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#172 傭兵ギルドグラキウス支部

「ヒロ様、かっこいいです!」

「うん、まぁまぁサマになってるじゃない」


 いつもの傭兵服のジャケットに銀剣翼突撃勲章をぶら下げ、腰にレーザーガンだけでなく二本の剣をぶら下げた俺を見てミミとエルマが俺を褒める。別にいつのもの格好とそう変わらんのだが……まぁ褒めてくれるのは悪い気はしないけどさ。


「今の時点でも身分的には名誉騎士爵相当だからね。それらしい格好をするっていうのは単に自分の身分を誇示するだけじゃなく、自分がそういう身分であるということを周りに見せて相手にとってマズい行動を取らせないようにするためのものでもあるのよ」

「そういうものなのか」

「そういうものよ」


 どうにも釈然としないが、エルマがそう言うならそうなんだろう。


「あー……うん、そっか。よし、とりあえず行くか」

「はいっ! あ、ちゃんと傭兵ギルドのある場所は調べてありますよ」

「ミミは用意が良いなぁ、よしよし」

「えへへ……」


 マップアプリを起動してあるタブレットを抱えたミミの頭を撫でてやる。尻尾があったらブンブン振ってそうな勢いだ。うん可愛い。


 ☆★☆


 メイに見送られながらブラックロータスを降りた俺達は、ミミの案内に従ってグラキウスセカンダスコロニーの傭兵ギルドへと向かった。


「しかし人が多いな」

「そりゃね。都市惑星で消費される資源は基本的に全部外からの輸入で賄っているわけだから、商人が多いのよ。食料はアンダーレベルのジオフロントである程度生産されているけど、鉱物資源の類はほぼ外からの輸入ね。食料の生産にもある程度の鉱物資源は必要だし」

「へぇ……物凄い金食い虫じゃないか? 都市惑星って」

「そうでもないわよ。外から輸入した資源で付加価値の高い製品を大量に生産しているからね。帝国品質インペリアルグレードの製品は国内だけでなく、国外でも重宝される逸品揃いよ?」

「ほぉ……でも俺達にはあまり縁がないよな?」

「そうでもないですよ? テツジン・フィフスとかも帝国品質の商品ですし」

「おぉ……テツジンシェフは確かに凄いよな」


 確かにテツジンが作る料理は未だに底が見えない。安価なフードカートリッジからでも美食を生み出すあの性能は一度知ってしまうと他の自動調理機を使えなくなるだろうな。


「他にもクリシュナの全自動ユニットバスシステムも帝国品質の商品ね」

「あー、あれも凄いよな」


 空の湯船に入ってスイッチ一つですぐに心地よい温度のお湯で湯船が満たされ、全身を自動で丸洗いしてくれる上にマッサージ機能までついている。しかも湯船から上がったら全身を綺麗に乾かしてくる乾燥機能付き。最初は洗濯物になった気分だったが、あれも一度体験するとやめられないんだよな。


「なるほど。侮りがたいな、帝国品質」

「それだけでなく食料品も凄いわよ? 帝国品質の農作物や畜産品、お酒は本当に高値で取引されるから」

「食料品は本当に見た覚えがないな。まぁ、地元なら食えるだろうし、帝都に降りたら食いに行ってみるか」

「本当ですか? 楽しみです」


 本当に嬉しそうにミミがニヨニヨしている。エルマも故郷の味に思いを馳せているのか、嬉しそうな雰囲気を醸し出している。整備士姉妹も連れて行ってやるとしよう。二人ともスペース・ドウェルグ社の帝都支社絡みでストレスフルな感じになってたからな。


「おー……流石に立派だな?」

「プライムコロニーは軍事施設だから、グラキウスにある傭兵ギルドの建物はここと、プライムコロニーの養成学校の二つだけよ」

「帝都には傭兵ギルドの施設はないのか?」

「需要がないもの」

「……なるほど」

「納得ですね」


 このコロニーなら荷物の護衛などで傭兵にも一定の需要があるのだろうが、帝都に傭兵ギルドの建物があったところで訪れる傭兵など一人も居ないことだろう。帝都に降りるためには面倒な手続きをしなければならないし、時間もかかるからな。

 そんな話をしながら三人で傭兵ギルドへと足を踏み入れる。わざわざ入り口をカウベル付きの木製スイングドアにしているのは何なんだろうな? 様式美か?

 カランコロン、とカウベルを鳴らしながら傭兵ギルドに入り、内装を一通り見回して俺は頷いた。


「酔狂なデザインだな」

「まぁ、金はかかってるわね」

「凄いですね。古代のマカロニウェスタン風ですよ」


 木製の床に、木製のテーブル。左奥には木製のカウンター席と、壁の棚に並べられた酒のボトル。右奥の方には業務用の木製カウンターが並んでいる。役所と酒場が合体したような木の香り漂うカオス空間だ。


「木製『風』の素材ね、これは。木の香りはそういう芳香を発するようにできているのよ、これ」

「本物の木のほうが安いんじゃないか?」

「そんなことないわよ。特にこの星系ではね」

「木材は超高級品なんですよ、ヒロ様」

「そう言えばそうだったか」


 前にリゾート惑星でログハウスに滞在した際、コロニー生まれのコロニー育ちな生粋のコロニストであるミミはリゾート惑星に当たり前のように存在する自然の植物や木製のログハウスに驚愕していた。

 話しながら右奥の業務カウンターへと向かう途中で複数の視線を感じる。まぁ、目立つ三人だよな、俺達は。

 一人は傭兵風の服装なのに腰に剣を二本下げて、胸にピカピカの勲章を下げている男。更にその隣には小柄だけど胸の大きい美少女と、スレンダーなエルフの美女ときたらそれはもう。二人を引き連れているためか若干剣呑な視線もあるようだが、まぁ腰に剣を下げている俺に絡んでくるようなことはないだろう。

 そのまま業務カウンターへと向かうと、こちらが口を開くよりも先に少し緊張した様子で待ち受けていた受付のお姉さんが声をかけてきた。彼女のが緊張しているのはアレだな、俺が傭兵のくせに二本も立派な剣を腰に下げているせいだな。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ちょっとした相談事で」


 そう言いながら携帯情報端末を出してIDを提示する。すると、彼女はすぐにIDを照合して表示された俺の情報に目を走らせて――少し仰け反った。うん、声を出さなかったのは流石にプロといったところなんだろうな。


「ええと、その、ようこそおいでくださいました、キャプテン・ヒロ。相談事というのは……セレモニー関係のあれこれですね?」

「そう、それ。情報が来てるんだな」

「はい。傭兵ギルドと帝国航宙軍の関係は基本的に良好ですから」


 受付のお姉さんが真面目な表情で頷く。確かに、傭兵ギルドはある意味で軍の下請けみたいなもんだからな。関係が良好なのも頷ける話だ。無論、完全に発注元と下請けという関係で力関係の上下が明確なわけでもないのだけれども。

 もし軍と傭兵ギルドの間がこじれて宙賊が跋扈している星系から傭兵ギルドが手を引いたりしたら、交易路の安全が守れなくなって帝国経済に悪影響を及ぼす可能性があるからな。そうなれば帝国航宙軍は何をやっているんだと帝国政府に頭の上から叩かれ、商人ギルドからも突き上げられることになる。帝国航宙軍と傭兵ギルドは割と持ちつ持たれつの関係なのだ。


「もちろんセレモニーに参加するのなんて初めてだし、実感も湧いてないし、そもそも何をどう気をつければ良いのかもわからないんだ。それで相談に来たわけなんだが」

「そうですね……服装や言葉遣いは勿論のこと、セレモニーでは一挙手一投足を注目されますから。それに、セレモニーの後のパーティではダンスを踊ることにもなるでしょうし」

「あー、それなぁ……まぁその辺はメイに仕込まれてるから」


 剣の方がある程度形になったので、メイのスパルタ授業の内容はダンスやマナーがメインになっている。メイとのダンスは楽しいが、マナーの授業は覚えることが多くてな。


「というと?」

「うちには超高性能のメイドロイドがいるのよ。マナー関連はその子に厳しく仕込まれてるから」

「なるほど、それならば後は服装ですが……」

「こういうので大丈夫でしょうか?」


 そう言ってミミはタブレットを受付のお姉さんに見せた。げっ、その写真はこの前俺がクリスの選んだ貴族服を着た時の……いつの間に撮ったんだ?


「あら、凛々しいお姿」

「ですよね!」

「ですよね、じゃなくてだね……で、大丈夫そうですかね?」

「ええ、問題ないと思います。用意周到なんですね?」

「えぇまぁ、ちょっとこういう形で役に立つとは思ってませんでしたが」


 本当にクリスの気まぐれで誂えられた服がこんな形で役に立つとは夢にも思わなかった。クリスはこうなることを見越していたのだろうか? 流石にそれは無いか。


「後は――」

「お話中のところ失礼。キャプテン・ヒロ御一行だね?」


 受付のお姉さんが口を開こうとしたところでカウンターの向こう側、お姉さんの斜め後ろに中年の男性が現れて話しかけてきた。ふむ、引き締まった身体のなかなかのイケメンだな。かけている眼鏡は何かしらのウェアラブル情報デバイスかもしれない。


「そうだが……?」


 言外に何者だ? 何の用だ? という言葉を滲ませながら相手を観察する。身体つきからそれなりに鍛えているようだが、直接荒事をしているようには見えない。雰囲気的には傭兵というよりやり手の事務職といった感じだが。


「私はこの傭兵ギルドグラキウス支部の副支部長、マーカスだ。相談中のところ申し訳ないが、至急話し合いたい案件がある。すまないが、奥の応接室まで同行してくれないか?」

「えー……」


 面倒事の臭いがする。ミミとエルマにも視線を向けてみるが、二人とも眉間に皺を寄せたり、口元に手を当てて考え込んだりしている。ちなみに、いきなり自分の背後に副支部長という雲の上の存在が現れた受付のお姉さんは口元にだけ笑みを浮かべて微かに汗を垂らして固まっている。なんだか申し訳ない。


「嫌だ、というのは通らないですよね」

「気持ちはわからないこともないが、悪い話だけではないから」


 副支部長のマーカス氏が苦笑いを浮かべる。


「まぁ、悪い話だけじゃないなら……」


 いい話もあるってことなら行くしかあるまい。確定で悪い話があるのは気が重いが。


「それは助かる。あちらの通路の奥に階段があるからそちらに向かってくれ」


 私は先に行って待っている、と行ってマーカス氏はスタスタと歩いていってしまった。仕方がないのでカウンターの椅子から立ち上がり、まだフリーズしている受付のお姉さんに声をかけておく。


「あー、なんというかすまない。ありがとう」

「イエ、ダイジョウブデスヨ」


 ぎこちない笑みを浮かべるお姉さんに軽く頭を下げてからミミとエルマを引き連れて階段があるという通路へと向かう。さて、良いことと悪いことね……何が飛び出してくるやら。


 ☆★☆


 階段の前で待っていたマーカス氏の後に続いて階段を登り、二階に上がってすぐのところにあった扉に入ると、そこにはがっしりとした体格の初老の男性が待っていた。マーカス氏と違ってちょっと鍛えているとかそういうレベルではない。丸太のように太い腕だ。素手で人の首くらい簡単にへし折れそうだな。


「傭兵ギルドグラキウス支部の支部長、ヨハンネスだ」

「キャプテン・ヒロだ。どうぞよろしく、支部長殿」


 互いに握手をする。うん、ムキムキだからって無駄に力を込めるような真似はしてこないようだ。


「ええと、良い知らせと悪い知らせがあるんでしたっけ?」

「うむ。言葉遣いは普段どおりで良いぞ。堅苦しいのは好かん」

「そりゃどうも……それじゃあ、悪い方から聞かせてもらっても?」

「そうだな、そちらのほうが緊急案件だ」


 そう言ってヨハンネス支部長はちらりとエルマに視線を向けた。エルマ関係――あっ(察し)。


「ウィルローズ子爵家から問い合わせが来ている。用件はわかるな?」

「エルマ関係ってことだけは。内容は皆目検討もつかないな」


 内容に関してはすっとぼけておく。まぁ、即刻エルマを引き渡せとかそういう内容だろうとは思うが。


「……そちらのお嬢さん――ウィルローズ子爵家令嬢を速やかに引き渡すように、とのことだ」

「ははぁ、なるほど。頷くとお思いで?」

「……」


 俺の言葉にヨハンネス支部長が渋面を作り、マーカス副支部長は頭痛を堪えるように右のこめかみに手をやって揉み始めた。


「エルマ自身がそうしたいというならそりゃ考えますが、エルマはそう思ってないので。だよな?」

「そうね。キャプテンが私を放り出したいというなら話は別だけど、キャプテンがそう思ってないならそうする気はないわね」

「だそうです。そもそも、傭兵ギルドとしてその要請を受ける気なので? 傭兵ギルドは所属ギルド員を貴族の不当な要請から守る気が無いと?」


 言外にエルマも傭兵ギルドのシルバーランク傭兵で、ギルドの庇護下にあるよね? と仄めかしてやる。支部長の表情は相変わらずだが、副支部長は今度は俯いて眉間を揉み始めた。


「ギルドとしては用件は伝えるが、何かを強制するつもりはない。そういう申し出があった以上は伝えねばならんということだ。帝国法に触れた犯罪者は引き渡さねばならんが、そちらのお嬢さんはそういうわけでもないしな」

「なるほど」

「というか、お貴族様の家庭内の問題に巻き込まれても困るというのが正直な所だ。俺達を面倒に巻き込むなという意味ではお前達に文句は言いたい」

「言われてるぞ、エルマ」

「ま、まぁ、それはごめんなさいとしか言えないわね」


 エルマが苦笑いを浮かべる。盗んだ小型艦で宇宙に走り出すお転婆娘とかスケールがデカ過ぎるな。


「で、具体的にはどうすれば?」

「一応先方には個人の自由意志を尊重するという傭兵ギルドの立場は伝えてある。連絡先を渡すから、自分達で解決するように。ただ、不当な権力や暴力の行使で身の安全が脅かされた場合には我々としても放置はできん。その時には報告しろ」

「アイアイサー、それでもう一つの良いニュースってのは?」

「キャプテン・ヒロに対するゴールドスターの受勲がほぼ決まった。それに合わせてお前のランクをゴールドからプラチナに引き上げる」


 うん、意外性はあまりなかったな。問題は、俺があまり嬉しくないという一点だが。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「キャプテン・ヒロに対するゴールドスターの受勲がほぼ決まった。それに合わせてお前のランクをゴールドからプラチナに引き上げる」 ここはヒロに対するだから、受勲じゃなくて叙勲じゃないです…
[良い点] 尾崎豊かよw
[気になる点] 他に書かれている方も居るけど、自分も一票ということで。 「マカロニウエスタン」読んだ途端に何故、、、と。 ヒロ(主人公)が言葉を勘違いしてマカロニウエスタン(イタリア製西部劇)と言って…
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