#015 バトルフェイズ
12時に投稿しようと思っていたのだが膝に矢を受けてしまってな……_(:3」∠)_(寒くてPCが起動しなかった
「僚機との同期を確認」
「僚機との同期、確認しました」
「超光速ドライブチャージ開始」
「超光速ドライブ、チャージ開始を確認しました」
「超光速ドライブチャージ完了。起動まで……5、4、3、2……超光速ドライブ、開始」
ドォン、と雷が落ちたかのような轟音が鳴り響き、超光速ドライブが起動する。今回の超光速ドライブは僚機の傭兵艦に同期しての航行なので、超光速ドライブ中に俺が操作をすることは何もない。精々僚機がヘマをやらかして見当違いの方向に進んだりしないか注意しておくだけである。
ちなみに、エルマは逆側の待ち伏せポイントに向かったらしく残念ながらこちらの待ち伏せポイントへと向かう一団の中にはいなかった。精々健闘を祈ることにしよう。
「さて、これから戦闘に入るわけだが……」
「……はい!」
「戦闘時、ミミにはレーダー観測手と通信手として働いてもらうことになる」
「はい!」
「レーダー観測手の仕事は?」
「はい! レーダーに映る敵機や僚機の動きを把握し、危険があれば操舵手に注意を喚起します!」
「うん、じゃあ通信手は?」
「はい! 敵味方の通信を傍受し、情報を集めると共にこの船に送られてきた通信に対応します!」
「大丈夫そうだな。俺が一人で乗っていた時にはそれを含めて全て俺が対処していた。その一部をミミに任せて、負担を軽減しようというのが俺の狙いなわけだ。ミミができることが増えれば増えるだけ、俺が楽になる。道程はまだまだ遠いと思うが、是非頑張ってくれ」
「はい! お任せくださいヒロ様!」
ミミが元気よく返事をして気合を入れる。
「うん、頼むぞ」
超光速ドライブ中に船の装備を再確認する。
主兵装は武装腕に装備された四門の重レーザー砲。副武装として機体に直接マウントされている散弾砲が二門、あとは切り札が二門二発ずつ、計四発あるが……これは弾薬費がとても高いのでできれば使いたくない。
とはいえ、切り札は使ってこその切り札だ。使い所があれば躊躇なく使っていくべきだろう。切り札の抱え落ちなんてのは間抜けのやることだ。
「綺麗ですね……」
ミミが船の外の景色に目を向けながら呟く。
流星のように過ぎ去っていく遥か彼方の星の光、緑色や橙色など色とりどりに光り輝く星雲、一緒に飛んでいる船が引く光の航跡、キラキラと煌くそれらはとても綺麗で、ゲームで見慣れていたはずの俺でも心を揺さぶられる。
「そうだな。こういう光景を生で見られるのも船で星の海を自由に行き来する俺達の特権みたいなものだ」
「はい」
数分の超光速ドライブで目標のポイントに到達した。
「超光速ドライブを解除する。衝撃と振動に注意」
「はい」
超光速ドライブを停止し、通常航行に移行する。ドォン、と再び轟音が鳴り、俺達の乗るクリシュナは通常空間に帰還した。傭兵艦達が自分に割り当てられた潜伏ポイントに向かって三々五々に散っていったので、俺もそれに倣って自分に割り当てられたポイントへと移動を開始する。
「ここが潜伏ポイントだな」
「なんだか、静かですね」
「基本的に宇宙は静かで孤独なものさ。俺にはミミがいるから孤独ではないけど」
「……えへへ。じゃあ、私も孤独じゃないですね」
他愛ない話をしながらメインジェネレーターの出力を最低限まで絞り、潜伏を開始する。
「寒くないか?」
「大丈夫です」
生命維持装置に回す電力も抑えているため、コックピット内の温度も少々下がっている。俺はそれなりに着込んでいるから何の問題もないが、ミミは少し薄着じゃないかな?
「この服、薄いですけど温かい素材なんですよ」
「そうなのか。ちょっと不安だったけど、良い服屋だったんだな」
「はい」
可愛い女の子が毎日色々な服を着て過ごしているのを見るのは実に眼福だ。ここ数日、ミミは毎日様々なコスプレ衣装めいたサイバーチックな衣装で俺の目を楽しませてくれている。ロリ巨乳のメイドさんとか素晴らしいものだと思う。
さて、そんなことを考えていると前方の空間を多数の光条が貫いた。同時に混乱した宙賊のものと思われる通信を多数傍受する。
『な、なんだ!? 何事だ!?』
『ミハエルがやられた! 攻撃――うわあぁぁぁぁっ!?』
『星系軍のカチコミだ!』
『あいつら基地と大型艦を――各所で火災発生! 三番と七番隔壁閉鎖しろ!』
『まだ人がいますよ!?』
『馬鹿野郎! 閉鎖しなきゃ全員まとめてドカンだ! やれ!』
阿鼻叫喚である。そうしている間にも星系軍の戦艦級、重巡洋艦級の大型艦船からの艦砲射撃が宙賊どもの基地と大型艦船を破壊していく。流石にあの攻撃力は俺のクリシュナでも出せないな。特に戦艦級の大型砲の火力と射程は傭兵の扱える中型艦艇とは比べ物にならない。
戦艦は防衛用の近接火力も半端じゃないしな……下手に正面から近づくとこちらの武器の射程に収める前に蜂の巣にされてしまう。まぁ、一対一なら戦う手が無いわけでもないんだが。
『ダメだ! どうにもならん! 逃げろ!』
『退避! 退避! 退避!』
『畜生! 溜め込んでいたお宝がパァだ!』
お、逃げに回るようだな。果敢に星系軍に突っ込んでいっていた宙賊船も何機かいたんだが、ことごとく爆散してたな。まぁ、隊列を組んだ星系軍に正面から突っかかればそうなるわ。どんな船でもそうなる。
『無線封鎖解除! 作戦開始!』
『GOGOGO!』
『一隻も逃すな!』
『ヒャッハー! 獲物が選り取り見取りだぜぇ!』
作戦開始の合図と同時にクリシュナのメインジェネレーターの出力を最大に上げ、加速を開始する。
「ミミ! 戦闘に入るぞ! 揺れと衝撃、高Gに備えておけ!」
「は、はいぃ!」
急加速による急激なGによって身体がシートに押し付けられる感覚。腹の底から湧き上がってくる高揚感。手のひらに汗がじんわりと滲んでくる。
ウェポンシステムを立ち上げ、武装腕と散弾砲を展開する。さぁ、戦闘開始だ。
『正面から所属不明艦! なんだありゃ? 船から腕が生えてやがる!?』
『見たことのねぇ船だ、注意しろ!』
『ヘッドオンだ! 撃ちまくれ!』
『数はこっちが上だ、機体をぶつけてシールドを剥ぎ取っちまえ! 囲んで叩くぞ!』
正面に宙賊船が四隻。機種は小型の汎用艦が二、小型の戦闘艦が二。ヘッドオン――正面から対峙した状態で突っ込んでくる。敵が武装を展開するのが見えた。
「小型機でクリシュナ相手に正面からの撃ち合いはなぁ」
正面から迫ってくる小型の戦闘艦のうちの一機に武装腕の重レーザー砲四門の照準を向け、もう一機に散弾砲の照準を合わせる。
敵も俺に火力を集中するつもりのようだが、木っ端の小型艦船が持つレーザー砲よりも俺のクリシュナの重レーザー砲の方が射程が長い。
『うわぁ!? シールドが――』
四門の重レーザー砲による一斉射で小型戦闘艦のシールドがダウンし、間髪入れず発射された第二射がシールドを失った小型戦闘艦を貫通し、その機体を爆散させる。
『嘘だろ!?』
『こいつはヤバい! 逃げろ! 逃げ――』
散弾砲の照準を合わせていたもう一機の小型戦闘艦が急旋回して逃げようとするが、もう遅い。無防備に晒された小型戦闘艦の腹に二門の散弾砲を連続で発射する。
散弾砲から発射された無数の弾丸が一瞬で小型戦闘艦のシールドを飽和させ、そのまま容赦なく船体を穴だらけにした。スイスチーズの出来上がりだ。
一瞬遅れて二機の小型戦闘艦が爆発四散する。
『ぎゃあぁぁぁ!? ば、化物だぁ!?』
『に、逃げっ……』
残りの汎用艦が逃げようとするが、一般的に完全に戦闘用というわけでもない汎用艦は速度性能で戦闘艦に劣る。対して、俺の愛機であるクリシュナは速度性能の高い純粋な戦闘艦だ。逃げられるわけがない。
『は、速ぇ! 振り切れねぇ!?』
『嫌だ嫌だ嫌だ! こんなところで俺は』
「ここで死ね。宙賊殺すべし。慈悲はない、ってやつだ」
こちらに艦尾を向けて加速している二機の汎用艦に追いすがり、重レーザー砲で一機ずつ撃沈する。別々の方向に逃げようとしたが、逃してやるわけにはいかない。逃したらこいつらはまたどこかで他人を襲うのだ。一度賊に堕ちたら足を洗うのは難しいからな。
次の目標に向かおうとした時にふとミミの座る席に視線を向けてみると、ミミは緊張した面持ちでプルプルと震えていた。レーダーに視線は向けているようだが、本当に見えているのかどうかも定かではない。流石に初陣から完璧に仕事をこなせるとは思っていなかったし、これは仕方ないな。
すぐに視線を外し、レーダー上に映る次の目標へと移動を開始する。
目に飛び込んでくるものはレーザー砲の光条、実弾兵器から飛び出す曳光弾の軌跡、ミサイルの噴進炎、そして撃破された艦の爆発炎。それは空間を色鮮やかに彩り、まるで光の洪水のようだ。
しかしその実、その美しい光景のどれもが人間にとってはまさしく致命的な美しさである。レーザー砲は最低クラスのものであっても生身の人間が直撃すれば跡形も残らないし、戦闘艦に搭載されるような大口径の実弾兵器など当たろうものなら跡形もなくミンチだ。ミサイルなどは言うに及ばず、艦が撃沈などされようものなら宇宙空間に放り出されて死は免れない。
脱出ポッド? 一応コックピットブロックそのものが脱出ポッドとしての役割を持ってはいるが、戦闘となるとコックピットブロックに被弾することも多いし、艦や弾薬の爆発に耐えられる可能性は決して高くはない。運が良ければ生き残れるかもしれないね、というレベルのものだ。
「ミミ、次の戦闘に入るぞ」
「……っ!? は、はいっ!」
俺の言葉を聞いてミミが弾かれたかのように身を震わせ、緊張した声を返してくる。慣れるまでまだまだ掛かりそうだな。
『チッ、数が多い!』
『囲め囲め! ベッソ、頭を抑えろ!』
『おらよぉっ!』
『っのやろぉ!』
傭兵艦の一機が五機の宙賊船に追い詰められていた。今はまだ船の性能差があるおかげで致命的なことにはなっていないが、あのままだとジリ貧だろう。徐々にシールドを減衰させられ、装甲を削られ、いずれ落とされる。
だがそれは俺が介入しなければ、の話だ。追われている傭兵艦のコールサインは……クワイエット、か。
「こちらキャプテン・ヒロ、コールサインはクリシュナだ。クワイエット、援護する」
『おお! 助かるぜ!』
『チッ、増えやがった! ラング! カマー! 足止めしろ!』
『あいよ!』
『任せろ!』
クワイエットを追い詰めていた五機のうち、二機がこちらに向かってくる。見たところ、一機は戦闘艦、もう一機は輸送艦を改造したミサイル支援艦であるようだ。ミサイル支援艦は厄介だな。ミサイルは避けるのが困難だし、破壊力が高い。ミサイル支援艦を含めた五機に追い回されて健在のクワイエットはなかなかの凄腕だな。
『シーカー!』
『了解!』
宙賊のミサイル支援艦からミサイルが発射され、真正面からこちらに向かって突き進んでくる。シーカーということは恐らく熱源誘導式のシーカーミサイルだろう。射程は比較的短いが、レーダー誘導ではないためロックオン警報が鳴らず、奇襲に向くタイプのミサイルだ。
こうやって真正面から、しかもミサイルを撃つことを宣言した上で発射しているのでは性能の半分も活かせていないと思うが。
対処方法は大まかに二つ。誘導性能を上回る機動性で避けるか、強力な熱源をばら撒いて誘導装置を騙すかだ。俺は第三の選択肢を取る。
腹の底に響くような炸裂音と共に発生した反動が機体を揺らす。それと同時に発射された無数の弾丸が正面から迫るシーカーミサイルを二つ同時に爆散させた。広がる爆炎に最大加速で突っ込み、ミサイルの誤射を恐れて脇にどけていた汎用艦の横を通り過ぎ、ミサイルの行く末を見守っていたミサイル支援艦に肉薄する。
『げぇっ!? こいつ突っ切って――』
「一つ」
擦れ違いざまに至近距離で散弾砲を叩き込み、ミサイル支援艦を撃破する。搭載していたであろう大量のミサイルが誘爆したのか、通り過ぎたその後ろで大爆発が起こった。
『なんっ!?』
「二つ」
姿勢制御用のスラスターを使って滑るように艦をクイックターンさせ、四門の重レーザー砲でもう一機の汎用艦を釣瓶撃ちにしてやる。重レーザー砲のシールド減衰能力は非常に高い。宙賊の小型艦船如きが搭載しているシールド発生装置とジェネレーターでは四門の一斉射撃に抗うことなどできはしないのだ。
案の定、一瞬でシールドが飽和し、無防備になった船体が碧色の光条に貫かれて爆散する。
こちらの戦闘を終わらせたので、クワイエットの方はどうなっているかとレーダーを確認してみると、残っていた三機のうち一機を撃破し、もう一機を追いつめているところのようだった。やっぱりなかなかの凄腕だな。
「もう一機片付けるぞ」
『悪いな』
『んなっ!? クソッ! こんな筈じゃ……!』
『ど、どうすんだよライゾぉ!』
『うるせぇ! こいつらを叩き落としてさっさと逃げるっきゃねぇだろうが!』
情けない声を出した宙賊に指示を出していたリーダー格の宙賊が怒鳴り返す。俺に言わせれば、こうなってしまってはお前らに勝ち筋は無いから大人しく爆発四散しろって感じだ。
明らかに逃げ腰になっているもう一機を俺が受け持ち、リーダー格と思しき機体をクワイエットが片付ける。掃討戦はごく短い時間で終了した。
『助かったよ、クリシュナ。流石に五機に粘着されると厳しかった』
「なに、獲物はしっかり頂いたよ。それじゃあな」
『ああ、そっちも気をつけろよ』
クワイエットが後退していく。恐らく応急修理と減衰したシールドの回復をするのだろう。散らばっている宙賊船の残骸からめぼしい物資だけを回収して次の目標へ向かうことにする。
 




