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#186 御前試合:白刃戦の部

レビューを頂きました! ありがとうございます!_(:3」∠)_(嬉しくて転げ回る

 近衛騎士達と訓練をしながら過ごすこと更に二日、御前試合白刃戦の部が始まった。


「結局俺も出ることになってるんだが。一応シードだけど」


 トーナメントの優勝者と俺が戦うんじゃないかな? という希望は無惨に打ち砕かれた。一度の戦いでゴールドスターを受勲するに足る存在かどうかを判断するのは難しかろう、という皇帝陛下の――ファッキンエンペラーの鶴の一声で俺もトーナメントに出ることが決まったらしい。一応シード扱いになっているのはせめてもの情けだろうか。


「もう諦めなさい」

「頑張ってください!」


 しかも俺の待機場所は試合会場を見渡せる特等席である。試合会場を見渡せるということは、試合会場のどこからでもこちらが見えるということで、しかもなぜか用意されている席が三人で座るには若干窮屈な――つまり密着しないと座れないような大きさのソファであった。ご丁寧にいい感じに湾曲している背凭れのせいで、三人で座るには本当に密着するしかない。


「さて、今回の御前試合が開催される切っ掛けとなった人物、キャプテン・ヒロですが……御覧ください! 美女を両脇に侍らせて余裕の表情です!」

「メディアによる捏造を感じる」

「……会場のセッティングは内務府よ」

「つまりあのファッ――」

「ダメですヒロ様!」


 ミミが慌てて俺の口を手で塞いでくる。確かにこの場でファッキンエンペラーとか口に出すと危なかったな。ミミに感謝――。


「強者の余裕でしょうか!? 注目されていてもお構いなしにいちゃついていますね!」

「挑戦者達の視線の鋭さが二割ほど増したように思えます。各挑戦者、戦意は十分のようです」


 アナウンサーと解説者がウザくてキレそう。おォンてめぇらどこの局の差し金じゃワレェ!?


「さて、場も温まってきたところで第一試合が開始されるようです」


 俺の殺気を感じたのか、アナウンサーと解説者が試合場の挑戦者達へと話題を移す。

 第一試合は帝国航宙軍所属の騎士と白刃主義者らしき貴族とがやりあうようである。


「どう?」

「白刃主義者の貴族のほうが一枚上手に見えるな。多分、普段の訓練の目的が違うからだろう」

「どういうことですか?」

「帝国航宙軍所属の騎士が主に剣を振るう相手は、恐らく剣を持っていない相手だ。宙賊とか、他国の兵士とかな。それに対して、白刃主義者の貴族は普段から剣を持った相手との戦闘を前提に訓練している。その差が出るんだろうな」

「なるほどー」


 俺の予想通り、白刃主義者と思しき貴族が帝国航宙軍所属の騎士を打ち負かした。第二戦は貴族同士の戦いだったが、実力が隔絶していたのか一瞬で終わった。次は近衛騎士と貴族が戦い、近衛騎士が危なげなく勝利した。帝国航宙軍の騎士同士の戦いもあったが、実力が伯仲しているのかなかなか決着がつかなかった。しかし、最後には小柄な方の騎士が勝利した。多分女だ。


「キャプテン・ヒロ様。試合の順番が近づいておりますので、ご準備をとのことです」


 メイド服のようなお仕着せに身を包んだ女性が現れ、そう言った。左右にミミとエルマを侍らせている俺を見る彼女の目は非常に冷たかった。ゴミ屑を見る目だった。ゾクゾクするな。


「それじゃあ行ってくる」

「ヒロ様、頑張ってください!」

「怪我をするような事はないと思うけど、気をつけなさい」


 声をかけてくれるミミとエルマに手を振って案内してくれるメイドさんの後ろについていく。案内された先には様々な形状の模擬剣が用意されている場所だった。長さや形状、重さごとに分類されている模擬剣の中から俺が使っている剣と同じものを選び、腰の剣帯に差す。そこで外から歓声が聞こえてきた。どうやら試合が終わったらしい。


「ご武運を」

「どうも」


 ゴミ屑を見るような視線を俺に向けたまま、メイドさんが実に心の篭もった声援をかけてくださった。とりあえず、あのソファを用意したのは俺でなく内務府なのでその視線を向けるのを止めて欲しい。


「さぁ、皆様お待ちかね! 今回の御前試合開催の切っ掛けとなった新進気鋭の傭兵、キャプテン・ヒロの登場です!」


 御前試合の会場が騒然とする。歓声よりブーイングの類の方が多いように聞こえるのは気のせいだろうか? 気のせいじゃねぇな? 両手の中指を立てて挑発でもしてやろうかな? 悪役ヒールプレイも嫌いじゃないよ、俺は。


「対するは新進気鋭の剣客として名を馳せつつある若き男爵、クライアス卿です!」


 歓声をバックに見覚えのある貴族の男が対戦場の反対側から姿を現す。


「こうなることを期待してこの御前試合に挑んだが、早々に目的を達成できた」

「ははぁ、なるほど。俺にぶちのめされて、無様に地に這わされることをお望みで? ドMかな?」

「貴様……どこの馬の骨ともわからぬ雑種の分際で、俺を侮辱するのか」


 ニヤニヤとウザったい笑みを浮かべていたクライアス男爵の表情が一変し、憤怒の感情を顕にする。こいつ、精神的に不安定過ぎやしないか?


「やだこわーい。感情をコントロールできないと剣が鈍るぞ? お貴族様?」

「叩き殺してやる」


 クライアス卿が剣を抜く。それに合わせて俺も二本の剣を抜き、構える。


「双方ともに戦意は十分のようです! では、試合開始!」


 アナウンサーの声と同時にブザーが鳴り響き、試合が開始される。クライアス卿は剣を上段に振りかぶって突撃してきた。彼の激しい気性をそのままに表したような攻撃一辺倒の所作である。恐らく、それが彼の持ち味なのだろう。俺は左手の剣を突き出し、右手の剣を担ぐようにして一歩踏み出す。


「ちぇあぁっ!」


 クライアス卿は十歩ほどもあった間合いを瞬く間に詰め、激しい袈裟斬りを放ってきた。その剣速はとにかく疾くまるで雷のような一撃だ。電光石火の一撃とはこういう一撃のことを指すのだろう。俺はそんな一撃に左手の剣を合わせ――なかった。

 強力な攻撃とわかっていてわざわざ受ける趣味は俺にはないので、踏み出した足を引きながら体勢を変え、クライアス卿の斬撃から軸をずらして電光石火の一撃を回避する――と同時に右手の剣で斬撃を放った。速度はそこそこだが、威力は殆ど無い一撃だ。


「ぐっ――!?」


 しかし、その斬撃を放った位置にクライアス卿の手が向こうから当たりに来た。電光石火の一撃を外したクライアス卿が放った返しの刃。その返しの刃を放つクライアス卿の剣を握る手が通る軌道。そこに俺は斬撃を『先に置いた』のだ。

 たちまちにクライアス卿の手首や指がまとめて『切れ飛んだ』という判定が下り、返しの刃を放つ途中でクライアス卿が剣を取り落とす。そこに俺は容赦なく左手の剣で斬撃を放ち、クライアス卿の右足を斬りつけた。今度はクライアス卿の右足に切断判定が入り、彼の右足が力を失う。

 俺は武器を失い、足を失ったクライアス卿の首を右手の剣で容赦なく刈り取った。

 死亡判定のブザーが鳴り響き、御前試合の会場がざわめきに包まれる。首を刈り取られ、死亡判定を受けたクライアス卿は呆然としていた。


「こ、これは驚きの結果です! 一体何が起こったのか!? クライアス卿が突然剣を取り落とし、勝負が一瞬で決まったぁ!?」

「……恐るべき剣の冴えです。傭兵ヒロの剣には一切の無駄がありませんでした。彼はクライアス卿の攻撃を完璧に見切り、技を完璧に予測し、クライアス卿自身にクライアス卿を斬らせたのです。常軌を逸する動体視力と先を読む力、そして正確無比な斬撃、それらが全てが合わさった技巧の剣ですね」


 模擬剣を腰の鞘に収め、試合会場を後にする。クライアス卿は呆然としてしまって未だに立ち上がれないようだ。まぁ係員の人とかが上手い具合に連れ出してくれるだろう。

 待機席へと戻る途中、近くに居た観客の一人が拍手をしてくれた。その拍手が徐々に広がり、会場中の観客達が拍手をしてくれた。俺はそれに応えて手を挙げたりなんぞしながら席へと戻るのだった。


 ☆★☆


「ヒロ様! 凄かったです!」

「メイに毎日のようにボコボコにされていた成果ね」

「そうだな、血反吐を吐いて血尿まで出した成果だな」


 クライアス卿のあの戦い方はメイに何度もやられたからな。白刃主義者の貴族の間ではメジャーな流派らしい。電光石火の一太刀で防御ごと敵を斬り殺し、一撃目を避けられた場合でも同じく電光石火の返しの刃で殺す。二撃必殺の流派だ。最初は一撃目を防ごうとして防御ごとぶっ飛ばされまくり、一撃目を受けずに避けたら二撃目の返しの刃にぶっ飛ばされまくり、二撃目も避けて見せたら再びの一撃目でぶっ飛ばされ……というような感じで攻略するまでに滅茶苦茶ぶっ飛ばされた。血反吐も吐きまくった。二撃目の返しの刃に斬撃を置いて対処するという攻略法を編み出すまでに何度血反吐を吐いたことか。成功したら成功したで、今度は変化技でぶっ飛ばしてくるしな!

 剣だけでなく、敵の身体の全体を観察して次にどういう風に動こうとしているのか? その体勢からどんな斬撃が飛び出してくるのか? それに対応するためには自分はどのような体勢で、どこに斬撃を放てるようにしておくべきなのか? そういう先を読む力を強制的に養わされた。

 なぁに、レーダーの限られた情報だけで宇宙空間を自由に飛び回る宇宙船の軌道を読むのに比べたら軽い軽い。人間である以上、身体の可動域というのは完全に決まっている。それさえ把握できればどんな体勢からどんな斬撃が飛んでくるのかを予測するなんて簡単簡単。

 予測できないと金属棒でぶっ叩かれて血反吐を吐きながら吹っ飛ぶことになるからな。必死にもなるよ。

 それから俺は二度戦った。二人目に対戦したのは帝国航宙軍所属の騎士だった。小柄な彼――ではなく彼女は徒に攻めかかってくるようなことはせず、守勢の剣で堅実に俺と戦おうとした。しかし俺は両手の剣で激しく襲いかかり、彼女のカウンターを誘発してそのカウンターにカウンターを叩き込んで彼女を無力化した。

 次に戦ったのは近衛騎士団所属の初老の騎士だった。この近衛騎士は手強かった。引くべき時は引き、攻めるべき時に攻めてくる。しかしそれでもメイに比べれば動きは遅く、剣は不正確で、力は弱かった。俺は接近戦に持ち込み、二本の剣の手数を生かして詰将棋のように彼を徐々に追い詰め、最終的に致命の一撃を彼の脇腹に差し込むことに成功した。強敵だった。


 そして、四戦目。


「正直に言えば、お前と戦うことは無さそうだと半ば諦めていた」

「さようですか」


 俺の目の前に立っている男の耳は長かった。そしてその顔には見覚えがあった。


「私が勝ったらエルマを解放してもらうぞっ!」

「や、勅命でそういうのはダメってことになってるでしょ、お義兄さん」

「私を義兄と呼ぶなっ!」


 エルフの男――エルンスト・ウィルローズが俺に指先を突きつけ、唾を飛ばさんばかりの剣幕で叫び、腰の模擬剣を抜いた。俺も二本の剣を抜き、構える。試合開始のブザーが鳴った。


「ハァッ!」


 エルンストはアウトレンジからの攻撃に徹してきた。決して俺との間合いを詰めようとせず、チクチクと攻撃を繰り返してくる。


「おいおい、腰が引けてるぞ」

「挑発には乗らん!」


 どうやらエルンストはこれまでの俺の戦いをよく分析しているようだった。下手に攻め込んで痛烈なカウンターを食らうことを警戒しているようだ。同時に、間合いを詰められて二刀によるラッシュもかけられないように間合いも保ち続けている。

 いくら俺も鍛えているとはいえ、流石に身体強化を施している貴族に身体能力や純粋な敏捷背で勝つことは不可能だ。こうして逃げに徹されると俺は間合いを詰めることができない。普通の方法では。


「すぅ……ッ!」


 俺が息を止めると、世界がゆっくりと動き始める。


「何っ!?」


 俺の身体の動きも若干鈍るが、それは周りの世界の動きほどではない。驚愕の表情を見せるエルンストとの間合いを詰め、ゆっくりと動く世界の中で斬撃を放ち、防御も回避も間に合わない一撃をエルンストの剣を持つ手に見舞う。


「馬鹿なっ!? なんだ今の動きはっ!?」

「切り札の一つくらいはあるさ」


 剣を取り落とし、驚愕の表情を浮かべるエルンストに向かって両手の剣で同時に斬撃を放ち、胴体を四分割にするようにぶった切ってやった。死亡判定のブザーが鳴り、試合が終了する。


「んじゃ、俺の勝ちってことで今後はエルマのことについて口を出さないように」


 悔しげな表情を見せるエルンストにそう言って俺は試合場を後にした。

 なお、俺はこの後更に二勝し、白刃戦の部で堂々の優勝を果たすのだった。

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― 新着の感想 ―
身体能力や純粋な敏捷背で勝つことは  敏捷性かな
[気になる点] レーザーを弾く白刃主義者が剣で斬られるものかなー とも思うのですが、考えてみればレーザーは光の速度なので「銃口を向けられた、射線に入った」時にはもう構えてる必要性があるので 脳を強化す…
[一言] 近衛騎士はまだ分からんでもないが仮にも歓待用の要員があからさまに侮蔑の視線向けるってちょっと人員のレベル低すぎない……? 意図的にそうしろと指示されてない限り国家のレベルそのものが疑われるん…
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