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#117 正座。

寒い……雪が……_(:3」∠)_

 俺は基本的に温厚な人間である。

 うせやろ? って? そう思う? いやいや、勿論仕事上というか、宙賊やらこっちの命を狙ってくるような相手やらは別だ。気を許した相手にならそれなりに横柄に振る舞うこともある。だが、日常生活において、見知らぬ相手──例えばお店の店員とか、どこかの窓口の受付さんとかに初手喧嘩腰で臨んだりは基本しない。

 無論、相手の態度によってはこちらもそれなりの態度を取るけれども。例えばミミの賠償金関連の手続きをしたあの役人とか、こっちの世界に来て最初に俺を拘束した港湾管理局の局員とかね。

 金持ち喧嘩せず、なんて言葉もある。喧嘩すると損ばかりで得がないことを金持ちは知っているから、無駄に人と争うことはしないという意味の言葉だ。まぁちょっとニュアンスは違うかも知れないが、俺もこの世界では金持ちに分類される側の人間なので、少なくともコロニーとかではできるだけ穏便に過ごしたいとは思っている。思ってはいるんだ。


「流石に温厚な俺もこれは許せんよなぁ?」


 俺は我慢したと思う。不躾なスキャン、入港するなりのやはり不躾な押し寄せ、そして今朝の呼び出し。仏の顔も三度なんて言葉もあるしね。いや、あれは三回まで許すじゃなくて、本当は三度目で怒られる的なアレだった気もするけど。まぁとにかく、三度目までは耐えたわけだ。


「その……大変申し訳なく」


 俺の目の前にはサラが正座していた。オイルや埃で汚れた整備工場の金属製の床の上に直接、である。その横にはこの整備工場の工場長と、現場主任。そしてデッドボール女とデッドボール女を投げたファッキンクソビッチも同様に正座している。他にも俺に押し寄せようとしたドワーフの整備員どもも全員正座している。


「なぁ、俺は客だよな? 色々と取引はしたが、最新ロットを言われるままにポンと買う、それなりの上客だよな? その客に無礼を繰り返して、最終的に怪我を負わせるのがスペース・ドウェルグ社のやり方なのか? それとも、ドワーフのやり方なのか? 客を呼び出して、ドワーフデッドボールをかますのがお前らの礼儀なのか? ええ?」

「そのようなことは、決して……」


 サラが俯きながら絞り出すような声でそう言う。


「オイオイオイオイ涙目になるのはやめろよ。泣きたいのはこっちだよ。それにお前、人間の俺がドワーフの女を正座させて泣かしたら絵面が最悪じゃないか」


 見た目的には少女を正座させて泣かせているという本当に最悪な絵面である。


「とりあえず、こうやって仕事を止めること自体が非効率で俺にとって最悪な状況だからな。まず、整備員は作業に戻ってくれ。ぞんざいな仕事をしたら銀河の果てまで追い詰めてパワーアーマーで捻り潰してやるからな、丁寧に、素早く仕事をしろよ。技術の解析なんて許さんからな。超特急で丁寧に仕事を終えろ。ほら行け」


 俺がそう言うと、最前列で正座をしているサラと工場長と現場主任、それにデッドボールシスターズ以外のドワーフ達が一斉に立ち上がって整備に戻っていった。


「さァて、あとはお前らだが……」


 俺は正座しているサラを睨みつける。


「俺が直接どうこうしろってのは筋が違うだろうからな。どうするかはお前らに任せる。お前らの誠意と謝意がどの程度のものなのか、見せてもらうぞ」

「ひゃい……」


 俺に睨みつけられたサラは涙目でガクガクと震えながら頷いた。工場長と現場主任も顔を蒼白にしたまま頷く。デッドボールシスターズは蒼白を通り越して土気色になっている気がするが、知ったことじゃないな。


「とりあえずオーバーホールは進めてもらうが、最新ロットのスキーズブラズニルの購入に関してはストップだ。そっちの対応次第で買うかどうかを決める。当然それで良いよな? ああ、購入は保留するが、それで納期を伸ばすのは許さないからな。わかってるよな?」

「ひゃい……」


 サラががくりとうなだれる。スキーズブラズニルの購入費2000万エネルに関してはまずその場で俺のエネル残高を確認してもらった後に頭金として1000万エネルをその場で入金した。残りの1000万エネルは納品後、製品に瑕疵がないことを確認してからの予約入金ということになっている。

 当然、取引が成立しなかった場合は先に払った1000万エネルは俺の手元に戻ってくることになる。スペース・ドウェルグ社は俺が満足するような対応ができなかった場合、俺が発注した仕様の最新ロットのスキーズブラズニルを在庫として抱えることになるのだ。母船は当然デカいので、コロニーにおいてはただそこにあるだけで維持コストがかかる。ドックに入れている間、そこを使えないわけだからな。そんな事になったらその維持コストは誰に降りかかるのかなぁ? ハハハ。

 きっと必死になってくれることだろう。


「よし、話は決まったな。スペース・ドウェルグ社として、あるいはドワーフとして、俺にどのような対応をしてくれるのか楽しみにしているぞ。対応によっては俺はオーバーホールが終わり次第、このコロニーを発つ。これでも一応ゴールドランクの傭兵だ。万が一実力行使なんかに出てきたら……わかるよな? 言っておくが、俺は白兵戦もそれなりにやるぞ」


 さっきは完全に油断していたが、油断していなかったらあんなデッドボールは避けるなり迎撃するなりはできていたと思う。いや、まさか自分が船を預けている整備工場に行ったら突然デッドボールを食らうとは思わんだろ。思わんよな?


「はい……そのようなことは、決して」

「そう願うよ」


 それじゃあ、と言って俺は彼女に背を向けて整備工場を出た。整備工場での用事が終わったらパワーアーマー用の武器とか色々見て回ろうかと思ったんだが、そんな気分じゃないな。帰ろう。

 というか、俺はなぜ呼び出されたのだろうか? 操縦者を確保しろとかなんとか言っていたが、謎だな。いきなりデッドボールを食らってブチ切れたし。腰のレーザーガンを抜いたり、手当たり次第に暴れなかったりしなかっただけでもだいぶ自制できていたと思う。


 ☆★☆


「ドワーフどもをぶち殺して参りましょうか?」

「参らんでいい、参らんでいい」


 部屋に戻って事の顛末を話すと、メイが無表情で物騒なことを言い始めた。自分が伝言を伝えた結果、俺に危害が加えられたと聞いてメイは静かに、無表情で激おこである。まぁ本気でぶち殺すわけじゃないと思うが……本気じゃないよな?


「酷い話というか、意味がわからないですね……」

「操縦者を確保、ねぇ……」


 俺の話を聞いたミミはただただ困惑しているようだった。そうだよね、わけわからんよね。デッドボールを直接食らった俺にもよくわからん。エルマはなにか考え込んでいるようだが、心当たりがあるのだろうか?


「なにか心当たりがあるのか?」

「クリシュナをばらして、恐らくスラスターの使用頻度からどう使っているかの推測はつくと思うのよね、ドワーフなら。もしかしたらヒロの変態的な曲芸機動に目をつけたのかも?」

「データにはプロテクトがかかっていますが?」

「言ったでしょ、スラスターの使用頻度を見てって。ドワーフは金属の状態を何かよくわからない感覚で読み取れるのよ。人やエルフが本を読むように、ドワーフは金属を読めるの。具体的な機動データを読まなくてもヒロが特異な戦闘機動で戦うのは読み取られるかもしれないわ」

「金属を読む……なるほど」


 早速ネットワークに接続して関連情報を収集したのか、メイが納得したように頷く。


「それで確保しろとは結局どういうことなんだろうな。テストパイロットでもやらせる気だったのかね」

「エンジニアがパイロットを欲しがるということは、何かコンペティションのような催しでもあるのかもしれませんね」

「それでそのパイロット候補を怒らせたら本末転倒じゃないか……?」


 もっと冷静に行動しろよと言いたい。


「何にせよ、相手の出方がどうなるかね……どういう形で誠意が出てくるかちょっと予想できないわ」

「途轍もなく失礼な行為ではありますが、言ってしまえば罪状そのものは軽度の傷害ですからね。簡易医療ポッドの診断データを提出しても賠償金額は500エネルも取れれば良い方かと。まぁ、企業としては自社が斡旋した工場でそのような事件が起きること自体が途轍もなく大きな失態ですが。今頃、対応に途轍もなく苦慮しているのではないでしょうか」

「ドワーフだからね……素っ頓狂なことをしてくるに違いないわよ、きっと」


 エルマがそう言って苦笑いをしている。そういえば、この世界ではエルフとドワーフの仲はどうなのだろうか? なんとなくエルフとドワーフは仲が悪いというイメージがあるんだが。


「なにかドワーフに思うところがあったりするのか?」

「別に? 個人的には特に無いわね。ただ、ドワーフはなんというか……誤解を恐れずに言えば変な人が多いからね。発想が突飛とでも言えば良いのかしら。理論よりも閃き重視、理性よりも本能重視って感じでね」

「なるほど……まぁ、サラは理性的な方だよな……だよな?」

「多分ね。まぁドワーフ全員がそういうわけじゃないから、ちゃんと理性的というか理論派の人もいるわよ。あくまでそういう傾向ってだけだから」


 ☆★☆


「あの……今日からお世話させていただきます。ティーナです」

「お、同じく……今日からお世話させていただきますウィスカです。どうかお手柔らかに……」


 その日の夜、なんだか薄っぺらい服を来たデッドボールシスターズが部屋に訪れてきた。

 ティーナと名乗るのは髪の毛が赤っぽいドワーフの女性で、顔立ちは……まぁ可愛い部類だろう。昼間はオイルで汚れたツナギを着ていた上にヘルメットをしていたし、顔も汚れていたから気づかなかったけど。そしてもう一人のウィスカと名乗るドワーフの女性は髪の毛の色が青というか水色っぽい。こちらもやはり朝は気づかなかったが、ティーナと同様可愛らしい顔立ちである。

 というか、この二人、顔立ちが同じだ。双子なのだろうか。まぁ、それは良いか。とりあえず、俺が言えることは一つだ。


「帰れ」


 扉を締める。そうすると、扉の向こうから半泣きの声が聞こえてきた。


「このまま帰ったら住む場所も働く場所も失ってしまうんですぅ!」

「話を聞いて下さい! なんでもしますからぁ!」


 扉がドンドンと叩かれる。あー、うるせぇなぁ! ホテルのセキュリティを呼ぶか。


「あ、あの、ヒロ様……?」

「あん?」


 セキュリティを呼び出そうとフロントに繋がる通信端末に手を伸ばしたところでミミに声をかけられた。


「えっと……入れてあげないんですか?」

「ミミ、俺は確かに激怒した。そしてスペース・ドウェルグ社がどんな対応を取るか見定めようと思っていた。だが奴らの対応はこれだ。実行犯の下っ端を切り捨てて、都合よく若い女だったからって俺にあてがったわけだ。これはミミとエルマを連れた上にメイまで連れているんだから女あてがっとけばええやろっ、ていう感じのふざけた対応だとは思わないか?」


 確かに俺は女好きの好色男というそしりを免れない身ではあるが、こういうのはちょっと違うだろう。自然とそうなるならともかく、押し付けられるのはNOである。しかも嫌がってる相手を金や権力で無理矢理というのはいくらなんでもいかがなものか?

 冷静に考えるとメイは割と押し付けられた感があるが、まぁ本人(?)がノリノリなのでよし。ノーカンということにしておこう……なんだか怒りが萎えてきたな。


「なんだかなにもかもがどうでもよくなってきた……あの二人に関してはミミに任せる」

「……えっ?」

「まかせる」

「えぇ……と、とりあえず中に入れて話を聞いてみますね」


 ソファに座ってぐったりする。俺にとってドワーフは鬼門なのだろうか? とことん反りが合わないというか、感情を逆撫でされるな。

 ソファに座ってぐったりしていると、ミミがべそをかいているデッドボールシスターズを連れて部屋に入ってきた。そして俺の対面にあるソファに二人を座らせ、自分もその隣に座る。


「ドワーフの外見卑怯じゃない……? これ絵的には完全に俺が悪いやつじゃないか」

「あ、あはは……」


 薄着のままめそめそと泣いているデッドボールシスターズの世話をしながらミミが苦笑いする。ちなみに、エルマは少し離れたテーブルでちびちびとやりながらこちらの様子を窺っており、メイは俺の座っているソファの後ろに立ってデッドボールシスターズに視線を向けているようであった。

 メイの視線を受けたデッドボールシスターズが怯えて抱き合っているので、どうやら相当冷たい視線か怖い視線を送っているらしい。


「あの、メイさん。あまり二人をいじめないであげてください」

「別に私は何もしておりませんが」


 そう言うメイの声はひたすらに冷たく、硬かった。宇宙船の装甲板か何かかな?

 しかし、ミミの反応がちょっと解せないな。見た目が子供っぽいから同情しているのだろうか? そんな俺の疑問が顔に出ていたのか、ミミがデッドボールシスターズの世話をしながら少し辛そうな顔をした。


「お上の事情でお金も住む場所も何もかも失ったのは私も同じですから」

「むっ……」


 そう言われると弱い。しかもこの二人は俺がそういう立場に追いやったのだ。そこに少し責任を感じ──……。


「いや感じねぇわ。責任は一切感じねぇわ。完全に自業自得だわ」


 危なくミミとデッドボールシスターズを重ね合わせて同情するところだった。まぁ良い、それでもミミがこの二人に同情していることは確かだ。ミミに免じて話だけは聞いてやろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロが最後にどうでも良いとばかりにミミに放り投げるところ(とミミの行動)以外はほぼ同感ですね。 [気になる点] うーん、ミミが無責任に同情しやすいのが気になりますね。 クラスを嗾けた辺りか…
[一言] 今回の話はミミの印象が悪くなっただけだと思うんですが
[一言] 赤髪、青髪、関西弁の姉…うっ頭が 既にあの二人で脳内変換して声再生してるんですけどモデルあの二人で合ってますかね?もしそうなら最高ですな
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