#176 謝罪と再会
三巻の続刊が決まったよ!!! やったぜ!!!!!_(:3」∠)_(発売日などに関しては情報解禁までまってね!!
ティーナ達が帰ってきてきっかり一時間後。
「この度は本当に申し訳ございませんでした」
スペース・ドウェルグ社グラキウスセカンダスコロニー営業所エンターテイメント部の部長(クッソ長い肩書きだな!)と営業所長、副所長が俺の目の前で揃って見事な土下座をキメていた。
その後ろにはティーナ達にくっついて乗り込んできたエンターテイメント部の社員達がロープで縛り上げられて蓑虫のようになって転がっている。顔色は全員蒼白を通り越して土気色だ。
いやー、あの後は酷かったね。人の話は聞かない、乗船拒否したのにティーナ達と一緒に船に乗り込んでくる、挙げ句勝手に撮影を始める、こういうことを話してくれと台本を渡して自分達の好きな画を撮ろうとし始める、プライベートスペースに侵入しようとする、ハンガーに行って勝手にクリシュナを撮る、カーゴスペースのコンテナを勝手に開けて中身を検めようとする……流石にブチギレたよね。
エルマとメイに不正な方法で傭兵の船に侵入した連中の扱いについて確認し、ついでに傭兵ギルドにも確認。メイが撮っていた乗船拒否のやり取りからの映像も転送して確認してもらい、俺との連名でスペース・ドウェルグ社グラキウスセカンダスコロニー営業所に抗議の連絡を入れてもらい、同時に船内の不法侵入者を捕縛。
報道の権利の侵害だなんだと叫ぶ連中に銀剣翼突撃勲章を見せつけ、慣例的に騎士爵として扱われることを説明。更に傭兵の船への不法侵入者に対する武力行使が法的に認められていることも説明。武力行使の容認とはつまり、その結果殺害に及んでも法的な罪に問われないということである。
これは高度な軍事機密の輸送や要人警護などを可能性がある傭兵に特例的に認められているものであるらしい。無論、これを利用して傭兵が悪行を行えないように色々と規制はあるらしいが、今回はそれをパスしているとのことだ。
ついでに蓑虫どもに傭兵ギルドとの連名で営業所と支社に抗議したことも説明。流石にここまで説明すると自分達が盛大にやらかしたことに気づいたらしく、必死に許しを請い始めたが、当然これを無視。今に至る。
「とりあえず一回俺をブチ切れさせるってのはアレか? おたくの芸風か何かなのか? えぇ?」
「申し開きのしようもございません」
「良い船提供してるんだからこれくらいええやろ、みたいな雰囲気でもあんのか? というか、事前にアポを取って一回挨拶とミーティングをするのが普通じゃないか? あんたのとこの社員のビジネスマナーどうなってんの? 突撃取材で取材先に迷惑かけるとか頭おかしいんじゃないか?」
「誠に申し訳ございません……」
いい年をしたおじさんドワーフが身体を小さくして土下座をするのを見るのは俺も心が痛むが、だからといってここで引き下がるわけにも行かないんだよなぁ。面倒臭い。
「この一連のやり取りは全てうちの有能なメイドが艦内設備も利用して全て記録しているからな。誠意ある対応がない場合はそのままおたくのライバル会社に放流するから」
「「「!?」」」
俺の発言に営業所長と副所長、そして部長が一斉に顔を上げて大きく目を見開く。
「調べてみたら競合他社は結構多いみたいじゃないか? メビウスリング、フォーマルハウトエンターテイメント、ニャットフリックス辺りが良さそうだよな?」
メビウスリングは結構お硬い感じのリアルなドキュメンタリーを売りにしていて、フォーマルハウトエンターテイメントはとにかくド派手で迫力のあるダイナミックなドキュメンタリーを売りにしている。ニャットフリックスは企画系と日常そのまま垂れ流し系のドキュメンタリーが売りなのかな?
それよりもニャットフリックスのイメージキャラクターが円錐形の無貌の頭部を持つエイリアンめいたクリーチャーなのが気になって仕方がないんだが。これ直視したら精神崩壊級のSANチェックとか入らない? 大丈夫?
「そ、それだけはご勘弁を……!」
エンターテイメント部の部長が額を床に擦りつけて懇願してくる。
「ここだけの話、というかもう掴んでるかもしれないけど、俺が今回帝都に来たのは勲章の受勲のためなんだよな。恐らく、大々的に発表されてニュースになると思うんだが……」
チラリと固唾を呑んで俺の顔を見上げている営業所長と副所長、部長に視線を送る。
「その後多分取材の申込みとかあるんだろうなぁ。一応スペース・ドウェルグ社に優先権があるんだけど、こんな不義理を仕出かされちゃあ信頼関係もクソも無いよな? 約束を守る必要あると思うか?」
「そ、それは……」
「一応この船の値引きの条件として引き受けたんだけど、正直こんな状態じゃなぁ……なんなら値引きしてもらった分の200万エネル、手切れ金として返そうか?」
「に、にひゃっ――」
俺の言葉を聞いた蓑虫が奇妙な鳴き声を上げて顔を引き攣らせる。そうだよ、お前さんはブラド星系の艦船販売部が200万エネルもの身銭を切って手に入れた優先取材権をふいにしようとしてるんだよ。
「とまぁ、恨み言はこれくらいにしとこうか。建設的な話をしよう」
そう言ってかがみ込み、俺は土下座をしている三人のドワーフと目線の高さを合わせた。ははは、何をそんなに怯えた顔をしているんだ。別にそんな無茶なことを頼むつもりはないよ。
☆★☆
「ほんとごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
「いや、二人に文句を言うつもりはないから気にするな」
蓑虫どもを営業所長と副所長、そしてエンターテイメント部長の三人に押し付けて船から追い出したのだが、整備士姉妹がこの通り萎れた菜っ葉みたいになってしまっていた。
「というか、連中には何を言っても無駄だっただろう? 大変だったな」
「うぅ……兄さん優しいなぁ」
「ありがとうございます……」
実際、船に到着してブザーを鳴らした時の二人の表情を見れば彼女達ができる限りの抵抗をしたんだろうな、ということは察せられたしね。
「それにしてもあんなので良かったの?」
「良いんだよ。やりすぎて恨みを買うのも良くない」
スペース・ドウェルグ社の連中が持ってきた付け届け――なんか高そうな酒とかつまみっぽいもの――を物色しながら聞いてくるエルマにそう答えて肩を竦めてみせる。
俺が要求したのは取材優先権を有するスペース・ドウェルグ社が責任を持って他社の取材を管理するように、という内容だ。スペース・ドウェルグ社以外にも今回みたいな突撃取材をされるのは御免だしな。恐らく彼らにはこれから地獄のような調整作業が待っていることだろう。
別にその過程でスペース・ドウェルグ社が利益を出すのも他社に貸しを作るのも構わない。ちゃんと調整された上での取材であれば協力もしよう。ただ、無秩序にマスコミが押し寄せてくるのはNGだ。餅は餅屋。マスコミのことにはマスコミに任せるのが一番だろう。
ただし、万が一うちのクルーに迷惑をかけた場合は訴訟や抜刀も辞さない、ということは伝えておいた。このクルーというのはティーナとウィスカも含まれる。彼女達はスペース・ドウェルグ社から出向してきているだけの臨時クルーだが、俺的にはもう身内だ。
「二人もこれからは気をつけろよ。これは叱ってるとかじゃなくて、マジで心配してのことだからな。俺に注目が集まれば、当然同じ船のクルーにも注目が集まる。ましてやこの船は100%俺が出資してる船で、俺がキャプテンでもある。しかもこの船に乗っている男は俺だけだ。どう見られるかは当然わかってるよな?」
「……うん」
「……はい」
二人が神妙に頷く。
「実際にどうなのか、なんてのは関係ないからな。こういうのは。きっと俺とそういう関係だと思われるだろうし。広く知らしめられれば心無い言葉が向けられることもあるだろう。そういう時は悩んだりしないですぐに俺達の誰かに相談するように。俺に話しにくいことはミミやエルマ、メイに相談すれば良いだろう」
「ん、わかったで」
「わかりました。ありがとうございます」
「よし」
頷いて振り返る。
「大丈夫です」
「今更ね」
「お任せください」
「よし」
これは二人の相談に乗るという意味だけでなく、二人に言えることはミミ達にも言えることだということだ。それを理解している様子の三人に俺も頷いてみせる。確実に俺にも誹謗中傷があるだろうが……ははは! 羨ましかろう? という気持ちで乗り切ろうと思っている。
もしそれでも傷ついたらミミやエルマやメイに慰めてもらうから問題ない。
「さて、今日はどうやって過ごす――」
過ごすかな、と言おうとしたところで俺の携帯情報端末から着信音が鳴り始めた。うん? なんだろう? 発信元に見覚えがない。どうやら帝都からの通信のようだが……とりあえず出てみるか。俺は端末を操作し、休憩室のホロディスプレイに映像を浮かび上がらせ――驚いた。
かつておかっぱに整えられていた艶やかな黒い髪の毛は少し伸び、しかしオニキスのように輝く意志の強そうな瞳はそのままで……背が伸びたのだろうか? 今の彼女は俺の記憶よりも少しだけ大人びた雰囲気を漂わせているように思える。
「お久しぶりです、ヒロ様」
「クリス!?」
「クリスちゃん!」
「久しぶりね」
かつて海洋型リゾート惑星で短いバカンスを一緒に過ごした貴族の少女――クリスティーナ・ダレインワルドがホロディスプレイの向こうで微笑みを浮かべていた。
くっ……! まさかこの展開を読まれるとは……!_(:3」∠)_