#151 整備士姉妹との時間
小説とは関係ないけど、皆さんも身体には気をつけて!
手洗いうがいをしっかりして、ちゃんとごはんを食べようね!_(:3」∠)_
「ふぅむ……」
様子を見て回ることにしたわけだが、どうしたものか。ミミとエルマ、それにメイと整備士姉妹か……まずは整備士姉妹にするかな。ミミとエルマはなんだかんだで俺と無茶をするのには慣れているし、メイはあまり心配要らなそうに思える、まずは俺の船に乗って日が浅い整備士姉妹のケアをするべきだろう。ミミとエルマは夜にでもゆっくり話せば良いだろう。
というわけで、姉妹の元を訪れたわけだが。
「あ、兄さんどしたん?」
二人は休憩室のソファに並んで座っていた。特に何をするでもなく、互いに身を寄せ合い、互いに寄りかかるようにして座りながら異星植物が繁茂するテラリウムを眺めていたのだ。
「いや……皆の様子を見て回ろうと思ってな。邪魔をしたかなと」
姉妹で仲良くまったりとして精神を落ち着けていたのなら、俺の出る幕ではない気がする。
「そっとフェードアウトするから気にしないでくれ」
「や、別に行かんでもええやん。ここに座ってや」
そう言ってティーナがウィスカから身を離し、一人分ずれて自分とウィスカの間をポンポンと叩く。
「二人の間に入れと……? それは大丈夫なのか?」
百合の間に挟まると色々な方向から殺されそうな気がするんだが? いや、二人はそういうのじゃないんだろうけどもさ。
「何を言うてんの? はよ座ってぇな」
「う、うむ……」
「変な兄さんやなぁ」
ケラケラと笑うティーナの隣に座る。ティーナの隣ということは、つまりウィスカの隣でもある。
「はいどーん」
「うぉい?」
座るなり、ティーナが俺に抱きつくように身を寄せてきた。
「ほら、ウィスカもやるんやで」
「えぇ……ど、どーん」
ティーナに唆されたウィスカもどーんしてくる。なんなのだこれは。
「なんとなく人肌が恋しい気分なんよ。あ、えっちな意味やないよ?」
「えっちな意味で言われても困るんだが」
「なんでやねん。ティーナちゃん可愛いやろ。ウィスカも可愛いやろ」
俺の腕をぎゅっと抱きしめながらティーナがぷんすこと怒る。
「二人とも可愛いのは認めるけどさぁ……」
可愛いというのとそういう対象として見るのとはまた別問題でな、俺の中では。というか、二人は可愛いんだけど、身体が小さくていかにも絵面が危険な感じだからさ……新たな扉を開いてしまいそうで怖いんだよ。
「その話は置いておいてだな。ええと……」
「ええと?」
「……特に気の利いた話題が思い浮かばないな」
「話下手か。ミミもエルマんもなんで兄さんに引っかかってるんやろなぁ」
「うるさいやい。話下手とか言うならそっちから何か気の利いた話題を振ってみろってんだ」
「せやなぁ、じゃあウィスカのやらかし話でも暴露しよか」
「お姉ちゃん」
「あれは四ヶ月くらい前の話やった。その日は塗装のし直しで船を預かっててな。塗装作業をしてたんやけど、ウィスカの作業服のお尻の部分に塗装用のペイント液がついてな。ウィスカはそれに気づかずに作業場のあちこちにお尻の形の判子を……」
「お姉ちゃん!」
顔を赤くしたウィスカが叫んでティーナの話を遮る。意外とうっかりさんなのかな、ウィスカは。
「可愛いやろ?」
「可愛いな」
「くぅ……お姉ちゃんがその気なら、私もお兄さんにお姉ちゃんの恥ずかしい話を聞かせるからね!」
「おう、やってみぃ。うちは更にその二倍ウィスカの恥ずかしい話をしたるで」
どんなに恥ずかしい話も薄着で俺達の部屋に押しかけてきたあの時の最大瞬間風速は上回れないのではないか? と内心で思いつつ二人の話に耳を傾けた。
☆★☆
「ぐぬぬ……」
「むむむ……」
なんだかこの短時間で二人の恥ずかしいエピソードを聞かされてしまった気がする。まぁ、恥ずかしいエピソードといってもちょっとした失敗談みたいなものばかりだったけど。
「寝ぼけたティーナがパジャマのまま出勤するエピソードは良かったな」
「だ、誰だって寝ぼけるくらいはあるやん? パジャマのまま出勤するくらい……」
「いやそうはならんやろ」
いくら寝ぼけてもそれは無い。寝ぼけ過ぎにも程がある。
「ふふん、やっぱり私よりもお姉ちゃんの方がうっかりさんだよね」
「それはない。ウィスカのほうがうっかりさんや」
「お姉ちゃんのほうがうっかりさんだよ」
「ウィスカのほうや」
「お姉ちゃんのほう」
「「ぐぬぬ……」」
五十歩百歩という言葉を知っているだろうか? どんぐりの背比べでも良いんだが。まぁ俺は大人なので、敢えて口には出さないでおく。俺から見れば二人とも同じように思えるけどな。
そういえばいつの間にかティーナだけでなくウィスカも俺の腕に抱きついているな。ついつい熱が入って周りが見えていないのか……俺の中でウィスカのうっかりさんポイントが追加される。どっちもどっちだが、このうっかりでウィスカのほうが僅かにリードだろうか。
「というか、よく考えたらうちらの失敗談だけ兄さんに暴露するのは不公平やないか?」
「むっ……確かにそうだね。お兄さんの失敗談も聞かせてください」
「俺の失敗談かぁ……」
急に言われてもなぁ。二人には俺の事情は何も話してないから、あんまりうかつなことは言えないな。ここは最初にミミやエルマに話した記憶喪失エピソードを使うか。
「昔のことはあまり覚えてないんだ。記憶がはっきりしてるのはミミやエルマと会うちょっと前からでな……どうもハイパードライブの事故か何かで記憶喪失になってるらしい」
「またまたそんな……え? ガチなん?」
「うん、ガチなんだこれが。気がついたら電源が落ちた状態のクリシュナのコックピットで寝ててな。寒くて目が覚めた。何故だかクリシュナの操作そのものは身体が覚えててくれてなんとか助かったけど、いきなり宙賊に襲われたりしたし、ようやっと辿り着いたターメーンプライムコロニーでは船の寄港履歴が一切なかったりして相当怪しまれたよ」
「そんな……じゃあ、家族や兄弟の記憶も……?」
「無いな。あまり気にはしてな――」
気にはしてない、と言おうと思ったら姉妹が左右から俺の顔を見上げてきた。なんだろう? と首を傾げる。
「兄さん、何の悩みも無さそうに見えて苦労してたんやな……」
「寂しくない……? 大丈夫……?」
二人がめいっぱい手を伸ばして俺の頭を撫でてくる。う、うーん……確かに家庭環境に恵まれた生い立ちとは言えないが、ここまで二人に心配されるのはなんだか心が痛むような。
「いや、別にあまり気にしてないから」
「嘘を吐いたらあかん。家族の記憶が無いなんて絶対に不安なはずや」
「そうだよ、お兄さん」
「そ、そうか……」
二人の有無を言わさぬ物言いについ押し負けてしまう。だって二人とも顔が真剣なんだもの。本気で心配されているというのが伝わってくるから無碍にすることもできない。
「寂しかったらうちらに甘えてもええんやで?」
「いやそれは」
「嫌ですか……?」
「い、嫌ではないですけど」
君達落ち着きたまえ。そして考えろ、考えるんだ……この状況を打破する方法を――閃いた!
「俺の記憶の話はとりあえず横に置いておいてだな、俺とミミやエルマ、それにメイがどうやって出会ったのかって話に興味は無いか? 二人ともみんなとはもうそれなりに話してるだろうけど、そういう経緯まではまだ聞いてないだろ?」
「ん……それは確かにそうやね」
「そうだろうそうだろう。丁度今話してたターメーンプライムでの話でな……」
そうして俺はこの世界に来て、エルマやミミ、それにセレナ少佐と出会った頃の話を二人にし始めた。こころなしか、二人の密着度合いが増して、俺を見る目が少し変わったように思うが……こうして二人とゆっくりと時間を過ごしたのは悪いことではないように思えたのだった。