#107 ミミの給料アップと母船選び
「いやー、笑いが止まりませんなぁ」
「はいはい、良かったわね」
「流石はご主人様ですね」
ダレインワルド伯爵の本拠地であるデクサー星系のデクサープライムコロニーに着いた俺達は遂に護衛依頼を完遂し、その報酬を受け取り終えていた。日当25万エネルで、シエラ星系からデクサー星系までの移動にかかった日数は合計で22日。途中で戦闘が発生し、応急修理のためにコーマット星系に滞在した日数が長かったのが良かったな。ダレインワルド伯爵は応急修理中にかかった日数分もちゃんと報酬を出してくれた。
更にバルタザールの襲撃を退けた件についてもしっかりとボーナスを出してくれた。最終的な報酬は護衛費用が550万エネル、ボーナスが250万エネルで合計800万エネルである。よっ、ダレインワルド伯爵! 太っ腹!
ミミの取り分は報酬額の0.5%なので4万エネル。エルマは3%だから24万エネルだな、残り772万エネルが俺の取り分になる。俺の所持金がおよそ2440万エネルだったから、これで俺の所持金はおよそ3210万エネルだな。1万エネル以下は弾薬費や燃料費、寄港料金などで消えていくからバッサリと切り捨てである。
「う、うーん……」
ミミは自分のエネル残高が表示されているタブレットを見て何やら汗を垂らしながらうんうんと唸っていた。ふむ……? 報酬額がやはり少ないかな。そうだよな、0.5%だもんな。よし。
「そういえば、最近はミミもオペレーターとしての仕事に慣れてきたよな」
「えっ? ええと……そう、ですかね?」
俺の発言が唐突に思えたのか、ミミが何やら驚いたような様子を見せる。
「そうね。見習いを抜け出して駆け出しってところかしらね」
俺の思惑を知ってか知らずか、エルマも俺の言葉に同意した。うん、でも実際そうなんだよな。
「そろそろミミの分け前をもう少し多くしても良いんじゃないか?」
「え゛っ……い、いえ、いいです! 十分です!」
ミミがタブレットを持ったままブンブンと手を振る。何故嫌そうなんだ……?
「そうはいかないぞ。技能によって取り分が上がるのは当たり前のことだからな。ミミはもう入出港の手続きや弾薬や燃料の補給、戦利品の売買に関しては問題なくこなせるようになってるし、通信手やレーダー観測員としても仕事ができるようになってきている。能力なりの分け前を貰うのは当たり前じゃないか」
「そうね。分け前0.5%は最低レベルの水準だしね。1%に引き上げても良いんじゃない?」
「そうだな。それじゃあ今回の報酬も4万エネルじゃなくて8万エネルに……」
「いっ、良いですから! 次から! 次からでっ!」
「いや、今回も大きく稼いだし今回分からちゃんとしておいたほうが良いだろう?」
「そんなにお金があっても使いきれませんよ!」
ミミが叫び、俺とエルマは互いに顔を見合わせた。
「8万エネルじゃ座布団もまともにカスタマイズできないよな」
「そうよね。最低限のジェネレーターも買えないと思うけど」
座布団というのはSOLにおいて一番最初に所持してる所謂初期船というやつである。四角くて平べったい形状をしていることから座布団という愛称で呼ばれることが多い。座布団呼びはSOL内のスラングみたいなものなのだが、何故かエルマにも通じるようだ。こういう部分があるからこの世界がSOLとは別世界なのかどうなのか判断がつかないんだよなぁ。
「いや、ヒロ様とエルマさんの金銭感覚で話をされても困りますから。私は一般人ですから。4万エネルって、慎ましく暮せば一年分の生活費になるんですよ?」
「そうか……? そう言われればそのような気もするな」
1エネル100円で換算すれば4万エネルは単純に100倍して400万円である。税金とか保険料とかそういったものを全く考えなければ確かに一年くらいは余裕で暮らせる金額である。
「でもよそはよそ、うちはうちだから。そこまで言うなら今回は0.5%のままにしとくけど、次回以降は1%に昇給するからな。これは決定事項だ」
「うっ……はい」
どうしようかなぁ、と呟きながら溜め息を吐くミミをとりあえずそっとしておくことにして俺は今後の方針について話を切り出すことにした。
「今後の方針だが、母船の購入に踏み切りたいと思うんだ」
「母船ねぇ……今いくらあるの?」
「大体3200万くらい」
「んんー……それくらいあれば……でもちょっと厳しくない?」
エルマが眉尻を下げて首を傾げた。確かに3000万くらいだと一般的な母船の購入費用とカスタマイズ費用、そして万が一撃破されてしまった際の保険料を考えると少々心許ない。
「クリシュナ一機を積めればそれで良い。下手に攻撃能力を持たせないでシールド容量を大きくして、逃げ足とカーゴ容量を重視すれば問題ないと思うんだよな。下手に攻撃能力が高いと攻撃されるだろ? 足止めはクリシュナがすれば良いわけだし」
「なるほど、戦闘を想定しない貨物船寄りの母艦ってわけね。それならいけるでしょうね。それでもギリギリでしょうけど」
「ああ、だから少しでも安く買うためにシップメーカーのある星系に行こうと思うんだよ。問題はどのシップメーカーのどの機種を買うかなんだがな」
そう言って俺はタブレット型の情報端末を操作し、食堂に設置されているホロディスプレイ上にカタログを表示した。
「一応候補は絞ったんだよ」
一番最初に画面に表示されたのはリコンインダストリー製の【RIMS-013 Night Hawk】だ。この母艦は速力重視の母艦で、装甲やシールド容量、カーゴ容量には若干難があるものの、母艦としてはトップクラスに足回りが良い。運動性も悪くないし、装甲やシールド容量に難があると言ってもそれは他の母艦に比べてという話である。一般的に中型艦船に若干劣るといった程度で、宙賊の使うような民間船を適当に改造したような中型船よりはずっと頑丈だ。
「なんだかシュッとしてかっこいい船ですね。ちょっとクリシュナに似てる気がします」
「流線型でシャープな感じの船ね。逃げ足が速いのは悪くないと思うわ」
「そうですね。しかし、クリシュナを運用するには少し合っていないのではないかと思います。クリシュナの攻撃力を活かす運用をするのであれば、逃げ足よりも堅牢さを重視したほうが良いのでは?」
「これも悪くはないと思うんだけどな。次の候補はこれだ」
次にホロディスプレイに表示されたのはスペース・ドウェルグ社製の母艦【SDMS-020 Skizbrazunil】だ。こちらは速力には劣るがシールド容量が多くて装甲も厚い。カーゴ容量も大きくて交易にも力を発揮するし、艦の設計自体に余裕があるのでカスタマイズ次第では単なる母艦兼輸送艦としてだけでなく、採掘船にすることも調査船にすることもできる。
ただ、艦の重量が大きいせいで速度性能や運動性能はお察しだ。もともとの重量が大きいせいでインターディクトにも弱いし、超光速ドライブ時の速度性能もかなり控えめである。ハイパードライブの性能はあまり変わらないけど。
「ゴツくておっきいですね!」
「性能は申し分ないけどフォルムは私好みじゃないわね」
「クリシュナの攻撃性能を活かすのであればこういう船のほうが合うと思います。超光速航行時の速度性能が控えめでインターディクトにも弱いですが、宙賊から寄ってきてくれるならご主人様にとってはむしろ良いカモですし」
「まぁ、確かにな。でも俺的には足が遅すぎるのもちょっと引っかかるんだよなぁ」
三つ目の候補をホロディスプレイに映し出す。こちらはイデアル・スターウェイ製の【ISMS-007 ChromeElephant】という母艦だ。この船は正に前に出てきた二つの丁度中間くらいの性能である。ナイトホークよりも速度で劣るがシールド容量や装甲は厚く、カーゴ容量は大きい。しかしスキーズブラズニルに比べれば速度や運動性で勝り、逆にシールド容量や装甲、カーゴ容量では劣る。
「帝国軍の船になんとなく似てませんか?」
「帝国軍の船はイデアル製だからね。イデアルの船を見ていると忌まわしい記憶が呼び覚まされそうになるわ」
「中途半端はいけませんね。逆に言えばナイトホークで逃れられる相手に逃れられず、スキーズブラズニルに耐えられる攻撃に耐えられないということですから」
「これはボツか……スペックは悪くないんだが」
ミミはあまり頓着しないようだが、エルマ的にはこの船はどうも相性が悪そうだ。メイも反対のようだし、クロムな象さんの採用は無いな。
「じゃあクロムエレファントは外してナイトホークかスキーズブラズニルのどっちにするかってことで話し合おうか」
「そうね」
「そうですね」
「わ、私はどちらでも……皆さんにおまかせします!」
ミミが早速棄権した。まぁミミは船の運用に関してはまだ勉強不足だものな。というかこの図、エルマがナイトホーク推しでメイがスキーズブラズニル推しになるのは目に見えているから、結局俺が決めることになるよね……? どうしたものかな。




