#193 プラチナランクvsプラチナランク
7/10に三巻が発売となりました! 是非買ってね!!!!_(:3」∠)_
補給と整備、それと三位決定戦に多少時間がかかるので、その間に俺達はクリシュナの食堂で軽食を取りながら決勝戦の対戦相手のリサーチをすることにした。
「プラチナランクねぇ。そんなホイホイいないんじゃなかったのか?」
「帝国内で活動しているのは三人――ヒロが増えたから四人ね。そのうちの一人が帝都周辺にたまたま居た、或いはゲートウェイを使える立場に居た、無くもない話だと思うわよ」
「こういうのを引き当てる辺りがヒロ様ですよね」
「俺だけじゃなくて俺達全員の運命力なんじゃないかな!」
俺一人がトラブルメーカーであるという論調は断固として否定していきたい。二人は生温かい視線を俺に向けてきているけど、二人の運命の数奇さ加減も相当だと思うぞ?
「それよりもほら、これが準決勝の様子よ」
そう言ってエルマが俺達の試合の前に行われていた準決勝第一試合の映像をホロディスプレイで流し始める。
「これはかなり改造されてるな……改造元の機体はウルフ系の機体だな」
「ウルフ系?」
「ステッペンシップインダストリー社製の戦闘艦だ。あの機体は多分指揮装備をオミットしたベータウルフを改造した機体だろう。中型艦の割に軽量で運動性が高い。武器を装備できるハードポイントは中型艦としては少なめだが、積載量もそれなりに多いから強力な武装を積みやすい。中型艦だから、ジェネレーター出力もシールド容量も小型艦より上だ」
「……強くないですか?」
「強いな。俺としては速度と運動性が物足りないが、そこそこ動けて堅くて武装は強力。愛用者が多い機体だと思うぞ」
問題は積んでる武装なんだが。
「げっ」
改造ベータウルフから発射された緑色の光弾が対戦相手に着弾し、一撃で撃破判定が入ったのを見て思わず声を出してしまう。
「これは厄介ね……当たればの話だけど」
「な、なんですか今の武器」
「プラズマキャノンだ……うわぁ、一番嫌なタイプの武器が来たなぁ」
プラズマキャノンは大変強力な武器だ。射程は長いが弾速は遅く、真正面にしか撃てない代わりに威力は非常に高い。シールドと装甲を貫通して船体に直接被害を与える貫通系武器の一種である。
言うなれば、弾速が遅い代わりに威力が更に上がって遠くまで飛ぶようになった散弾砲のようなものだ。クリシュナの防御はシールドと装甲に頼っているので、船体に直接ダメージを与えてくるタイプの貫通系武器に弱い。なんだかんだでクリシュナは小型艦だからな。ちなみに、同系統の所謂貫通武器というのは散弾砲――シャードキャノンと、ブラックロータスに搭載しているようなレールガン、今回の対戦相手が装備しているプラズマキャノン、後は一応シールドを貫通する対艦魚雷や対艦ミサイルの類と、格闘武器――つまり船で相手に突っ込んでダメージを与える衝角や対艦ブレードなどの五種類だけである。
ということをミミに説明した。
「なるほど……でも、ヒロ様なら避けられるんじゃないですか?」
「普通に撃ってくる分には問題ないと思うけどな。良いか? ミミ。ああいう変態武器を使う連中ってのは、当てるための戦術を用意しているし、必中のタイミングを絶対に逃さないんだ。あの武器を装備した艦でプラチナランクになって、ちゃんと決勝戦まで勝ち残ってきてる奴がラッキーヒットを狙ったお願いブッパなんてしてくるはずがない」
「シャードキャノンなんて色物武器を使いこなしてるヒロが言うと説得力があるわね」
「散弾砲は近づいて撃てば当たるから変態武器じゃないし」
おいなんだその顔は。二人ともここのところ少し俺に対して厳しくないか?
「そういうことにしておくわ。とりあえず、プラズマキャノンに注意ってことね」
「引っかかる言い方だが、まぁそうだな。ああいう直射武器にはチャフもECMも効かないから常に気が抜けないぞ」
機械照準ではなく直接照準で真正面にだけ飛ぶタイプの武器に照準欺瞞装置は無力である。クリシュナの散弾砲とかな。ちなみに重レーザー砲は影響を受ける。
「そう言えば、本人はどんな奴なんだ?」
「ええと、キャプテン・バンクスという方みたいですね」
「沈黙のバンクスね。有名な傭兵よ」
「何それ強そう」
一人で宙賊艦に乗り込んで無双しそうな名前だ。コックを名乗ったりしてな。
「まぁ、プラチナランク傭兵は誰も彼も個性的なんだけど……」
チラリとエルマが俺を見てくる。俺は個性的とは……言い難いとは言えないかなぁ! いや、俺の個性を出しているのはミミとエルマという二人の美女を侍らせているという点に集約されているから。きっとそうだから。俺個人の個性はそうでもないから。多分。
「サイレント・バンクス、マスクド・バンクスとも呼ばれたりするわね。とにかく無口な人で、人と合う際には常に仮面を外さないらしいわ。意思疎通も携帯情報端末を使うという徹底ぶりよ。まぁ、変人奇人の類よね」
「ただ、腕は良いと」
「はい、折り紙付きですね。今キャンプテン・バンクスの戦歴を見ているんですけど、戦闘艦の総撃墜数が物凄いです」
「経験も豊富ってわけだ。厄介だなぁ」
今回は流石に楽勝というわけには行かなそうだ。
☆★☆
「さぁ、急遽執り行われた御前試合もこれで最終戦です! これまで全ての御前試合で実力を見せつけてきたキャプテン・ヒロ! 対する最後の相手は奇しくもキャプテン・ヒロと同じプラチナランク傭兵のキャプテン・『サイレント』・バンクスです!」
「プラチナランク傭兵同士の戦いですね。これはそうそう見られるものではない、大変貴重な体験となるでしょう。宙賊や宇宙怪獣を相手に日々戦い続ける傭兵の頂点同士の戦いに期待が募ります」
既に試合開始位置に着いている俺達はアナウンサーと解説の女軍人さんの話を聞きながらこれから始まる戦いに向けて集中力を高めて――。
「しかし勝っても負けてもこれで乱痴気騒ぎも終わりかと思うとホッとするな」
――いなかった。
「帝城暮らしは落ち着きませんしね……ルシアーダ皇女殿下とのお茶会ができなくなるのは残念ですけど」
「ミミは王女殿下と仲良くなったものね。ヒロもイゾルデさんと会えなくなって残念ね?」
「イゾルデとは本当にそういうのじゃないから」
「知ってるわ」
エルマがクスクスと笑う。からかうのは良いが、からかうならもう少し穏便な内容にして欲しい。
「全ての準備が整ったようです! では、御前試合航宙戦の部、決勝戦開始です! カウントダウン、スタート!」
最終戦のカウントダウンが開始される。泣いても笑ってもこれが最後だ。精々気合を入れていくとしよう。どうせなら華々しく全勝したいからな。
☆★☆
試合開始と同時に俺は下部ウェポンベイを解放し、対艦反応魚雷を一本発射した。ウェポンベイから発射された対艦反応魚雷は慣性で少し進んだ後に設定通りにその場でピタリと止まった。
「えっ?」
「集中しろ。ミミ、今のを含めてこれから発射する対艦魚雷の位置をレーダー上にマークしておけ」
「は、はいっ!」
俺の突然の行動にサブパイロットシートに座っていたエルマが俺に視線を向けてくるが、俺はそれに構わずミミに指示を出して船を動かす。バンクスの黒い改造ベータウルフ――シャドウウルフはメインスラスターを噴射してこちらへと間合いを詰め始めているようだ。やはり向こうとしてはプラズマキャノンを当てるために中~近距離で戦いたいのだろう。
「付き合うつもりは無いぞ」
俺はクリシュナの後退用スラスターを噴射し、シャドウウルフに間合いを詰められないように立ち回る。敵の武装は二門のプラズマキャノンと二門のシーカーミサイルポッド、それに三門の高出力レーザー砲だ。中型機としては武器のハードポイント数は少なめだが、どれも火力の高い油断ならない武器である。だが、遠距離でクリシュナと撃ち合える武器はシーカーミサイルポッドと三門の高出力レーザーだけだ。こちらも使えるのは四門の重レーザー砲だけだが、シーカーミサイルの対処だけしっかりやればダメージレースではこちらが勝てる。問題は耐久力が向こうを上回れるかどうかだが……。
「どうだ?」
「微妙にジリ貧だと思うわ」
「なるほどな。まぁ時間を稼ごう」
二発目の対艦反応魚雷を発射しながら艦の向きを大きく変えて全速力でシャドウウルフの側面に回り込む。基本的に航宙艦というのは艦首を上げ下げするのに比べると、艦首を左右に振るのは反応が遅めだ。左右に振るなら艦をロールさせて艦首の上げ下げで対応したほうが早いように作られているのだ。
当然、バンクスのシャドウウルフもこちらの急な動きに対応して艦をロールさせ、艦首をこちらにピタリと向けてくる。いや、本当にピタリと向けてきやがるな。
「プラズマキャノン来ます!」
「おっと」
ミミの警告に受けて回避行動を取る。そうすると、回避行動を取らずにいたら直撃する軌道で緑の光弾が宇宙空間を引き裂いて飛んでいった。見事な偏差射撃である。その間にもチャフで欺瞞しているにも関わらず高出力レーザー砲撃がクリシュナを掠めていくのでまったくもって油断ならない。
「ねぇ、さっきから何をしているの?」
恐ろしい精度で飛んでくるプラズマキャノンを避けながら三発目、四発目の対艦反応魚雷を発射して待機させると、遂に我慢ならなくなったのかエルマがじれったそうに聞いてきた。
「仕込みだよ、仕込み。あとは仕上げを御覧じろってな。さぁ、キツい戦闘機動で行くから気合を入れろよ」
そう言いながら再びクリシュナの艦首を切り返し、今度はシャドウウルフとの間合いを詰めていく。近寄れば被弾の恐れは高くなるが、射線から外れることも容易になる。要は、回避不能な距離で相手の正面に立たなければ良いわけだ。当然、こちらにも散弾砲があるからあちらにも多大なプレッシャーがかかる。クリシュナの散弾砲を至近距離で喰らえばあちらも無事では済まないからな。
「おぉっとぉ! 超至近距離でのドッグファイトになったぁ!」
広域通信でアナウンサーのやかましい声が聞こえてくる。シャドウウルフの戦闘機動は実に巧みだ。艦の慣性をコントロールし、加減速を用いてこちらの射線を的確に外し、逆にこちらを射線に捉えようとしてくる。敵艦のプラズマキャノンがクリシュナのすぐ側を掠めて飛んでいく。無論、こちらもそう易々と当たってはやらない。この超至近距離では流石に機動性がモノを言う。
「シーカー!」
「チッ!」
流石にこの至近距離でのドッグファイトは分が悪いと思ったのか、シャドウウルフは自爆覚悟の至近距離でシーカーミサイルを大量にばら撒き始めた。いかにクリシュナのシールドが強固とは言っても、大量のシーカーミサイルによる爆発に巻き込まれては一溜まりもない。
俺は"喜んで"その場から逃げ出した。アフターバーナーも噴かし、脇目も振らず最大速度でシャドウウルフとの距離を空ける。シャドウウルフも当然その後ろについてくる。今頃バンクスは無防備なクリシュナのケツを見てほくそ笑んでいることだろう。だが、それが命取りだ。
「これで詰みだ」
パイロットシートのコンソールを操作する。すると、シャドウウルフがプラズマキャノンを発射する前にシャドウウルフの至近距離とそれ以外の離れた三箇所で大爆発が起こった。爆発したのは予め発射しておいた対艦反応魚雷だ。至近距離での反応弾頭の爆発によってシャドウウルフに撃墜判定が下り、試合終了のブザーが鳴り響く。
「おぉっとぉ!? 何が起こったァ!?」
「これは……キャプテン・ヒロが発射していた対艦反応魚雷ですね。どうやら両者はドッグファイトをしているうちに三発目に発射した対艦反応魚雷のすぐ近くまで移動していたようです。信じ難いことですが、どうやらキャプテン・ヒロはドッグファイトを利用してキャプテン・バンクスを対艦反応魚雷のすぐ側までおびき寄せ、機を見計らって自爆させたようです……こんなことが可能だとは」
解説の女軍人さんが解説しながら戦慄している。一対一の対人戦でしか使えない初見殺しだけどな、置き魚雷は。しかも一度タネが割れると二回目はなかなか通じない。速攻でぶっ壊されたりするからね。
女軍人さんの解説が続く中、クリシュナに短距離通信で一通のメッセージが入ってきた。
『見事にしてやられた。次は勝つ』
メッセージの発信元はバンクスのシャドウウルフだった。