「そうですね、お兄さん」
人間砲弾の直撃を食らった俺がそう言うと、砲弾として投げつけられた経験のあるウィスカが姉のティーナにジト目を送りながら同意した。
「もう……兄さんもウィーもあの件に関しては堪忍してや。反省してます」
「ほんとぉ……?」
「ほんとほんと、この純粋なうちの目を見たって」
じゃれあうドワーフ姉妹を微笑ましい気持ちで眺めながら俺は本格的に朝食をやっつけにかかることにした。ここ数日は穏やかな日々が続いているが、この調子で行って欲しいものだ。
嵐の前の静けさ、なんて言葉が脳裏を過ぎった気がしたが、きっと気のせいだろう。ははは。




