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#116 デッドボール

 母艦の納品に二週間、クリシュナのオーバーホールに一週間。

 母艦はともかくとして、クリシュナをオーバーホールしている間はコロニーの外に出ることもできないので、俺はゆっくりするつもりだった。部屋は広くて豪華だし、良い自動調理器を入れているのかメシもそこそこ美味い。ミミとエルマとメイに囲まれて、それはもうキャッキャウフフしながら俺はゆっくりするつもりだった。

 ゆっくりするつもりだったのだ。


「オーバーホールをしている整備工場から呼び出しィ?」

「はい。ご足労をかけて大変申し訳無いが、来て欲しいといった旨のメッセージを預かっています」


 昨日は正午にクリシュナを整備工場に引き渡し、その後は部屋に戻ってごろごろイチャイチャして過ごしていた。今日ものんびりごろごろイチャイチャしようと思っていたのに、朝起きるなりこれである。


「何か用事があるなら向こうが来るのが筋では……?」

「はい。私もそのように考え、そう伝えましたがとにかく来てほしいの一点張りでして。スペース・ドウェルグ社のサラに連絡して抗議いたしましょうか?」

「んぁー……まぁいいや、行ってみよう」


 俺は客だが、相手は宇宙ドワーフだ。ここで俺が突っぱねた結果、職人気質をこじらせて臍でも曲げられたら困る。いや、まぁその時はサラに連絡してカネから来る権力で如何様にもすれば良いのだろうが、無駄に事を荒立てることもあるまい。どうせホテルに篭もっていてもミミやエルマとイチャイチャして過ごすだけだし。

 いや重要だけどね? イチャイチャは重要だけどね? あまりベタベタしすぎるのも鬱陶しいだろう。親しい仲だからこそ距離感は間違えないようにしていきたい。


「身支度を整えたら向かうと連絡しておいてくれ。俺の端末にナビ情報も入れといてくれると助かる」

「承知致しました。しかしナビについてはお供いたしますが?」

「いや、いいよ。たまには一人でコロニーをうろつくのも良いだろ」


 宇宙ドワーフのたくさんいるコロニーだし、何か面白いものを売っている店とかあるかもしれない。パワーアーマー用の近接武器とか無いかな? ヒー○ホーク的なものでもいいし、超振動ブレード的なものでもいい。どうも帝国領内は剣という形態の武器に関しては貴族のものっていう意識があるようだから、

 刃物じゃなくて鈍器でも良いな。寧ろ装甲目標を相手にするならメイスとかの方が適してるかな? うーん、夢が膨らむね。まぁ、そういうのがあったら良いなっていう願望でしかないから、そもそもそんなもの全く扱ってないかもしれないけど。


 ☆★☆


 身支度を整えて俺は一人でホテルを出発した。ミミはまだスヤスヤと寝ていたし、エルマは昨日結構飲んでいたので、起きるのは昼だろう。メイには二人についてもらっておいたので、何の心配もない。やっぱりこういう時にメイの存在はありがたいな。絶対的な信頼感がある。


「ええと、整備工場はこっちか」


 小型情報端末で現在地と目的地を確認し、ルートを表示する。それもこれも全部メイが用意してくれました。メイ様々だな。なんか遠くでミミがうなされているような声が聞こえてきた気がするが、きっと気のせいだろう。

 若干天井の低いコロニー内をナビに従って歩く。なにはともあれまずは呼び出された整備工場に顔を出さないといけないので、コロニー内の探検は後回しだ。まだ朝も早いし、パワーアーマー用の装備を売っている店が開いてるとも思えないしな。

 途中で繁華街らしき場所の近くを通ることがあったのだが、滅茶苦茶酒臭くて思わず顔をしかめてしまった。密閉空間であるコロニー内で揮発性の高いアルコールを飲むのは危険だと思うんだが……? 何か特別な対策でもしているんだろうか。いや、流石に対策はしているか。酒の飲みすぎでコロニー内で火災とか爆発とかが起こったら洒落にならないし。

 そんなことを考えながら歩いていると、繁華街エリアを抜けたところで急に酒の匂いがしなくなった。


「?」


 疑問に思って少し引き返し、繁華街エリアに一歩足を踏み入れる。その途端に強い酒の匂いが押し寄せてきた。なんだこの無駄に高度な空調設備は。いや、空調設備の効果なのか? 見た感じ、何か特別な機械などは見当たらないが……でも何かしらの種や仕掛けがあるのだろう。流石はドワーフの技術……か? 技術の無駄遣いのような気もするな。

 いや、そういえばこういう技術の無駄遣いをしているアイテムを俺は知っているぞ。グラビティスフィアだ。この謎の空調技術はあの空間固定式のドリンクホルダーと同じ匂いがする。酒の匂い成分だけを選別して通さないシールド的な何かが展開されているのかもしれない。


「……行くか」


 更に進むと、この辺りは整備系の工場区画であるということがわかってきた。自動調理器をなどの家電製品やレーザーガン、レーザーライフルなどの武器、パワーアーマー、その他諸々の整備工場や細々とした修理用の部品や機材を扱う工場などが立ち並んでいるようである。あの繁華街エリアはこの辺りに務めているドワーフ達の憩いの場なのであろう。


「ふーむ、パワーアーマーも一回オーバーホールしたほうが良いかな」


 うちのRIKISHIもそれなりに使用している。整備はちゃんとしてもらっているが、本格的にオーバーホールはこちらの世界に来てからはしてないんだよな。この際しっかりとやってもらう方が良さそうだ。パワーアーマー用の嵩張らなくて使い勝手の良い射撃武器も欲しいんだよなぁ。レーザーランチャーは嵩張ってちょっと使いにくいし。別に肩の固定武装レーザーでも良いんだけどさ。あれはなんか撃ってる感じがしなくてなぁ。

 などとパワーアーマーに思いを馳せながら進むと、低重力区画へと入った。宇宙船というものは基本的に大きなものなので、宇宙船の整備を行う区画というのは基本的に低重力、あるいは無重力区画であることが多い。このコロニーでもその辺りは同じであるようだ。

 低重力区画にはいるとついつい楽しくてはしゃぎたくなってしまうのだが、基本的に低重力区画=通常重力では重くて扱うのが困難な代物を扱っている場所なので、年甲斐もなくはしゃぐと凄く白い目で見られる。とはいえ実際に楽しいので、あまり使われていない場所でコロニーの子供達が秘密基地を作って遊んだりすることもあるらしい。ミミも小さい頃は友達と一緒に低重力区画に忍び込んで遊んではよく怒られていたとか言っていたな。

 低重力区画ではそれはもうポンポンと軽快に跳ね回って高速移動をすることも可能なのだが、当然ながらそんなことをすると他の人とぶつかるリスクも跳ね上がる。なので、低重力区画では通常区画よりも一層注意深く移動する必要があるのだ。低重力区画では踏ん張りも利きづらいから、スピードが乗ると急に止まれないんだ。

 そうして慎重に進むこと少し。遂に俺はクリシュナが運び入れられている整備工場へと辿り着い……たんだが。


「なぁにこれぇ」


 中を覗いてみると、装甲を外されて船体の基本フレームを晒したクリシュナに大量のドワーフ達が張り付いていた。何やらよくわからない機械でスキャンをしたり、小さなハンマーでフレームを叩いたりして何かをチェックしているようである。四門の重レーザー砲や二門の散弾砲なども取り外され、可変機構などもバラされて分解整備されているようだ。可変機構とか四門の重レーザー砲が取り付けられているアーム型砲塔ユニットの辺りにも人が多いな。

 と、様子を観察していると現場を指揮していると思しきドワーフが俺の存在に気付いた。


「操縦者が来たぞ! 確保しろ!」

「えっ」

「うおおおおっ!」

「どけぇ! ウチが確保する!」

「あたし達のとこで確保するわよ! そぉい!」


 むくつけきドワーフ達が迫ってくる中、出遅れた女性ドワーフが隣にいた自分の相棒らしき女性ドワーフの襟を掴み上げ、こちらにブン投げてきた。


「わあぁぁぁぁぁっ!?」

「うおおぉぉぉォィ!?」


 物凄い勢いで迫ってくる女性ドワーフを受け止めるがその勢いは強く、低重力区画では踏ん張りも利かずに整備工場の入り口から受け止めた女性ドワーフ諸共吹っ飛ばされる。

 というか女性ドワーフって身体が小さい割に重いな!? などと考えているうちに背中から壁に叩きつけられ、壁と女性ドワーフに挟まされて息が詰まる。


「ぐふぅっ」


 ずるずると壁からずり落ちながら聞いたのは『うちらが確保したぁ!』と胸元で騒ぐ女性ドワーフの声であった。なんなんだよ一体……何故俺がこんな仕打ちを受けるんだ。そう思いながら俺はガクリと力を失うのであった。

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― 新着の感想 ―
これはヒロもうかつ、と言うか頭お花畑でしたね~。 作者の意思を感じる。
[良い点] 合法ロリミサイルはいいぞぉ(?)
[良い点] > 「あたし達のとこで確保するわよ! そぉい!」 お話だけでも面白い場面というのがわかってたが、絵になるとまた格別だな。ここ、何回も見直してるわw
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