#145 セレナ少佐からの誘い
こっちも更新再開します! いつもどおり月曜と木曜は休みをもらいますけど! ユルシテネ!_(:3」∠)_
帝国航宙軍の前線基地への入港はすんなりと終わった。既に話が回っていたのか、それとも許可申請を出す担当官に仕事のブツだけでなく嗜好品も積んできたと言ったのが良かったのか、或いは単純に今回運んできたスペース・ドウェルグ社製の新型砲弾が重要物資だったのか……まぁいずれの理由だとしても構わない。長々と待機させられることなく入港できたのは僥倖であったと言える。
「しかし俺達二人はやることがないな」
「そうね……ふぁ」
俺とエルマの二人は特にやることもなくブラックロータスの休憩室でのんびりとしていた。ミミとメイの二人で荷降ろしと輸送依頼の報告、そして運んできた嗜好品の卸しもやっているので、俺とエルマはやることが無いのだ。
ちなみに、整備士姉妹はクリシュナとブラックロータスの整備中である。派手に動き回ったクリシュナは勿論のこと、ブラックロータスも砲艦として盛大にぶっ放しまくったので、兵装周りの点検を行っているのだ。
「眠いなら寝てて良いぞ」
「んー……そうする」
エルマはそう言うと隣に座っている俺に寄りかかって寝息を立て始めた。いや、寝ていいとは言ったけどわざわざ俺に寄りかからなくても良いのではなかろうか? まぁ、別にやることもないし良いか。
すぅすぅと寝息を立てるエルマをそのままに、俺は小型情報端末を使って情報収集に努める。こういった情報収集はメイが抜かりなくやっているわけだが、ちゃんと自分で集めて情報に触れるのも大切なことだ。
とりあえずは結晶生命体との戦闘関連の情報を集めてみるが、どうもこの基地は散発的に結晶生命体の襲撃を受けているようだ。戦闘規模は徐々に大きくなってきており、帝国航宙軍は防衛のためにこの星系に戦力を移動していると。同時に結晶生命体の発生源を捜索しているようだが、今の所見つかっていないらしい。
妙だな? 結晶生命体の発生源なんてだいたい場所が決まっているものなのだが。奴らはパルサーを擁する星系を拠点としていることが多い。仕組みはよくわからんが、パルサーから放射される電波だかX線だかをエネルギー源とし、その周辺の小惑星などを侵食して増殖しているはずだ。
SOLでは初めてコンテンツとして結晶生命体が実装されてから何度かのアップデートがあり、ユーザー全体で結晶生命体関連の調査クエストや防衛クエストなどを行い、最終的にそういった情報が判明したのだ。俺はその頃既に傭兵プレイを始めていたので、主に結晶生命体の撃退とか、結晶生命体にやられた星系の奪還任務なんかを受けていた。調査に関しては探検家プレイをしていた人達が頑張っていた印象だ。
「この世界では結晶生命体の研究が進んでないのかね……?」
誰ともなしに呟く。あり得ない話ではない。この世界はSOLに似ているが、全く同じというわけではない。俺の知識が全て通用するようなことは無いが、ある程度通用することもある。例えばとある産業を主としている星系で必要とされる物資の傾向などはそのまま通用するようだし、ゲームに登場していた船のスペックなどは基本そのままで、さほど変わりはない。
ただ、ゲームでは見かけなかった小さなシップメーカーの船があったりするし、ゲームでは取り扱われていなかった様々な要素がこの世界にはある。例えば、メイのようなメイドロイドはゲームには搭乗していなかったし、機械知性に関しても俺の知る限りではその存在すら示唆されていなかったように思う。この辺りの不思議は考え始めるときりがないんだよなぁ。
この世界の不思議についてはとりあえず横に置いておくことにして、俺は携帯情報端末を操作して休憩室の大型ホロディスプレイを起動し、イズルークス星系周辺の銀河地図を起動した。イズルークス星系周辺に存在するパルサー星系は、っと……最寄りはこれか。次に近いのはこれ……と、近隣のパルサー星系の位置をチェックしていると、携帯情報端末からコール音が鳴った。エルマを起こさないように相手の名前も見ずに慌てて通話をタップする。
『あら、随分と出るのが早い……私からの連絡を待っていたんですか?』
「違う」
笑顔で戯言をほざくセレナ少佐にそう言って俺は俺に寄りかかって寝ているエルマが見えるように携帯情報端末の向きを動かす。
『……見せつけてくれますね』
向きを戻したら、セレナ少佐が笑顔を引き攣らせていた。
「そのような意図はないです。ただ寝てる人がいるのと、丁度携帯情報端末を操作していたから反応が早かっただけです。それで、何の御用でしょうか? 少佐殿」
『単刀直入に言いましょう。依頼があります』
「結晶生命体関連ですかね」
『理解が早いようで何よりです。傭兵として貴方と貴方の持つ船に戦いに参加して欲しいというわけです。拘束期間はとりあえず三十日で』
「とりあえず、ねぇ……ダラダラとここに拘束され続けるのは御免なんですがね?」
『無論、拒否権はありますとも。貴方は軍属ではなく、自由な傭兵なのですから。その貴方を我々の都合でこの星系に拘束し続けることは不可能です。傭兵ギルドにも配慮はしなければなりませんしね』
「なるほど。それで、報酬は?」
これが何よりも大事だ。
『今、主計科で算定中です。はっきりとしたことはまだ言えませんが、それなりに高額になると思ってくださって結構です』
「なるほど。じゃあ返事はその額と依頼内容を見てからですね」
安請け合いはしない。俺にだってできることとできないことがある。さっきの規模の襲撃を軍の援護も無く俺一人でどうにかすることは不可能だからな。そんなことを期待されても困る。何より、俺はエルマやミミ、それに同乗している整備士姉妹の命を預かっているのだ。軽率に依頼を受けて死地に投入でもされた日には目も当てられない。
『まぁ、そう言うと思っていました。とにかく、こちらとしては貴方に協力を請いたいと思っているということを先に伝えておきたかったわけです。無論、こちらが要請する形になるのですから、エネル以外にも見返りはあります』
「具体的には?」
『軍用兵器を供与する用意があります。無論、なんでもとは行きませんけれど』
「それは魅力的だなぁ」
SOLにおいて軍用グレードの兵器というのは、手に入れようと思ってもなかなか手に入れられない装備の代表格であった。軍の依頼を何度もこなして好感度を稼ぎ、面倒なクエストを経てやっと手に入れられる。その性能は一般的に販売されている兵器と比べてワンランクどころかツーランク以上の性能であることが多く、いかに軍用兵器を集めるかというのが傭兵にとっては大変重要であった。
そういう意味では船全体がまるっと軍用グレード装備であるクリシュナは正にオンリーワンのユニークシップであるわけだ。
『そうでしょう。是非前向きに検討してください』
「考慮します」
魅力的な提案だが、現時点では言質は取らせないぞ。そんなにいい笑顔をしてもダメだ。
「報酬はともかくとして、具体的な依頼内容はどのような感じで? 結晶生命体関連と漠然と言われてもイメージが湧きませんが」
『基本的には結晶生命体の発生源の探索ですね。軍が周辺星系に調査船団を派遣しているので、随行して襲いかかってくる結晶生命体に対処してもらいます』
「なるほど……」
周辺星系に調査船団ねぇ……やっぱりパルサーを擁する星系に結晶生命体の巣が作られることに関しては知らない感じだな。知っていればそんな無駄なことはしないだろう。いや、完全に無駄ではないけれどもさ。奴らはパルサー星系でエネルギーを蓄えて、周辺星系に移動しては小惑星帯を侵食して増殖するから。周辺星系で増殖した結晶生命体を掃除するのも大事といえば大事だ。
でも、大本の巣というかマザークリスタルを叩かないと終わりのないモグラ叩きになる。
『何か?』
「いえ、何も。ただ、風の噂で結晶生命体はパルサー星系に巣食うなんて話を聞いたことがあるもんで」
『……その話は本当ですか? 情報源は?』
「風の噂と言ったでしょう。俺もどこで聞いたかは正直思い出せませんよ」
俺が元いた世界のゲームではそうでした、なんて言っても正気を疑われるだけだろう。俺だって確信はないのだから、強く言い張ることはできない。こうやって適当なことを言ってますという体で匂わせるのが限界というやつだ。
『……今度、私の艦隊が調査に出る予定なのですが』
「へ、へぇ……そう言えば何でセレナ少佐の対宙賊独立艦隊がここに? 宙賊を相手にするための艦隊ですよね?」
『旗艦のレスタリアスは帝国軍でも最新と言える戦艦で、部隊の中核となっている巡洋艦も打撃力に長けますから。我々は設立の性質からしてフットワークが軽いですし、長期間行動するための補給艦も運用しているので』
「体よくここへの増援として引っ張られたと」
『本来の目的からは外れますが、ここを守ることが周辺星系に住まう帝国臣民の安堵に繋がりますし、帝国航宙軍は仲間を見捨てませんから』
「なるほど」
軍人さんにも色々と柵というものがあるらしい。セレナ少佐は公爵令嬢という立場でもあるらしいし、まぁそっち関連でも色々とあるのだろう。
『そういうわけで依頼、請けてくださいね』
「クルーとも相談しながら慎重に検討させていただきます」
だからそんな良い笑顔を浮かべても言質は取らせないっての。諦めてください。




