#121 エンジニア
ぽんぽんぺいーん! 短くて申し訳ねぇ_(:3」∠)_(お犬様をだっこして安静にすることにします
機械知性に物欲というものは存在しないようで、メイが俺に求めるのは全て必要なものだけである。それも基本的には俺の安全を守るためだったり、より俺に高度なサービスを提供するためのものであったりするので、恐らくメイにある『欲』というのもは主人である俺に奉仕したいという奉仕欲とでも言うべきものなのだろう。それが強すぎる故に要求する買い物の額がデカくなりすぎるというのが玉に瑕か。未だそれだけの価値があるかどうかは定かではないけれど。
「なーなー、旦那、これ、これ買って」
「……いや、なんで俺がお前の趣味のものを買ってやらにゃならんのだ?」
「ティーナちゃんこれ欲しいのっ☆」
わざとらしいというか、あざとい笑みを浮かべながらティーナが上目遣いで俺を見つめてくる。
「3点、やりなおし」
「採点辛いなぁ! ちなみに10点満点で3点?」
「……ハッ」
「100点満点で3点は採点辛過ぎないか……? ティーナちゃん可愛いやろ?」
不満げに唇を尖らすティーナ。まぁ、確かに見た目だけなら美少女かもしれない。今は後ろでポニーテールにしてまとめているが、セミロングの赤い髪の毛は意外とサラサラだし、顔立ちも整っている。髪の毛と同じ赤い瞳は感情豊かな輝きを宿しているし、表情もくるくると変わって愛嬌がある。
「まぁ、可愛いか可愛くないかで言えば可愛いな」
「へぁっ……?」
「ティーナは可愛いと思うよ」
「そっ、そうか。せやろ? せやんなー」
なんだか急に顔を赤くしてくねくねし始めるティーナ。可愛いは可愛いけどウザカワ系だよな、こいつは。残念なのはウザさが度を越すことがあるところなのではなかろうか。適度に締めるか褒めるかしてやれば可愛い感じを維持できるかもしれない。今みたいに。
「でもそれは買ってやらねぇから。戻してきなさい」
「えー。旦那金持ちなんやから少しくらい集らせてーや」
と、ティーナが不満げに言ったその瞬間、ずいっとメイが俺とティーナの間に割り込んだ。
「ティーナさん」
「はい」
ティーナがピンと背筋を伸ばして気をつけの姿勢になる。どうも先日メイに睨みつけられてからティーナはメイが苦手みたいだな。
「今、貴方が何故ご主人様と行動を共にしているのか、お忘れではないですか?」
「はい、すみません」
「貴女は御主人様にとって自分が有用であると、ご主人様と行動を供にする資格があるのだと証明しなければならない。そのためにスペース・ドウェルグ社は貴女をご主人様に傍につけ、その資格があるかどうかを見極めてもらおうとしているのです」
「はい、仰る通りです」
「それを理解していながらご主人様に集るというのはどういうことなのでしょうか?」
「申し開きもございません」
こころなしかメイに怒られたティーナがひと回り小さくなっているように見えるな。まぁ、元気とか明るさが売りのティーナからそういう部分を取り払ったらそうなるか。ミミもしょんぼりしていると一層小さく見えちゃうもんな。
「メイ、そのくらいでいいぞ。ティーナもそこまで本気で言ったわけじゃないだろうし、あんまり萎縮されてもやりづらいから」
「ご主人様がそう仰られるのであれば」
そう言ってメイが身を引くと、安心したのかティーナが溜め息を吐いた。
「ふぅ……旦那のとこのメイドさんめっちゃ怖いわ」
「言ってることは真っ当だと思うけどな」
「ちょっとくらいええやん?」
「しょうがないなぁ……なんて言うと思ったか?」
「いけずやなぁ」
文句を垂れながらもティーナが持ってきた謎の機械を戻しにいく。なんか説明していたような気がするが、興味がなかったというか理解できそうもなかったので右から左に聞き流していた。ふぉとにっくれぞなんすなんちゃらとか、くあんたむはーもなんちゃらとか言っていた気がするが、よくわからない。
「後はオーダーメイド武器かぁ」
「どんなのが欲しいのん?」
オーダーメイド武器の発注端末の前に立つと、ティーナがくっついて同じ画面を覗き込んでくる。特に意識しているわけじゃないんだろうが、距離感が近いなぁ。これは隙が多くて実は隠れファンが多いタイプなんじゃないだろうか。
「パワーアーマーで使う手持ち武器だな。閉所でも取り回しが良くて、接近戦もこなせるようなものがいい。貴族の剣にぶった切られないようなのがベストだな」
「それはなかなかの難題やなぁ。あれは強化単分子の刃を持つ高周波ブレードでな、アレにずんばらりされない素材となると、超重圧縮素材とかになる。滅茶苦茶頑丈な分滅茶苦茶重いし、値段も高いのが難点や。アレで武器なんか作ったら拳銃サイズで重さ30kgとかになってしまうで」
「いくらパワーアーマーで使うとしても、流石に重いな」
拳銃サイズでその重さとなるとパワーアーマーでも扱えないだろう。
「せやねん。だから基本的に超重圧縮素材は工業用途にしか使われん。一部戦艦の装甲材に使われる事があるくらいやな。一撃で真っ二つにされないようにするってことなら、全部を超重圧縮素材で作らずにコーティング材として使う方法もあるけど、手間がかかる分高くなるで」
「なるほど……なぁ、俺のさっきの要求でオーダーメイド武器をデザインしてくれないか。報酬も出すぞ。とりあえず手付けとしてさっきのよくわからんガラクタを買ってやろう」
こういうのは専門家に任せるに限る。素人の自分が自分なりに作ったオリジナル武器、というのはロマンがあるが、やはりプロに任せたほうが色々と安心感がある。ティーナの専門は船関係なのかもしれないが、素材工学なんかにも明るいようだし、俺よりもまともな武器をデザインしてくれそうだ。
「パワーアーマー用の手持ち武器で、閉所でも取り回しが良くて、接近戦もこなせて、可能であれば貴族の剣とも切り結べる武器なぁ……盛り過ぎと違うか?」
「予算はそうだな……10万までで、優先順位としては閉所での取り回し、接近戦能力、貴族の剣と切り結べる能力の順だ。接近戦能力まで満足の行く性能だったら報酬1万、貴族とも切り結べるような出来なら報酬は倍だ。予算は使い切っても構わないが、超すのはNG。かける予算が少なければ少ないほど評価するってことでどうだ?」
「やらせていただきます」
ティーナが真顔で即答した。
「よし、じゃあサポートにメイをつける。メイ、ティーナに俺のパワーアーマーの情報を提供して、武器開発に協力して当たってくれ。ついでにといっちゃなんだが、仲良くして関係改善に努めるように」
「承知いたしました」
メイが俺の命令を受けて恭しく頭を下げる。メイは素直で有能でとても良い子だ。ティーナが「げっ」とでも言いたげな表情をしていたが、これはティーナに対する課題でもある。既存のクルーと仲良くできないようであれば俺の船に乗せることはできないからな。
「じゃあ、二人はここに残って店の職人と話を詰めてくれ。決済権はメイに渡しておく」
「はい、ご主人様。仰せのままに」
「わかった。あたしはやり遂げるからな!」
そして報酬を手にするんや! という副音声が聞こえてきそうだな。
「俺はミミ達に合流する。こっちの発注が済んだら連絡してくれ。合流するか船で落ち合うか決めよう」
「はい」
「りょーかいや」
頷く二人をこの場に残し、俺はミミ達と合流することにした。あっちの都合が良さそうなら合流して、都合が悪そうなら一人でぶらつくとしよう。まずは連絡するかな。そう考えながら俺は端末を取り出し、メッセージアプリを起動するのだった。
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