#179 事情聴取
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翌日、内務府の役人達――コーネル氏とその部下だ――が訪ねてきて、俺達に対する事情聴取を行うことになった。無論、事前に連絡を取ってアポイントメントを取った上での来訪である。こういうところは流石にどこぞのマスメディアとは違うな。
「まずはあなた方が今後どうしたいと考えているのかが肝要かと思いまして」
「なるほど」
休憩室のソファに腰掛け、俺は一つ頷いた。
事情聴取、と言ってもその内容はお固くて高圧的なものではなく、もう少し緩い表現――聞き取り調査と言ったほうがしっくり来るような感じではあった。
事情聴取の場にはミミだけでなく俺とエルマ、それにメイも一緒にいる。整備士姉妹はミミの件にはあまり関わりがないので、少し離れた場所でこちらの様子を伺っている。
「何より尊重すべきはミミの意思だよな」
「そうよね」
「そうですな」
俺とエルマ、それにコーネル氏とその部下達の視線が一斉に集まり、ミミがビクリと身を震わせる。
「あ、あの……いきなりその、帝室の方々と同じ血脈を宿していると言われてもピンと来ませんし……それに、私は普通のコロニストです。今はヒロ様の船のクルーで、オペレーターですけど。そんな私が皇族として振る舞うのは無理ですよ」
「確かに、今まで皇族としての教育を受けてこられなかったミミ様にいきなり皇族として振る舞い、皇族としての義務を果たせというのは無理なことでしょう。しかし、知らないことは学べばよいのです。今の時代、学ぶ方法はいくらでもありますとも。ミミ様が皇族としての生活を望んでいらっしゃるのであれば我々はそれを全力でお助け致しますし、皇帝陛下もミミ様とお会いすることを楽しみにしていらっしゃいますよ」
「へ、陛下がですか!? うぅ……な、なんで」
皇帝陛下がミミと会いたがっているという話を聞いたミミが激しく動揺する。そりゃ動揺するわ。俺だって国のトップ、それも絶対的な権力を持つ封建制度上のトップに一目会いたいとか言われたらビビる。
「ミミ様から取得した遺伝子情報を解析した結果、現在ご存命の帝室の方の中で遺伝子情報が一番近いのが皇帝陛下であることが判明致しました。また、過去に記録されていた遺伝子情報と比較した結果、限りなく100%に近い確率でミミ様の……恐らく父方の祖母に当たる方が現陛下の妹君、セレスティア様だろうという調査結果も出ております」
「あー……まぁ予想通りかぁ。生き別れた妹の忘れ形見ともなれば、一目会いたいと思うのが兄ってものだよなぁ」
「その通りで」
セレスティア様がミミのお祖母さん説がこうして証明されたわけだ。
「となると、エルマはミミのお祖母さんに憧れて同じように帝都を飛び出して、その旅路の果てに憧れのセレスティア様の孫と出会って一緒の船に乗ってるわけだ。出会いから何から物凄いドラマティックだな?」
「今は私のことは良いでしょ」
少し耳を赤くしたエルマにペシッと頭を叩かれた。解せぬ。
「えっと、皇帝陛下にそう言って頂けるのは大変光栄なんですけど、私みたいな平民が拝謁して何か粗相があってはいけませんし……いえ、その、お会いできるなら是非一目お会いしたいとは思いますけど」
「なるほど。では非公式の場で私的に会うのは構わないということですな」
「えっと……その、ヒロ様達と一緒なら」
「ちょっ」
チラリと俺とエルマの方に視線を向けながらミミがそう言い、エルマが慌てる。俺は別に会うのは構わないけど。
「もし会うとなればできるだけ非礼な口を叩かないようには気をつけるが、エルマはともかく俺は礼儀作法なんて無縁の傭兵だからな。その辺りはご寛恕願いたいと伝えておいてくれよ」
「ええ、必ずお伝えしておきましょう。それでは、ミミ様は今まで通りにヒロ様と共に傭兵として生きていくことをお選びになるということで良いのですか? 皇族となれば危険もなく、何不自由ない暮らしをしていけると思いますが」
「何不自由ない暮らしと言うなら、今の私はヒロ様のお陰で何不自由なく暮らせています。ヒロ様達と一緒に星々を渡り歩いて、色々な場所を見て、色々な人達と出会って、時には事件に巻き込まれたりもしますけど、今の生活がとっても幸せなんです」
そう言ってミミはコーネル氏をまっすぐに見つめた。
「だから、船を降りるつもりはありません」
「なるほど……まぁ、私から見てもこの船は御料船もかくやという内装ですからな」
コーネル氏が休憩室に視線を巡らせて微笑む。
「実際のところ、皇帝陛下も無理矢理ミミ様を帝室で引き取るということはお考えにはなっておりませんのでその点はご安心を。馬に蹴られて死ぬのは御免だ、と仰っておられました」
「なんだか今の一言で物凄く皇帝陛下に親近感のようなものが湧いてきたぞ」
実は結構話せる人なのではないだろうか?
「最後にもう一度確認しますが、ミミ様は帝室に入るつもりはない、ということでよろしいですな?」
「はい」
コーネル氏の言葉にミミがはっきりと頷く。その様子を見てコーネル氏も頷いた。
「承知致しました。では、ミミ様は皇室とは一切関係のない、ただの平民であるという方向で帝国は動くことと致します。ルシアーダ皇女殿下と似ているのはあくまでも他人の空似、検査の結果でも今現在における帝室関係者との直接的な血縁関係は認められなかったということで」
「なるほど、嘘は言ってないな」
「はい。セレスティア様は行方不明となっておりますし、既にご存命ではない……のですよね?」
「えっと、多分……? パパからは既に亡くなったって聞いてますし、会ったこともないです」
「……なんだか不安になるな」
伝え聞くセレスティア様のタフネスとパワフルさを考えると、実は存命で今でも宇宙を飛び回っているんじゃないかと思えてしまう。ミミが一度も会ったことないってのも不安要素だ。
「セレスティア様なら……みたいなところはあるわよね」
「実際、帝国に尻尾を一切掴ませずに子孫であるミミがここにいるしな……皇帝陛下が存命なら、その妹のセレスティア様が生きていたって全くおかしくはないよな」
昨日セレスティア様の話を聞いてから俺もセレスティア様関連のホロ動画とか、ホロ小説に目を通したんだが、彼女はアレだ。女性版コ○ラかな? と思うような描写をされてたからな。しかもその大半がほぼノンフィクションだというのだからぶっ飛んでいる。
「ハハハ……」
俺とエルマの会話を聞いてコーネル氏が胃の辺りを押さえて乾いた声で笑う。あながちあり得なくもないと彼も思っているのだろう。年代的に考えれば、初老と言える年齢である彼はセレスティア様が起こした騒動で頭を抱えた現役の世代だろうからな。
「ああ、それとミミ様の置かれていた境遇に関してですが、少々不自然な点が見受けられましたので内務府で調査を開始しています」
「なるほど? まぁ今更感あるけどな」
「そうですね……」
ミミがなんとも言えない表情をする。恐らく俺と出会う前のことを思い出して胸中でモヤモヤしているのだろう。膝の上でギュッと握り締められている拳を手の平で包み込んでやる。どれだけ不安で恐ろしい体験だったか、俺には想像することしかできない。
「ミミのことが切っ掛けになってターメーンプライムコロニーがいくらかでも良くなれば幸いだな」
「はい」
実際のところどうなるかわからないが、何らかの利権や謀略絡みでミミの両親が事故死させられ、ミミに対する法的な保護まで一切放棄されたとかだったら、ターメーンプライムコロニーの行政に粛清の嵐が吹き荒れるかもしれないな。どういう経路で調査が入るのかはわからんけど。
「では、事情聴取はこれで終了とさせていただきます。今回の内容は再び持ち帰らせて頂き、今後の対応に反映させていただきますので」
「それはどうも。双方にとって良い結果になることを祈ってますよ」
「そうですね。ただ、セレモニーでは否応にも貴方達は目立つことになります。ミミ様が帝室へと入らない以上、帝室は表立って貴方達を守ることは難しい。身の回りには十分にお気をつけください」
「それは忠告かな?」
それとも脅しか? という言葉を言外に込める。そんな俺の言葉にコーネル氏は至極真面目な表情で頷いた。
「はい、親切心からの忠告です。尤も貴方はプラチナランクの傭兵で、ゴールドスターと銀剣翼突撃勲章を持つ英雄です。帝国航宙軍と軍部寄りの貴族、それに傭兵ギルドは貴方を守ろうとするでしょうし、そもそも貴方のような傭兵に下手に手を出せば痛い目に遭うというのが常識ですから、普通の貴族は貴方達に手を出したりはしないでしょう。ですが……」
「世の中にはそんなことを考えずに欲しい物に手を伸ばそうとする馬鹿が一定数いるからね」
エルマが肩を竦めてそう言うと、コーネル氏は同意するように頷いた。
「そういうことです。ミミ様はルシアーダ皇女殿下に瓜二つで、若く、可憐で美しい。そんなミミ様を自分のものにしたいと考える者が出てこないとも限らないのです」
「そいつは厄介だなぁ……だが、その時はぶっ飛ばすまでだ。ダメそうならミミを連れて逃げる」
そういう輩が熟達した白刃主義じゃないことを祈るばかりだな。まぁ、場合によっては船での戦いに持ち込むなり、ケツ捲って逃げるなりすれば良いだろう。最悪、クリスやセレナ少佐、エルマの実家に頼るって方法もある。どんなツケを払う羽目になるか怖いから、できれば使いたくないけど。
「そんな事態に対処するために文字通り血反吐を吐いて剣の訓練を積んできたわけだし、まぁ大丈夫だろう。メイからもお墨付きを貰っているし」
「はい。今のご主人様であれば白刃主義者の貴族とも互角以上に渡り合えます」
側で待機していたメイがそう言って頷く。まぁ、そう言ってくれるメイにはまだ完全勝利はできないんだけども。パワーとウェイトが違い過ぎるんだよ……攻撃が重すぎてまともに受けるとバランスを崩されるし、かと言って避けられるような攻撃速度でもないし。
「ふむ……? まぁ、傭兵ならそういうこともあるのでしょうな」
コーネル氏は少し不思議そうな顔をしたが、勝手に納得してくれた。普通、身体強化を施している貴族の白刃主義者に生身の平民が近接戦で互角以上に戦うなんてのは不可能だ。それなのにメイドロイドであるメイが断言するということは、俺も何かしらの身体強化を施しているのだろうと納得したんだろう。
実際、身体能力を強化している傭兵や機械技術による義体化を施している傭兵というのも結構いるらしい。船乗りは反射神経や視覚の強化、コロニーでの白兵戦を主体とする連中はそれに加えて単純な身体能力を強化を施しているとか。かなり高くつくらしいから、シルバーランクのベテラン以上じゃないとそうそうできるもんでもないらしいけど。
「くれぐれもご注意ください。それでは、私達はこれでお暇致します。対応が決まり次第、追ってご連絡致しますので」
そう言ってコーネル氏は部下達と共に去っていった。これでセレモニーの前後に非公式の場で皇帝陛下と謁見、という特大のイベントが追加されることになりそうだな。




