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#113 本戦:商談

鼻水がべーべー出て集中力が……急に寒くなってきましたね_(:3」∠)_

「こちらが最新ロットのスキーズブラズニルです。艦内のハンガーには小型船を二隻収容できるようになっており、装甲の補修や破損パーツの交換、弾薬の補充などが行えます。これらの作業はオートメーション化されており、少数のクルーでも運用できるようになっているのがスキーズブラズニルの特徴ですね」


 そう言ってサラさんがどこからか取り出した指示棒のようなものでスキーズブラズニル下部後方にあるハンガースペースを指す。


「こちらのオートメーションハンガー二つは初期装備なので、二つもいらないということであれば一つだけにしてその空いたスペースに他の設備を搭載することが可能です。地表探査用ビークルのハンガーにするというのも一つの選択肢だと思います」

「地表探査用ビークルかぁ……」


 傭兵稼業には不必要そうに思えるかも知れないが、実はそうでもない。どちらかというと傭兵というよりも探索者の領分だが、仕事で使うことがないとも言えないんだよな。商人ではなく学者の護衛依頼とかを受けると、辺境まで引っ張り出されて太古の遺跡がある惑星の探査に駆り出されることもあるんだこれが。面倒だからSOLでは殆ど受けた覚えがないけど、こっちでも無縁のままで居られるかはちょっとわからないな。


「とりあえず後で考えよう。説明を続けてくれ」


 小型艦を二隻収容できるようになれば、将来的にエルマが自分の船を得た時にバディを組むって選択肢も取れるだろうし、俺がクリシュナを得た時のように何かの拍子で小型艦がポンと手に入るかも知れない。そういう時のことを考えれば小型艦ハンガーが二つあるというのもそれはそれで良さそうだ。


「はい。自由に設備を配置できるユーティリティ区画は他社の同クラスキャリアシップに比べてかなり大きめです。全てをカーゴとして使えば中型輸送船並みの積載力を発揮しますし、カーゴではなく別のより有意義な施設を搭載することも可能です。例えば採掘した鉱石を精錬加工する自動精錬機オートリファイナリーや、精錬した金属を加工して弾薬や修理用の装甲材、スペアパーツなどを作り出すことができる自動製造機オートファブリケーターなどもお勧めですね」

「あー、まぁそういうのは無補給で深宇宙探査に行く探索者向けじゃないかな」


 基本的にコロニーの近くで活動する傭兵にはあまり用がない設備である。採掘で稼ぐなら自動精錬機はあっても良いかも知れないけど。単価の高い鉱石をガンガン掘れればアレはアレでかなり稼げるんだよなぁ。


「まぁ考えようによっては自動精錬機はアリか?」

「アリなんですか?」

「まぁ、アリかナシかで言ったらアリかもね」


 ミミはよくわかっていないようだが、エルマは俺の意図がわかったらしい。つまり、スキーズブラズニルを運用する際の『待ち時間』にただボーッとしているのではなく、採掘をやって小銭を稼ぐのもアリだなぁという話だ。ミミはまだ首を傾げているが、ここで詳細を説明するつもりはない。


「そうなると鉱石スキャナーと採掘補助ドローンユニットは欲しいな。回収ドローンもグレードの高いものにしたほうが良いか……まぁ、この辺は資金と相談だな。投資金額を回収するのも大変だし、素直に全部カーゴにして荷物を運んだほうがよっぽどシンプルだ」

「それもそうね。それより優先すべき設備があるわけだし」

「はい。では肝心のジェネレーターですが、こちらはクラス6までのジェネレーターを搭載することが可能です。このクラスのキャリアシップとしては標準的な大きさのジェネレーターになりますが、最新ロットのものでは従来のものより出力が20%向上し、燃費は5%改善されています」


 そう言ってサラさんが指示棒でホロディスプレイに触れて情報を切り替える。ふむ、なかなかに高性能なジェネレーターが標準搭載されているようだ。大きさの割にクリシュナのジェネレーターと出力があまり変わらなかったりするのだが、クリシュナのジェネレーター出力が異常なだけなので気にしてはいけない。


「シールドと装甲、ジェネレーターに関しては妥協せずに最高の性能のものを搭載したい。それ以外の設備や装備に関しては二の次だな。砲艦運用する気も今のところは──」


 背後からポン、と俺の肩に触れるものがあった。無論、背後に立っているのはメイだけなのでこの手はメイのものであろうことは明白だ。


「……やる気か?」

「資金が許せば、ですが」


 視線を合わせずに問いかけると、背後の頭上から静かな声が返ってきた。マジかぁ。


「まぁどっちにしろ優先順位はシールド、装甲、ジェネレーター、カーゴ区画の順だ。次点で回収ドローンと採掘装備──」



 肩に手が置かれる。


「──じゃなくて武装だな。うん。とにかく生存性を高めたい。シールド、装甲、ジェネレーターは用意できる最高のものを基準に考えたいところだ」

「はい。では最新ロットの船体に三層大容量シールドジェネレーター、それにミリタリーグレードの積層装甲に大容量カーゴ、と。内装はどうされますか?」

「生命維持装置や空調は堅牢性を重視してください。性能より信頼性重視です。医療施設は標準仕様、船員区画の内装も最低限で良いでしょう。日常生活はしっかりと手を入れてあるクリシュナで過ごすのが合理的です。基本、キャリアシップ内で過ごすのは私だけでしょうから」

「なるほど、傭兵の母艦ということであればできるだけ足は早く、目も良い方が良いですよね?」

「そうだな。超光速航行速度も可能な限り早いほうが良い」

「はい。それではその辺りも考慮しまして、っと。こうなります」


 彼女が提示した金額は予算の範囲内──とは言えなかった。およそ2800万エネル。母艦の運用費と被撃破時の修理代金を考えると残金500万エネル程度というのは少々心許ない。稼ぐ前に母艦が大破したら一気にレッドゾーンである。


「予算オーバーだな」


 貯金を全て叩くならメイの望む武装もできなくはないが、すっからかんになったら補給も覚束なくなる。やはり予算オーバーだ。可能であれば2200万エネルくらいにしたい。


「……ご予算は」


 にこにこと胡散臭い笑みを浮かべるサラ。正直に言って良いものかどうか。


「……2200万」

「なるほど、なるほど……」


 ニチャァ……と少女の形をした何かがいやらしい笑みを浮かべる。


「先程の条件、飲んでいただければ大幅ディスカウント! 2200万ポッキリに負けましょう」


 600万エネルねぇ……うーん。


「飲むことは吝かじゃないが……」

「条件があります」


 俺が先程の条件を呑むことを検討し始めたところでメイが口を挟んできた。


「スペース・ドウェルグ社に渡す運用データに関しては渡す前に私が予め検閲をさせていただきます。私には主を守る使命がございますので、これは譲れません」

「私どもが信用できないと?」

「はい」


 笑顔のサラさんと俺の背後に立っているメイの視線が虚空でぶつかり合い、激しい火花を散らしているようだ。俺? 俺はとばっちりが来ないように『自分は空気、自分は空気』と念じているところだよ。


「……まぁ、良いでしょう。では提出してもらう運用データに関してはこちらの求める項目のうち、そちらが許可したものだけということで手を打ちます。それで良いですか?」

「良いでしょう。下手な小細工はしないことです」


 何故だかしらないが、メイがサラに対して好戦的だ。最近製造されたばかりのメイとスペース・ドウェルグ社に務めるサラに何か妙な縁があるとも思えない。となると、相性が悪い何かがあるのだろう。メイは思慮深い。そうそう敵を作るような真似をするとも思えない。


「代わりに、取材は受けてもらいますよ。こちらが譲歩したのですから、そちらも譲歩していただけますよね?」

「俺は構わんが……」


 チラとエルマに視線を向ける。ミミは乗り気だし、メイは何か意見を言うとも思えない。嫌がっているのはエルマだけだ。

 俺? 俺は別に構わない。ドキュメンタリー動画になったらクリシュナの姿も多くの人の目に触れることになるだろう。もしかしたらクリシュナの製造元とか俺と同じように向こうから来ている人が連絡してくるかもしれないし、そうすればワンチャン俺の不可解な状況を理解する一助になるかもしれない。


「……私の顔出し声出しはナシ。それで良いなら」

「わかりました、伝えておきます。あとは武装でしょうか。ご覧の通り、武器を装備できるスロットはかなり多めです。一つだけですが大型武器の武器マウントもありますから、武装すれば火力もなかなかのものですよ」

「大型武器マウントにはEMLを。その他の武器マウントには中型のものには中口径のレーザー砲を、小型のものにはシーカーミサイルラックを装備してください」

「え、大型EML? マジで? 当たるの?」

「はい。問題ありません」


 思わず驚いてメイを振り返ってしまったが、メイは無表情でコクリと頷いた。EMLというのは所謂電磁投射砲のことである。レールガンと言った方がわかりやすいだろうか。ゲーム的に言えばエネルギーを消費して撃ち出す超強力な艦砲である。

 実体弾を撃ち出すレールガンは当然ながらレーザーよりも弾速が遅いため、距離の遠い相手を攻撃する場合は相手の未来位置を予測した偏差撃ちをする必要がある。しかも砲身が固定されているため、艦の前方にしか発射することができない上に自分で狙いを定める必要がある。

 当然ながら、物凄く当てづらい。その代わり、威力はとんでもなく高い。中型艦までなら当たりどころが悪ければ一撃で爆発四散するし、小型艦は跡形もなく粉々になる。

 当てづらいが、超高威力。ロマン砲と呼ばれる所以である。


「EMLですか。また珍しいものを……勿論ご用意致しますが」

「……全ての武装にコンシールド加工を施してくれ。一見非武装船に見えるようにな」


 コンシールド加工というのは通常時はウェポンマウントを装甲で隠して見た目には武装しているかどうかわからなくするための加工である。ウェポンアームを展開しないと四門の重レーザー砲と二門の散弾砲が見えないクリシュナもある意味では武器をコンシールド加工していると言えるな。フォルムと速度で戦闘艦なのがバレバレだけど。


「承知致しました」


 特に疑問を差し挟むこともなくサラは頷く。うん、話が早いのは助かるな。

 しかし非武装の防御型母艦にするつもりが、蓋を開けてみればメイの要望でかなりの重武装母艦になりつつあるのだが……? ていうかメイの要望した武装を全てつけると軽くメイ本体の値段より高くなりそうなんだが、これは色々とどうなのだろうか?

 まぁ、良いんだけれどもね。メイが当てられるというのであれば、EMLでの砲撃支援というのはありがたい話ではあるし。

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― 新着の感想 ―
EML…広大な宇宙空間ではレールガンと言えどそう優れた弾速とは言えなさそうだけど、メイには当てられる自信があるのか。設計時の要求仕様の時点で分かってはいたけど、よほど予測能力が高いらしい。
[良い点] 漫画のほうだと省略されてた設定があって すごく惹かれました
[気になる点] EMLは追われてる状況で後ろに打てればかなり優秀な気がするが、そういうギミックで装備してない気がして残念。
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