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#171 帝都グラキウス

 さて、白刃主義者に絡まれても即死しないように訓練を積んでいる間も、俺達とクリシュナを乗せたブラックロータスはセレナ少佐率いる対宙賊独立艦隊と共に帝都のあるグラッカン帝国の首都星系へと向かっていた。

 目が覚めてから眠りにつくまで何度も血反吐を吐きながら気絶し、苦痛に苛まれてまともに睡眠を取った記憶がない上に、数少ない寝ている間すら睡眠学習装置めいたヘッドギアを被せられて時間の感覚がおかしくなってしまっている俺であったが、いつの間にか十日ほどの時間が過ぎていたらしい。


「何回見てもでけぇなぁ」

「おっきぃですねぇ」

「すごいなぁ。うちも見るのは初めてや」

「うーん、大きいねぇ。もう少し小さくできると思うんだけどなぁ」


 なんかウィスカだけ毛色の違うコメントをしているが、俺達はゲートウェイの存在するニーパック星系へと辿り着いていた。途中でクリスの実家があるデクサー星系を通過していたらしいが、俺はメイにボコられたり、マナーを叩き込まれたりしていたので全く気が付かなかった。本当に通過しただけだったらしいから、気づいたところで会いに行くことはできなかっただろうけど。


「ゲートウェイで帝都に直行するんですよね?」

「そうなるわね。ゲートウェイネットワークのお陰で帝都は遠いけと近い場所だから」

「ゲートウェイを自由に使える人にとっては、だろ?」

「まぁそうね」


 俺の指摘にエルマが肩を竦めてみせる。

 何千光年、何万光年という距離を一瞬で飛び越えることができるゲートウェイはとても便利なものだが、ゲートウェイは万人が自由に利用できるものではない。貴族ですら利用するにはそれなりの手間がかかるというし、傭兵や行商人などのその他一般人に利用許可が降りることは殆どないという。

 俺が元の世界でやっていたSOLにおいてもゲートウェイを利用できる機会はごく限られており、俺自身もSOL内では殆ど利用した覚えがない。ゲートウェイを有する銀河帝国との関係を深めていけば利用許可が降りるという話はあったが、根無し草の傭兵プレイをしていた俺には縁がなかったんだよな。


「そもそも、自分が生まれ育ったコロニーから出る人も少ないですしね。帝都はやっぱり遠い場所ですよね」

「せやな。コロニーから出るのってうちらみたいな造船関係の星間企業か、貿易関係くらいやない?」

「あとは軍人さんくらいかな。傭兵ってどうなったらなれるんですかね?」

「あー、なんか養成学校的なアレがあるらしいぞ。俺はよく知らんけど」


 前に傭兵ギルドでそんな話を聞いた気がする。まぁ、わざわざスリルを求めて傭兵になる奴なんてそうそういないと思うけどな。俺だってクリシュナが無くて、身一つでコロニーに放り出されていたら傭兵として身を立てていたかどうかわからん。


「兄さんはどうやって傭兵になったん?」

「……まぁ、流れで?」


 目覚めたら宇宙を漂流するクリシュナの中に居て、速攻で宙賊に襲われたから返り討ちにしてって感じで……その後はもう完全に流れで傭兵になったよな。というかされたよな。エルマに感謝だ。


「流れでて……そっか、兄さん記憶が無いんやったな。ごめん」

「別に謝ることはないけどな。色々と幸運だと思うよ、俺は」


 敢えて口に出す気にはならないけど、ミミやエルマに出会えたし、メイやクリスやティーナやウィスカ、それにセレナ少佐――いやセレナ少佐はいいや。とにかく皆に出会えたしな。ショーコ先生は……うん、思い出すとケツがムズムズしてきそうだから。うん。


「お、動き出したぞ。俺達の順番みたいだ」

「おー、楽しみやな。どんな感じなんやろ?」

「楽しみだね、お姉ちゃん」


 ワクワクしてるところ悪いけど、そのワクワク感は裏切られることになるぞ。ふとミミに目を向けると、俺と同じく生温かい視線を整備士姉妹へと送っていた。ははは、ミミもあんな風にワクワクしてて肩透かしを食わされたもんな。

 艦隊が前に進み、一対の巨大構造物の間に存在する不可思議な燐光を放つ歪んだ空間へと突入していく。先行しているコルベットや駆逐艦が光を放って姿を消す光景は実にミステリアスだ。


「お、おぉ……来るで、ウィー」

「お、お姉ちゃん……」


 ホロディスプレイ越しに空間の歪みが迫ってくるのを見ながら整備士姉妹が互いの手を握り合う。

 ほんの少し前を航行していた巡洋艦が光を放ってその姿を消した。


 そして――。


「え? これで終わりなん?」

「……呆気ないね」


 超光速ドライブを起動した時や停止した時に聞こえるような轟音も、ハイパードライブ中に見えるような極彩色のハイパースペースの光景なども無く、それどころか光ることも何もなく、パッとホロディスプレイに映る映像が切り替わった。


「まぁ、これが本物のワープって奴なんだろうな」

「はぇー……すごいなぁ」

「理論の概要は知ってるけど、本当に凄いね。うーん、私も負けていられないなぁ」


 ティーナは一周回って凄い凄いと感心してるけど、ウィスカはなんか明後日の方向にぶっ飛んでいってないか? たまにウィスカのことがわからなくなるよ、俺は。たまに技術者としての意識が妙に高くなるんだよな、ウィスカって。


「ま、何はともあれ無事に着いたわね。ようこそ、グラッカン帝国の首都星系へ。あそこが私の実家のある場所、帝都グラキウスよ」

「んん……?」


 ホロディスプレイに映る映像を見て俺は思わず眉間に皺を寄せた。

 大きさから考えて、多分惑星なのだろう。だが、その表面には見る限り海などは見えず、それどころか自然の造形物が一切見当たらない。惑星表面が全て人工物で覆われているのだ。


「エキュメノポリス……? 実現できるものだったのか……?」

「あら、なかなか古い言葉を知ってるわね。今は単純に都市惑星と呼ばれるのよ」

「なるほど……で、帝都ってのはつまり、アレのことなんだな?」

「そうよ。あの都市惑星そのものが帝都グラキウスというわけね。ようこそ、帝国の中心地、華の帝都へ」


 そう言ってエルマは微笑みを浮かべて見せた。


 ☆★☆


 俺達は帝都に降りる前にまずは首都星系にいくつか建造されているコロニーの一つ、グラキウスセカンダスコロニーへと寄港することになった。ここで積荷のチェックや各種検査、それに帝都に滞在するための手続きなどをすることになるという。

 つまり、このグラキウスセカンダスコロニーは帝都に入るための城門のような役割をしているわけだ。帝都に各種商品や資材などを運んできた商人などはほぼこういったコロニーで全て用事を済ませて帝都を去っていくのだという。何故なら、帝都に降下するには煩雑な手続きが必要になる上に、滞在費が非常に高いらしい。いや、高いとは言っても流石にリゾート星系ほどではないそうだが。


「で、俺は何をすれば良いんだ?」


 コロニーへの停泊が完了し、メイも食堂に姿を現したところで俺はそう発言した。

 いや、こういう時に船長がリーダーシップを発揮しないでどうするんだと自分で思わなくもないんだが、正直今の俺は半強制的にセレナ少佐というか国家権力にここまで引っ張ってこられたわけで、いつもと違って主導権が俺の手には無い状態なんだよな。

 こればかりは引っ張ってきたのに特に何も指示を出してこないセレナ少佐が悪いと思う。いや、セレナ少佐が俺に指示を出してないんじゃなく、俺がセレナ少佐の指示を受けられない状態にあっただけか。きっとそうだな。


「セレモニーに関する手続きは全て軍の方でやるとセレナ少佐が仰っておられましたので、降下手続きなども全てあちらでするそうです。私としては、このコロニーの傭兵ギルドに顔を出しておくことをお勧めします」

「傭兵ギルド? ああ、そう言えばセレナ少佐が帝都に行ったら傭兵ギルドを大いに頼るべきだとか言ってたっけか。頼るって言っても、何に関して頼れば良いのかわからんのだが」

「その詳細についてもあちらで伺えばよろしいかと。首都星系の傭兵ギルドなら傭兵が貴族を上手くあしらうためのノウハウを持っているでしょうから」

「なるほど?」


 まぁ、メイが勧めるなら間違いは無さそうだし行ってみるとするか。


「それじゃあ行ってみるかな。ミミとエルマも着いてくるか?」

「そうね。ドレスと装飾品も用意しなきゃいけないし、傭兵ギルドで事情を説明して紹介してもらいましょう」

「う、ドレスですかぁ……」


 ヒラヒラとしたドレスがあまり得意ではないミミが苦々しい表情を浮かべる。本人はあまり好きじゃないみたいだけど、似合うと思うんだけどな。俺は。


「それじゃあうちらも――」

「お姉ちゃん、支社に連絡を取らなきゃダメだよ」

「えー、少しくらいええんちゃう?」

「後でネチネチと嫌味を言われるのは嫌だよ、私」

「うっ……帝都の奴らは嫌味ったらしいからなぁ」


 整備士姉妹はどうやらスペース・ドウェルグ社関連で用事をこなす必要があるらしい。しかし、どうも二人の言動から二人が帝都支社を嫌ってるような印象を受けるんだよな。

 アレだろうか、同じドワーフでも派閥みたいなものがあるんだろうか? なんかそんな感じがするな。怖いから触れないでおこう。


「メイはどうする?」

「私は船に残っています。何か連絡などがありましたらすぐにお取次ぎ致しますので」

「わかった。任せたぞ」

「はい、お任せ下さい」


 メイがほんの僅かに微笑む。うん、最近はメイも表情が柔らかくなってきたな。見慣れてないと全く変化に気付くことができないだろうけど。


「それじゃあ行こ――」

「ヒロは部屋に戻って銀剣翼突撃勲章と剣を持ってきなさいね」

「……要らなくね?」

「要るわよ。事情の説明が楽になるからちゃんとつけてくる。はい駆け足」

「えー……」

「つけた方がかっこいいですから」

「ぬぅ」


 結局エルマとミミに押し切られてキラキラの勲章を胸につけ、二本の剣を腰に佩いて傭兵ギルドへと足を運ぶことになった。解せぬ。別にレーザーガンだけで十分だと思うんだがなぁ。

エキュメノポリスはSFロマン_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
普通なら一項目につき物理的体験百回で脳が百回分の体験記憶蓄積するところを、一項目数回の物理+睡眠学習で百回分体験相当の刺激を脳に与えて時間圧縮する精神と時の部屋マシンが睡眠学習的ヘッドギアなのか…欲し…
[一言] 8割目の  まぁ、メイが勧めるなら間違いは無さそうだし行ってみるとするか。 「それじゃあ行ってみるかな。ミミとエルマも着いてくるか?」 付いてくる、で。
[一言] エキュメノポリスもロマン溢れるがダイソンスフィアとかもすこのすこ。 やっぱりエルマさん、エルフテンプレで出奔して来てたのね。よき。
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