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#148 受勲とアイサツ

 大型ホロディスプレイ使った今回の戦闘の概略ホロ動画の上映が終わった後、受勲式が始まった。再び大型ホロディスプレイにホロ動画が最初から流れ始め、時系列順に受勲の要因となった帝国航宙軍の士官と今回の戦役に参加した傭兵達の活躍が解説されていく。

 受勲の理由は様々だが、帝国航宙軍で受勲された士官の全員が船の大小はあるが所謂艦長職の人々であった。

 帝国航宙軍でもクリシュナと同じような小型戦闘艦が運用されている。駆逐艦以上の大型艦やそれ以上の超大型艦だけでは数の多い小型の結晶生命体に対応しきることは不可能なので、所謂防空戦闘というやつを行う小型戦闘艦も帝国航宙軍には配備されているのだ。特にこのアウトポストにはそう言った小型戦闘艦の配備が多いらしく、帝国航宙軍の受勲者の半数以上はそういった小型艦の艦長であるようだった。

 その他にも駆逐艦以上の大型戦闘艦の艦長も受勲している。セレナ少佐も今回の戦闘で受勲したようであった。彼女が受勲したのは銅盾翼勲章どうじゅんよくくんしょうというもので、戦闘において味方を庇い、被害を抑制しつつ奮闘した艦に贈られるものであるらしい。

 基本的に今回授与されている勲章というのは銅、銀、金の三階級に功績の種類が剣、盾の二種、それに突撃などの修飾語がつくような感じだな。例えば敵機撃墜などの攻撃において功ありとなれば銅剣勲章や銀剣勲章、金剣勲章。防御戦闘や味方を庇うような立ち回りで功績を挙げた場合は銅盾勲章や銀盾勲章、金盾勲章になるんだろう。

 実際にこの場で与えられている勲章は銅剣翼勲章や銀剣翼勲章なので、恐らく航宙戦闘における勲章は翼がつくんじゃないかな? これが白兵戦における顕著な功績なら翼がつかないんじゃないだろうか。

 種類的にはもっと沢山あるんだろうな。これだと戦闘職に就いている人しか受勲できないし。補給や整備、その他色々な功績に対する勲章もあるんだろうが、この場で出てくるのは戦功勲章だろうから今はあまり関係は無さそうだ。戦功勲章に関してもこれで全部とは思えないけど。

 そして、今の所俺が貰う予定の銀剣翼突撃勲章のように修飾語のついた勲章は出てないな。大体銅剣翼勲章か銅盾翼勲章だ。防空戦闘で大活躍した帝国航宙軍の小型艦の艦長と傭兵の一人が銀剣翼勲章を受勲していたくらいか。


「では、最後となったが今回の戦役において戦いの趨勢を大きく動かした戦功第一位、キャプテン・ヒロに銀剣翼突撃勲章を授与する。キャプテン・ヒロ、前へ」


 席から立ち上がり、勲章を渡してくれるこの基地の司令らしき軍人の前へと移動する。受勲の手順というか、作法に関しては今まで散々見ていたので問題ない。まぁ、作法と言ってもさして難しいものでもなく、普通に前まで歩いていって胸に勲章をつけてもらったら敬礼するだけだ。

 この敬礼はよくある挙手の敬礼というやつで、元の世界でいうところの所謂『軍隊の敬礼』として使われているものと同じようなものであった。厳密には手の角度や挙げ方、掌の向きなんかが結構違うんだろうが、傭兵の場合はそこまで細かく言われないようだから気にしないでおく。


「君の活躍が無ければここに立っている者のうちの数人が命を落とし、その部下の数百人もまた同じ運命を辿っていただろう。生きたまま銀剣翼突撃勲章を胸につける者は稀だ。その勲章に相応しいさらなる活躍を期待する」


 勲章をつけてもらった俺は無言で敬礼をして踵を返した。こういう時に余計な口は叩かないのが良い。

 偉い人の言った通り俺の受勲が最後だったらしく、俺が席に戻ったら偉い人がまとめに入った。

 内容はー……聞き流した。軍人の皆さんにとってはこのアウトポストのトップの訓示だから真面目に聞くべきものなんだろうが、俺にはあまり関係がないし。そもそも俺は帝国のために戦ったわけじゃなく、単に金になりそうでなんとかできそうだから手を出しただけだ。そんな俺に帝国の命運は云々とか我々の働きで臣民の命と財産を守る云々とか言われても困る。俺も一応大人なのでちゃんと聞いているフリくらいはするが、その内容は二割くらいしか頭に入ってこない。

 そんな俺は聞くフリをしながら何をしているのかと言うと、この受勲式会場に集まっている士官や傭兵の観察をしている。士官の方々は基地司令らしき偉い軍人さんの訓示を有り難く拝聴しているようだが、傭兵の殆どは俺と同じように聞き流しているようだ。そして、聞き流して何をしているのかと言うと、俺を観察しているようである。さっきから傭兵達と妙に目が合うし、間違いないだろう。

 まぁ、お互いに顔に見覚えはない。特に俺は一つのコロニーを拠点として長期間滞在するようなことも今のところ無かったし、顔見知りの傭兵なんてのはいないからな。どこかを拠点となるコロニーなりなんなりを決めるのも良いかも知れないな。資材、弾薬、食料その他の購入に不便しない場所で、スペース・ドウェルグ社の支社があり、狩る対象である宙賊の存在に困らない場所だと良い。

 そう考えるとブラド星系は悪くなかったか……? いや、あそこは買い物や弾薬の補充、機体の整備には向くけどコロニーがドワーフ基準で圧迫感があるからなぁ。クリシュナ狙いの技術者に付きまとわれそうな感じもあったし、あそこは無いな。ミミの目標である銀河中のグルメを味わうというのもあるし、拠点を決めるのはまだまだ早いか。

 などと思考を飛ばしているうちにお偉いさんのお話が終わり、解散という運びとなった。お偉いさんが最初に会場を出て行き、その後に佐官以上の上級士官が続いていく。なんとも難しげなお顔を俺に向けるセレナ少佐が実に印象的であった。


「俺も行っていいのかね?」

「はい、もう良いと思います」


 メイがそう言うので、俺も席を立って出口へと向かう。一人だけなんか目立つ特別席に座らされた意味とは一体……? 戦功第一位だから特別扱いされただけかな。晒し者になったようであまり良い気分ではないと言うか、若干恥ずかしかったんだが。やたらと注目されたし。


「さっさと戻るか。依頼の話も来てるかもしれないし」


 と言いつつ部屋を出ようとすると、進路を塞がれた。正確には、進路を塞ぐかのような誰かが立ちはだかった。見覚えのない顔――ああいや、こいつはあれだ。この会場に入る時に目が合った若い傭兵だ。


「何か用かな?」


 あまり良い予感はしないが、一応聞いてみる。この場に残っているのは殆どが傭兵で、何人かは帝国航宙軍の士官も残っているようだ。そんな彼らは俺と俺の前に立ちはだかった彼の様子を興味深そうに観察している。


「どんなイカサマを使った?」

「はい?」

「どんなイカサマを使ったのかって聞いてんだよ」

「えぇ……? もしかして俺が群れに突っ込んで生き残った件?」

「それ以外に何がある」


 面倒臭いヤツであった。周りの視線を向けてみるが、肩を竦めたり腕を組んでニヤニヤとしてみたりと特に何か行動をするつもりはないらしい。ですよねぇ。俺も逆の立場ならそうするか、無視してとっとと船に帰るわ。


「どういう答えを求めているんだ、お前さんは」

「なんだと?」

「もし何らかのカラクリがあるとして、それを俺がお前さんに教える理由は無いだろ? そもそも土下座をしてどうか教えて下さいと言うならまだしも、なんでそんな喧嘩腰で聞かれなきゃならんのだ。聞きたいならそれなりの態度ってもんがあるだろう」

「てめェ……」


 若い傭兵が拳を握りしめる。お? なんだ? 殴り合いか? 言っておくが俺は多分弱いぞ。こっちの世界に来てから身体は鍛えてるが、殴り合いの喧嘩なんてしたこともないからな。一応エルマに格闘術の手解きは受けているけど、実際に誰かと殴り合ったことはない。


「用がそれだけなら俺は失礼するぞ。悪いが暇じゃないんでね」


 そう言って肩を竦め、若い傭兵の横を通り抜けようとして――。


「ぐああぁぁぁっ!?」


 室内に悲鳴が響き渡った。何事かと振り返ると、若い傭兵の手首をメイが握っているところであった。男の体勢を見るに、擦れ違おうとした俺の肩を掴もうとでもしたのだろう。それをメイが防いだわけだ。


「ご主人様に汚い手で触れないでいただきたいのですが」


 ギリギリと音がするくらいに手首を握り締めながらメイが絶対零度の視線を若い傭兵に向ける。


「わ、わかった! わかったから離せ!」


 そう言われてメイが男の手首から手を離す。Oh……大丈夫? 手首砕けてない? 特殊な金属製筋繊維を持つメイの握力はパワーアーマー並みかそれ以上だ。もしメイが彼の手首を本気で握り締めていたらかなりスプラッタな事になっていたに違いない。


「変な因縁つける暇があったらシミュレーターでもなんでも使って腕を上げろよ。んで、もっと稼いで良い船を買え。俺はそうしてきた。結晶生命体の群れに突っ込んで無事だったのも、沢山練習して経験を重ねたからだ。特別なカラクリなんて何もないんだよ、本当に」


 若い傭兵にそう言うが、彼は手首を押さえたまま睨みつけてきて何も言わない。うーん、処置なし。


「あー……まぁ、そういうことだから。お疲れ。お集まりの皆さんもお疲れ」


 そう言って軽く手を振り、俺は受勲式会場を後にした。少し歩いてから俺は口を開く。


「いやー、怖いわー。傭兵めっちゃ怖いわー。俺、ガチの殴り合いとか苦手なんだけどなぁ」

「そうですか……?」


 メイが珍しく首を傾げている。無表情なままだが、彼女がこのようにボディランゲージで感情を表すのは非常に珍しいことだ。


「アレイン星系ではパワーアーマーを着込んで相当暴れたと聞いていますし、ダレインワルド伯爵の船でも私と一緒にかなり戦ったと思うのですが。それに、シエラⅢでは戦闘ボット相手に銃撃戦もしましたよね?」

「それは戦闘だろ。殴り合いの喧嘩は別じゃないか」

「そういうものですか?」


 メイが困惑しているように見える。困惑してるけど、それはなんというか別物だろう? 少なくとも、俺にとっては戦闘と喧嘩は別物だ。考える部分が違うというか、意識の置き方がちがうというか……まぁそんなことはどうでも良いか。


「それより、あの絡まれ方はなんだったんだろうな、一体」

「新入りがいきなり大戦果を挙げて銀剣翼突撃勲章をもらったので、一発カマしておこうというものではないでしょうか」

「一発カマすて」

「腕っぷしが物を言う傭兵社会ではよくあることだそうですよ」

「そうなのかー……うーん、受けて立った方が良かったのかね?」

「私のようなモノを傍に侍らせるというのも一種の力の誇示の仕方です。問題ないかと。それに――」

「それに?」


 言葉を途切れさせたメイに先を促す。


「――別に叩きのめそうと思えばおできになったでしょう?」

「どうかなぁ。まぁ息を止めればなんとでもなると思うけど。あれはなぁ、仕組みも何も理解不能だからできるだけ使いたくないよなぁ」


 この世界に来てから俺は意識的に息を止めることによってなんかよくわからん超加速めいたムーブができるんだよなぁ。便利なんだけど、仕組みがわからないから濫用したくないんだよ。ショーコ先生のとこで診察を受けた時はなんか怖くて言い出せなかったし。ただでさえ未知の遺伝子を持っているとか言われてたのに、そんな変な能力があることまで言ったら監禁されそうだったもんな。


「ま、良いや。どうせここに長居するわけでもなし。とっとと忘れよう」

「帝国軍からの依頼内容によってはこのアウトポストに暫く滞在することになると思うのですが」

「そうだった。あー、めんどくせぇ……バックレようかな?」

「セレナ少佐に恨まれるのでは?」

「それはそれでめんどくさそう……やだ、詰んでる」


 俺は軽く絶望しながら天を仰ぐのだった。

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― 新着の感想 ―
この種のスペオペものでは組み込むのが難しいイキリ野郎に絡まれるシチュを上手く描く作者氏の技量が好きです(^^)
[一言] そもそもゴールドランカーという傭兵に 食って掛かるシルバーかブロンズくん。 身の程知らずだが、新人らしいイキり具合いに ほっこりする
[一言] どこかのおかっぱの美少女「ヒロさん、逃げてきても良いんですよ(膝をパンパン叩きながら)」
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