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#140 荷運び依頼と交易。

 略奪品の売却と拿捕した船の売却を終え、再び出撃しようか――というところで傭兵ギルドから荷運びの依頼が入ったと連絡があった。


「昨日の今日で依頼が入るものなのね」

「こちらとしては嬉しい限りですけど」


 朝の運動を終え、一風呂浴びて朝食を取っている時に連絡が入ったので、丁度全員が食堂に集まっていた。朝の運動には整備士姉妹も参加しており、食事も一緒にしている。


「結構忙しいんやな。ちょっとイメージと違ったわ」

「ああ、それはわかります。私もヒロ様の船に乗った直後はこんなに勤勉に働くんだ、と思って少しびっくりしましたから」

「そうなのか?」


 ティーナの発言にミミが同意し、それに俺が聞き返す。勤勉って言ったって、別に毎日ひっきりなしに出撃してるわけじゃないぞ。出撃後には一日二日と休みを取ることも多いし、そこまで勤勉ではないと思うんだが。


「ひと仕事したら一週間や一ヶ月はダラダラと遊んで過ごすってイメージがあったんでしょ?」

「うん。うちはそう思ってたで」

「実は私もそう思ってました」


 ティーナとウィスカの整備士姉妹が頷き、ミミもうんうんと頷いている。


「一回出撃するごとにそんなに休んでたら金が貯まらないし、装備も更新できないだろ……」

「でも結構いるわよ、そういう傭兵も。ドーンと稼いでパーッと使ってお金が無くなったらまた働くって感じのが」

「そうそう、そういうイメージ」

「そういうのに比べたら確かにヒロは勤勉よね。ちゃんとお金を貯めてるし、無意味な散財もあまりしないし」

「そうか……? まぁ、悪いことじゃないだろう」

「全く悪いことではないですね」


 俺の言葉にウィスカが頷く。

 俺としてはメイを買ったり、このブラックロータスの内装を豪華にしたり、ステルスサーマルマントを買ったりとそれなりに散財しているつもりなんだけどな。まぁ、この世界にまだ馴染みきっていなくて、船以外に大きく金を使う先を見出していないというのもあるのかもしれない。

 まぁそれより何よりもだ。


「皆の生活を預かっている以上、俺が放蕩をして家計を傾けるわけにはいかんだろ」


 それに俺には目的もあることだしな。どこかの星に庭付きの一戸建てを購入して、そこで炭酸飲料を浴びるように飲みながら悠々自適な生活をするという野望が俺にはあるのだ。


「まともやなぁ……どうして傭兵になったん?」

「スリルと興奮を求めて?」

「何で疑問形なんですか?」


 ウィスカは細かいことを気にするなぁ。少なくとも現時点では整備士姉妹に俺の特殊な事情を説明するつもりはないので、肩を竦めて誤魔化しておく。


「それよりも仕事の話だよ。メイ」

「はい」


 俺の呼び声に応えたメイが食堂に設置されているホロディスプレイに依頼内容を表示する。いつも通り俺達の会話には参加せず、影のように俺の傍に寄り添いながら俺達のやり取りを聞くに徹していたというわけだ。本人――本人? の存在感がかなりのものなので、影のように寄り添うという表現が妥当かどうかはちょっとわからないが。


「傭兵ギルド経由で商人ギルドから回ってきた依頼内容はこちらです。凡そ120tの補給物資を九つ先のイズルークス星系にある帝国航宙軍のアウトポストに届ける、という内容ですね」

「帝国航宙軍の前線基地に? 補給物資を?」

「???」


 俺とエルマが同時に首を傾げる。更に首を傾げる俺達にミミと整備士姉妹が首を傾げる。疑問が疑問を呼び、クエスチョンマークの旋風が巻き起こった。


「何が不思議なんですか?」


 ミミの質問に俺とエルマが思わず顔を見合わせる。


「いや、だって帝国航宙軍の前線基地だぞ?」

「天下の帝国航宙軍が補給をミスってお急ぎ便で民間に補給を頼るなんてあり得ないでしょう。それも、たった120tよ? そりゃ少なくない量の物資だけど、帝国航宙軍が日々扱っている補給物資の総量から考えれば微々たるものだわ」

「民間の物資輸送になるだろうと考えていたのに、何故か帝国航宙軍からの依頼で困惑してるってことか。確かに120tくらいならブラド星系に駐留してる巡洋艦でも運べるやろな。わざわざこの船に依頼する意味がわからんわ」

「うん、確かにそう考えるとちょっとよくわからないね」


 俺とエルマが不思議に思う理由に納得できたのか、整備士姉妹も首を傾げ始めた。ミミもなるほど、という顔をしている。


「というか、何に対する前線基地なんだ? イズルークス星系ってベレベレム連邦と隣接してるとか?」


 ベレベレム連邦というのは俺達の滞在しているこのグラッカン帝国と敵対している銀河勢力の一つで、前に一度グラッカン帝国側の傭兵としてやりあったことのある相手である。


「いいえ、イズルークス星系は辺境星域ですね。結晶生命体との最前線基地です」

「Oh……結晶生命体かぁ」

「う、宇宙怪獣かぁ……」

「宇宙怪獣ですか……」


 結晶生命体というワードを聞いたティーナが顔を青くしている。ウィスカもドン引きしているようだ。結晶生命体というのは読んで字の如くという感じの敵対的な航宙珪素生命体で、今の所コミュニケーションが一切成立していない宇宙怪獣と呼ばれる種族の一つである。

 奴らは人間が住めないような惑星や小惑星などを巣としており、自分達以外の航宙種族を探知すると高密度のエネルギー弾やレーザーによる攻撃、質量を活かした衝角突撃を仕掛けてきて船を破壊しようとしてくる。

 しかも、奴らは有機生命体に何の恨みがあるのか、有機生命体を侵食して殺しにかかってくるのだ。研究は色々と進められているらしいが、進捗はよろしくないらしい。色々と謎の多い厄介な存在なのである。


「補給物資というのは結晶生命体に対して効果がある新型砲弾の試作品だそうです。フィールドテストを行うために早急に届けて欲しいとのことで」

「それこそ軍の仕事だと思うが……」

「こちらの方が足が早く、フットワークも軽いですから。気が進まないようであれば断ることもできますが」

「いや、気が進まないわけではないけど。どうする?」

「軍からの依頼なら裏は無いでしょうし、報酬も悪くないから受けて良いんじゃないかしら」

「私も良いと思います。あと、残り60t分はお酒などの嗜好品を積んでいったらどうでしょうか? ドワーフの造るお酒は人気だと聞きますし」

「悪くない考えだな」


 軍の前線基地のような場所では嗜好品が不足しがちだ。規律の問題で敢えて量を絞っている場合は買取拒否される可能性もあるが、まぁその場合は別のコロニーで売り捌けばいいだろう。


「流石ミミ、わかっとるやん。酒といえばドワーフ酒やで」

「そうですね。うちのコロニーは造船でも有名ですけど、ドワーフの職人が作る工芸品やお酒を目的に来る商人も多いって聞きます」


 地元民のティーナとウィスカもミミの判断を支持している。念の為にメイに視線を向けてみると、彼女もコクリと頷いた。


「良い判断かと思います」

「じゃあ残りの積荷枠についてはミミに任せるよ。今後も積荷に関してはミミに任せるからな」

「はいっ……はぇっ!?」


 俺の発言にミミが笑顔で元気よく返事をした――かと思うと笑顔のまま固まってダラダラと汗を流し始める。うん? 何かおかしいことを言ったか?


「ミミが急に凄く重い責任を負わされて固まってるわよ」

「え? 重い?」

「重いでしょ。任せるっていうのはつまりヒロのお金で交易品を買い込んで、それで利益を出してくれってことよね?」

「そうなるな」


 何かおかしいだろうか?


「ミミは交易のプロでも何でもないんだから、損失を出すこともあるわよね」

「そういうこともあるだろうな」

「ヒロのお金を使ってヒロのお金を溶かすこともあるということよね、それは」

「そうだな。ああ、それで責任か。別に多少の損が出ても俺は気にしないけど」


 流石に数十万、数百万エネルという単位で損失を出されたら困るけど、今回みたいに60tくらいの交易じゃそうはならないしな。万が一行き先で売れなかったりしても、別に他の利益が上がりそうなコロニーに持っていって売れば良いだろうし。


「……まぁ、あんたはそういうやつよね」


 エルマがため息を吐く。


「気楽にやってくれ、気楽に。立ち寄ったコロニーの特産品や生産過剰で安くなっていたりする品目の物を買えば少なくとも大損こくことはないだろうからさ。行き先で良い値がつかなかったら、別のコロニーで売り捌けばいいし。損を出しても余程大きくない限りは怒ったりしないし、デカく儲けられればボーナスを出す。小さな利益でも全然構わない。俺の感覚としては寄港料とか日々の生活費が少しでも稼げれば良い、くらいの感覚だから。つまり片手間の小遣い稼ぎだな」

「お兄さんのお小遣い稼ぎはスケールが大きいですね……」

「ほんとそれな……」


 俺の言い分を聞いた整備士姉妹が表情を引きつらせている。


「そういうことだから、頑張ってくれ」

「ひゃ、ひゃい……」


 ミミがなんだか死にそうな顔をしているが、そのうち慣れるよ。大丈夫大丈夫。


「そんなに心配しなくてもメイをサポートにつけるから」

「はい、ご安心ください。お手伝い致します」


 メイなら上手い具合にミミを一端の交易商人として鍛えてくれるだろう。これでミミが実績を積み重ねていけばミミの昇給が更に早まるというわけだ。日々の業務に護身訓練、それに交易の管理……ミミが無理をしすぎないかどうかだけはしっかりと見てやろう。うん。ミミは真面目だから根を詰めすぎるかもしれないからな。


「私も手伝うから、安心して」

「わ、わかりました。メイさん、エルマさんもよろしくお願いします」

「はい」

「うん」

「こうして俺は良きに計らえ、の一言で副収入を得るわけだ」

「えげつないなぁ……」

「俺が管理しても良いけど、仕事をクルーに振るのもキャプテンの仕事だからな」


 俺もSOLに於いては金策として交易もやったので、実際にやれと言われたらそれなりにやれるだろう。基本的にどのような星系でどんな物資の値段が安くて、どんな物資が不足気味かというのは頭に入ってるからな。


「俺の金を元手に使って良いから、適当に交易品を選んでおいてくれ。一応アドバイスとしては、軍に持ち込むなら安酒は少なめに。中級品を中心に、高級品を一割か二割くらい混ぜとくと良いぞ」


 軍人はそれなりに金を持っているからか、悪酔いするけど大量に飲める安酒よりもそれなりの品質の酒を好む傾向にある。上級士官には高級品などもよく売れる筈だ。持ち込み先が採掘星系のコロニーとかステーションだと質より量の方が好まれる傾向なんだけどな。


「わ、わかりました」

「メイは先方に依頼を受ける旨の返事をしておいてくれ。大変だと思うが、ミミのサポートも頼むぞ」

「承知致しました」

「うちらは?」

「特に無い。ただ、このコロニーを離れることになるから、やり残したことがあるなら済ませておけ。次にいつここに来るかわからんぞ」

「わかりました」

「私は出港の準備をしておくわね」

「そうしてくれ。俺は備品の再チェックとルートの確認をしておく。では、行動開始だ」


 俺の号令で各々が動き出す。

 さて、これでこのブラド星系ともおさらばだな。いつもの調子でセレナ少佐とどこかで会うかと思ったが、流石にゲートウェイを使って遠方に来ているから遭遇することは無かったな。

 なんて油断してたらばったり会ったりするんだよなぁ……別に向こうも意図的に俺を追いかけているわけじゃないんだろうけど、何度も遭遇するとまた今度も、なんて考えちゃうよな。

 今回の行き先が帝国航宙軍の前哨基地ってところがちょっと気になるが、宙賊に対応するセレナ少佐の部隊が結晶生命体に対抗するための前哨基地に居るってことはないだろう。


 無いよな? きっと無いはず。うん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宇宙交易ハジマタ!
[一言] 道中での鹵獲品や必要物の保管、クリシュナともう一機の待機スペースが艦内の大部分を占めていて残り僅かなスペースが運搬用だと脳内補完してます
[良い点] 前書きと後書きが、リュート先生のWeb版、全作、全編に渡って、とても少ない。 Xでないなろう系だけど、くっついて放ったらかしではない主人公の描写が大変好ましい。 とにかく、読んでいて楽しい…
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