#165 経験を束ねて
昨日4/23にコミックス1巻が発売されましたイェー! 買ってね!!!_(:3」∠)_(直球
虚空に浮かぶ数多の巨船から巨大な光の槍が放たれ、結晶生命体が激しく輝いて蒸発しながら爆散し、消滅していく。更に巨船の各所から飛翔体が多数発射され、光の尾を引きながら結晶生命体の群れに突き進み――着弾地点に巨大な火球が多数発生した。
本来機動爆撃に使用される艦対地反応弾頭ミサイルが有効な迎撃手段を持たない結晶生命体に牙を剥いたのだ。反応弾頭の炸裂によって解き放たれた猛烈な熱量と衝撃が結晶生命体の前衛を消し飛ばしていく。
「クリシュナに積んでいる反応弾頭魚雷よりも随分と威力が高くないですか?」
「炸薬量が違うからな。デカいは強いだ」
「なるほど」
実際に反応弾頭に積まれているのは炸薬などではなくもっとヤバいものらしいが、ミサイルがデカいからクリシュナの装備している対艦反応魚雷よりも威力が大きいというのは本当だ。
これはレーザーに関しても同じで、クリシュナに装備されている重レーザー砲は威力というか出力は帝国航宙軍の重巡洋艦が装備しているものとほぼ同じである。ただ、帝国航宙軍の重巡洋艦に装備されているレーザー砲の方がより大口径で、射程を伸ばすための各種装備がふんだんに投入されているためにクリシュナの重レーザー砲よりも遥かに射程が長いのである。こちらもミサイルと同じで結局のところ、デカいは強いなのだ。
「でも、やっぱりこれは抜けてくるわね」
レーダーに表示されている敵の光点を見ながらエルマが呟く。そりゃ数百、数千の小型結晶生命体を砲撃だけで潰すのは無理だろう。こればかりは仕方ない。
「観戦モードはここまでだな。行くぞ。ジェネレーター出力、戦闘モード」
「アイアイサー。ヘマしないでよ?」
「あったりめぇよ」
こうして長い長い戦いが始まった。
☆★☆
『クソッ、数が多すぎだってんだよ!』
『上からくるぞ! 気をつけろ!』
『ああっ! ジャン・レイがやられた!』
傭兵達の賑やかな戦場通信を聞きながら、俺は黙々と小型結晶生命体を迎撃する。
四門の重レーザー砲でそれぞれ違う目標を貫き、真正面から迫る小型結晶生命体は大型散弾砲で粉砕する。死角から突撃してくる小型結晶生命体を躱す。常に視界の端に近接3Dレーダーを捉えておくのが回避のコツだ。
『あの動き見ろよ。後ろに目ン玉でもついてんのか?』
『あんな高性能艦があれば俺だって……』
『いや無理だろ。艦の性能だけでああはならんわ』
「この乱戦で結晶生命体の体当たりを一発も受けないのは素直に脱帽だわ」
「ヒロ様の空間把握能力ってどうなってるんでしょうね?」
戦場通信だけでなく隣からも暢気な会話が聞こえるが、何十何百という爆散という名の経験を束ねた練磨の末に今の俺があるのだ。既に一連の動きというか思考というか戦闘行動が身体に染み付いているから簡単そうに見えるだけで、ここに至るまでには我ながら涙ぐましい努力を積み重ねたのである。
金を稼ごうとして爆散、金を稼いで新しい機体に乗り換えて爆散、新しい機体の購入費用のために前の船を売ってしまっていたので、修理費を稼ぐために初期機体の座布団で金を稼ごうとして爆散、爆散爆散爆散……後で聞いた所、他のプレイヤーに比べれば回数は少なかったようだが、俺にもそんな悲しくも悔しい経験が――やめよう悲しくなってきた。
とにかく俺は負けず嫌いで諦めの悪い男なので、ひたすらに練習をした。工夫もした。国内、海外を問わず戦術フォーラムも覗いたりもしたし、動画を見たりもした。そんな弛まぬ努力の結果、今の俺があるのだ。
そんな努力が回り回ってこういう風に役立つとは俺も思っていなかったが、結果的にヨシ。
「戦況は?」
操船に集中しながらミミに戦場全隊の戦況を尋ねる。
「他のエリアから後方に小型の結晶生命体が漏れていますが、後衛の近接防御で対応できているようです。ガーディアンクリスタルの排除率70%、間もなく排除が完了しそうです」
「少なくなればなるほど排除スピードは上がるものね」
数が少なくなればなるほど火線が集中することになるからな。ということは、このまま時間を稼いでいれば勝ちは揺るがないか。
「もうひと踏ん張りだ」
そろそろ散弾砲の残弾が半分を切りそうなのが心配だが、突出しすぎなければ問題あるまい。ある程度突出しないと味方の被害が拡大するから、匙加減が難しいんだよな。
「ヒロ様! 敵集団が左舷から接近中です!」
「了解」
長距離レーダーで捉えた情報をミミが教えてくれる。前に出たから隣のエリアから釣られてきたらしい。クリシュナを回頭させて敵集団を正面に捉える。
☆★☆
「間もなくガーディアンクリスタルの排除が完了します」
「排除を完了次第予定座標に移動。多角包囲攻撃を開始」
「アイアイマム」
全艦隊でリアルタイムで共有される戦術情報に視線を向け、戦況の推移を見守る。ガーディアンクリスタルの排除は順調で、抜けてくる小型結晶生命体に関しても想定内の範囲で問題なく対応できている。特に彼のいるエリアは抜けてくる数が少ない。さっきチラッと彼の撃破数を見てみたが、他の傭兵に比べて頭一つや二つ抜けているどころではなく、防空戦闘能力に長けた駆逐艦並みに小型結晶生命体を撃破している。
「例の彼は本物ですな」
「そうですね」
素直に頷いておく。銀剣翼突撃勲章を与えられるほどの傭兵なのだから当然といえば当然なのですけれど。これくらいやってくれれば帝国航宙軍の評価が疑われることもないでしょう。イズルークス星系に彼が現れてから今に至るまでの彼の戦績と戦闘データは帝国航宙軍によって記録されています。公式戦果としてしっかりと記録に残るので、今後は彼も仕事をやりやすくなることでしょう。相応に面倒事も増える可能性がありますが、それは有名税のようなものです。
「新しいプラチナランカーになりますかね?」
「それは傭兵ギルド次第ですが、可能性はありますね」
生きて銀剣翼突撃勲章を得ることになった彼には注目が集まるようになる。傭兵ギルドとしても新たなプラチナランカーの登場は望むところだろうし、帝国航宙軍も後押しとまでは行かなくとも拒否反応を示すことはしないだろう。
「ガーディアンクリスタル、排除完了!」
「よろしい。では作戦を次のフェイズに進めます。指定座標に移動後、同期砲撃開始」
「アイアイマム!」
作戦の大詰めを迎えたレスタリアスが指定座標への移動を開始する。
☆★☆
「圧力が減じてきたな」
「ガーディアンクリスタルを撃滅した戦艦、巡洋艦がマザー・クリスタルの包囲を始めました。小型結晶生命体もそれで散っているみたいですね」
「ちっ、不味いな」
つまり戦線が広がって前衛をすり抜け始めているわけだ。もう少し小型結晶生命体の数も砲撃で減らしてから包囲を始めたほうが良いんだが、そんな細かいところまでは俺も伝えなかったからな。
このまま放置してもこちらの勝ちは揺るがないと思うが、放置すれば後衛に被害が出るのは必至だ。
「仕方ない。ミミ、超光速ドライブ起動」
俺はそう言いながらウェポンシステムをオフにした。ウェポンシステムを起動して武装を展開していると超光速ドライブが使えないからな。
「えっ?」
「良いから起動だ」
「は、はいっ! 超光速ドライブチャージ開始。カウントダウン、5、4……」
キィィン、という超光速ドライブのチャージ音を聞きながら俺は艦首をマザー・クリスタルとは明後日の方向に向ける。
「ちょ、ちょっと、ヒロ?」
『お、おいっ! お前どこに――!』
『てめぇ、逃げる――!』
横から聞こえてくるエルマの困惑した声とクリシュナが超光速ドライブを起動したことを察知した傭兵達の声を聞き流して超光速ドライブの起動を待つ。
「3、2、1、起動!」
ドドォン! と凄まじい轟音が鳴り響き、超光速ドライブが起動――した瞬間、俺は超高速ドライブを解除して通常空間に帰還した。轟音が殆ど重なって二重に聞こえたな。
「ミミ、超光速ドライブ再チャージ開始」
「は、はいっ! 再チャージ開始します!」
艦首を遥か彼方に見えるマザー・クリスタルへと向け、再度超光速ドライブの起動をミミに指示する。一度明後日の方向に短時間超光速航行をすることによってマザー・クリスタルと前衛部隊との間に展開している小型結晶生命体の群れを迂回し、再度超光速航行でマザー・クリスタルの至近距離に移動するのだ。まぁ、巨大目標に対する単騎駆け用テクニックの一つだな。
流石にマザー・クリスタルの直近まで接近すれば、広範囲に広がって後衛に迫りつつある小型結晶生命体にもクリシュナの迎撃のために引き返す個体が少なくない数出てくる。
「超光速ドライブチャージ、カウント5、4、3、2、1……起動!」
再びほぼ重なった轟音が鳴り響き、俺達の目の前に超巨大な結晶製のイガグリかウニみたいな物体が現れた。
「お、大きい……!」
「これは……」
「絶句してる暇はないぞ!」
すぐさまウェポンシステムを再起動し、最大出力でスラスターを噴かしてマザー・クリスタルへと接近する。さぁ、最終ラウンドの開幕だ。
高速小型艦の単騎駆けとジャイアントキリングは戦場の華だからやめられないよなぁ!_(:3」∠)_(なお生還率




