#102 白兵戦
さて、というわけで白兵戦である。なんで強大な火力を誇る宇宙船が飛び交う戦場で俺は白兵戦なんぞをする羽目になっているのだろうか? それもこれも全部バルタザールとかいうファッキン貴族野郎と頭のイカれたサプレッションシップなどというものを作り出した帝国航宙軍のせいである。F◯ck。
『ヒロ様、間もなく着艦します。敵勢力は格納庫から離れた場所に展開しているようなので問題は無いと思いますが、気をつけてください』
「了解」
まぁ、敵勢力がいたところで生半可な武装ではこのパワーアーマーを破壊することは不可能だけどね。俺の愛機……愛機? 愛用しているパワーアーマーのコンセプトは重装甲、重火力だ。
耐レーザー、耐腐食、耐弾性能が非常に高いクラスⅢの装甲はあらゆる攻撃に対して強靭な防御力を発揮するし、いざとなればシールドを展開してその防御力を更に向上させることもできる。
「ご主人様は私がお守り致します。全て私にお任せください」
そう言って俺の目の前ではメイが若干鼻息を荒くしている。
いや、見た目的にはいつもどおり沈着冷静な様子だし、言葉遣いも別に弾んでいたりするわけではないのだが、全身から意気揚々とした雰囲気が伝わってくるのだ。うん、張り切ってるのはわかった。よくわかったからそのパワーアーマー用のレーザーランチャーをブンブン振り回すのをやめないか? それそういう風に使うものじゃねぇから。
何故メイがパワーアーマー用のレーザーランチャーを使えるのかと言うと、彼女のジェネレーターからエネルギーを供給することが出来るようになっているからである。彼女はパワーアーマーと同じようにあの身体の中に超小型のジェネレーターを備えているのだ。しかもその出力はパワーアーマーよりも上であるらしい。
なので、メイは何の問題もなく生身──生身? でパワーアーマー用の重火器を使えるわけだ。ちなみにエネルギーを供給するためのケーブルがレーザーランチャーからメイの腰の辺りに伸びている。あの辺りにコネクタがあるらしい。前に見た時にはそんな物は見当たらなかったと思うんだが……謎だな。
などと考えていると、船が僅かに揺れた。どうやら着艦したらしい。
『着艦完了よ。仕事は仕事で全力でやるべきだけど、命あっての物種だからね。無茶はするんじゃないわよ』
「アイアイマム」
『あと、貴族の剣は受けちゃ駄目よ。避けなさい。パワーアーマーの装甲ごと斬られるわよ』
「えっ」
ちょっと待った、その情報は聞いてないぞ。
『あと、貴族は情報処理能力を飛躍的に増大させるサイバネティクスを施していることが多いから気をつけて』
「……気をつけるって?」
何に? 情報処理能力を増大させることによって俺に何の危険があるんだ?
『つまり、物凄い反応速度でレーザーを剣で弾いたり、場合によっては打ち返したりしてくるってこと』
「ウッソだろお前」
は? レーザーを剣で弾く? 打ち返してくる? ジェ◯イか何かかな? サイバネジ◯ダイもどきとかなんかそういうの居なかったっけ。俺は残念ながらそこまで詳しくないんだ、あの大作に関しては。
『身体のほうが持たないから長時間持続できるってわけじゃないらしいけどね。というか、あんたも同じようなことするでしょ? だから私、あんたのことを最初貴族なんじゃないかと思ったのよ?』
「俺も? ああ……」
あの息を大きく吸って止めたら周りの動きが遅く感じるやつか? なるほど、あの瞬間は俺がとんでもない速度でレーザーガンを撃っているように周りからは見えるらしいし、同じようなもんか。
「いくら反応速度を上げても剣は一本。精々二本だろ。問題ない」
そう言って俺は今回の得物を構えてみせる。今回装備したのはパワーアーマー用の対人装備の中でも特にぶっ壊れ性能と言われているスプリットレーザーガンの二丁持ちである。これは歩兵用のレーザーライフルと同等の威力を持つレーザーを同時に十二発、拡散して発射する武器だ。早い話がレーザーを撃つショットガンみたいなものである。それを両手に一丁ずつ持って同時に24発のレーザーを発射できるというわけだ。
一発あたりの威力はレーザーランチャーのスプリットモードの方が上だが、狭い船内では少々扱いづらい。船内のような閉所ではスプリットレーザーガン二丁持ちの方が取り回しが良いのだ。
「よし、突入する。ミミ、向こうのクルーに俺達を撃たないようによく言っておいてくれ」
『わかりました! お気をつけて!』
「ナビゲートは私が致します」
「頼む。行くぞ」
ハッチを開放し、クリシュナの外に飛び出す。
格納庫から敵の展開している場所までは少々距離があるので、ガッションガッションと鈍重な足音を上げながらまずは走る。音は鈍重だが、これでも走る速度は生身の時よりは速いのだ。脚部の衝撃吸収機構と金属繊維性の人工筋肉が良い仕事をしているな。
しかし、そんな俺の目の前をメイが清楚なメイド服をヒラヒラさせながら走っている。手にものすごくゴツいレーザーランチャーを持って。なんとも非現実的な絵面だな。悪役っぽい力士型パワーアーマーとゴツい重火器を持ったメイドさんのコンビとかB級映画でもそうそう見ない取り合わせじゃないだろうか。
「この先の通路を左折すると交戦地点です」
「突入するぞ。俺が前に出てシールドを張る」
「承知致しました。では私は隙を見て掃射します」
メイの言葉を聞きながら左折すると、ボディーアーマーを装備した敵らしき兵士のような連中とメイドさんや執事達がお互いにバリケードを構築して睨み合いをしていた。そういやここのクルーはメイドや執事の格好をしているんだっけか。すっげぇシュールな図だな。
曲がり角から突然現れた力士アーマーの俺の姿を見て兵士らしき連中が驚愕の表情を浮かべる。俺の方を振り返ったメイドさん達も驚愕の表情を浮かべる。驚かせてすまんね。ちょっと通りますよ。
「うらあぁぁぁぁっ!」
メイドさん達とバリケードを飛び越え、バリケードとバリケードの間に躍り出て両手のスプリットレーザーガンを乱射する。赤い光の筋が何本も敵のバリケードに着弾し、小爆発と焦げ目を発生させる。
「くっそ、パワーアーマーか! 撃て撃て!」
「はっはっは! 無駄無駄ァ!」
シールド発生させ、応射で飛んできたレーザーを全て受け止める。このまま何十秒も銃火を浴び続けると不味いことになるかも知れないが、そんなに時間をかけるつもりもない。
「メイ!」
「はい」
俺の陰から躍り出たメイがレーザーランチャーを腰だめに構え、ドッ、ドッ、ドッ、ドンッ! と収束モードにして威力を高めたレーザー砲撃を敵と、そのバリケードに浴びせていく。
俺のレーザースプリットライフルよりも格段に強力なレーザー砲撃は瞬く間に敵方のバリケードを破壊し、その後ろに隠れていた敵兵のボディーアーマーすらも貫通して次々に敵兵を仕留めていった。
「いやっほぉぅ!」
敵兵に広がった動揺の隙を突いてシールドを張りながら高速で敵のバリケードに突っ込み、バリケードごと敵兵を吹っ飛ばす。力士型パワーアーマーである『RKISHI mk-Ⅲ』の必殺技的な一撃。その質量と強靭な防御力を利用した『ぶちかまし』である。
「オラオラオラァ!」
更に腕を振り回して敵兵を殴り倒し、至近距離でスプリットレーザーガンを発砲して上半身を消し飛ばしてやる。敵にかける慈悲は無い。そうしているとメイもまた乱戦に飛び込んできた。
「はぁっ!」
一見すると華奢にしか見えないメイがレーザーランチャーを振り回し、ボディーアーマーを着込んだ大男を次々と木の葉のように吹き飛ばしていく。なんか聞こえちゃいけない音が聞こえている気がするんですが。ゴキィ、って。
「先に進むぞ」
「はい」
敵方のバリケードを破壊し、制圧した俺達は後始末をダレインワルド伯爵家のメイドさんや執事さん達に任せて先に進むことにした。敵がパワーアーマーで武装していないのは不幸中の幸いだったな。この先もスムーズに進めれば良いんだが。