#126 スペース・ドウェルグ社の依頼
エルマとイチャついて過ごし、更に翌日にはミミと食い倒れツアーをした。
串焼き屋台から始まり、謎生物の欠片が入ったたこ焼きっぽいもの、謎生物の踊り食い、人造肉から培養肉、それに本物の肉まで注文できる高級焼肉店などをはしごしてドワーフ料理を堪能したのだ。とりあえず踊り食いはもうやめようという共通の見解を得ることが出来た。
絵面がね、酷かったからね。もうなんか怪生物に寄生されつつあるんじゃないかというアレだったからね。だってビチビチ動く伊勢海老くらいの大きさの軟体生物のような何かを頭から踊り食いだぜ。ミミに動画を撮ってもらったが、どう見てもSFホラー的な絵面だった。まぁ、美味いか不味いかで言ったら美味かったんだけどさ……。
で、その間にスペース・ドウェルグ社には母船の内装の改正案も提出した。基本的に俺達はクリシュナで過ごすつもりだが、客を乗せるようなこともあるかもしれないし、クリシュナを整備に出している間に寝泊まりできる場所もあったほうが良い。
そういうわけで、母船の方にもある程度手を入れることにしたのだ。なかなかに高くついたが、それに関してはスペース・ドウェルグ社から提案があった。
「テストパイロットね」
『はい。優秀なパイロットに実際に試作機に乗ってもらってデータを取り、意見を聞くというのは我々としても希少な機会と言えますので』
傭兵ギルド経由でスペース・ドウェルグ社から依頼を受けた俺達は朝からサラと打ち合わせをしていた。当然、ホテルの部屋からである。さすがに高い部屋なだけあって、通信機能のついている大型ホロディスプレイなんかも完備しているのであった。
「希少な機会なのはわかるんだが……テストパイロットをするだけで凡そ150万エネルってのは相場としてどうなんだ?」
「うーん、私にも判断できかねるわね。ゴールドランク傭兵の一日あたりの拘束費用が8万エネルと考えると、かなり高額よね?」
今回の契約では五日間のテストパイロットをすることで凡そ150万エネルの母艦の内装費用をチャラにしてくれるということであった。こちらとしては助かるが、話がうますぎるというのも少々考えものである。
『度重なったトラブルに関する当社の誠意と思っていただければと思います。それに、当然ながらテストパイロットとして触れた当社の最新技術を口外しないという口止め料も込みの報酬ですから、そこまで図抜けた金額というわけでもありません』
「なるほど。口止め料も込みということであれば納得の額ですね」
俺の隣で話を聞いていたミミがそう言って頷く。口止め料も込みとなると、これも妥当な値段なのだろうか? まぁ、トラブルに対する謝罪という部分も大きいのだろう。
「報酬額については納得できたよ。じゃあ、具体的な内容を教えてくれるか?」
『はい、それは――』
サラの話を簡単にまとめると、実験的な技術を導入した多数の試作機を実際に俺の手で操縦し、データを取ると同時に使い勝手について意見を聞きたいという内容であった。一応安全性が確認されている機体であるという話だが、万が一ということもあるので注意はしてほしいとのことだ。
「いきなり爆発四散とかされたら注意のしようもないんだが」
『当社の製品は安全性と信頼性が売りですから、そこは信用していただいて大丈夫です』
そう言って映像の向こう側にいるサラは自信ありげな表情をした。そう言われても、俺の船に群がったり、整備工場に赴いた俺に殺到してきたりしたドワーフの技術者をこの目で見た俺としてはあまり安心できないのだが。ウィスカもなんかピーキーなスラスターを作ったとか言ってた気がするし。
「そう祈ってるよ。それで、どんな準備をしてどこに向かえば良い?」
☆★☆
およそ一時間後、普段着慣れないぴっちりとしたパイロットスーツを身に着けた俺は試作機が何隻も並ぶハンガーで技術者からこれから搭乗する船に関するレクチャーを受けていた。
「この船はスペース・ドウェルグ社でも高速戦闘艦を、という試みの元に作られた船だ。うちらしい頑丈さと信頼性に加えて、軽快な機動性も併せ持つ――ように作られている」
「なんだか奥歯に物が挟まったような言い方だな」
「うちのテストパイロットではこいつの性能を引き出すことが叶わなくてな……計算上のスペックの五割も引き出せておらんのだ」
「五割」
それはなかなかに尋常ならざる数字である。本来のスペックの半分も性能が出ないとなると、よほどパイロットの腕が悪いか、機体のセッティングに問題があるか、あるいはそもそもの計算に問題があるかのどれかであろう。或いは、単に操作が難しすぎるだけなのかも知れないが。
「まぁ……まずは乗ってみてだな」
「そうしてくれ」
HUD機能を内蔵しているというヘルメットを技術者から受け取り、本日の乗機となる試作船のタラップへと足を向けた。すると、そこには一足先に準備を終えたミミとエルマが待っていた。二人とも俺と同じようなピッチリと全身を包むパイロットスーツである。
「うーん。すごい」
「凄いわよね」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいです」
俺の言葉にエルマが頷き、ミミが顔を赤くして両手で胸元を隠した。ぴっちりとしたパイロットスーツはそれはもう盛大にミミの分厚い胸部装甲を強調する役目を果たしていたのだ。回りのドワーフの技術者達(主に男性陣)もチラチラとミミの作り出している圧倒的な光景に視線が吸い込まれてしまっているようである。俺のだからあんまり見るなよな。
「は、早く乗り込みましょう!」
「はいはい」
ミミに急かされながらタラップを使って船の中に乗り込む。流石に試作機であるからか、内装は殺風景なものであった。生活に必要となるようなものが一切無いのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「これ、なんかの事故で遭難したら速攻で詰むな」
「一応カーゴには一週間くらいは生き延びられるように水や食料を積んでるらしいけどね。試作機だから強力なビーコンも積んでるらしいし、心配はいらないわよ」
まぁ、コロニーの近くにある試験場でテスト航行するようだから、仮に問題が起きてもすぐに救助されるのだろうけども。
「んじゃ、セットアップ開始だ。クリシュナとは違うところも多いと思うから気をつけてな」
「わかったわ」
「はいっ」
ヘルメットを被り、機体のセットアップを開始する。俺は主に操作系を確認し、エルマは制御系を、ミミはレーダーや通信系の設備をチェックする。
「やっぱりクリシュナに比べるとパワーが低いわね」
制御系をチェックしていたエルマが呟く。
「クリシュナのジェネレーターは特別だからなぁ。スペース・ドウェルグ社の技術者も解析ができないらしいぞ」
クリシュナの軽快な機動性と強固なシールド、それに四門の重レーザー砲という重巡洋艦並みの強大な火力。それらの要になっているのが件の特殊な専用ジェネレーターである。小型艦に積めるサイズなのに、出力は重巡洋艦並みという規格外の代物だ。SOLにおいて初めてクリシュナを取得した際に表示されたジェネレーター出力を見て一桁間違っているんじゃないかと三度見くらいしたもんな。
とりあえず、解析できないものに関しては無理な分解などをしないようにと強く言いつけてあるので、妙なことにはならないだろうと考えている。正直に言えば不安なのだが、プロに任せられないとなればあとはもう自分でクリシュナを整備するしか道がなくなってしまう。そんな事ができるようになるとさらさら思えないので、どうしても人に任せるしか無いのだ。
行動を共にした末にティーナとウィスカを信用することができるようになれば、この心配もいくらかは軽減されるようになることだろう。
「レーダーと通信系は問題ありません」
「よし。じゃあ試作機出るぞ。ミミ、頼む」
「はいっ」
ミミが試作機ハンガーの管制に通信を入れて出港許可を取り付ける。あとは管制に従って船をコロニーの外に出すだけなのだが……。
「どう?」
「なんか鈍いな。どうも反応がワンテンポ遅れる感じする」
「スペース・ドウェルグ社の船はフレームが重くて装甲が厚いからね。それだけ頑丈ってことでもあるけど、軽快な機動性を好む私やヒロの肌には合わないわよね」
幸いすぐに調整が効いたが、ハンガーから離れて出港する際に船をふらつかせてしまった。これは俺の言った通り、反応がどうにも鈍いせいである。
船の操作において予想よりも船が動きすぎてしまった場合はその動きに対するカウンターを当てるようにスラスターを操作するのだが、その際に適切なスラスターの出力や噴射時間を把握していない場合と船をゆらゆらとふらつかせてしまうのである。
「というか、オートバランサーかジャイロの出来が悪くないか、これ。普通はふらつかないように自動でカウンターを当てるもんだろ」
「ハードウェアじゃなくてソフトウェアの問題かもしれないわよ。こんなことならメイも連れてくるべきだったかもね」
メイは今日、メンテナンスのためにこのブラドプライムコロニーにあるオリエントコーポレーションの出張所に一人で足を運んでいる。メイはこういうソフトウェア系のトラブルには滅法強いので、彼女がいればもしかしたらこの場で不具合が判明したかもしれない。
「スペース・ドウェルグ社は今まで高機動型の戦闘艦は作ってなかったはずだからなぁ。もしかしたらソフトウェアの開発が追いついていないのかもな」
なんとなくハードウェア系の技術者が多そうなイメージだものな、ドワーフって。もしかしたらちゃんとソフトウェアが開発してあるのに、実際に積んでいるのが従来型って凡ミスだったりしてな。流石に無いか。無いよな?
「ゲート開きました」
「よーし、出るぞ」
試験場へと繋がる試作機用のゲートから宇宙空間に飛び出し、まずは機動に関して慣熟しなければならない。
「んー、やっぱワンテンポ遅い」
「そう……」
ぼやく俺の横で何故かエルマが呆れたような声を上げている。
この試作機は重い機体を高出力のスラスターでバビュンバビュンと動かそうという正に『力こそパワー!』って感じの高機動機だ。機体が重いせいか働く慣性が強く、鋭角な機動を取るのは非常に難しい。
ただ、姿勢制御用のスラスターの出力も高いので、上手く使ってやればなかなか面白い機動を取ることはできる。いくら慣性が強くかかって横滑りしやすい機体でも、船の方向転換さえ早ければそれなりの機動が取れるものだ。反応がワンテンポ遅い点に関しては、こっちがワンテンポ早く操作してやれば良いわけだしな。
あと、高出力スラスターのおかげか真っ直ぐはなかなかに早い。ただし、慣性がキツいので色々と見誤るとその勢いで突っ込んでしまうだろうから、障害物の多い小惑星帯では使いづらい機体だろう。つまるところ小回りがきかないのだ、こいつは。
逆に障害物の少ない空間で戦うのであれば、高速で大きく横滑りしながらターゲットを捉え続けて攻撃を叩き込み続けることもできるだろう。乱戦にはあまり向かないかもしれないが、タイマンには強そうな感じがする。真っ直ぐが早いし装甲も厚いから、高火力武器を積んでヒット&アウェイなんかも面白いかも知れない。
「こうしてみると、クリシュナとはだいぶ動きが違いますね」
「重量級の高機動機は癖が強いからなぁ」
「でも、問題なく乗りこなしてますよね」
「これくらいならな。エルマの乗ってたホワイトスワンに比べれば優しいもんよ」
「……スワンだって良い機体よ」
「自爆機能付き宇宙飛ぶ棺桶はちょっと」
あの機体は見た目よりも軽くてスラスター出力が滅茶苦茶高いから凄いじゃじゃ馬なんだよな。それに比べれば重くて反応がワンテンポ遅いだけのこいつはまだまだ大人しくて扱いやすい。
『こちら管制。ハンマーセブン、聞こえるか』
だいぶ船の挙動に慣れてきた辺りで管制室から連絡が入った。ハンマーセブンというのはこの試作機の名前のことである。
「はい、こちらハンマーセブン。感度良好です」
『標的試験を開始する。所定の位置について待機してくれ』
「ハンマーセブン、了解。目標のポイントをマークします。ヒロ様」
「はいはい了解」
ヘルメットに内蔵されたHUDに表示される情報に従い、試作機のハンマーセブンを移動させはじめる。さぁて、クリシュナ以外の船を操縦するのは久しぶりだ。せいぜい楽しませてもらうとしようかね。
今日は誕生日だウェーイ!_(:3」∠)_(なおケーキもごちそうも用意していない




