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#153 出撃

 翌日の朝一番に傭兵ギルド経由で軍から指名で依頼が出された。内容は事前に提示されていた通りで、一日あたり40万エネルだ。クリシュナとブラックロータスはセレナ少佐の率いる対宙賊独立艦隊に同行し、彼女の艦隊の作戦遂行を支援する。作戦中の補給は基本的に帝国航宙軍持ち。ブラックロータスは可能な範囲内で補給物資を積み込み、砲艦としてだけでなく補給艦としての役割も負う。契約期間は最大で三ヶ月と定められた。


「最大で三ヶ月ですか……」


 ミミが手元のタブレットが端末を見ながら少し憂鬱そうな声でそう言う。最大三ヶ月ってだけで、状況次第ではもっと早い段階で契約は終了になるんだけどな。まぁそれなりに長い時間を拘束されるのは間違いないだろう。


「妥当だと思うけどな。何せハイパーレーンを移動する時間も含まれるわけだし」


 それに答える俺はクリシュナのタラップの上からブラックロータスのカーゴスペースへと次々に帝国航宙軍の補給物資が積み込まれていく様子を見ていた。

 搬入はブラックロータスに装備されているAI制御の搬入システムによって行われており、搬入システムが制御する荷運びドローンが一糸乱れぬ効率的な動きで荷運びをする様子はなかなかに楽しい光景だ。


「そうね。いくつの星系を渡り歩くことになるかわからないけど、移動に数日かかることもあるし」


 エルマもまた俺と同じように荷物が運び込まれるのを見ているが、さして興味は無さそうである。はたらく機械にはあまり興味が湧かないらしい。俺は工業機械が規則正しい動きでものを作ったりする様子を割と飽きること無く見ていられるんだけどなぁ。


「こんなに長い拘束期間の依頼はアレイン星系以来ですよね」

「そうだな。まぁ長くなりそうだから気楽に行こう」


 常に緊張状態を保つことなど不可能だし、それで肝心な時に消耗して力をだせないようじゃ本末転倒だからな。


「でもまぁ、そんなに長くならないんじゃないかと俺は思ってるけど」

「そうなんですか?」

「そうなの?」

「うんまぁ、確信は無いんだけどな」


 俺はセレナ少佐にパルサー星系が怪しいといった旨の情報を流している。情報の確度から言えば俺の発言なんぞは何ら注目に値するものではないかもしれないが、今の帝国航宙軍、そしてセレナ少佐には結晶生命体の本拠地に関する情報そのものが全く無いに等しい。

 藁をも掴むという気持ちでイズルークス星系周辺に存在するパルサー星系の調査に乗り出してもおかしくはない。そして、近隣のパルサー星系の数なんてのもそう多いものでもない。ザッとしか見ていないが、この辺りに候補は二つくらいしか無かったはずだ。俺にも結晶生命体の巣が確実にパルサーを擁する星系にあるという確信は無いが、歌う水晶や結晶生命体の挙動がSOLと殆ど変わらない事を考えれば、少なくとも大外れではないのではないかと思う。


「兄さーん」


 タブレット型の端末を小脇に抱えたティーナが軽快に駆けてくる。身体は小さいけど、走るのは結構早いんだよな。トレーニングルームで一緒に何度かトレーニングをしたが、単純な筋力はエルマ並みだった。つまり俺より上である。

 あと持久力も半端じゃない。負荷をかけるタイプのトレーニングであればエルマの三倍、俺の五倍は耐えられる。一体あの小さな身体のどこにそこまでのパワーとタフネスが潜んでいるのだろうか。もしやアルコールを体内に溜めて直接エネルギーに変換しているのでは? と思ったがまさかな。ハハハ。


「積み込みはもう少しで終わるで。あと十五分ってところやね。積荷の内容はー……まぁ基本は食料と水や。他にも細々としたものはあるけど」

「了解、積み込みが終わったら待機してくれ。多分すぐに出ることになると思う」

「りょーかいや」

「安全第一でな」

「もちのろんやで。兄さんも出港に備えて身体と頭を休めといてな」


 ティーナがぶんぶんと手を振って作業に戻っていく。その様子を見たミミとエルマが揃って俺の顔を見つめてきた。なんだね?


「なんだかティーナの態度が変わってない?」

「そうですね……なんだかこう、柔らかくなったというか……いえ、前から気安く会話はしてたと思いますけど、なんだか雰囲気が違うような」

「別に何もないぞ……休憩室で少し話はしたけど」

「どんな話をしたの?」

「ターメーン星系で二人に出会った時の話がメインだな。ああ、俺の出自の話にもなったから例の記憶喪失エピソードで濁しておいた。それくらいかな」

「なるほど……?」


 ミミもエルマも首を傾げている。そもそも雰囲気が変わったっていうのが思い違いだと俺は思うんだが。確かになんか妙に優しかったというか、俺の記憶喪失って設定を物凄く真摯に受け止めて心配してたようには思うが……二人が心配というか、そこまで気にするとなると俺もなんだか気になってくるな。


「まぁ、その辺りは出発した後にいくらでも時間があるから、その時に聞けば良いんじゃないか」

「そうですね」

「そうね」


 二人は俺の言葉に納得してとりあえずティーナの態度の微妙な変化については横に置くことにしたようだ。

 そしてティーナの言った通り、きっかり十五分後に荷物の積み込みが終わり、程なくして俺達に出撃命令が下った。


 ☆★☆


「とは言っても、出撃したからと言って俺達が気を張っている必要は全く無いんだよな、暫くは」

「そうですね」

「そうだけど、弛んでるわけにはいかないわよ」


 俺とミミ、そしてエルマはクリシュナのコックピットで待機してはいたが、戦闘でも起こらなければクリシュナが発進することはない。ブラックロータスの航行に関しては全てメイに任せているので、以前までのように航行中にやることが何もないのだ。

 確かにエルマの言う通り、何かあった時にすぐに動けないようでは困るので弛んでいるわけにもいかないのだが。


「士気の維持って大事だな」

「そうね。いざという時にサッと動けないと舐められるから、あんまり気を緩ませないようになさい」

「はいっ」

「そうする」


 集中力を維持するために外の状況を常に見られるようにするべきだろうな。俺はコンソールを操作してブラックロータスのセンサーから得られる情報をクリシュナのコックピットに表示できるようにする。


「流石にこれだけ船が揃っていると壮観だな」

「そうですね」


 コックピットのモニターにはセレナ少佐の率いる対宙賊独立艦隊だけでなく、多数の傭兵の船が映し出されていた。今回の作戦行動でセレナ少佐の艦隊に同行する傭兵は俺達だけではない。それなりの数の傭兵がセレナ少佐の艦隊に同行することになっているのだ。


「うーん……機体だけ見ると本当にピンキリだな」

「そうなんですか?」

「それでもそこらの雑魚宙賊よりは機体も腕もずっと上よ。まぁ、ある程度はランクで実力が測れるとはいえ、装備も腕も均質じゃないから指揮をする側としては頭が痛いでしょうね」


 今回、セレナ少佐の艦隊に多数の傭兵が同行するのは対宙賊独立艦隊に不足しがちな近接戦闘能力を補うためである。


「基本的には艦隊のコルベットと傭兵で前衛を務めて駆逐艦は本隊の防御。巡洋艦と戦艦の砲撃で敵を殲滅するっていう戦術になるだろうな」

「コルベットは二隻しかいないですよね、セレナ少佐の艦隊」


 セレナ少佐の率いる対宙賊独立艦隊の編成はコルベットが二隻、駆逐艦が三隻、巡洋艦が五隻、戦艦が一隻という内容になっている。基本的に撃たれる前に撃って撃滅するって感じの編成だ。

 これが巡洋艦や戦艦が戦闘の主役になる国同士の戦いであればこの編成で大正解なんだろうが、物量に任せて犠牲を気にせず突っ込んでくる結晶生命体に近接戦闘に持ち込まれてしまうと少々不味い。いくら強力な主砲があっても懐に入り込まれてしまってはどうしようもなくなってしまうからな。


「そこを補うために傭兵が沢山同行してるってわけだよ」

「そういうことですよね。じゃあ、結晶生命体と戦闘になったら結構危ないんじゃないですか?」

「相手が余程の大群でもないかぎり大丈夫だとは思うけどな」


 巡洋艦五隻と戦艦一隻から放たれる砲火は多少の結晶生命体の群れなど一蹴してしまうだろう。中型三十、小型が百とか、或いは大型でも出て来ない限りは大丈夫なはずだ。戦闘が発生すれば亜空間通信を使って近隣の星系にいる他の偵察艦隊に増援要請もできるはずだしな。


「やめてよね。ヒロがそういうことを言うと大群が出てくるんだから」

「おいおいそれはない……ないと思う。思いたいなぁ」

「これはダメそうですね……」

「覚悟しておいたほうが良いわね」

「やめろよ、そんな事言うから本当に来るんだぞ」

「私達に責任転嫁するのは良くないわ」


 俺達は互いに責任を擦り付け合いながらクリシュナのコックピットで待機を続けるのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ブラックロータスのサイズが300m級との事なので、重装甲巡洋艦の排水量としたら、おおよそ2次大戦時の25000t級重巡洋艦・高速戦艦クラスと思います。主砲を1発にして、小型艦搭載デッキ…
[一言] このドワっ娘像はリネ2っぽいよなぁ。プレイしたことあるのかな。この分だとバインバインのダークエルフとか出でくる?
[良い点] フラグじゃなくて前提条件じゃねえか!という読者からの総ツッコミ しかも頭イかれてる勲章持ちなんだから旗回収どころか開始地点に旗立ってるんだよなあ…
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