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#104 決着

「……その男は捕縛する」


 厳しい表情を崩さないままダレインワルド伯爵はそう宣言し、周りに控えているメイドや執事達に目配せをした。ダレインワルド伯爵からの視線を受けた数人の執事達が慌ただしく動き、どこからか首輪のようなものを持ってきて泡を吹いて倒れている二刀流野郎の首に嵌め、どこかへと連れて行く。

 そしてメイドさんがどこかへと飛んでいっていた二刀流野郎の長剣と短剣を鞘に収めて俺の元へと持ってきた。なんだねこれは?


「貴様によって決闘を汚されたのは甚だ遺憾だが、結果的に奴を倒したのはお前とその道具だ。その剣は貴様が得るべきだろう」

「……意味がわからん。これは一体どういうことなんだ、メイ」

「貴族同士の争いの解決方法は色々とありますが、今回ダレインワルド伯爵とその息子であるバルタザール卿は今回の争いを最終的に剣による決闘という形で解決しようとしたのだと思われます。我々はその決闘に一方的に乱入、ダレインワルド伯爵に助太刀する形でバルタザール卿を討ち果たしました。これによって今回の一連の争いはダレインワルド伯爵の勝利という形になり、バルタザール卿の生殺与奪を含め全てがダレインワルド伯爵に一任されることになるのだと思われます。また、決闘に勝利した貴族は敗北した貴族の誇りの象徴である剣を戦利品として得るのが一般的です。我々の乱入を不本意と感じ、しかしながら我々の乱入が無ければ敗北していた可能性の高かったダレインワルド伯爵はバルタザール卿の剣を自らのものとするのを良しとせず、実質的に彼を討ち果たしたご主人様に譲ろうと考えているのだと思われます」

「なるほど。情報量が多すぎてわからん。これは受け取って良いものなのか?」

「よろしいのではないかと」

「わかった」


 メイが良いと言うのであればそうなのだろう。そういうわけで、俺はメイドさんが差し出してきていた長剣と短剣を受け取ることにした。パワーアーマーを着たままだと微妙な絵面だろうな。力士型パワーアーマーに西洋剣というのはさぞ似合うまい。


「それで、奴はどうするんだ?」

「然るべき処置をする」


 短くそう言ってダレインワルド伯爵は踵を返し、どこかへと歩き去っていってしまった。傷の処置をしていたメイドさん達がその後を慌てて追いかけていく。そんな彼を見送りながら俺は投げつけたスプリットレーザーガンを回収し、真っ二つにされたものも同様に回収した。実はパワーアーマーには背部にウェポンマウントがあるのだ。よくわからない力で武器が背中にくっつくぞ。

 冗談だ。背部に自動制御の機械式ウェポンマウントが装備されているのである。見た目はゲームとかでよく見る謎の力で背中にくっつくアレに見えるだけだ。俺は普段レーザーガンしか持ち歩いてないから着てないけど、この世界のタクティカルアーマーの類には同様の機能を備えているものが結構あるぞ。オンラインストアで確認したから間違いない。


「お疲れ様でした」


 真っ二つになったスプリットレーザーガンを両手にそれぞれ持って後始末をどうしようか、などと考えているとこの場に残っていたクリスが俺の直ぐ側まできて声をかけてきた。


「お疲れ。怪我はなかったか?」

「はい」


 そう言うクリスの腰には今まで見かけなかったものが吊るされていた。それはナイフ……と言うには少し大きいだろうか。護身用の短剣、といったところだろう。


「パワーアーマーを着たままだと頭を撫でることもできないな。とにかく、無事で何よりだ」

「ヒロ様のおかげです。この懐剣を使わずに済みました」

「どういう使い方をするのかは聞かないでおく」


 懐剣という言葉の意味が俺の知っているものと大きく違っていなければ、それは護身用、或いは女性が自分の誇りと尊厳を守るために自害するのに使うものである。ダレインワルド伯爵が敗北し、俺が助けに来ていなければ最悪の場合彼女はあの懐剣で自らの命を絶っていたのかもしれない。


「そうだ、エルマ達にも連絡しておかないとな……エルマ、ミミ、こっちは大丈夫だ。バルタザールは……殺しちゃいないが、仕留めた。ダレインワルド伯爵がなんか首輪みたいなものを嵌めて連行していったからもう心配ないはずだ」

『了解。殺らなかったの?』

「ダレインワルド伯爵とやりあってた所に俺達が乱入して、最終的にメイが四肢をぶっ潰してな。泡吹いて気絶したのを拘束した感じだ。一応殺す前にダレインワルド伯爵に聞いたら拘束するって言ったんでな」

『そう。怪我はない?』

「ない。スプリットレーザーガンが一丁真っ二つにされたけど」

『それは残念だったわね。でもレーザーガン一丁で済んでよかったじゃない。腕だの足だの胴だのを真っ二つにされるよりはマシでしょ?』

「違いない」


 あの切れ味だとマジでパワーアーマーごと斬られてもおかしくなかったからな。シールド万歳だぜ。


『ヒロ様、無事に戻ってきてくださいね』

「ああ。今日はパーッと美味いもんでも食おう。やっとこさ一息つけそうだ」

『はいっ』


 ミミの嬉しそうな声を聞いてふと思いつく。


「そうだ、クリスも船に来ないか? バルタザールを仕留めたお疲れ様パーティーをするぞ」

「パーティーですか。良いですね。是非参加させてください」

「パーティーって言ってもそれっぽい料理を自動調理器にたくさん作ってもらうだけだけどな。それでもよければ是非参加してくれ」

「はい。お祖父様に言ってなんとしても許可を取り付けてきます」


 そう言ってクリスは両拳を握ってふんすっ、と気合を入れる。ミミから仕草が感染ったのだろうか……? ま、まぁ一緒に居た時間も長かったみたいだし……?


「そういや戦闘はどうなってる?」

『そっちでバルタザールを仕留めたのが伝わったみたいで、戦闘は終了したみたいね。大体投降するか逃げるかしたみたいよ』

「了解。それじゃあ今から戻る。クリス、俺達はこの船のハンガーに着艦してるから、許可が取れ次第来てくれ。メイ、クリスの護衛を頼む」

「わかりました。後ほど伺いますね」

「承知致しました」


 バルタザールを仕留めたからもう大丈夫だと思うが、万が一ということもあるのでメイを護衛につけておく。一応、メイの護衛としてレーザーガンやレーザーライフルを装備したメイドが待機していたが、念には念を入れてだ。メイにスプリットレーザーガンを渡し、嵩張るレーザーランチャーは俺が船に持ち帰ることにする。

 念の為道中にまだ戦闘中の場所は無いか警戒しておいたが、艦内に侵入した敵兵の殲滅も完了していたようでとりあえず一安心のようだった。


「どうにも気が抜けてるな」


 クリスを狙っていた首魁を倒したせいか、どうもよくない精神状態のように思える。浮ついているというかなんというか、油断している感じがするというかなんというか。勝って兜の緒を締めよ、なんて言葉もある。しっかりと油断しないようにしなきゃならんな。

 ガションガションとパワーアーマーの歩行音を鳴らしながら歩き、艦内のメイドさんや執事さんの視線を受けながら俺は旗艦のハンガーへと辿り着いた。旗艦の艦載機も続々と戻ってきているようである。

 シールドを抜かれずに無傷で済んだ機体もいるようだが、よく爆発四散しなかったなと言いたくなるようなボロボロの機体もいる。彼らの機体はごく標準的な帝国製の小型航宙戦闘機だ。

 小型のレーザー砲、或いはマルチキャノンを装備可能なマウントが二つ、それにシーカーミサイルポッドが二門。運動性が高く、スピードも早め。シールドと装甲に不安はあるが、なかなかに良い機体だ。

 傭兵が乗るにはちょっと巡航能力とか積載量の面で不安があるけど。愛用している人が居ないわけでもないんだよな。見た目がいかにも戦闘機チックでかっこいいし。

 それに比べるとクリシュナは一回り以上大きい。一応小型戦闘艦に分類できる大きさだが、中型戦闘艦に近い大きさである。その分性能は比べ物にならないけど。

 補給や整備、それに負傷したパイロットの救護で大変忙しないハンガーを通過し、クリシュナに戻る。パワーアーマーを着てレーザーランチャーなんて持ち歩いてると、この混雑したハンガー内でも向こうから避けて通ってくれるのは実に助かる。

 タラップを登り、ハッチを開けてクリシュナの中に入るとそこにはミミが待ち受けていた。


「ヒロ様!」

「ただいま。とりあえずパワーアーマー脱いでくるわ」

「はい!」


 と言いつつミミは俺の後ろをついてくるようであった。特に怪我も何もしてないんだけど、心配なのかね? カーゴスペースに着いた俺は武器庫として使っている一角に設けられている武器ラックにレーザーランチャーを置き、ジャンク品ボックスに真っ二つにされたスプリットレーザーガンを放り込んでパワーアーマーを脱いだ。


「ぷはぁ、解放感」

「お疲れさまです!」


 すかさずミミが程よく濡れたタオルを差し出してきたので、それを受け取って汗ばんだ顔や首周りを拭く。パワーアーマー内はしっかり空調も効いてるんだけど、やっぱり汗をかくことはかくんだよな。


「ありがとう。そうだ、こいつを見てくれ」


 そう言って俺はパワーアーマーの背部にマウントしておいたバルタザールの剣、大小一組をミミに見せてみた。


「剣、ですか? これ、貴族様の持っているようなやつですよね?」

「うん。メイと一緒にバルタザール某をボコしたらダレインワルド伯爵がくれた」

「そんなに簡単にもらえるものなんですか……?」


 ミミが困惑した表情を見せる。うん、困惑する気持ちはわからないでもない。でも貰ったものは仕方がない。くれるっていうなら断る理由もないし、メイも受け取って問題ないって言ってたしね。


「わからんけどくれるって言ってたから……」

「そ、そうですか……」


 困惑しつつもミミは剣というものに興味津々のようである。ミミにとって剣というものは帝国貴族の象徴、つまり雲の上の人物が持っているものという認識だ。日本の認識で例えると……議員バッジみたいな? ちょっと違うか? まぁとりあえず自分では絶対に手の届かないものって認識だろう。


「持ってみるか?」

「良いんですか?」

「良いんじゃないか。ああ、めっちゃ斬れるから扱いには細心の注意を払ってな」

「はいっ」


 ミミに短剣を渡し、俺は長剣の方を手に取ってみる。

 ふむ、思ったより細いな。セレナ少佐の持っている剣よりも細身の剣であるようだ。切れ味は同じなんだろうか? 比較対象がないからわからんな。諸刃で、刀身の幅はあまり広くなく、切っ先は鋭い。

 威力よりも軽さと鋭さを重視した剣なんだろうか。まぁ切れ味は刀身の幅にあまり影響されないんだろうから、細身で軽いほうが有利っちゃ有利なのかね?


「結構ずっしりしてますね」

「そうなのか」


 長剣を鞘に収め、ミミと剣を交換する。こちらは長剣に比べて幅広で刀身自体が厚く、切れ味も良さそうだが……それよりも頑丈そうなイメージの造りである。攻撃的な剣ではなく、どちらかというと防具のように使う剣なのかも知れない。


「……なにやってんのよ」


 カーゴスペースの入り口からかけられた声に振り返ると、そこには呆れたような表情を浮かべたエルマが立っていた。俺はそんな彼女にも見えやすいように手にした短剣を掲げてみせる。


「戦利品の確認をな?」

「戦利品って……え、それ貰ってきたの?」

「うん。なんか知らんがバルタザールを俺とメイでボコってダレインワルド伯爵を助けたらくれた」

「うんってそんな軽く……」


 そう呻いてエルマが何か考え込むような仕草をする。


「受け取ったら不味かったのか?」

「いえ、そういうわけじゃないけど……まぁ、何かあるなら向こうから言ってくるでしょ。それよりもパーティーの準備をするんでしょ? そんな物騒なものはしまって早く準備しましょう。ヒロはシャワーでも浴びてきなさい」

「はいっ!」

「へーい」


 ママ・エルマの言葉に素直に従って俺とミミは剣を鞘に収めて武器ケースに放り込み、各々行動を開始する。ミミとエルマはカーゴルームから食材や飲み物を持っていくらしい。俺は素直にエルマの言葉に従って風呂に入るとしよう。

 風呂に入ったら祝勝パーティーだな!

24~25にかけて東京に行くのでちょっと更新をお休みします!

ユルシテネ!_(:3」∠)_

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― 新着の感想 ―
貴族の剣を与えられるってなんか意味有りそう。
[良い点] なんか意味がありそうねぇ
[良い点] もらった剣は後々、大活躍 (笑) [気になる点] 何故伯爵はバルタザールを即座に殺さなかったのか? 一連の事件の主犯としてバルタザールは 秘密裏に帝国中央に引き渡されたのでは? ダレイン…
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