#120 ショッピング(物騒)
コミカライズヤッター! 今日から掲載だよ!_(:3」∠)_(大歓喜
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「いやホント、昨日はごめんな。改めて謝っておくわ」
「謝罪はもう受け取ったけどな。というか、もう少し後先考えて行動したほうが良いと思うぞ」
「あはは……昔からウィーにはよくそう言われるわ」
ティーナが苦笑いを浮かべながら頭を掻く。彼女は妹のウィスカのことをウィーと呼んでいるらしい。ウィスカはティーナのことをお姉ちゃんと言っていたので、ティーナには特に愛称などは無いのだろう。ティーだとお茶だしな。
「俺の船のクルーになるかどうかはともかく、そこは直したほうが良いだろうな……言って直るものなら妹に言われてとっくに直ってるんだろうけど」
「よくわかってるやん」
「せめて少しは懲りろよ……」
糠に釘、暖簾に腕押しとはこういうことか。ウィスカの苦労が偲ばれるな。
「ご主人様に迷惑をかけた場合は私が責任を持ってスペース・ドウェルグ社に報告致しますので、お覚悟を。査定に響きますよ」
「うっ……き、気をつけるわ」
どうやら初対面の印象が強いらしく、ティーナはメイに対して苦手意識を持っているようである。実際のところ俺達の中で怒らせると一番怖いのは間違いなくメイだろうから、彼女の危機意識は正常に働いていると言えるだろう。そもそも、メイにとっては俺が最も優先すべき対象である。
未だ俺の身内とは言えないティーナやウィスカは警戒の対象であっても庇護する対象ではないのだろう。ミミやエルマは俺の身内扱いなので、彼女もそれなりに振る舞うのだが。
「え、えーと……そう! パワーアーマー用の装備やったな!」
「強引な話題転換だなぁ……まぁ、そうだよ。この前スプリットレーザーガンをずんばらりと真っ二つにされちまってな。新品を買いたいのと、何か良さげな武器でもないかと思ってな」
「ずんばらりって、何があったんや……」
「詳しくは言えないが、貴族の跡目争いに巻き込まれてな。その時の騒動で」
「あー、聞かないほうが良さそう。凄く聞かないほうが良さそう。でも生きてるってことは丸く収まったんやな?」
「まぁな」
「ならええわ。とりあえず個人用レーザー武器といえばここ、って言われるほどの老舗があるから、まずはそこやな」
貴族関連の話を聞いた時には本気でドン引きしていたが、すぐに気持ちを切り替えたのかティーナはズンズンと天井が低めの通路を歩き始めた。俺とメイもその後ろに続く。
「旦那は傭兵稼業やってどれくらいなん?」
「ん? んー……まぁそこそこかな」
こっちの世界に来てすぐということになるのだろうが、そうなるとギリギリ半年に届くかどうかというところだろう。何気に恒星間移動でそれなりの日数を過ごしているしな。
「そこそこかー。まぁゴールドランクっていったら凄腕やんな。どれくらい儲かるん?」
「調子が良ければ一日で10万エネルくらい」
「えっ、嘘やん。一日10万エネルは吹きすぎやろ」
あはは、とティーナがまたまたご冗談を、とでも言いたげに笑い飛ばす。
「いや、本当だが。そうでもないと2000万エネルもポンと出せるわけないだろ。宙賊の基地襲撃任務とか、紛争に傭兵として参加するとか、その他何かあればもっと稼げるぞ」
一日10万エネルってのは特に何のミッションも受けず、宙賊を一日探して狩り続けた場合の金額だからな。
「マジで?」
ティーナが振り返って真顔で聞いてくる。
「マジで」
俺が頷くと、ティーナはスススっと真顔で俺にじり寄り、俺の手を取って自分の胸に抱いた。ハハッ、なかなか硬い胸板ですね。洗濯板か何かかな?
「……旦那さん、あたしのこと貰ってくれへん? 今ならウィーもつけるで」
「結婚、結婚なぁ……まぁするとしてもミミとエルマとメイが先だな」
「くっ、四番手か……」
「何言ってんだ。もし君ら姉妹と結婚するにしても妹さんの方が上に決まってるだろ」
「なんでや!? ティーナちゃんかわいいやろ! っていうかウィスカとあたしは顔同じやろが!」
「顔が同じだから性格が重視されるんだよなぁ」
ガーッ! と吼えるティーナの額を押しのけて左手で耳の穴をほじる。あとでメイに耳掻きでもしてもらおうかな。メイの耳掻きはそれはもう気持ち良いなんてものじゃないんだよ。
「くっ……まぁええわ。旦那にはティーナちゃんの可愛らしさを存分に思い知らせてやるからな」
「金目当てとわかっている相手に思い知らされるも何もないんだが」
「何を言うてんねん。金が稼げるってことは甲斐性があるってことや。女が甲斐性のある男に惹かれるのは自然の摂理ってやつやろ。金が無くても愛情は育めるかもしれんけど、金があればより大きく育つもんや」
「世知辛い意見だなぁ」
「そらそうや。ヒトっちゅうのは甘い幻想だけじゃ生きてはいかれへんやろ。おまんまの食い上げじゃ育つもんも育たんで」
「なるほど」
ティーナの洗濯板の感触を思い出す。ティーナも苦労してきたんだな。俺の考えを読んだのか、ティーナがジト目を向けてくる。
「そういうのじゃないからな。あたしはまだ成長期が来てないだけや」
「成長期って……」
道行く他のドワーフ女性にもさっと目を向ける。ふむ、サイズは色々か……しかし成長期ねぇ。
「二十七で成長期が来てないって言い訳は辛くないか?」
「うっさいわボケ!」
尻を叩かれた。手は小さいのになかなかの威力だった……いてぇ。
☆★☆
「ここが目的の場所や」
「ほほう」
ティーナが俺とメイを案内した場所はレーザー武器をメインに幅広く携行兵器を揃えている武器の総合商店のような場所であった。俺のような傭兵稼業の人間らしき連中が結構出入りしているようである。
「なんか思ったより人が入ってるなぁ」
「この工房は既製品はもちろんのこと、オーダーメイドも受け付けてるからな。このコロニーに来る傭兵はそれなりの期間このコロニーに滞在することが多いから、その時間を使ってオーダーメイドの武器を拵えることも多いらしいで」
「オーダーメイドの武器か……ふむ」
自分専用のオーダーメイド武器。心躍る言葉だな。メイの交渉のおかげで予算はあるわけだし、是非そういうのも作ってみたいものだ。
「よし、入るか」
「せやな。あたしもここ来るのは久しぶりや」
先を歩いて店内に入っていくティーナ。こいつはどんどん口調の似非関西弁めいた感じが増していっているが、こっちが素なのだろうか? 意味が通じないほどの訛りじゃないからあまり気にならないけど。しかしこういうところもティーナの残念ポイントなんだろうな。
「ほほう、ほう、ほう」
店内はなかなかに広々としていた。店構えからもなかなか大きな店舗だというのはわかっていたが、どうやら奥の方は例のオーダーメイド武器を作るための工房になっているらしい。
「フクロウか何かかいな」
俺の様子を目にしたティーナが笑う。そう言われてもお前、この光景にはこう、男の子の心が擽られるものがあるだろう。所狭しとレーザーガンやレーザーライフル、その他諸々の武器が整然と並んでいる光景は、これが人を殺す道具だということがわかっていてもワクワクしてしまうものだ。
「まずはスプリットレーザーガンを買うか。ぶった切られた分は補充しておいたほうが良い」
「ご主人様、よろしければ私の分もご購入いただけると助かります」
「そうだな、メイ用にもあっても良いかもな。ついでだし、メイも良さげな武器があれば選んでおいてくれ」
「ありがとうございます、ご主人様」
メイがペコリと頭を下げる。メイの戦闘能力が向上すれば、それだけ俺達の安全性が向上することになる。正直それは大歓迎なので、遠慮せずにどんどん言って欲しい。
「あたしは?」
「お前は武器は使わんだろ。というか、使うとしても俺がお前に何かを買ってやる謂れはないと思うんだが」
「けちんぼ。ちょっとくらいええやん」
「昼飯くらいは奢ってやるよ。美味けりゃお高いところでも構わんぞ」
「よっしゃ、任せとき」
一瞬で機嫌を直しやがった。現金な奴だな。案内料みたいなもんだと思えば別に腹も立たないが。思えばミミもエルマも俺にあまり何かねだったりしてこないからな。こうやって直截にものをねだられるのはちょっと新鮮な気分だ。
メイ? メイはねだるというかなんというか、あれはもうねだるというよりは必要なものを要求するって感じでなんかねだるのとはちょっと違うような気がする。金額はでかいけど、個人的な趣味のものとか嗜好品ってわけじゃないからな。ものをせびるって意味では同じかも知れないが、なんか違う。
「グレネード類も置いてるのか。まぁ使ってないから必要はないな」
「そうですね。グレネードではないですが、こちらを購入していただいてもよろしいですか?」
そう言ってメイが持ってきたのは黒い金属でできた……なんだろう。投げナイフ? にしては太くてゴツいな。針と言うにも太すぎる。金属製の投矢──ダートとでも表現するのが適当だろうか。
「超硬金属製のダートです。パワーアーマーの装甲などに使用されている素材ですね」
「それを使うのか?」
「はい。私が投げればパワーアーマーにもダメージを与えられますし、隠し持つのに最適なので」
そう言って彼女はメタルダートを収めるバンドやホルスターのようなものを俺に見せてきた。なるほど、それで身体の各所に隠し持つのか。見るからに重そうだけど……メイには負担にもならないだろうな。
「そんなアナログな武器で良いのか?」
「はい。アナログな武器ですが、それだけに信頼性は高いので」
「確かにそうそう壊れることはなさそうだな」
レーザーガンだけでなく実弾を放つ拳銃もそうだが、複雑な機構を持つ武器ほど些細な衝撃などで壊れてしまう可能性を孕んでいるものだ。その点で言えば金属製の投矢なんてものは変な話、ひん曲がってしまっても全力でぶん投げて敵に当てればそれなりにダメージを与えられるからな。そういう意味では単純でアナログな武器ほど信頼性が高いというのは頷ける話である。
「じゃあそれも買っていくか。なんなら伸縮式の警棒なんかも買っておいたらどうだ? メイの能力なら近接戦闘をするときにそういうのがあると役立つだろ」
「はい、ありがとうございます。そうさせていただきます」
そう言って頭を下げ、再び顔をあげたメイの表情はこころなしか嬉しそうに見えた。表情は変わらず無表情なのだが、なんとなく雰囲気がそんな感じだ。まったく、無表情に見えてなかなかおねだり上手なメイドさんである。