表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/572

#162 結晶生命体撃滅作戦

 結晶生命体殲滅作戦が開始された。帝国航宙軍の大艦隊が動き始め、俺達傭兵もそれに追随する。

 万が一にも逸れるわけにはいかないので、各傭兵は指定された艦に同期モードでついていくことになる。オートドッキングの艦隊行動版のようなものだ。あちらからの要請を受諾するだけで一時的に操舵権を移譲し、こちら側は何もしなくても整然とした艦隊行動ができるようになるという優れものである。もっとも、縛りは緩いので緊急時にはこちらで即時破棄して自由行動に移れるのだが。


「退屈だな」

「えっと……はい。何かゲームでもしますか?」

「あなた達ね……」


 休憩スペースで緊張感の欠片もなく退屈だと漏らしている俺とミミにエルマがジト目を向けてくる。

 現在、クリシュナはブラックロータスに搭載されたまま艦隊行動をしている。本来であればいつでも緊急発進できるように俺達はコックピットで待機しているべきなのだが、マザー・クリスタルのいるイェーロム星系に到達するのは凡そ三十六時間後だ。今からコックピットで気を張っていても何の意味もない。不意の遭遇をしたとしても帝国航宙軍のコルベットが前衛にいるから、彼らが時間を持ちこたえている間に俺達傭兵の緊急発進が間に合う。

 まぁその、つまり移動中はやることがないのである。過度に緊張していてもいざという時に力を出せなくなるので、まぁこうして退屈だという俺に同意できるようになった辺り、ミミはかなり成長しているのだと思う。初めて船に乗って宙賊の退治に出かけようって時は緊張でカチンコチンになってたものな。それが今では退屈だ、という俺のぼやきに反応してゲームを勧めてくる。ミミの胸部装甲ともども成長を感じずにはいられない。

 ちなみにミミの胸部装甲だが、今でもサイズアップしている。身近に接しているので俺の感覚では「おっきいねぇ!」というIQの低そうな感想しか出てこないのだが、簡易医療ポッドで日々計測されているデータ上では確実にサイズアップが進んでいる。ミミ……恐ろしい子!


「いてっ」

「ふん」


 遊ぶゲームを選んでいるミミの胸元に熱い視線を注いでいたらエルマに太腿を抓られた。確かに視線が不躾だったかもしれない。反省。今度はエルマをジッと見る。透き通るような白い肌、尖った耳、物凄く整った顔立ち。うん、美人。ミミは可愛い系だけど、エルマ美人というか綺麗系というか……例えるならミミは子犬のような可愛さ。エルマは花のような美しさだよな。

 うん、花って表現はしっくり来る。


「何よ?」

「いや、エルマは花のように可憐で美しいなと」

「何よそれは」


 エルマはジト目を向けてくるが、耳が赤くなってピンと立っている。エルマの耳は口以上に物を言うなぁ。宇宙エルフが恥ずかしい時に耳を隠すのもわかる気がする。

 と、ミミとエルマを両脇に侍らせてイチャイチャとしていると格納庫に続く通路から賑やかな声が聞こえてきた。ティーナとウィスカがクリシュナの整備を終えて休憩に来たようだ。


「お疲れ」

「はい、おおきに。船の整備はばっちりやで」

「簡単なチェックと整備だけでしたけど」


 模擬戦は大幅に出力を落とした低出力レーザーと模擬弾を使って行われたので、実際に装甲に損傷などは負っていないからな。機動だけは実戦に等しいものだったから、動力系や操作系には実戦と変わらない負担がかかっていたと思うけど。


「へいかもん」

「よっしゃ」


 ソファに座ったまま両手を広げてみせると、ティーナがノリ良く突っ込んできた。突っ込んできたティーナを抱き留めて頭を撫でまくってやる。


「よーしよしよしよしよしよしよし」

「あはははは、髪がぐしゃぐしゃになるー」


 そう言いながらされるがままのティーナをひとしきり撫でて解放してやる。すると、左右からドンと俺の胸元に頭がぶつかってきた。


「よーしよしよしよし」

「えへへ」

「ちょっと、もう少し優しくやりなさい」


 ミミとエルマの頭も撫でてやる。そうすると、ウィスカがなんとも言えない顔でこちらを見ていた。ミミとエルマの頭を撫で終えたら再度ウィスカに向かって両腕を広げてみせる。


「うりゃー」

「お、お姉ちゃ――わっ!?」


 ティーナに後ろから押されたウィスカが足元をもつれさせて俺の胸に飛び込んでくる。そして華麗にキャッチ。


「よーしよしよしよし。いつもティーナに振り回されて大変だなー」

「ちょい。そりゃないやろ?」

「実際こうなっているが?」

「ぐっ」


 ティーナに押されて俺の胸元に顔を埋める形になっているウィスカを指差すと、ティーナは悔しそうな顔をして口を噤む。そんなティーナを勝ち誇った笑みを向けながら俺の胸元でカチコチになっているウィスカの頭を撫でていると、メイがスタスタと休憩室に入ってきた。

 そして俺の胸元からウィスカを抱っこしてミミの隣に座らせ、ソファに座ったままの俺の前に跪いて俺の腹の辺りに頭を預けてくる。


「よーしよしよしよし」


 恐らくコックピットで俺達の様子をモニターしていて、皆が頭を撫でられるのを見て自分も撫でて欲しくなったのだろう。頭を撫でるくらいならいくらでもやるよ。


 ☆★☆


 穏やかな時間もそう長くは続かない。艦隊は滞りなく、予定通りに戦場となるイェーロム星系へのハイパーレーンに突入した。もうじき艦隊はハイパースペースから飛び出して星系へと突入する。


「さて、各部チェックを開始。メイ、カタパルトも星系突入後すぐに飛ばせるようにチャージしておいてくれ」

「はいっ」

「アイアイサー」

『承知いたしました』


 クルーに指示を出しながらコンソールを操作してジェネレーター出力をアイドリングモードから巡航モードへと切り替える。一応イェーロム星系への突入口はマザー・クリスタルから遠い場所になっている筈だが、ガーディアンクリスタルが配置されている可能性は低くはない。

 本能なのか習性なのか、それとも知性や知能によるものなのか、奴らはハイパーレーンの進入口付近に屯していることが多いからな。SOLではマザー・クリスタルに一番近いハイパーレーン進入口付近が一番敵影が濃かったが、この世界ではどうだろうか。

 結晶生命体の性質がSOLと同じなのであれば、マザー・クリスタルから遠い進入口に配置されている戦力は他に比べて配置戦力が薄いはずだが……まぁ、こればかりは突入してみないとわからんな。


「間もなくイェーロム星系に突入します。三十秒前!」

「さぁて、やるかぁ」


 操縦桿を握り、ジェネレーター出力を戦闘モードへと変更して意識を切り替える。

 同時に結晶生命体への対処法――奴らの攻撃に有効な回避機動や、引き回しのパターン化などを頭の中で組み立てておく。

 まずは後衛に襲いかかろうとするガーディアンクリスタルの中で早急に処理が必要な対象を排除し、一刻も早く多くのガーディアンクリスタルのヘイトを稼いで引き回す。これが俺のやるべきことだ。

 今回の場合は敵を撃破することよりも、大火力を誇る味方を動きやすくするのが俺の仕事である。


「間もなくハイパースペースから通常空間に帰還します。カウント……5、4、3、2、1、0!」


 超光速ドライブ起動時や解除時とはまた違う奇妙な音が鳴り響く。ぎゅいおおぉぉんというか、びょぉぉぉんというか……シンセサイザーを滅茶苦茶に鳴らしたような音だ。なんなんだろうな、この音は。

 益体もないことを考えているうちにクリシュナを乗せたブラックロータスは通常空間に帰還した。

 同時に、艦内にアラート音が鳴り響く。


『結晶生命体を確認。帝国航宙軍前衛部隊のコルベットが戦闘に突入しつつあります。全傭兵にも出撃命令が下りました』

「了解、出してくれ」

『はい。皆様、ご武運を』


 コックピットのモニター越しにメイがお辞儀をして送り出してくれる。

 次の瞬間、船内に凄まじいGが襲いかかってきた。格納庫のカタパルトによってクリシュナが宇宙空間に射出され、コックピットを守る慣性制御装置でも殺しきれないGが俺達を襲ったのだ。


「うぅ、何度やっても慣れませんね」

「外力による加速には慣性制御装置の効きが悪いからな。ミミ、艦隊から情報を取得してガーディアンの位置をマークしてくれ」

「はいっ」


 ぼやくミミにそう返しながら旋回し、前線へと向かう。既に最前衛に配置されていた帝国航宙軍のコルベットはガーディアンクリスタルとの乱戦にもつれ込んでいるようだ。傭兵の船も順次前線へと向かっている。

 これは後衛に襲いかかる個体の排除は大丈夫そうだな。結晶生命体からのヘイトを稼いで敵を引きつけることを優先したほうが良さそうだ。


「よし、迂回して敵の横っ腹に突っ込むぞ。初手反応弾頭魚雷で敵のヘイトを引きつける。ウェポンシステム起動」


 クリシュナの艦首が変形し、二門の大型散弾砲がその姿を現す。四門の重レーザー砲を装備した武器腕も起動し、艦底のウェポンベイでは二発の反応弾頭魚雷がいつでも発射可能な状態になる。

 戦闘準備完了だ。


「了解。サブシステムの掌握は任せて」


 宣言通りにクリシュナは真っ直ぐ前線には向かわず、迂回を始める。


「こちらクリシュナ。前線を迂回して敵集団の横っ腹に突っ込む。反応弾頭魚雷を使って敵の注意を引きつけるから、爆発に巻き込まれないよう注意してくれ」


 コンソールを操作してクリシュナの突入コースと反応弾炸裂予想座標を全艦に共有する。まぁ、敵集団の中程にまで突出している味方は居ないから大丈夫だと思うが一応ね。


「突入するぞ」

「はい!」

「アイアイサー」


 十分な距離を使って加速し、敵集団の横っ腹へと突入を開始した。すぐにクリシュナの接近に気付いた個体がこちらへと向かってくるが、擦れ違うようにその横をすり抜けながら大型散弾砲と重レーザー砲で一撃を加えて注意を惹いていく。傷をつけられた個体の敵意が更に他の個体の敵意を呼び、前衛に掛かっていた敵の圧力が横っ腹に突っ込んだクリシュナへと漏れ出して弱まる。


「景気づけに一発!」


 艦底のウェポンベイから反応弾頭魚雷を敵集団に発射し、進路を逸らして爆発に巻き込まれないようにする。一発目が炸裂する前にもう一発、着弾地点を大きくずらして発射。


「さぁもう一発! さぁ来い! さぁさぁ!」


 俺の挑発が奴らに届くわけも無いが、俺の放った反応弾頭魚雷は確かに奴らへと届いた。こちらへと向きを変えて突進を始めようとしていたガーディアンクリスタルのうちの一体に着弾し、激しく炸裂して周囲のガーディアンクリスタルを数体巻き込む。

 更にもう一発。敵集団の土手っ腹に反応弾頭魚雷が炸裂して三体ほどのガーディアンクリスタルが爆散した。衝撃で飛び散った敵の破片が更に広範囲のガーディアンクリスタルを叩き、広範囲のガーディアンクリスタルがクリシュナへと敵意を向け始める。


「始めるぞ。シールド容量にはくれぐれも注意してくれ」

「アイアイサー。任せなさい」


 エルマの頼もしい返事を聞きながらクリシュナのスラスターを最大出力で噴かす。

 飛び道具あり、鬼の人数が百以上というエクストリーム鬼ごっこの開幕だ。

ちぇるーんは出ませんでした_(:3」∠)_(敗北

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観にしっかりと則ったハーレム要素がまるで嫌味なくストンと胸に落ちる、そして確かな主人公の包容力を感じる描写に納得しかない。 自分に出来ることと周囲の状態から戦況を推測する判断力、仲間た…
[一言] ヒロイン達を撫で撫でする回…非常に素晴らしい…(*'ω' *)
[良い点] 面白かった。 続きが気になります!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ