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#180 帝都に降り立つ

ギリギリセーフ!_(:3」∠)_

 皇帝陛下との謁見はセレモニーの後という形になった。久しぶりのゴールドスター受勲者と言葉を交わしたい、という形で俺達がセレモニーが終わった後にそのまま呼ばれるという形になるわけだ。

 セレモニーの開催日も四日後ということに決定し、俺達はセレモニーの際に着ていく衣装に着替えてメイの指導の下に立ち居振る舞いのレッスンをすることになった。


「ヒロ様、かっこいいです!」

「まぁまぁね」

「そいつはどうも」


 シエラⅢでクリスが仕立ててくれた貴族服に袖を通し、腰の剣帯に二本の剣とレーザーガンをぶら下げた俺を見てミミとエルマが褒めてくれる。まぁ、貴族服って言っても俺の印象としてはかなり軍服寄りなんだよな。見た目以上に動きやすいのは白刃主義者の影響だったりするんだろうか。


「二人だって綺麗だぞ」

「えへへ、ありがとうございます」

「ドレスが良いのよ」


 ミミは先日購入した清楚で上品な感じの白を基調としたドレスで、エルマはスタイリッシュな萌葱色のドレスだ。二人とも派手過ぎない程度に宝飾品の首飾りや耳飾りを身に着けており、まるで貴族のお姫様のようである。


「……実質的には皇族のお姫様と子爵家のお姫様なんだよな」

「あー……うん、まぁ、そうね?」

「わたしはふつうのころにすとです」


 どうやらミミ的に自分の真の出自というか、血筋に関することはトラウマというかタブー的な話題になってしまったらしい。まぁ、気持ちはわからんでもないけれども……会ったこともない自分のお祖母さんが実は皇族で、自分にもその血が間違いなく受け継がれているとか言われても困惑するしかないものな。

 グラッカン帝国において皇族という存在は本当に特別な存在として扱われている。一般人の多くは貴族に対して畏れではなく恐れを、敬意ではなく上級国民に対する劣等感――ルサンチマンに近いものを抱いているようだが、皇族に対しては純粋に畏れと敬意、あるいは崇拝に近い感情を抱いているようなのだ。

 ミミが帝室に入らず、普通のコロニストとして、或いはこの船のオペレーターとして生きようと考えるに至った理由もなんだかんだで『あまりに畏れ多い』という思いも強いようである。俺としては一緒に居てくれることを選んでくれたのは嬉しい限りなんだけれども。


「皆様、衣装を完璧に着こなしていらっしゃいますね」

「せやな。兄さんもかっこええやん」

「うん、似合ってる。かっこいいです。ミミさんとエルマさんも素敵です」


 メイとティーナ、ウィスカが本番に着ていく衣装を身に着けた俺達を見て口々に褒め称えてくれる。


「ティーナとウィスカは本当にセレモニーに出ないのか?」

「や、うちらはマジで一般人やし。そんなお貴族様ばっかのお上品なセレモニーとかパーティーとか無理やで」

「着ていく服もありませんし、そもそもこの船の正式なクルーでもないですから」

「別に服くらい買ってやるけど。そんなに高いものでもなし」

「数万エネルを高いものじゃないと言うのは流石やけど、そんなん贈られてもうちら何も返されへんもん」


 ティーナが苦笑いをしながらパタパタと手を振る。


「そうか? メイはどうだ?」

「私はメイドですから」

「そうか……」

「……御主人様がお命じになられるのであれば否やはありませんが」


 俺があからさまに落ち込んだ様子を見せると、メイは少し考えた末にそう言ってくれた。ふふ、俺もメイとの付き合いは長くなってきたからな。こういう時にわがままを押し通す術はそれなりに学んでいるのだよ。


「では、レッスンを始めましょう」

「わかった」

「はい」

「ええ」


 そうして俺達はメイからセレモニーにおける立ち居振る舞いのレッスンを受けるのであったが――。


「エルマ様は問題ありませんね」

「結構うろ覚えだったんだけどね」


 エルマはメイに一発OKを貰っていた。


「くっ……流石は本物の貴族出身」

「エルマさんって普段から立ち居振る舞いが綺麗ですよね」


 俺とミミは当然のように要訓練であった。


「ミミ様のレッスンをエルマ様にお任せしても? 私はご主人様のレッスンを担当するので」

「んー、良いけど、結構怪しいわよ?」

「ちゃんとそちらにも気を配りますので」

「わかったわ、それじゃあミミはこっちにいらっしゃい」

「はいっ」


 ミミとエルマが少し離れたところでレッスンを始めるのを横目に、俺もメイからレッスンを受ける。メイのレッスンは基本的に優しかったが、妥協を許さない厳しさも併せ持っていた……こういう訓練のことになると本当に厳しいんだよな、メイは。


 ☆★☆


 立ち居振る舞いだけでなく、貴族服を着たままでの剣術のレッスンなどもこなして迎えたセレモニー当日。俺達――俺とミミとエルマ、それにメイの四名――はクリシュナに乗り込み、帝国航宙軍の先導に従って帝都へと降下していた。整備士姉妹はブラックロータスでお留守番である。


「いや、こうして間近に見ると凄いな、帝都」


 一つの惑星がまるまんま人工構造物に覆われているその光景は圧巻の一言である。何らかの法則に従って多くの建築物が建設されているのだろう。大気圏外から見る帝都は複雑な幾何学模様が描かれているようにも見える。


「確かに凄いです……どうやったら惑星がこんなことになるのか、想像もつかないですね」

「重力制御技術や環境制御技術の賜物らしいけど、私も詳細は知らないわね。帝都の人口は凡そ二百五十億人だったかしら?」

「はい。もう少しで二百五十七億人に到達するようですね」

「想像もつかんな。食料とかはアンダーレベルの施設で作ってるんだっけ?」

「ええ、前にアレイン星系で見たのよりもずっと大規模で先進的な食料生産工場が沢山あるわよ」


 そんな話をしながら降下を終えると、コックピットのメインスクリーン上に荘厳な雰囲気の構造物が映りこんだ。


「あれが帝城か……でけぇな」


 山、というかまるで山脈である。デカけりゃ良いってもんじゃないと思うが、皇帝の居城ともなるとやはりひと目で見てわかるようにしなければならないんだろうな。


「あれ全部を合わせて帝城だけど、実際に帝室の方々が生活をしているのはほんの一部よ。多くは行政機関や軍の施設ね」

「なるほど」


 先導してくれている帝国航宙軍の船は帝室の方々が住んでいるという帝城の中心部近くにある軍施設――小型艦の発着場がある地点に向かっているようだ。

 ちなみに、今のクリシュナは一応武器は積んでいるが帝国航宙軍によってウェポンシステム自体がロックされている上に航行能力も軍に掌握されており、殆ど曳航されているような状態である。

 流石に皇帝陛下をはじめとした帝室の方々がおわす帝都ともなるとこの辺の制限は大変に厳しい。メイ曰く、軍部に協力している複数の機械知性によってロック機能がプロテクトされているため、メイの能力をもってしてもこのロックを外すのは不可能だとか。

 まぁ、ここはグラッカン帝国のお膝元だ。何があっても俺がクリシュナを駆って重レーザー砲や散弾砲をぶっ放す機会などある筈もないだろうから、心配はいらないだろう。帝国に消されるような謂れもないしな。


「到着したな」


 無事到着し、クリシュナが帝城の小型艦発着場への着陸を終えた。今日もオートドッキング機能さんは着実な仕事をしたようである。


「頑張りましょうっ……!」

「あまり気負わないようにね」


 胸の前で拳を握りしめて気合いを入れるミミにエルマが苦笑する。セレモニーに出たら注目を浴びること必至のミミとしては気合を入れなきゃやってられんところだろうなぁ。


 ☆★☆


「馬子にも衣装……いえなんでも」

「なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言って良いんだぞ?」


 クリシュナを降り、クリシュナを先導していた帝国航宙軍のドロップシップから降りてきたセレナ少佐が俺の姿を見るなり失礼な発言をかましてくる。そう言うセレナ少佐はいつもと同じ軍服姿だ。


「少佐、時間があまりありませんが」

「そうですね、早く行きましょう。主役がセレモニーに遅れたりしたら彼だけでなく案内役の私達も赤っ恥です」


 ロビットソン大尉の忠言にセレナ少佐が頷き、俺達の前に立って歩き始める。セレナ少佐達の後ろに俺が続き、その後ろにミミとエルマが並び、更にその後ろにメイがしずしずとついてくる。


「もう見られていると思ってお行儀よく歩くのよ」

「へいへい」

「はいっ」


 小声で注意してくるエルマの言葉に従ってレッスンで体得した通りに背筋を伸ばし、綺麗な姿勢を心がけて歩くことにする。後ろは見えないが、恐らくミミとエルマも楚々とした振る舞いで歩いていることだろう。メイに関しては心配は一切必要あるまい。

 発着場から帝城の中に入ると、そこは乗降場であった。何の? まぁうん、鉄道――いや、小型のリニアモーター列車か? ああ、多分コロニーに整備されている物資輸送システムと同じようなやつだな、これは。


「移動に車両が必要とはな」

「帝城は広いから。歩いていたら目的地に着く前に日が暮れるわよ」

「なるほど」


 セレナ少佐達と同じ車両に乗り込むと、すぐに車両が動き始める。もの凄い速度で動いているようだが、加速時のGなどは殆ど感じなかった。クリシュナに搭載されているような慣性制御機構も搭載しているのかもしれない。


「うぅ……緊張してきました」

「ミミは後ろでただ立ってれば良いから。俺だって別に演説するわけでもなんでもないし」


 セレモニーでは軍のお偉いさんが今回の結晶戦役の経緯や戦果を報告したり演説したりするらしいが、俺達はただ席に座って黙ってそれを聞くだけである。その後に受勲式が始まり、順番が来たら俺たちは全員で前に出ていくことになる。

 実際に受勲するのは俺だけだが、そうやってクルー全員がセレモニーに出たという名誉に浴するわけだ。


「でも一体どうなるか少し怖くはあるわな」

「滅多なことにはなりませんよ。セレモニーの場で騒いだりすれば赤っ恥をかくことになりますから」

「その場ではな。その後皇帝陛下に呼び出されるわけだから今日は大丈夫かもしれんが、明日以降はどうかな」

「暫くは予定が詰まっていますし、そうそう貴方達にちょっかいをかけることはできないと思いますが」

「……だといいなぁ」

「ちょっと、やめなさいよ」

「ヒロ様……」


 諦観の念が篭もった俺の呟きにエルマが引き攣った笑みを笑みを浮かべ、ミミが苦笑する。だって俺達だぞ? そんなに平和裏に事が進むと思うか? いいや、俺は思わないね! 絶対に変な貴族とかが押しかけてきてミミ関連で騒動が起きるんだ。あたしゃ知ってるんだよ!


「貴方達のトラブル体質は私も知っていますが、いくらなんでも……いや、ありえますね。今までの経験から考えると」


 セレナ少佐がジト目を向けてくる。なんだかんだでセレナ少佐俺達のトラブル体質を目の当たりにしてるものな……エルマの暴走衝突事件、ベレベレム連邦との小競り合い、シエラⅢへの襲撃事件に、離反艦隊との戦闘、それにこの前の結晶戦役。全部俺達が関わってるし、半分くらいはこっちから巻き込んでるような気がしないでもない。だが俺は謝らない。絶対にだ。


「自重してください。良いですね?」

「イエスマム。可能な限り努力します」


 ビシッ、と敬礼をしてみせるが、セレナ少佐からの視線はとても冷たかった。

コミックウォーカーとニコニコ静画で昨日漫画が更新されたよ! 是非見てね!_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この人口は流石に無理がある。作者さんはもうちょっと考えて数字出しなよ…。ブラックロータスの積載量も意味不明なほどに少なかったり、星ごと都市なのに人口250億はあまりにも少なすぎる。ブラ…
[一言] 現在181話まで読みましたが、ミミのばあさま、プラチナランカーなのでは?
[一言] ヒロが歩けばトラブルに当たる。 あたしゃ知ってるんだよ!
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