#175 方針決定
SteamのセールでBATTLETECHを始めてドハマリしています。
ドハマリ、しています。
それで寝不足で遅れましたゆるして!_(:3」∠)_
セレモニーの後にでも直接会って話をしよう、ということでウィルローズ子爵家の人々との話はまとまった。エルドムアとしては俺がエルマに手を出した件について言いたいことがあるようだったが……。
「結果論ですが、ヒロさんは銀剣翼突撃勲章とゴールドスターの英雄ですから。そんな貴方の元に『誰よりも先んじて』エルマを送り込んでいた、という事実だけで宮廷貴族としては色々と旨味があるんですよ」
「ぐおおぉぉっ!? ミルフィ! ギブ、ギブ!」
尚も俺に対する敵意を隠そうとしないエルドムアにアームロックを極めながら朗らかな笑顔を浮かべるミルフィさんは凄かったな……間違いなくエルマの母親だ、あの人は。
「しかしなんだかわかるようでよくわからない理由で許されたよな」
ベッドの縁に腰掛けながら呟く。
「ああ、母様の言っていたこと? つまりね、お転婆な娘の手綱も握れない、なんて陰口を叩くような連中に『有能な傭兵を見出すために敢えて外に出していたんですが、何か?』って反撃できるようになるってわけ。実際にはただの偶然だけど、現にヒロが銀剣翼突撃勲章とゴールドスタを受勲するわけだから」
「……なんというか、子供の喧嘩みたいだな」
「そんなもんよ。そういうくだらないマウントの取り合いでコミュニケーションを取るのが貴族ってものよ」
汗を流してまだしっとりとしているエルマがそう言って肩を竦める。ちなみに一緒に入ったから俺もまだしっとりしている。
「まぁ、つまり一目置かれるようになるわけ。実績が既に出ている以上、辻褄なんて如何様にでも合わせられるからね。寧ろ、黙っておいて勝手に深読みさせるのがこの場合一番良いのかしら」
「俺には理解が及びそうにない世界だな。やっぱり面倒くさそうだ」
「でしょうね。私もそういうのがつまらなくて、面倒でたまらないから家を飛び出したのよ」
「大正解だな。好きな時に好きな場所に行って、色々なものを見たり、食べたりしながら適当に宙賊をしばき倒して面白おかしく生きるほうがずっと良いように思える」
「でしょう?」
クスクスと笑いながらエルマはベッドに腰掛ける俺の横に座り、体重を俺に預けてきた。
「それにこの船にはヒロがいて、ミミがいて、メイがいて、ティーナとウィスカがいる。気の合う仲間と一緒に広大な宇宙を冒険する。たまにトラブルに巻き込まれたり、ピンチになったりしながら、仲間と一緒にそれを乗り越えて乾杯する。そんなホロ小説みたいな刺激的な生活を送れてとっても満足なの、私は。だから、この生活を手放すつもりはないし、その為なら少しくらい母様の思惑に乗るのも悪くないと思っているわ」
「そうだな。じゃあ、これで絶対に譲れないラインは決まったな?」
「そうね。ティーナ達はともかく、明日にでもミミとメイも交えて話し合いましょう。私達の生活を守らないとね」
「そうだな」
そうして暫くの間、寝物語にエルマとエルマの家族を聞いてから俺とエルマは同じ寝床で眠りに就くのだった。
☆★☆
翌日。
朝食の席でミミとメイにも俺とエルマが昨日話し合った『俺達の最終防衛ライン』を共有することにした。
「私もそれで良いと思いますけど、ヒロ様は本当に良いんですか?」
「と言うと?」
首を傾げるミミにそう問う。
「えっと、場合によっては正式に帝国騎士として取り立てられて、貴族になることも可能だと思うんですけど」
「あー、正式な貴族、貴族ねぇ……それはつまり、一代限りの名誉爵位じゃなく、世襲できる永代貴族としてってことだよな?」
「はい」
「ミミは貴族になりたいか?」
「え?」
俺の問いにミミは首を傾げた。そこは言わずとも察して欲しいぞ、俺は。
「いや、俺が貴族になるってことはおいおいミミも貴族になるってことだろう。この場合はエルマが正室で、ミミが第二夫人ってことになるのか?」
「出自的にはそうするのが自然でしょうけど、私はエルフだからね。作ろうとしても人間との間には子供ができにくいし、そう考えると同じ人間のミミを正室にするのもアリだと思うわよ。私個人の心情としては、私は側室で良いかな、と思うわね。正室はミミの方が相応しいでしょ」
俺とエルマのやり取りを聞くうちに俺が言わんとすることがわかったのか、ミミが顔を真赤にしてあたふたし始める。
「まぁ、貴族になって上級市民権を得ればどこかの惑星上に居を構えるのも難しくなくなるのか。それもアリっちゃアリなんだろうが、そうなると傭兵稼業は続けられなくなるだろうな」
「そうねぇ……ああ、でもほら。父様の寄子になって帝都に居を構えるんじゃなく、クリスの所に転がり込めば意外となんとかなるかもしれないわよ。ダレインワルド伯爵には貸しがあるし、騎士爵か男爵になるかわからないけど、寄子として受け入れてもらえば今ほどじゃないだろうけどある程度自由にさせてもらえるかもしれないわ」
「……そうするとクリスがもれなくついてきそうなんだが?」
「良いじゃない。ヒロだってあの子のことは憎からず思っているでしょ?」
「まぁ、それは、そうだけれども……」
そりゃあんな可愛い子に好意を向けられて嫌な気分になるわけは無いけどさ。一度盛大にフッた女の子を頼りに行くのはちょっとなぁ……同じ貴族になったならってことでそれはもう猛烈にアタックしてきそうだし。
あの時は諸般の事情でクリスの好意を受け入れる事はできなかったけど、俺が貴族になったら事情が変わるからな。というか諸般の事情というかなんというか、あの時点でクリスに手を出すのは色々な意味で完璧にアウトだったから、どうあっても手を出す気は無かったけど。
あんな子に手を出したら完璧に事案だよ、事案。憲兵さんに逮捕されちゃうよ。
「まぁ、少しだけ貴族になるのも面白そうだなと思ったけど、もう暫くは自由気ままな傭兵生活を送りたいと思う次第だ。というか、今の流れアレだな? ミミが俺と結婚してくれる気が全く無いとかだと最高に寒いな? ちょっと穴掘ってそこらへんに埋まろうかな」
「だ、大丈夫です! 結婚したいです!!」
「やったぜ」
「はいはい、良かったわね。私も結婚してあげるわよ」
顔を真赤にしたまま目を瞑って叫ぶミミ、グッとガッツポーズを取ってエルマに視線を向ける俺、そして俺の視線を受けてクスクスと笑うエルマ。そんな俺達をじっと見ているメイ。
「メイも結婚する?」
「前向きに検討させていただきます」
「やったぞエルマ、メイも結婚してくれるらしい」
「はいはい。どうせならその勢いでクリスとティーナとウィスカも貰ってあげると良いわ。セレナ少佐も追加する?」
「セレナ少佐はやめとく」
だって俺が貴族になってもならなくてもセレナ少佐とそういう関係になるのは反応弾頭地雷の臭いがプンプンするし。
「セレナ少佐は横に置いておいて、実際のところメイと結婚ってできるのか?」
「はい。機械知性にも人権が認められておりますので。ご主人様がお望みであれば子を成すことも可能ですよ」
「マジで?」
「マジでございます。煩雑な手続きが必要な上、費用もかかりますが」
「科学の力ってすげー……」
一体どうやって機械のメイと子供を作るのだろうか? 一種のクローン培養みたいな形になるのか? 機械知性と人間の間にできる子供って遺伝子的には一体どうなるんだ? 知的好奇心が物凄く刺激されるな。
「話がとっ散らかったけど、とにかくそういうことで。俺達は何があっても自由気ままな傭兵生活を維持する。そのためならある程度の妥協はする。ただし、今の生活が侵されるようなら何がなんでも抵抗する。そういう方向で」
「はい!」
「わかったわ」
「承知致しました」
三人が頷く。よし、これで意思統一はできたな。
「で、そういやティーナとウィスカは? 昨日営業所に出ていってから帰ってきてないのか?」
「はい。スペース・ドウェルグ社の仕事が色々と立て込んでいるらしく、昨晩は営業所に泊まり込みで業務をこなすと連絡がありました」
「わぁ、ブラックぅ……」
ドワーフは普通の人間よりも身体が大分頑丈らしいが、それでも泊まり込みで業務をこなさなきゃならないとかブラックにも程があるだろう。スペース・ドウェルグ社の就業規則って一体どうなってるんだ?
と、思っていたら食堂にブザーが鳴った。このブザーは来客を告げるものだが……?
「来客の予定なんてあったか?」
「いえ、特に無い筈ですが」
そう言ってメイが中空に視線を漂わせる。多分ブラックロータスのシステムにアクセスして来客が何者なのか確認しているのだろう。
「ティーナさんとウィスカさんが帰ってきたようですね」
うん? なんでブザーなんて鳴らしてるんだ? 二人にはアクセス権を付与しているから、帰ってくるためにわざわざブザーなんて鳴らす必要はないはずだが。
「ティーナさん達だけでなく、何人か同行者がいるようです」
「同行者?」
「はい。ティーナさん達と同じドワーフの女性と、他にも人間が数人」
「……? 何だと思う?」
「何でしょうね?」
「二人が連れてきてるんだから、スペース・ドウェルグ社関係よね。アレじゃないの? 例の傭兵ドキュメンタリー」
「あー……アレね。そう言えば一応優先取材権は生きてるんだっけか」
「はい、ディスカウントの条件なので。ただ、取材に関しては条件の折り合いが付けば、という形になっています」
となると、挨拶と下見に来たってところか? だとしても先に連絡を入れるのが筋だと思うんだが。うーむ。
「まぁ、事情を聞くか。場合によっては門前払いしても良いし」
「そうね」
「えー……取材、受けないんですか?」
そう言えばミミは取材を受けることに積極的だったな。
「条件が折り合えば考える。とにかく、事情を聞くとしよう」
そう言って俺がメイに目配せをすると、メイは頷いてホロディスプレイを起動した。ホロディスプレイの向こうに揃ってチベットスナギツネみたいな顔になっている整備士姉妹が映る。
「朝帰りお疲れ。後ろのお友達はどちら様だ?」
『エンターテイメント部署の連中や……兄さん、悪いけどちょっと話だけでも聞いたってくれへん?』
ハイライトが消えた瞳のままティーナがそう言って盛大に溜息を吐く。あー、うん。どこの世界でもマスメディア関係者ってのはアレなのかね。ちょっとこいつは気をつけて取り掛かったほうが良さそうだな。