#101 貴族専用の豪華な棺桶
短いけど許して!_(:3」∠)_
「なんかもう色々馬鹿馬鹿しくなってきたんだが……」
「ヒロ様、お仕事ですから。もう少し頑張ってください」
「世知辛いのぅ……」
身も蓋もない事を言うミミの台詞に内心涙を流しながらクリシュナをダレインワルド伯爵とクリスの乗る旗艦へと飛ばす。旗艦に突っ込んだサプレッションシップ以外の船は乱戦に持ち込んだことによって戦力的には不利ながらも健闘しているようだ。それでも徐々に数を減らしているようだが。
「というかあの船なんなの? 馬鹿なの? 死ぬの? あの船に反応弾頭積んでたらそれで終わりじゃないか。超巨大な対艦魚雷みたいなもんだろアレ」
「あの船の製造コストは凡そ2500万エネルだそうです。コストに見合いません。それと、人が乗っている船を自爆特攻させるのは倫理面で問題があります」
「突っ込んで自爆させるのも、突っ込んで圧倒的数的不利の中で白兵戦を仕掛けさせるのも自爆特攻って意味では大差ねぇんじゃねぇかなぁ……」
敵側の戦闘艦はダレインワルド伯爵の艦隊と戦闘をするのに忙しいようで、旗艦へと近づくクリシュナの邪魔をする艦は存在しなかった。とりあえず盛大にぶっ刺さっている細長いサプレッションシップに近づく。
「とりあえずこの刺さってるの、破壊するか?」
「そんなことしたら船内の気密が失われるわよ。気密対策が無いわけがないけど、とりあえずはやめといたほうが良いわね。下手すると爆発するかもしれないし。刺さったまま爆発したら下手すればバラバラよ?」
「それはいかんな。というかこんな船どういう事情があって作られたんだ……」
いくらシールドが厚いとは言っても、あのサイズの船ではシールドにジェネレーター出力をガン振りしたところで戦艦級の大口径レーザー砲は防げまい。1艇2500万エネルともなればいくら帝国が覇権国家だとしてもそうそう量産できるものでもないだろうし、そもそも白兵戦というものは人員の損耗が激しい戦術だ。頻繁に使える戦術ではあるまい。
どうしても鹵獲したい敵の最新戦闘艦とかがあれば或いは有効な手なのかも知れないが……いや無理だろう。リスクが高すぎる。そもそも、軍隊同士の戦闘というのは戦艦や巡洋艦を横に並べて距離を取り、削り合いをするようなやり方が多いはずだ。普通、こんな乱戦はそうそうやらない。
そして、こういう状況でもないと使い途のないサプレッションシップなんてものは普通は顧みられることすら無いはずだ。というか、SOLで俺が見たことがないということは、特定の勢力の専用艦船という扱いなんだろう。このクリシュナのように。
強力なシールド容量、シールドを無効化するシールド飽和装置付きの衝角、クリシュナをも凌駕する加速力、ともなれば衝角突撃による一撃必殺に惹かれて使うプレイヤーもいただろうなぁと思う。実用性は別として、そういうのが好きな変態というのは一定数いるからな。絶対衝角をドリルにする馬鹿が出てくるぞ。
「なんでも帝国航宙軍の元陸軍派閥が一部の貴族勢力と結びついて強力なロビー活動を行った結果作られたそうです。ちなみに今までに実戦で使用された回数は四回です。今回は貴重な五回目の使用例ということになりますね」
「ちなみに突撃の成功確率は?」
「実戦使用された回数で言えば今回で三例目なので、投入された実戦数ベースで考えると六割ですね。投入された艦船数ベースで考えると、一割です。九割は到達前に撃墜されています。帝国航宙軍では貴族専用の豪華な棺桶、驚くほど高価なデコイ、帝国航宙軍屈指の珍兵器などと呼ばれているようですね」
「その一割を成功させたバルタザールの手腕と幸運に驚愕するところかな、これは」
「人間としてはともかく、バルタザールは多分かなり有能な戦術家よね。ヒロみたいなイレギュラーがいなければ色々と成功してたんでしょうし」
「相手が悪かったですね」
君達の中で俺はどんだけやべーやつなんだ? 俺は少々腕が良くて船とクルーに恵まれているだけの一般的な傭兵だぞ。多分。きっと。メイビー。
「それよりもどうするべきだ、これは。放っておいても他の船はなんとかなりそうだし、クリス達を守るために俺達も突入するべきか?」
「いやそれはどうかしら……下手に突入しても旗艦のクルーと同士討ちになっちゃうんじゃない?」
「でも、ここで指を銜えて眺めてて万が一ダレインワルド伯爵とクリスが討ち取られたりしたら元も子もないよな」
「それはそうだけど……わざわざ突入してリスクの高い白兵戦をやるわけ? 危ないわよ?」
エルマは白兵戦への参加には否定的な立場であるようだ。俺としてもあまりやりたくはないのだが、打てる手を打たないのは護衛契約に反する気がするし、何よりここでクリスを助けに行かずに放置して、もしバルタザールにダレインワルド伯爵とクリスを討ち取られでもしたら色々とヤバい。
日当25万エネルの報酬が支払われないばかりか、正式にダレインワルド伯爵の爵位を継いだバルタザールからあの手この手で命を狙われることになるかも知れない。そろそろここらでバルタザールをプチっとぶっ潰しておいたほうが後顧の憂いが無くなるように思える。
「いや、やろう。万が一にもバルタザールに生き残られたら困る。最悪、現ダレインワルド伯爵が死んだとしても最低限クリスは守ってバルタザールはぶっ殺しておかないと後々に差し響く」
本当に最悪の最悪でダレインワルド伯爵だけでなくクリスまでもが死んだとしても、バルタザールには絶対に死んでもらわないと困る。俺とミミとエルマの平穏な生活のために。
「ミミ、旗艦に着艦許可を要請しろ。パワーアーマーを着て突入する。エルマ、クリシュナのコントロールを任せる。俺があっちに乗り移ったらハッチはロック、シールドも展開して誰も乗せるな。メイは俺に随伴しろ」
「は、はいっ!」
「……はぁ。アイアイサー」
「承知致しました」
ミミとエルマ、そしてメイが俺の指示にそれぞれ了解の意を示す。俺だってどちらかと言えば気が乗らないが、仕方がない。白兵戦の時間だ。俺はエルマに艦のコントロールを渡してパイロットシートから立ち上がり、メイを伴ってカーゴルームへと駆け出した。