#183 私的謁見
昨日はちょっと知り合いのゴリラから受け取ったアレコレでわるいまおうになってしまってな……朝五時過ぎまでえちちなのを書きなぐってしまって寝不足なんですちょっと短いけどゆるしてください!_(:3」∠)_
部屋に入ると、そこは落ち着いた雰囲気の応接室のような部屋だった。イメージしていたよりも二回りくらいは小さい印象を受ける。しかし調度品はどれも一目で高級品だろうとわかる。なんというか、一つ一つの品が醸し出すオーラが違うのだ。歴史を感じると言い変えても良い。
そして、その部屋の中央。これまた高そうな木製の丸いアンティークテーブルに着いている人物が二名。一人は一目で只者ではないと感じさせるオーラを放つ厳しい顔の中年男性。もう一人は見慣れているけど、見慣れていない顔――ルシアーダ皇女殿下その人であった。
「陛下、傭兵のヒロとその仲間をお連れ致しました」
「うむ」
エルドムアの言葉に中年男性が重々しく頷き、ジッと俺の目を見つめてきた。なんだか目を逸らしてはいけないような気がしてこちらからもジッと中年男性を見つめ返す。
「……其方は何者だ?」
エルドムアに陛下と呼ばれた中年の男性――つまりグラッカン帝国の皇帝は俺にそう問いかけてきた。抽象的な問いかけだ。哲学的とすら言える。平たく言えば何言ってんだこいつ? って感じだ。
「ええと、傭兵ですが」
「ふむ、そうだな。確かに傭兵だ。我もそう聞いておる。だが、我が問うているのはそのような表層的な事柄ではない。キャプテン・ヒロと名乗る其方は何者なのか、と問うている」
本当に何を言っているんだ、この皇帝陛下は。
「それは哲学的な意味ででしょうか?」
「其方はある日突然この宇宙に現れた。帝国暦5672年8月4日、ターメーン星系のセクターαにおいて、恒星系レーダーが初めて其方の船を観測した。突如、何の前触れもなく其方の船はそこに現れた。ハイパースペースからのワープアウト時に発生する時空震だけでなく、その他のエネルギー波も一切観測されないまま、まるで最初からそこに在ったかのようにな」
俺の質問を無視して皇帝は朗々と言葉を紡いだ。その内容に俺は危機感を覚える。皇帝がその情報を知った上で先程の質問をしてきたのだと言うのなら、その意味合いは俺が認識していたものと大きく変わってくる。
「その後の行動も追跡できている。出処不明の高純度レアメタルを換金し、暫く船に篭もって情報収集をしたようだな。その検索内容も実に興味深い。ソル、アルファ・ケンタウリ、バーナード、シリウス、プロキオン、タウ・セチ……ギャラクシーマップでそんな名前の恒星系を探したようだな?」
「……」
皇帝が列挙したのは俺がこの世界に来て、ターメーンプライムに着いてすぐに行った情報収集の際、俺が打ち込んだ検索ワードだ。
「文字入力の速度、同じワードでの再検索回数とそのタイミング、ワードからワードへの切替速度。情報分析官は絶対にあるはずのものが見つからず困惑しているのが見て取れる、と言っていたそうだ」
やだこわい。そんな情報のログまで残っているのも怖いし、そんな情報も取得できる仕組みになっているのも怖いし、そんな情報から心理状態を読み取る情報分析官とかいう奴も怖い。国家権力パネェ。
「降参です、陛下」
俺は両手を挙げて言葉通りに降参の意を皇帝陛下に示した。その様子を見た皇帝陛下は満足そうに笑みを浮かべ、頷く。
「うむ、潔し。では、其方の正体を其方自身の言葉によって詳らかにせよ」
「長く、それに突拍子もない話になります」
「良い、話せ」
そう言って皇帝陛下は席に着くように目で促してきた。エルドムアに視線を向けると頷いたので、観念して俺は皇帝陛下とルシアーダ皇女殿下が座るアンティークテーブルに用意された席に腰を下ろした。ミミとエルマも俺の両隣に座る。エルドムアとメイは離れた所に立ってこちらを見守るようだ。
陛下がぱちん、と指を鳴らすと俺達の前に温かいお茶の入ったティーカップが現れ、次いで皿に乗った美味しそうなお菓子まで現れる。俺の目ではこれがSF的な技術の産物なのか、それとも魔法的な何かなのか全く判別がつかない。何はともあれ、場は整えられたということだった。
☆★☆
「ハハハッ! そうして其方と其方の優秀なメイドは強欲なドワーフどもから三割も値切り、まんまと母船を手に入れたのか?」
「はい、陛下。ちなみに、ドワーフはその後も帝都のコロニーでやらかしまして。今頃は俺達への取材の優先権を差配するために不眠不休で駆けずり回っていることでしょう」
「はっはっは! 愉快痛快とはこのことだな! なぁ、ルシアよ?」
「はい、お祖父様」
皇帝陛下が呵呵大笑し、、ルシアーダ皇女殿下が釣られるようにクスクスと笑う。
皇帝陛下とルシアーダ皇女殿下は俺の身の上話――というか傭兵話? 冒険譚? に大いに興味を示した。ミミの祖母であるセレスティア様も自由な生活に憧れて帝室から飛び出したという話だが、基本的に帝室の方々というのは好奇心旺盛で冒険や自由な生活に憧れているのかもしれない。
「ルシアよ、覚えておけ。帝国の隅々まで目を向けるとな、いつの時代にもこやつのような『持っている』人間というのが何人かおるのだ」
「はい、お祖父様」
ニコニコと微笑みながらルシアーダ皇女殿下が頷く。
うん、これはあれだ。皇帝陛下に思いっきり気に入られたな。友人としてとかそういう意味でなく、観察対象としてというか鑑賞物としてというか、そんな感じで。
「こういう『持っている』人間というのはな、常人では考えられんような因果をその身に引き寄せる。方向性はその者によって違うが、こやつに収束するのはトラブルと女難といったところかな?」
「勘弁してください、陛下。最近本当に洒落にならなくなってきているんです。誰かが不吉なことを言うと、本当にその通りになるんですよ」
「ククク、其方がそう言うのであればそうなのだろうな。どれ、では我からも其方の運命に彩りを加えてやろう」
そう言って皇帝陛下がニヤニヤと笑う。おいやめろ馬鹿。銀河帝国の皇帝陛下の言葉はあまりに重い。色々と洒落にならない。
「エルドムアよ、勅を発する」
「はっ!」
「我はこの男、傭兵ヒロの実力を目にしたい。近衛騎士、帝国軍人、貴族の子弟、傭兵から選りすぐりの腕利きを集めよ。久方ぶりの一等星芒十字勲章の受勲者だ。ゴールドスターを授かるに足る力を本当に有しているのか確かめたい者も多いだろう」
「御意」
おいぃぃぃ!? 何言ってんだてめめぇぇぇ!? 思わず叫んで立ち上がりそうになるが、左隣からエルマの手が伸びて俺の口を素早く塞ぎ、右隣からミミが抱きついてきて俺が立ち上がろうとするのを止める。
「仔細は任せる、良きに計らえ。褒美は……そうだな、キャプテン・ヒロがその実力を十分に示した暁にはヒロとミミを一等帝国民とし、上級市民権を与えよ。ただし、爵位を与えて帝国に縛り付けることは罷りならん。そんなことをすれば此奴は帝国から逃げ出してしまうだろうからな」
さすが皇帝陛下、よくわかっていらっしゃる。クソが。
「傭兵ヒロに打ち勝った者には名誉と褒賞を与えよ。その者が望むものをな。ただ――」
皇帝陛下の視線がミミとエルマに向けられ、次いでメイにも向けられる。
「傭兵ヒロの身内に手を出すこともまた罷りならん。そうなると殺し合いになる故な。我も此奴に嫌われたくはない。この条件なら其方も納得できるであろう?」
そう言って皇帝陛下はもう一度ニヤリと笑った。本当にクソだなこの野郎。いつかギャフンと言わせてやるぞ。