#125 帰路の話し合い
「ほんじゃまたなー」
「ご馳走様でした」
ティーナが笑顔で手を振り、ウィスカが深々とお辞儀をしてから踵を返して去っていく。俺達も各々彼女達に別れの挨拶をしてホテルへの帰路へと着くことにした。
「美味しかったですね、ドワーフ焼き。それに、自分で料理を仕上げるのがとっても楽しかったです」
「普段料理をしない人は余計そう思うんだろうな。コンパクトな調理キットを買ってみたし、今度テツジンに食材を作ってもらって何か作ってみるか」
「私もお手伝いしますね」
ミミはドワーフ焼きの影響か、料理というものに興味が出てきたようである。ただ焼く、茹でる、炒めるくらいならそう難しくもないし、今度ミミに料理でも教えてやろう。地球だと最初の料理はスクランブルエッグ辺りがお手軽だったんだが、この世界で生卵は見たことがないな。まずはテツジンでどんな食材を作れるのか調べてみるべきだろう。
「見た感じ、人柄は悪くなさそうよね。ちょっと調子に乗りすぎるところがあるというか、何かあると視野が狭まるのが難点だけど。技術者としての腕は良いの?」
「そうですね。スペース・ドウェルグ社にも問い合わせをしたのですが、ティーナの技術評価はA、ウィスカの技術評価はSですね」
「ウィスカの方が腕が上なんだ?」
意外そうな声を上げるエルマにメイが静かに首を振った。
「いえ、同程度です。スペース・ドウェルグ社の評価基準では優良な勤務内容に加えて、何らかの技術的貢献を成し遂げた場合にS評価がつくようですね。内容までは調べませんでしたが」
教えてもらえませんでした、調べられませんでしたではなく、調べませんでしたという辺りがメイらしい。やろうと思えば出来てしまうのだろうか? 出来てしまうのかなぁ……怖いから聞かないでおこう。
「優秀ってことで間違いはないわけだ。実際のところ、皆はどう思う? 俺は乗せる方にかなり天秤が傾いているんだが」
「どう判断して乗せる方に傾いているのかを聞いても良いかしら?」
「簡単に言えば、多少のリスクを飲み込んで実利を取るってところかな。スペース・ドウェルグ社の紐付きの人員を船に乗せることによって多少の情報漏えいは起こるだろうが、無視できる程度だと考えた。それ以上にエンジニアを船に乗せるメリットの方が上だな、と。メイの話から腕も一流と言って問題ないようだとわかったわけだしな」
「なるほどねぇ、ミミはどう思う?」
俺の意見を聞いたエルマがミミに話の矛先を向ける。ミミも自分なりの意見をまとめていたのか、特に言い淀むこともなく自分の意見を口に出した。
「ウィスカさんともティーナさんとも仲良くやっていけそうですし、私は良いかなと思います。でも、リスクを完全に排除するなら断るというのも手ではないでしょうか? スペース・ドウェルグ社に所属していない、優秀なエンジニアを探してみるとか」
「難しいと思います。技術は日進月歩です。最新の技術が使われている現場で腕を振るっているエンジニアというのは、基本的にいずれかの企業に務めていますから。企業の紐付きではない優秀なエンジニアとなると、存在しているのは技術系学府の研究室くらいではないでしょうか」
「うーん、それじゃあメイさんみたいなメイドロイドや整備用のロボットを増やすとか」
「それも一つの手ではありますが、私並みのメイドロイドを増員するとなるとコストがかなり高くつきますね。それ以前に、一人の主に複数の機械知性が仕えるのは難しいかと思います」
「そうなんですか?」
「我々にも事情があります。一時的なものであればまだしも、専従するとなると色々とあるのです」
そう言ってメイは口を閉ざしてしまった。機械知性の事情とやらに関してはあまり話す気がないらしい。俺が話してくれと言えば話してくれそうだが、言いたくないこと、聞かせたくないことをわざわざ聞くこともあるまい。
でも、ちょっと気になるから今度二人きりになったときにでもそれとなく聞いてみよう。うん。
「つまり、紐付きでないフリーのエンジニアを探すのは難しいというわけね。まぁ、腕の良くて問題の無いエンジニアなら普通に考えてどこかの企業でそれなりの待遇で働いている筈よね」
「はい。自称腕の良いフリーのエンジニアというのは所謂詐欺師の類か、何かしらの問題があって企業から解雇された人間ではないかと」
「それを言ったらティーナ達って正にそれよね」
確かに。顧客相手に暴力事件を起こして解雇寸前、まさに今は首の皮一枚で繋がっているような状態だな。
「それは確かにそうだな。でも、チェンジしてもらうとして次の人達と上手くやれるかはわからないよな。髭もじゃの飲兵衛のおっさんとか嫌だぞ、俺は」
それなら多少問題があっても可愛い双子の姉妹の方が良い。手を出すかどうかは別として、目の保養になるし。
「随分と庇うわね。気に入ったの?」
「……別にそういうわけじゃないけど、ここでチェンジしたらあの二人の未来が暗そうじゃないか。それってなんだか寝覚めが悪いだろ」
「ふーん……? まぁ、ヒロがそう言うなら私はそれで構わないけどね。あの二人に関してはメイに見てもらえれば問題ないでしょうし」
「はい。船内で妙な動きをしないように二人には監視用の小型端末をつけておきます」
「小型端末?」
「はい、シエラⅢのミロが使っていた端末と同じようなものです。機能が少ない分、小型ですね」
「へぇ、そんなのもあるのか」
シエラⅢの統括AIであるミロとはバレーボール大の浮遊型端末で俺達とやり取りをしていた。同じような端末を扱う能力がメイにもあるらしい。
「同時に操作できる数には限りがありますが、二つくらいであれば何の問題もありません」
「なるほどー……色々と意見はしましたけど、私もヒロ様がお二人を船に乗せるというのであればそれで良いと思います。先程も言いましたけど、仲良くやっていけそうですし」
「それじゃ、決まりね。あの二人の部屋は母船の方に作るのよね?」
「その予定ですね。格納庫に近い場所に部屋を確保することになるかと」
「なら距離的にはかなり近いわね。お互いに上手くやっていけるようにしましょう」
「そうだな。このまま何事もなければそういう方向でいこう」
そういうわけで、ホテルへの帰路での話し合いで姉妹を船に乗せることが大筋で決定したのだった。
☆★☆
『そうですか、では彼女達を同行させてもらえるという方向でお話を進めさせていただきますね』
翌日。俺は早速サラと連絡を取って姉妹を船に乗せる方向で考えていることを伝えた。
「ああ、そういう方向で。彼女達の部屋の内装はそちらに任せるが、母船の内装に関してはちょっと仕様を変更する。決定次第データをそちらに送るから、そのつもりで頼む。基本的にはグレードを上げる方向だ」
『承知いたしました。では、データをお待ちしております』
「ああ」
サラとの通話を終えて小型情報端末の通信を切る。さぁて、今日は何をして過ごそうか……と、考えていると、後ろから何かがのしかかってきた。あんまりふにっとしない……! これはエルマだな。
「ぐっ、おお……!?」
「なんだか不快なことを考えている気配がするんだけど?」
するりと首へと絡みついてきた腕をタップする。表情も見ていないはずなのに心を読むのはよくない。というか落ちる、落ちちゃうから許して。それにしてもこの細い腕のどこにこんな力があるんだ一体。
「はぁ……はぁ……あ、朝から熱烈だな」
「情熱的でしょ。で、今日も外に出るの?」
「そうしようかなぁと考えていたけど、どうした?」
「相変わらず忙しないわねぇ……こんなに良いホテルに泊まってるんだから、少しはゆっくりしなさいよ」
溜め息を吐きながらエルマが後ろから回り込んできて俺の隣に座った。そしてぐいぐいと俺を引っ張り、無理矢理俺の頭の自分の膝の上に載せる。強制膝枕である。
「折角の休暇なんだから、あくせくしないでのんびりなさい。こうやってクルーとの情愛を育むのも良い船長の務めよ?」
「寡聞にして聞いたことのない務めだなぁ。でもエルマがそう言うなら従うことにしよう」
「良い子ね」
何をするでもなく、こうやってのんびり過ごすのもある種の贅沢というものなのだろう。暇があれば何かしたくなるというのは一種の貧乏性のようなものなのかもしれない。
「ミミは?」
「あんたね、私に膝枕されてるのに……まぁ良いけど。あの子は今日は部屋に篭もって情報収集をするみたい。昨日のドワーフ焼きが随分印象に残ったみたいね。コロニー内のグルメ情報をリサーチするんだって意気込んでたわよ」
「なるほど?」
別に部屋に篭もる必要があるとは思えないが。別にこっちのリビングで一緒にワイワイしながらグルメ情報を見るのも良いと思う。
「……今日は私に譲ってくれるみたい」
「なるほど」
「……こら」
太ももにスリスリしたらペシッと軽く頭を叩かれた。しかし本気で怒っているわけでもないようで、口元が笑っている。とりあえず今日はそういうことらしいので、のんびりと過ごすことにしよう。




