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#144 軍人達の評価

「おかえり」

「おかえりなさい」

「ただいま」


 ブラックロータスに着艦し、タラップを使って格納庫に降りたところで整備士姉妹に出迎えられた。二人とも作業用のツナギを着て、背後には整備ボットを従えている。早速クリシュナの整備をしてくれるらしい。


「エルマ姐さんとミミは?」

「クリシュナの自室で休んでる。今回の戦いがちょっと精神的にハードだったみたいでな」

「それはそうでしょうね……」


 ウィスカがとても気の毒そうな顔でクリシュナを見上げている。


「そんなに危なくなかったと思うんだがなぁ……極めて安全運転だったんだが」

「兄さん、変なところでネジがぶっ飛んでるよな」

「そんなに?」

「そんなにやろ……うちらもブラックロータスのセンサー経由で見とったけど、一歩間違えば結晶生命体に串刺しの穴だらけやん」

「レーザーに比べれば結晶生命体なんて避けるの簡単だろ」


 レーザーはマジで回避不能だからな。避けるとなると、基本的には射角に入らないくらいしか対応方法が無い。あとはもうシールドか装甲で受け止めるしかないからな。


「レーザー砲撃と比べるのがそもそも間違っているような……というか、そういう問題ではなくてですね、ワンミスで確実に死ぬ状況に恐怖を感じないんですか?」

「うーん……そう言われると怖いような気がしないでもないんだが。慣れの問題だな」

「慣れの問題ですか」

「うん、慣れの問題。慣れてるから大丈夫」


 そうとしか言えない。確かにワンミスで死ぬ状況が怖くないと言えば嘘になるが、そんなのは元の世界で自動車を運転するのと何ら変わりないと思う。峠道でハンドル操作を誤ればガードレールを突き破って谷底に真っ逆さま、というのと同じだ。


「さよか……とりあえずクリシュナの整備するからな」

「ああ、頼む。被弾はしてないから、足回りとジェネレーター、シールドジェネレーター周りかな?」

「そんなところやね。それじゃ、作業に入るで」

「おう、安全第一でな」

「モチのロンや」


 安全確認ヨシ! って感じでやってほしい。いやこれはマズいか? 主に作業をするのは整備ボットだから大丈夫か。しかし、こうやって寄港しなくてもクリシュナの整備をしっかりと受けられるっていうのは便利だな。勿論積んでる資材の量の関係で限界はあるんだろうけど。

 少しの間姉妹と整備ボットの様子を眺めてからブラックロータスのコックピットに向かう。


「おかえりなさいませ」

「うん、ただいま。状況は?」

「帝国航宙軍は結晶生命体の残党狩りを念入りにしているようです。残骸の処分と回収もしているようですね」

「結構な量だよな」

「はい。しかし手を抜くと危険ですから」

「確かに」


 結晶生命体の残骸にはそれなりに価値がある。例えば、レーザー砲のレンズの原料として利用可能な希少な結晶体や、エネルギー資源として使える結晶体、その他にも色々と利用価値のある結晶体が採れるのだ。ただ、まだ『生きている』結晶に迂闊に触れると非常に危ない。素手で触ろうものなら指どころか腕一本を侵食されて持っていかれることがあるとか。

 あとは生きている結晶同士が一定数以上結合すると結晶生命体として活動を再開することがあるらしい。なので、帝国航宙軍の皆様は結晶生命体の残骸を回収して必要な部分だけ採取し、不要な部分や生きている部分をレーザーで焼き払う作業をしているわけだ。

 こうして回収された戦利品はどういう扱いになるのかね? 兵士の皆さんの臨時収入になるのか、それとも軍の予算になるのか……と、そんなことはどうでもいいか。


「結構な時間がかかりそうだな」

「私の推測だと凡そ二時間半程はかかるかと」

「軍人さん達も大変だな。うちとしてはとっとと荷物を納品して帰りたいところだが……」

「セレナ少佐には納品の件も通達しています。直に連絡が来るかと」


 ☆★☆


『頭おかしい(クレイジー)』


 クリシュナの戦闘データ、そしてブラックロータスとレスタリアスで観測したデータを元にレポートを作成し、今回の作戦を指揮した司令部に送信。その上でクリシュナとブラックロータスに対する特別報酬を出すように上申したところ、返ってきた反応は概ねそのような内容であった。

 今もイズルークス星系に駐屯している他の艦隊司令官などにレポートが共有され続けており、やはり同じような反応が返ってきている。そう言いたくなる気持ちはよく分かる。でもそれが彼という存在なのだ。


『突然大型種が半壊して結晶生命体どもの動きがおかしくなったと思ったら、こんな事が起きていたのか』

『この戦闘データを何かに活かせないか?』

『この戦闘データを分析して撹乱に使えと? 機械知性なら或いは活用できるかも知れないが……拒否されるだろう。結晶生命体の同化吸収は機械知性にとっても致命的だ。彼ら、彼女らにも生存欲求というものが存在する』

『そもそもこんな尖った機体を用意するのは無理だろう……用意できたとしても殆ど特攻前提の魚雷艇になるぞ』

『それでも使い途のないサプレッションシップよりはマシだと思うが』

『アレのついての発言はやめておけ。白刃主義者に決闘を申し込まれるぞ』


 サプレッションシップの話題は確かに危険だ。私は白刃主義者ではないが、軍人貴族の中には熱狂的な白刃主義者がいるから。


「私としては今回の戦闘の趨勢を一気にこちらに傾けた戦功を認め、然るべき報酬を与えるべきだと思うのですが」


 私の発言に同意の声が聞こえてくる。


『信賞必罰という言葉もある。戦功には然るべき報酬があるべきだろう』

『こちらの分析でもこの傭兵の働きは大きかったと思う。同意しよう』

『認めざるをえんだろう。誰の目にも功績は明らかだ。主計科に伝えておく』

「ありがとうございます」


 彼との約束は果たせた。取り敢えずは一安心といったところか。


『彼は暫く基地に滞在するのかね?』

「どうでしょう。輸送依頼でこちらを訪れたというような話は聞きましたが」

『できれば引き留めてくれ。今は優秀な戦力が少しでも欲しい』

「努力はしますが……」


 無理難題を押し付けないで欲しい。彼は私が以前から何度もあの手この手で勧誘しているのにちっとも靡いてくれない難物なのだ。彼を引き留める方法があるとすれば、それは一つしか無いだろう。


「彼を引き留めるのであれば協力が必要です」


 ☆★☆


『基地司令と他の艦隊司令官達からも了承を取り付けることができましたから、今回の功績に関してはそれなりの報酬が出ることを期待してくれて良いです』


 ブラックロータスのコックピットで帝国軍の皆様方が懸命に働く姿を眺めること一時間ほど。セレナ少佐の乗るレスタリアスから通信が入り、俺はホロディスプレイ越しに彼女と再び対面していた。


「そいつは重畳。これでただ働き同然とかになったら悲しい気分になるところだった。ああそうだ、弾薬の補給を受けられるか? 反応弾頭搭載の対艦魚雷を四発ほど調達したいんだが」

『魚雷艇用の備蓄があると思いますから、多分大丈夫です。弾薬費に関しても帝国航宙軍が持ちます』

「そりゃ嬉しいが……」


 何だろう、待遇が良すぎないか? いや、軍に助太刀する形で大戦果を上げたわけだから、妥当か……? 俺の面倒事感知センサーが警告を発している気がする。


『依頼の件も確認が取れましたのでアウトポストに着艦してください。報酬の件も含めて主計科から連絡が入ると思います』

「それはどうも……何か企んでないか?」

『いいえ?』


 セレナ少佐の表情は読めない。酒を呑むとまるでダメなお姉さんになってしまう彼女だが、素面で軍服を着ている時は基本的に隙の無い完璧な帝国軍人である。メイなら或いは彼女の微細な変化を察して心情を推測できるのかも知れないが、俺にそのようなスキルは備わっていない。


「……まぁ、厚意は有り難く受け取るとするよ。それじゃあブラックロータスはアウトポストに向かう」

『はい。結晶生命体の襲撃警報は解除されていますから大丈夫だとは思いますが、一応気をつけてください』

「了解。そうそう、依頼品以外の積荷として良いドワーフ酒を積んできてるんだが、ここで卸せるか?」

『嗜好品は不足気味ですから、良い値で買い上げてもらえると思いますよ。私も後で買わせてもらいます』

「呑み過ぎるなよ」

『勿論です』


 俺の言葉にセレナ少佐の口元がヒクリと引き攣る。アレイン星系でやらかした記憶が脳裏を過ぎったのだろう。まだまだセレナ少佐には貸しがあるからな。まぁ、それも今回の一件で一つ返してもらった形になるか。


「それじゃあ、そっちも気をつけてな」

『はい、それでは』


 セレナ少佐が頷き、通信を切断した。


「どう思う?」

「ご主人様を引き留めて戦力として利用したいのだと思います」

「だよな」


 ちゃんとそれなりの金を積んでくれれば受けるけどね。軍なら支払いに間違いはないだろうし。考えられる面倒事は、今回の俺の活躍を過大評価して無茶振りされるとかだろうか? いくら俺でもできることとできないことがあるからなぁ……あの大群を俺一人で相手しろとか言われても流石に無理だ。無論、そんなことは向こうだってわかってるだろうから、そんなことは言われないと思うが。


「まぁ、余程の無茶振りをされなきゃ良いか」

「帝国領内で活動をするのであれば、軍とのコネがあると色々と捗ると思います」

「そうだよな。程々に頑張ろう」


 SOLにも派閥ファクションクエストと呼ばれるコンテンツがあった。基本的には特定の派閥――例えば軍だとか、巨大企業だとか、そういった特定の勢力のクエストを受注することで派閥の好感度を上げて様々な恩恵を受けられるという内容だ。傭兵プレイをしていると自然と軍関係の派閥の好感度が上がっていくんだよな。基本的に宙賊退治に賞金を出しているのは軍だから。

 軍の好感度が上がると受けられる討伐系クエストの数や種類が増えたり、弾薬補充費などが割引されたり、場合によっては一般販売されていないミリタリーグレードの装備を購入できるようになったり、無料で貰えたりする。傭兵プレイヤーにとってはとても相性が良い派閥だ。無論、特定の国の軍と仲良くなると平和主義系の団体とか敵対国家の軍から敵視されることになるので、メリットだけではないのだが。


「それに、ゲーム的なメリットだけとは限らないしなぁ……」


 SOLではそんな感じだったが、この世界では軍と仲良くなることがどんな事態に繋がるかははっきりとはわからない。何せ、この世界はゲームではないのだから。特有の厄介事に巻き込まれる可能性もある。


「面倒事にならないと良いけど」

「同意致します。その願いが実現するかどうかは別として」


 それはつまり何か面倒事が転がり込んでくるに違いないと考えているわけですね?

 実は僕もそう思います。依頼で訪れた先で偶然起こっていた結晶生命体の襲撃、縁のある帝国航宙軍少佐との再会、何も起こらない筈もなく……ってやつだよな。用心しとこう。

明日からちょっと色々作業に没頭するためにお休みをもらいます!

二週間くらいで片付けるつもりですが、伸びる時は活動報告などでお知らせします_(:3」∠)_

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アレのついての発言はやめておけ   あれに かな
[一言] もう本当に面白すぎる 会話と思考とうんちくのバランスが最高 飽きる事なくスラスラ読めちゃう ここまで読んでまだ300話近くストックがあるのが幸せ
[気になる点] 『それでも使い途のないサプレッションシップよりはマシだと思うが』 『アレのついての発言はやめておけ。白刃主義者に決闘を申し込まれるぞ』 【アレのついて】ではなく【アレについて】では無い…
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